第134話 詳しい話を聞いてみた
「事の発端は一年前の夜よ。食事も終わってそろそろ寝ようかという時、不意に玄関の扉がノックされたの。こんな時間に誰がと訝しみながらも、一番近かった私が扉を開けたの。そうしたら・・・・・・」
「首を手に持った騎士が立っていた?」
「そうなの! 驚いて咄嗟に扉を閉めようとしたら、足を隙間に突っ込んで邪魔されたわ。あの時は本当に怖かった・・・・・・!」
「そうか。それで?」
その時の恐怖を思い出したのか、カズキの腕に縋りつく少女。それを迷惑に思いながらも、ミルク(仔猫の名前)の飼い主であるという事に価値を見出しているカズキは、邪険にすることもなく、話の続きを促した。――少女は何故か不満そうだったが。
「・・・・・・そいつはまず私を指差した後、ズカズカと我が物顔でそのまま家に上がり込んだの。そして、父や母。弟と妹。それからこの子の親であるメイを次々と指差し、親指で喉を掻っ切る仕草をして出て行ったわ。最後に壊した扉を修理してね」
「手当たり次第か・・・・・・。随分とファンキーなデュラハンだな」
「それだけじゃない。後で聞いたら、ほぼ同じ時刻に同様の事が村中で起こっていたの」
「ふむ」
少女(未だ名前も知らない)の話を聞いて、カズキはランスリードの王城の書庫にあった本の内容を思い出す。
召喚される前、家庭の事情(両親が死に、引き取った親戚はクズだった)から図書館に入り浸っていたカズキは、時間を潰す為に本を読んでいた。
金が掛からない上に時間を潰せる読書は、カズキにとって唯一と言ってもいい趣味になっていたのだ。
召喚後もそれは変わらず、体力が戻るまでの間は、城の書庫に入り浸ってやはり本を読んでいた。
念願叶って猫に触れるようになったカズキは、それはもう幸せそうな顔で読書に励んでいたという。
「・・・・・・デュラハンは通常、上がり込んだ家にいる人間の内、一人だけを指差して一年後に再訪する。死から逃れるには、現れたその場で倒すしかない」
「村中が大騒ぎしている時、偶々立ち寄った冒険者もそう言っていたわ。残念ながら、彼らの手には負えないって言ってたけど」
「Bランクのデュラハンが複数だからな。それを討伐出来る程の手練れはそうそういない、らしい。本来ならば、国の騎士団が出てくるような戦力、らしいぞ?」
『らしい』という言葉が頻繁に出てくるのは、カズキにとってBランクの魔物など脅威でもなんでもないのと、手練れが周りにゴロゴロといるからである。今話している内容も、パーティメンバーの普段の様子や、共にゴブリンエンペラーと戦った、ウェイン(ジュリアンの学院での後輩。現在は騎士隊長)の様子から判断しているに過ぎない。
「なんで疑問形なの?」
「気にするな。それよりも、この事を領主なり、国なりに報告はしなかったのか?」
「邪神の影響で魔物が活発になっているから、危なくて王都まで行けないわ。領主はクズだから論外。だからギルドに行ったの」
「そこで会ったのがアイツらか・・・・・・。中立の筈のギルド支部長が領主と癒着してるみたいだし、御子息とやらは親の威光を嵩にやりたい放題。ランスリードとは随分違うんだな」
「ランスリード? 随分と遠くから来たのね?」
「・・・・・・そういえば、ここってどこの国の所属になるんだ?」
今更のようにそんな事を聞くカズキ。【テレポート】で猫がいる所に直接転移するため、そこが何処の国なのか、全く気にしていなかったのだ。
「? おかしな事を聞くのね。ここはザイム王国よ。山一つ越えた向こうがランスリード」
「・・・・・・ああ。あっちがテミスの村か。そろそろ(世界の全ての猫に会いに行く)旅も終わりだな」
「テミス? そこがあなたの故郷なの?」
「一応な。知ってるのか?」
「そりゃあ有名だもん。山一つ挟んでいるとはいえ、一番近い村だし。じゃあ、聖女さまとも知り合いなの!?」
ここにも聖女モードに騙されている人間がいた。
「・・・・・・姉だ」
「嘘! なんでもっと早くいってくれないのよ! 聖女さまならきっと、助けてくれるのに!」
「それもそうか。俺だけ村に行っても信用してくれなそうだし、ちょっと行って、ねーさんを呼んで来よう。気になる事もあるしな」
そう言って、その場で【テレポート】を使って姿を消すカズキ。最近は実力を隠すのが面倒になったのか、それともローラン・フリード(フローネのペンネーム)の新刊の発売が近いからか、人前で人間離れした真似を平気でしでかすようになった(多分前者)。
「えっ? ええええええええええ!」
突然姿を消したカズキに驚き、大声で叫びながら周囲を見回す少女。実はギルドを出る時に【テレポート】を体験しているのだが、興奮していた彼女はその事に気付いていなかったのだ。
「みぁ」
「ただいま、ミルク」
「みぁ、みぁ!」
「この子が例の村の?」
「随分と騒がしいな。まあ、目の前で人が突然消えたんだろうから、仕方ないかもしれないが」
「えっ? えっ? えええええええ!?」
騒いでいたところに再びカズキが現れ、しかも人数が三人に増えている事に理解が追い付かない少女は、『え』以外の言葉を忘れている様だった。
「【カーム】」
それを見かねてエルザが神聖魔法を使うと、ピタリと少女が落ち着く。
そして、自分に魔法を掛けた金髪美人を見て、恐る恐る口を開いた。
「聖女さま・・・・・・ですか?」
「ええ、そうよ。カズキから話は聞いているわ。安心して。貴方の村は必ず助けるから」
「有難うございます、聖女様・・・・・・」
包容力のある笑みを浮かべたエルザの神々しさに、少女は自然と頭を垂れる。
共にやってきたカズキとコエンは、顔を背けて必死に笑いを堪えていた。――笑えば後で酷い目に遭うからである。
「じゃあ早速案内してくれるかしら? 相手は複数だから、陽の高い内に村へ行って、みんなに一か所に集まるように話をしたいの」
「畏まりました、聖女様」
エルザの虜(笑)になった少女は、恭しい態度でエルザを先導し始める。
その後ろを、やはり笑いを堪えながら、カズキとコエンが付いて行った。
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