第7話 なにがなんだかわからない。
振り向きざま声を掛けられて、私は「ひっ」と息を飲んだ。体が、強張る。
震える体。
歪む視界。
でもまだ、私は絶望なんかしない。
まだ。
まだ何か。きっと。
何かできることが、ある。はずだから。
私はその人を観察する。
良さそうな感じのスーツ。
ネクタイ。
清潔そう。
長身細身。
年齢は、30歳くらい? よくわからない。ていうか、そもそも誰?
「君、無事かい? 怪我はないね?」
その人は見た目通りに爽やかで、場違いに優しい声音で訊いてきた。
「はい……? どういう?」
あなたが追いかけてきたんでしょ?
その人がどうして怪我の有無を確認するの?
「どう、ってあんなに無茶苦茶に自転車漕いでたら倒れちゃっても無理ないでしょ。けど無事そうでよかったよ」
はは、とその人は笑った。
つられて私も笑ってしまった。
頬は恐怖の余韻で引きつっていたけれど。
唐突に、急激に、空気が
どっと体が重くなるのがわかった。
緊張の糸が今にも切れそうだった。
「だって、自動車に追いかけられてたから……」
「うん。ごめんなさい。その車の運転手は僕だ」
その人は深々と頭を下げた。
謝るの? そんな風に、大人の人が、汗だくの女子高生に?
それに、
それなら、
「どうして、あんなことを、したんですか?」
「僕には君に、伝えないといけないことがあるんだ」
と、その人は真剣な顔で告げてきたのだった。
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