第133話 呪われた村の少女

「お願いします! 私たちの村を助けて下さい!」


 その日、カズキが王都の冒険者ギルド本部で用事を済ませ(ギルド長への高級肉詰め合わせ定期便)、日課になっている『世界の全ての猫に会いに行くツアー』の為に何度か【テレポート】した先で、そんな事を五人組のガラの悪い男たちに訴えている少女の声が聞こえてきた。


「おいおいねーちゃん。 たかだか十万円ぽっちの金で、デュラハンのと戦う冒険者がいるとでも思ってんのかぁ? せめて、足りない分はその体で払う位の事を言えよ。そうすれば、親切な冒険者が依頼を受けてくれるかもしれないぜ?」

「そりゃあいい!」

「流石アニキだ!」


 チンピラのリーダーと思しき男の言葉に、取り巻きたちが下品な笑い声を上げる。


「・・・・・・わかりました。それで村を救って頂けるのなら・・・・・・」


 男達に体をじろじろと舐め回すように見られて、抱いている仔猫・・で胸を隠しながら少女は健気に答えた。


「勿論、一回だけなんて言わねえよなぁ? なんせデュラハンはBランク。しかも複数いるんだろ? 俺達だって命を張るんだから、それ位の見返りは期待してもいいんだよな?」

「わ・・・・・・、わかりました。私の事は好きにして下さっても構いません! ですからどうか!」

「商談成立だ。じゃあ最初に金を出せ。その金で宿をとる」

「は・・・・・・、はい」


 男の言葉に頷いた少女は、抱いていた猫を丁寧に床におろして、懐から茶封筒を取り出した。

 

「ん。じゃあついてこい。今から嬢ちゃんの体の具合をじっくりねっとり確かめてやる。気合いれて奉仕してくれれば、俺達のヤル気もアップするかもしれないぜ?」

「・・・・・・わかり、ました」


 ニヤニヤと笑いながら、馴れ馴れしく腰を抱いてくる男の言葉に嫌悪を覚えながらも、少女は逆らえなかった。ここで男たちに逆らえば、村を救う唯一の手段がなくなると思っているからだ。


「あぁ、その薄汚ぇ猫は置いていけ、邪魔だか――ぎゃあああああああ!」


 その先の言葉を言い終える前に、男が絶叫する。いつの間にか仔猫を抱いていたカズキが、少女の腰に回している右腕を、肩口からバッサリと断っていたのだ。

 

「っ! てめえ、何処から湧きやがった!?」

「うるさい黙れ」

「ゴフッ」


 会話をする気がないカズキは、声を上げた男の鳩尾に容赦なく拳を叩きこみ、強制的に沈黙させると、抱いていた仔猫を少女にそっと手渡して言った。


「依頼する相手は選んだ方がいい。じゃないと、この子が悲しむ。な?」

「みぃあ・・・・・・」

「・・・・・・どういうことですか?」


 突然現れ、自分が依頼した相手の腕を切り落とした少年に恐怖を覚えて後退った少女は、震える声でカズキ真意を問い質した。


「簡単な話だ。そもそもの話、こいつらは依頼を受ける気なんてなかったんだからな」

「嘘よっ!」

「本当だ。そもそも、こいつらにデュラハンを退治できるような実力はない。実力的にも、精々Dランク程度だ」

「そんな! あと一日しかないのに・・・・・・」

「みぃ。みぃあ!」

「大丈夫。ちゃんと助けるから」

「・・・・・・ホント!?」


 満面の笑みを浮かべ、優しい声で語り掛けてくるカズキの様子に、先程の惨劇を忘れて頬を赤らめる少女。

 彼女は知らない。その笑顔が向いているのは自分では無く、腕の中にいる仔猫だという事を・・・・・・。


「よし、じゃあ早速行くか。村の場所は?」

「みぃあ!」

「こっち。付いてきて!」


 カズキが仔猫と会話しているとは夢にも思わず、張り切って案内をしようとする少女。

 そんな二人と二匹(ナンシーと仔猫)の前に立ち塞がったのは、デカい態度の男(チビ、デブ、ハゲ、ついでに脂でテカっている)と、いかにも狡賢そうな小男だった。

 

「コイツか? 領主様の御子息に暴力を振るったというのは?」


 右腕を失い痛みに呻いている男と、必死に治療を行っている取り巻きを横目に、偉そうな男が口を開く。


「その通りでございます」

「ふむ。民思いの御子息様が率いるパーティが、無償でデュラハンの討伐に出発しようとしたところに突然現れ、問答無用で斬りかかったという話だったな」

「その通りでございます」

「その結果、御子息は重傷を負い、決死の覚悟で助けを求めに来た少女の唯一の希望も絶たれてしまったという訳か・・・・・・。君は、自分がした事をわかっているのかね?」

「・・・・・・」

「だんまりか・・・・・・。まあいい。さて、冒険者ギルドの支部長殿。こういう場合、彼の処遇はどうなるのかな?」

「そうですねぇ。依頼を受けた冒険者を妨害した上に重傷を負わせ、守らなければならない依頼人の少女をあろう事か拉致したのですから・・・・・・。ライセンスを剥奪の上、奴隷として生涯強制労働が妥当でしょう」

「それだけかね?」

「ギルドとしては。ただ、ライセンスを剥奪した時点でギルドの庇護はなくなりますから――」


 茶番を続ける事に夢中になっている二人。彼らがカズキと少女の姿が消えている事に気付くのは、それから三十分が経過してからだった。

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