第130話 勇者(邪神付き)の最期

「ヒッ! くっ、来るなぁ!」


 カズキに意識を向けられた男は、恐怖に後ずさりながら、逃走する時間を稼ごうと、『門』を開いて魔物を喚び出すという手に出た。


「おっ?」


 勇者の死に戻り能力を、【ラグナロク】によって無効化できるか試そうとしていたカズキは、男がとった予想外の行動に、魔法の発動を取り止める。


「へぇ。『門』を開いて魔物を喚べるのか。そういえば、邪神が復活した途端に、魔物の数が増えたって話を誰かに聞いた気がするな。特に増えたのは、ゴブリンとかオークだったっけ? 今の状況とそっくりだな」

「ニ゛ャー」


 現れた魔物をいとも簡単に倒すカズキの言葉に、万一の事態が起こるかもしれないと警戒していたアレンが、緊張を解いてその場に寝ころびながら肯定した。

 

「アレンは物知りだなぁ。・・・・・・もしかしたら、今世界中で起こっている異変と関係あるかもしれないし、もう少し様子を見てみるか」


 オークの返り血に塗れているアレンを魔法で綺麗にしたカズキは、戦闘で乱れてしまった毛並みを整えるべく、ブラッシングを始める。


「気持ちいいか? アレン」

「ミ゛ャー」


 ブラッシングを終えたカズキは、ここに来た時と同じように、アレンのマッサージを始めた。怪我はしていないが、戦いの後だったので、回復魔法も併用する。勿論、魔物も倒しながらだ。


「うーん。この前ゴブリンなんちゃらが出たのはこいつの仕業かもしれないけど、巨大バジリスクとか、巨大コカトリスとかは関係なさそうかな? どうも、自分より強い魔物は喚び出せないみたいだし。ナンシーはどう思う?」

「ミャ」


 カズキを手伝って、アレンの体をふみふみしているナンシーが、短く同意の言葉を伝える。


「だよなぁ。ま、元から期待してたわけでもないし、そろそろ終わりにするか。・・・・・・飽きたし」

「ヒッ!」


 ボソッと呟かれたカズキの言葉。それをうっかり聞いてしまった男が震えあがる。

 魔物を喚んでいるうちは逃げる事も出来ない(『門』の維持のため)が、攻撃もされないと思い込んでいた男は、カズキの魔力が切れた頃合いを見計らって逃げようという完璧(笑)な計画を立てていたからだ。

 カズキが片手間に魔物を倒しているとは、夢にも思っていなかったようである。

 

「ニ゛ャー」

「ん? 出来ればでいいから、森の外周にいる魔物も倒してくれって? アレンは本当に優しいなぁ・・・・・。じゃあそっちから片付けるか」


 恐怖に震えている男に追い打ちを掛けるように、カズキの頭上に放電する球体が現れる。それはカズキの意志に従って上空へと移動すると、無数の雷を森の外周にいる魔物に降らせ始めた。

 ゴブリンに襲われていた村(今は何故か街)でも使った、神話級魔法【トール】である。


「こっ、これは!?」

「まさか、伝説の雷の上位精霊【トール】!?」

「もしや、伝説のハイエルフ様が窮地を救いに来て下さったのか!?」


 目の前の魔物が雷に打たれて消滅していく光景に、外周にいるエルフたちが騒ぎ出す。

 元からこの場にいたエルフたちは、同様の台詞を吐きながら、カズキを崇めていた。


「・・・・・・もしかして、古代魔法の使い手=ハイエルフなのか?」


 魔法でその様子を確認しながら、チラッとそんな事を考えたカズキだったが、すぐにどうでもいいという結論に落ち着く。そんな事よりも、今は検証の方が大事だからだ。


「これで良し、と。さて・・・・・・」


 外周の魔物が順調に減っている事を確認したカズキは、当初の目的であった、に向き直る。


「死ねえええええええええええええ!」


 そこへ、剣を構えた男が雄叫びを上げながら突っ込んできた。

 の魔法使いは、魔法を使っている間は無防備になる。それを知っている男が、乾坤一擲の大勝負に出たのだ。

 

「ガハッ」


 そして、痛烈なカウンターを受け、木に叩きつけられた。


「ニ゛ャー」

「ミャー」


 それを見たアレンとナンシーが、やれやれと首を振る。実力差も分からず、カズキに突っ込んでいった男の行動が、理解できなかったのだ。


「頑丈だな。わりと本気で蹴ったんだけど」


 仮に死んでも、棺桶に【ラグナロク】を使おうと思っていたカズキが、感心したように呟く。


「これも邪神を取り込んだ影響なのか? ・・・・・・まあ、検証するのには丁度いいか。こいつに【ラグナロク】が効けば、他の勇者にも通用するって事だろうし」


 存在そのものを消滅させる【ラグナロク】を開発しようと思った切っ掛けは、殺しても復活し、またどこかで悪事を働く勇者や、魔法が効かないと言い張っていた悪魔を倒す為だった。

 悪魔は魔法に対する耐性が異様に高かっただけ、というのは検証によってわかったが、勇者に【ラグナロク】を使うのはこれが初めてである。それが邪神の力を取り込んだ相手だというのは、カズキにとっても都合が良かった。


「まあそんな訳だから、諦めて死んでくれ。お前の犠牲は無駄にしない(訳:他の勇者も同じ目に遭わせる)」


 そんな事を言いながら、往生際悪く、這いずってでも逃げようとする男に向けて、カズキが【ラグナロク】を発動すると、男は一瞬にして消滅。棺桶も現れる事は無かった。


「よし、成功だ。これでまた邪神みたいに特殊能力を持った敵が出てきても、【ラグナロク】があれば問題なくなったな。ありがとう、実験に協力してくれた・・・・・・、名前なんだっけ? まあクズ勇者の名前なんてどうでもいいか」


 最後は締まらなかったが、こうして復活した勇者は滅びたのだった。

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