第137話 後始末はしっかりと

「聖女様! 奴らが現れました!」


 アンデッド騎士団の脅威が去り、村が日常を取り戻した翌日の夕刻。

 防壁の上から外の様子を見ていた村人が、息急き切ってカズキたちの許に駆けこんできた。

 アンデッド騎士団を倒したのにも関わらず、三人が未だ村に逗留していたのは、村人が開いてくれた感謝の宴(夜通し行われた)に参加したのもあるが、これから起こり得るトラブルを解決するためでもあった。


「有難うございます。後の事は我々に任せ、ゆっくりお休みください」

「はい! よろしくお願いします!」


 微笑みを浮かべたエルザに労われた村人は、来た時の勢いそのままに走り去った。ゆっくり休む気はないようである。


「じゃあ行きましょうか。害虫を駆除しに、ね」


 聖女らしからぬ不敵な笑みを浮かべて、エルザが立ち上がる。

 カズキとコエンもそれに続き、滞在していた部屋を出てすぐの場所にある階段を上ると、そこは防壁の頂上だった。

 以前、カズキとカリムがゴブリンの襲撃から守った村(今は町)同様、防壁内にある部屋で三人は体を休めていたのだ。


「いました! アイツです!」


 姿を現したカズキを見て、数百人はいるチンピラ(領主の私兵)の中から、チビ、デブ、ハゲと三拍子揃った男が進み出て、声を上げた。その隣には、狡賢そうな小男もいる。


「知り合い?」

「・・・・・・さあ? 見覚えないな」


 エルザに聞かれたカズキは、数秒考えた後に首を振る。村に来る前に、ギルドで難癖をつけてきた男たちなのだが、カズキが覚えている筈もなかった。


「ふざけるな! 領主様の御子息の腕を斬り飛ばしたのは貴様だろうが!」

「御子息? あ~そんな事があったような気が、そこはかとなく、するようなしないような?」

「貴様ぁ! 言うに事欠いて――」


 カズキの惚けた物言いに、激昂した男が更に言い募ろうとした瞬間――。


「邪魔だ! どけ!」


 という言葉と共に、『ドカッ』という音がした。


「ブヒィッ!」


 それと同時に吹っ飛んだのは、カズキに喚いていた男だった。後ろにいた男に蹴飛ばされ、豚のような悲鳴を上げて城壁に激突。そのまま意識を失った。

 

「よぉ・・・・・・。昨日はよくもやってくれたなぁ?」


 五月蝿い豚を排除した男は、さすりながらカズキを見上げてそう言う。


「・・・・・・誰だ? お前」


 そしてカズキは、当然の様に覚えていなかった。

 

「なっ! てめえ・・・・・・」


 馬鹿にされたと思ったのか、男の声が低くなる。


「カズキが右腕を切り落としたという、例の御子息じゃないのか? なんか、気付いて欲しそうに右腕さすってるし」

「そうでしょうね。右腕が復活している理由はわからないけど」


 二人の話を聞いた男がニヤリと笑う。触れてほしい話題だったらしい。


「知りたいか? なら、冥途の土産に教えてや――」

「ああ、あいつがそうなのか。この辺りには神聖魔法を使えるのはねーさんしかいないから、答えは一つ。死に戻って怪我を治したって事だ。お前、勇者だろ」

「なっ!」


 得意気な顔で自分の事を語り始めた男だったが、それはカズキによって遮られる。


「・・・・・・ふん、少しは頭が回るようだな。だが、それを知ったところでお前らの――」

「こんな所にも勇者がいたのね。という事は、ここの領主も勇者って事?」

「みたいだな。サイトウを名乗らない上に、心臓にマジックアイテムが埋め込まれてない方の家系だから、大して強くない。だから今まで誰も気づかなったんだろうな」

「・・・・・・」


 またも話を遮られた男は、怒りに体をプルプルと震わせる。だが、誰も気にしなかった。


「それって、タゴサクみたいな?」

「ああ。エルフから聞いた話によると、初代タゴサクの子供の内の一人に、劣化【フィジカルエンチャント】のマジックアイテムを埋め込んで、代々継承出来るようにしたらしい。勇者国とか言って、調子こいてるのはその子孫だな」

「タゴサクって、初代の名前だったのね。初めて知ったわ」


 エルザの反応はそれだけだったが、コエンは違った。


「エルフ!? 姿を消した伝説の種族じゃないか! 会ったのか!?」

「ああ。アレンと出会った森の中にいた。なんか、世界樹とかいう馬鹿デカい木に、魔法金属が生っていて、それを守るのが使命だとか言ってたような気がするな」

「・・・・・・」 

「世界樹に魔法金属が!? 鉱山じゃなかったのか!」


 次々に世界の秘密を暴露するカズキと、それを聞いて興奮するコエンの様子に、置いてけぼりを喰った男は、とうとう爆発した。 

 

「舐めやがって・・・・・・! てめえら! やれ!」

「「「「ヒャッハー!」」」


 男の号令に従い、次々と矢を射かけてくるチンピラたち。だが、矢はカズキ達に届く直前に反転し、猛スピードで射手の許へと戻る。結果、自分の射た矢に貫かれて死ぬチンピラが続出した。


「何だとっ!」


 後に残ったのは、気絶している豚と、狡賢そうな小男、そして、命令を下した男だけである。


「さて、残ったのは三人か」

「ヒィッ!」


 得体のしれない方法でチンピラを葬り去ったカズキに視線を向けられ、狡賢そうな小男が悲鳴を上げる。


「なに? アイツ」

「さあ?」

「この領のギルドの支部長ではないか? ああ、『元』だったか。今はただの犯罪者だし」

「なっ!」

「何を驚いている? お前がやった事を考えれば当然だろう?」

「嘘だ!」

「事実だ。これがギルドマスターからの命令書だ」


 驚きの声を上げる小男に、コエンが通知を見せつける。そこには大きく、『クビ!』と書いてあった。


「そんな! ヒサオさま! 助けて下さい! 今まで散々、便宜を図ってきたじゃないですか!」

「うるせえ! てめーは用済みだ!」

「ゴフッ」


 縋りついてきた小男に、容赦なく剣を突き立て殺したヒサオ(勇者)は、そのまま背を向けて逃げ出した。なかなかのクズっぷりである。


「・・・・・・クズのやる事はいつも一緒だな。もしかして、世界的にそんなルールがあるのか?」

「そんな訳ないでしょ。もういいから、さっさと片付けなさい」

「わかった。そんな訳だから死んでくれ。ああ、言っておくが、これから使う魔法には、死に戻りは発動しない。だから、テンプレの台詞(生き返ったら復讐云々)も必要ないぞ?」


 必死で逃げるヒサオにわざわざ魔法で声を届けたカズキは、そのまま【ラグナロク】を発動する。

 

「・・・・・・見るのは二度目だが、本当に恐ろしい魔法だな。正に、消滅したという表現が相応しい」

「棺桶も飛ばなかったしね。さ、次は領主を片付けましょうか」


 こうして、デュラハンから始まった一連の騒動は終わりを迎えた。

 新しい領主は、『大賢者』や『次元屋』の跡取りと親交の深いコエンに押し付けられたという。

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