第6話 絶対なんてことはない。
私は歯を食いしばり、
そして、
自動車が交差点に突っ込むのを確認すると同時、全力ブレーキ。
私は自転車ごとつんのめるようにして急停止。
なんとか上手く行った!
やった! やってやった!
交差点の少し手前の細い路地へと入った。その前に、ちら、と交差点を確認すると信号は赤に変わっていた。例の自動車は交差点を渡り切ってる。
今度こそ、振り切ったはず。
あの自動車がUターンしようにも先の信号で折り返して、またさっきの交差点を越えてこなければならない。
いくらなんでもそれだけ時間があれば。
絶対振り切れるに決まってる。
私はようやく息を吐いて、自転車のスピードを緩めた。痺れるほどの安堵感と強烈な疲労感で脱力してしまう。
「早く、帰らないと、ね」
門限までに帰んなきゃ。
父さんに怒られちゃう。
私は少しだけペダルに力を込めて速度を上げる。
さっさとこの路地を抜けてしまおうと思ったから。
なのに。
待って。
ちょっと。
待ってよ。
通り抜けるつもりの路地の先は大きな穴が開いていた。隣にぞんざいに置かれた看板曰く、「工事中。迂回にご協力お願いします」
待ってよ。
そんなの。
嘘でしょ。
いい加減に。
しなさいよ。
「もうやだっ……!」
私は空を振り仰いだ。路地の隙間か僅かに見える夜空はどこまでも澄んでいて、星が、よく見えた。
涙で視界が、星が、滲む。
私はずずっ、と鼻をすすった。
こんなところでぼんやりしてても仕方ない。
戻るしかない。
戻るしかないのだ。
幸い、時間はまだある。たぶん。きっと。無理矢理にそう思い込み、自転車の向きを反転させた私の眼前に――
「やっと、追いついた」
――呼吸を荒くした見たこともない男の人が立っていた。
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