時限爆弾

 ぐわんと身体が持ち上げられて、視界が変わる。体育館の隅まで見える。バドミントン部のシャトルが飛び交う。


 するんと身体が落ちていく、視界がまた変わる。バドミントン部の一人が足元に落ちそうなシャトルをラケットで打ち返す。


 もう一度私はぐっと身体に力を入れて、身体を宙へ持ち上げる。下は見ない。下を見ても、マットに座ってダラダラしている部員しかいない。真面目に部活をやってる人なんてほぼいない。


 大会を目指したりするレベルの部活じゃない。この生温さが私を堕落させる。だから、トランポリンで跳ぶのが好きだ。この閉鎖された空間で上を見ても、体育館の天井しか見えない。


 このトランポリンでどこまで飛べるんだろう?高く高く跳ぼうとすると、部員や先生の心配そうな視線を感じた。何を心配してるのかな。私の考えているコトがわかったのかな?


 ぐわんと身体を跳ばして、くるりと身体を丸くして宙で回ってみた。それからまた棒のようになって、落ちていく。


 落ちていく落ちていく落ちていく……


 落ちる感覚が遅い。


 勢いよく高く高く飛べば、落ちる速度も変わるのだろうか。宙で何もしなければ、すとんと落ちるのだろうか。


 どうせ私の考えなんてわかる人はこの学校にも、この部活にもいない。だから、一人になれるトランポリンで跳び続ける。嫌なことを全部忘れるように、跳ぶ。体育館の隅っこでバトントワリング部が、バトンをくるくると回している。くるくる回して、上に投げる。


 あ、キャッチに失敗してる。


 屈んでバトンを手にとって、もう一度くるくる回す。私は何となく、そのバトンが回ったまま投げられたバトンのように、身体を跳ばしてくるりと回ってみた。トランポリンに着地するころには、そのバトンは手の中におさまって、まだまだ回ってる。


 お、成功したんだね。よかったね。


 ──よかったね。


 本当にそう思う?私。


 もう一度ポンポンと軽くトランポリンをリズムよく感触を確かめてから、少しずつ勢いをつけて、高く跳ぶ。もっと高く。もっと高く。


 バドミントン部のシャトル。バトントワリング部のバトン。どちらも高く投げられているけれど、私の方が高い。もう何メートルなのかもわからない。


 ──そろそろかな?


 勢いは十分。おそらく下で見てる部員も先生も心配しつつ、大技に期待してるんだろう。


 ──期待に応えてあげるよ。


 わざと踏み込みを失敗したふりで、勢いそのままに高く高く跳んだ。身体をひねって回転をかける。


「危ない!」


 誰かがの声が聞こえた。


 ──何が?


 私は笑ってトランポリンから、離れたところに着地した。体育館に響く悲鳴。

 冷たい体育館の床。身体の妙な感覚。意識が遠退く。私はこの機会をずっと待ってた。危なくも何もない。当たり前だよ、そうすると決めてたんだから。お前らの思いどおりになるもんか。私から最高のプレゼントをあげる、トラウマを。


 動かない身体、動かない唇で誰にともなく一言。


「これで満足か?」

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