発火機能
スマホでマンガを読んでいて、ちょうどラストに向けて話が盛り上がってきたところで、LINE通知が来た。イラッとスワイプするも、何通も来る。
渋々、画面を開いた。
「めし」
「焼き肉?」
「昨日の花火気付いたか?」
「六小だってよ」
知らないし、どうでもいい。今、マンガいいところなのに。銀行に行かず、チマチマ飲み物や食べ物を買ってたらお財布が小銭だけになってるし。
というか、もう22時だ。
自堕落な生活をしている自覚はあるけれど、今、コイツの相手をするのは大変な労力を使ってしまいそうだ。私は返事をしなかった。
どうせアレだ。誰にも相手にされなくて、仕方ないから私でストレス発散しようって魂胆だろう。
小難しい経済の話を延々とされ、「何で資産運用について勉強しないの?」みたいな上から目線。もう何度イラついたかもわからない。
でも焼き肉は久々に食べたいかもしれない。
まぁまたLINE来たら、考えようか。
いつだろうかな、コイツの発言がどんどん受け付けていかなくなって。だんだん目の前から消えて欲しいと思うようになった。
「焼き肉」
LINEは来た。
よほど私に何かしら愚痴りたいのだろう。私の頻繁に口にする「別に何でも良いんじゃない」という興味がない気持ちを表す言葉。
それはコイツを満足させる一言なのだろう。良い方に解釈すれば「あなたの好きにしたら良いんじゃない」ともとれる。
「この年になると勝ち組負け組の差が半端ないね。
大手商社、大手不動産、大手銀行、大手鉄道はこのレベルだね。努力していいところ行った奴は強いよ」
席につくやいなや、始まった。またこういう話か……適当に聞きながら、メニューを見る。この安価な焼肉屋は食べる肉をちゃんと選ばないとゴムのような歯応えか、脂ばかりで七輪から炎が上がり、ろくに食べられたものではない。
社会人になって10年以上経った、同世代に差は生まれるものだろう。ただ、働いていないコイツが最もらしく話すのが気にくわない。
「いやぁ、こないだ久しぶりに会ったヤツら!金融経済の知識がここ数年で全く増えて無かった。銀行員のヤツは銀行で投資信託売る仕事してて野木くんはガッツリ株やってた癖にやで?銀行員のヤツとも10年前は株や信託について色々話したりしてたのになぁ。人間ある程度の収入が入るようになると勉強して運用で増やそうなんて気が失くなるんやろなぁ。空いた時間を勉強に使うなら趣味や家族サービスに使うんやろなぁ。俺は羨ましいって言うよりガッカリしたでよ」
──気にくわない。
コイツの考えなんかもうどうでもいい。どうにか小学校からのこの縁を切るきっかけはないものか。
脂まみれのカルビのせいで、七輪から炎が立ち上る。私は、ため息をついて火消し用の氷をトングで掴もうと、テーブルにトングをコン!と立てた。
その時、ものすごい揺れの地震が起きた。縦揺れ?横揺れ?わからない!
そして、私は驚いた。七輪は炎を上げながら、彼の方に傾き、彼の衣服を燃やしている。燃えやすい化学繊維なのだろう、すごい勢いで服を失くす。
彼は、驚きと火傷を起こしてるのか、悶え苦しんでいる。
表面フラッシュ……
私はそれを、揺れる店内の中、笑顔で見ていた。
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