第132話 予想通りの結末

「ゴアアアアアア!」

「うわぁぁぁぁぁ!」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」


 雄叫びを上げて突進してくるオーガの攻撃を(案の定)捌くことが出来なかった二人は、派手な悲鳴を上げながら吹き飛んだ。

 そんな二人を見てニタリと嗤ったオーガが、棍棒をぶら下げて、近い方にいたラクトに向かって歩き始める。


「・・・・・・ヒッ、く、来るなぁ!」


 痛みに呻いていたラクトは、近づいてくるオーガを見て表情を恐怖に染め、這うように後退りながら、転がっている石や木の枝を投げつける。

 魔法を使えば簡単に片づける事が出来るのだが、エストが懸念していた通り、正常な判断力を失ったテンパったラクトは、その事に思い至らない。同じように恐怖に震えているコエンも同様だった。


「「「「・・・・・・はぁ」」」」


 予想通りの光景に溜息を吐くその他一同の見守る中、オーガが棍棒を振り上げる。そして――。


「グ、ガ・・・・・・?」


 一瞬で駆け寄ったカリムに一刀両断された。

 

「・・・・・・ぁ。た・・・・・・、助かった?」

「はい。大丈夫ですか? ラクトさん」


 ラクトの呟きに答えたのはフローネだった。

 

「う、うん」

「今治癒しますから」

「・・・・・・すみません」


 短く礼を言って、ラクトが俯く。先程までの自信に溢れた姿が嘘のようだった。


「ニ゛ャー」

「うわっ! ナニナニ!」


 俯いているラクトの視界に、突然、見覚えのない獣が現れた。赤褐色で黒い斑点を身に纏った、体長二メートルの猫? アレンである。

 彼は、俯いたまま動こうとしないラクトが邪魔になると判断して、器用にラクトの体を口で加えると、そのまま背中の上に放り投げた。


「おっ、アレン、ありがとー」

「ミ゛ャ」


 内心で、『護衛してたら戦えないから、早く立ち直るか、邪魔にならないようにどっか行ってくれないかなー』と思っていたカリムが、ファインプレーを見せたアレンに礼を言う。

 それに返事をしたアレンは、同様に呆けているコエン(治療済み)も回収すると、フローネ(つまみ食い)と一緒に【次元ハウス+ニャン】へと姿を消した。


「さて、まだ残ってるといいんだけど」


 あちこちから聞こえてくる断末魔や、風に乗って漂ってくる焦げた臭いを感じながら、カリムが独り言ちる。


「無理かな? エストにーちゃんとマイネねーちゃん、二人をなんとか思い留まらせようとして、ストレス溜めてたみたいだし」


 カリムの予想は当たっていた。

 それから大して時間が経たない内に、いい笑顔を浮かべた二人が、それぞれ別の方向から戻ってきたのである。

 

「いやぁー、殺った殺った!」

「偶には虐殺するのも悪くないですね!」


 相当溜まっていたのか、普段の言動からは程遠い、物騒な言葉を使う二人。


「ちぇっ、やっぱり終わってた。今日は騎士団の訓練にも行けなかったし、このままだと運動不足になりそうだから、コカトリスの所にでも行こうかな? あっ、でもあそこ、おーさまとかだんちょーさんとか、アルさんとかがいつもいるから、そんなに戦えないか。なら――」


 カリムがそこまで言った時、マイネ、エスト、カリムがいる場所の中心辺りから、ガラスが割れた時のような音が響く。

 そして、異常な事態に身構えた三人の目の前に『門』が現れた。


「なにっ!」

「くっ、こんな所に『門』が開くなんて!」

「追加だラッキー!」


 続々と現れるオーガに向かって斬り込みながら、口々に叫ぶ三人。はしゃいでいるのは勿論、カリムだ。

 

「【トルネード】!」

「【インフェルノ】!」

「ハッ!」


 日頃の鍛錬のお陰か、十倍にも及ぶ数のオーガ(Dランク)を相手に無双する三人。

 雲行きが怪しくなってきたのは、戦闘開始から十分が経ち、一際立派な体格をしたオーガが『門』から現れてからだった。

 

「オーガバーサーカー! このタイミングで現れるなんて!」

「『門』の向こうで様子を窺っている奴がいるんだ! 暴れる事しか出来ないバーサーカー(Bランク)が大人しく従ったって事は、最低でも同ランクのロード、下手したらAランクのキングかもしれん!」 

 

 Cランクの魔物一体を倒すには、同ランクの冒険者パーティか、一つ上のBランク(ソロ)の実力が必要になる。

 Aランクのオーガキングともなれば、Aランクパーティや、Sランクの冒険者が出張るような相手だ。

 三人が万全の状態ならばAランクのキングでも戦えたかもしれないが、消耗した今の状態ではそれも難しかった。

 

「マズいです! もう魔力が・・・・・・」

「俺もだ。安易にマジックアイテム(劣化【フィジカルエンチャント】の事)を使いすぎた」

「? なんで二人とも焦ってるの?」


 深刻な表情を浮かべるマイネとエストとは対照的に、カリムの様子は至って平静だった。

 世界で一番頼りになる兄が助けてくれると、心の底から信じているからだ。


「ギ・・・・・・、ガ・・・・・・?」


 そして、それは間違いではなかった。


「盛り上がっている所に水を差して悪いが、この場はお開きだ。アレンの歓迎会の準備が終わったんでな」


 その言葉と共に現れた三毛猫を肩に乗せた少年が、オーガバーサーカーには反応出来ない速度で、正面から心臓を剣で貫いていたのだ。

 

「にーちゃん!」

「た、助かった・・・・・・」

「そういえば、カズキがいたんだったな。ラクトとコエンに中てられて、俺達も冷静さを失っていたようだ」


 口々にそんな事を話している三人をよそに、残っているオーガを瞬殺したカズキは、本日二回目となる『門』に向かって【レーヴァテイン】を叩きこんだ。


「さっきの奴とは別件かな? 明らかに勇者くずよりも強いのが向こうにいたし」

「「「別件?」」」

「後で話す。今はそれよりも、アレンの歓迎会が先だ」


 そう言って強引に『門』を閉ざしたカズキは、間髪いれずに次の魔法を発動した。

 

「良い匂いです!」

「今日は御馳走だ!」

「あーっ! もう食べてる!」


 【次元ハウス+ニャン】に移動させられた三人は、食欲を刺激する香りに疑問を忘れ去る。

 三人がその事に思い至ったのは、大分後になって、『門』が出現した時だった。 

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