第3話 遠山 恵子

 恵子は交番脇の駐輪場に自転車を入れた。有料なので屋根があり、雨の日とかも自転車置き場でレインコート脱いで、身だしなみを整えられて便利だ。スマホの時計を見る。もう少しかな。今日は晴れている。駅前の道路がよく見える。

 もうすぐかな。毎日、秋葉とすれ違うのは、意図的にやっているのだ。毎日、おはようの挨拶だけではダメかな?せめて一言だけでも話しかけ続けて、私のこと忘れさせないようにしとかないと、あいつは私のことなんかすぐなんとも思わなくなりそうだ。本を借りに行く約束もしなくては。もう一度スマホを見つめる。ロック画面は先日の秋葉とのツーショット写真だ。初めて手に入れだあいつの写真。秋葉に彼女とかいないのは知ってる。地味だから自分から彼女作ろうとはしないだろう。

 中学の時、山口さんをあいつは好きで、私の気持ちに爪の先程も気づきもしなかった。ほぼ毎日のように朝話しかけてはいたけど、鈍感だから、私の気持ちに全く気付いてくれなかった。自分で言うのもなんだが、女としての魅力はなくは無いと思う。

 髪を伸ばし、山口さんのような髪型に変えた。言葉遣いも女っぽくなるよう努力した。本も秋葉が好きなラノベの異世界ものを読んだ。あまり面白いとは思えなかったが、話のネタのためだ。

 何人か付き合ってくれと言い寄ってくる奴もいたが、全部ごめんなさいをした。どうでもいい男子に好かれても迷惑なだけだ。一人だけ。大好きな、たった一人だけに振り向いて欲しいだけだ。

 自分から告白めいた事をして、秋葉に、断られたら生きていけない。でももう、挨拶だけではでは嫌だ。本当は高校も同じにしたかった。しかし、教師になりたい夢を叶えるには、進学校に行かないと難しい。でも勉強に熱が入らない。「もっと仲良くなりたい」ふとつぶやいている。


 過ぎたことを悔やんでも仕方ない。大学進学に向けて勉強大変になる前に、この恋を成就させるぞ!毎日の朝の挨拶は、がんばるぞ!秋葉が見えた。眠そうな目つきで歩いてる。深呼吸。さも、たった今、自転車を置いて駅に走って、たまたま近くを通るついでに朝の挨拶をするんだ。我ながらこすい。

 「秋葉くん、おはよう!」秋葉も挨拶を返してくる。今日も一日頑張って勉強するぞ!

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