第129話 復活の勇者(邪神付き)

 話はひと月前にまで遡る。


「あの野郎! ぶっ殺してやる!」


 カズキを見て魔法をぶっ放してきた男。彼が永い眠りから醒めて最初に行ったのは、口汚く誰かを罵る事だった。


「荒れてるじゃねえか。まさか、に四か月も掛かるなんてなぁ。随分とこっぴどくやられたようじゃねえか、えぇ? 国王さんよぉ?」


 そんな彼に声を掛けたのは、豪華を通り越して、いっそ下品と言った方が良さそうな玉座に座り、長い鎖をジャラジャラ鳴らしているモヒカンの男。

 『勇者国家サイトウ』の、第六百六十七代目国王、『ヨサク・サイトウ』その人であった。

 『勇者国家サイトウ』が渋々ながらも(勇者にしか邪神を倒せない仕様になっていた為だ)国家として認められてから百五十年程。それ程歴史がある訳でもないのに現国王が六百六十七代目なのは、玉座に座る人物が頻繁に変わる所為である。

 この国に住む者は皆、自分は選ばれた人間だと思っているので、最強(笑)を意味する勇者国の玉座を、誰もが狙っているのだ。

 どんな手段(主に不意打ちや暗殺)を使っても、王を殺した者が次の王になるので、一日の間に複数の人間が即位する事もざらにある。

 殺されてもその内復活するという能力がある為、人の命が軽いという事も背景にあるのだろう。


「うるせぇ! 雑魚は引っ込んでろ!」


 その言葉と同時に、男はヨサクを薙ぎ払う様な仕草をする。と、男がに不可視の衝撃波が発生し、現国王であるヨサクを、玉座諸共に粉砕してしまった。

 魔法を使えない筈の男は、自分が魔法を使ってヨサクを殺した事実に確信を深める。


「フハハハハッ! やはり夢じゃなかった! 俺は、邪神の力を取り込み、最強の存在へと進化したのだ!」


 ヨサクが死んだ結果現れた黒い棺桶。それにゲシゲシと蹴りを入れながら、高笑いを上げる男。

 そこへ、騒がしい玉座の間の様子を見に来た(隙あらばヨサクを殺す気だった)勇者(モブ。やはりモヒカン)たちが現れる。

 そこで彼らが見たのは、粉々に破壊されていると、勇者国史上、最長の在位期間(二年)を誇った男だった。

 

「「「・・・・・・」」」


 傷つける事すら難しいミスリルが破壊されているという状況に、駆け付けた勇者たちが恐怖で後ずさる。

 それを見た男が、彼らを見てニヤリと嗤った。


「丁度いい所に来た。お前たちには、新しく得た力の実験台になって貰う。・・・・・・出てこい魔物ども! 世界の支配者である、この俺の命令に従え!」


 その言葉と同時に『』が開き、そこから多種多様な魔物が現れる。


「・・・・・・殺れ!」

 

 そして、男の命令に従って、目の前にいる男たちに襲い掛かった。


「バ、バカな!」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

「ゲヒャヒャ!」

「ブヒブヒッ!」


 男が呼び出した魔物に袋叩きにされ、次々と倒れていく勇者(モブ)たち。

 その様子を男がニヤニヤ見て、騒ぎを聞きつけた勇者が現れては魔物に殺され、とそんな事を繰り返していると、いつの間にか男の周りは棺桶だらけになっていた。


「ヒャハハハハ! 邪神を取り込んだ以上、俺に傷をつけられるのは同じ勇者だけだ! そして、俺は勇者の中で最強の力を持つ男! つまり! 俺様に勝てる奴は、この世に存在しない! 忌々しい『剣帝』だろうと、『大賢者』であろうとだ!」


 使邪神を討伐するという目的の為、『勇者国家サイトウ』に乗り込んできた、巷で英雄と持て囃されている二人の男。

 その圧倒的な実力の前に、男を始めとした勇者たちは全く歯が立たず、あっけなく無力化されて、邪神への攻撃手段として利用された屈辱を、男は忘れていなかった。

 

「まずは、てめえらの暮らすランスリードが標的だ! 行け、ゴブリン共! ランスリードの住民を虐殺し、調子こいた奴らに自分の無力さを味わわせてやれ!」


 そう言って門を開き、ランスリードのどこかへゴブリンエンペラーを送り込む男。後に、カズキによって壊滅させられたゴブリンの群れは、こうして野に解き放たれた。


「てめえらは俺様と一緒にエルフのところだ! 言い伝えによると、そこに魔法金属がある! ミスリルなんてちんけな玉座は、新世界の支配者である、俺様が座るには相応しくないからな!」


 当初は恩返しの為に伝えられた、初代タゴサクがエルフと交わした盟約。それは勇者国を建国した男によって歪められ、今では勇者に救われた恩を忘れ、本来なら勇者の所有物である魔法金属を、エルフが深い森の奥に結界まで張って隠匿している、という内容に変貌していた。

 彼は、自分で壊してしまったミスリルの玉座の代わりを、新たな魔法金属で用意する事を考えていたのだ。

 そして現在――。


「・・・・・・誰だ? お前」


 放たれた魔法をあっさりと防いだカズキは、見覚えのない相手と対峙していた。

 

「バカな・・・・・・。邪神の力をモノにした俺様の魔法を、あっさり防いだだと・・・・・・?」


 カズキの誰何の声に応えず、呆然とする男。

 邪神の力を得て調子に乗っていた彼は、今の今まで、自分の身に起きた事を忘れていた。

 そう、現在の力を身に宿すきっかけとなった、死ぬ直前の出来事を。勇者以外の攻撃を受け付けない邪神を、誰もが思いつかない方法で葬り去った、規格外の魔法を使う少年の事を。


「邪神? 何のことだ?」

「ミャー」

「ああ、そう言えば、そんな事もあったなぁ。確か、【テレポート】で同じ場所に飛ばしたら、融合してたんだっけ?」

「ミャッ」

「流石ナンシー。よく覚えてるなぁ。俺なんかすっかり忘れてたのに」


 一方のカズキは、ナンシーに言われて漸く男の事を思い出した。とは言っても、『そんな奴がいたなぁ』程度だったが。


「ニ゛ャー?」

「うん、確かに倒したんだけど、融合したアイツが邪神の力を奪ったみたいだ。・・・・・・御免な? アレン。今回の騒動は、俺にも原因があるみたいだ」

「ミ゛ャー」

「邪神を倒したのは間違いないんだから、気にするなって? ありがとう。アレンは優しいなぁ。でも――」


 相変わらずの人(猫)格者ぶりを発揮するアレンを撫で、カズキが男に向き直り、言った。


「後始末はしないといけないよな?」

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