第2話 現実逃避してる場合じゃない。

 なんなの?

 どういうこと!?

 なんで私なの!!?


 わけわかんない!


 混乱する私の脳裏に、ふっ、と現国の授業で今日やったところがぎった。

 丁度授業でやっている梶井基次郎の「檸檬れもん」の一節―― 



『得体の知れない不吉な塊が私の心を始終、おさえつけていた』



 ――なんか回りくどい表現でわかりにくいな、なんて授業中には思ってた。

 でも今、私の胸の内側でも、が心臓をきゅっ、と握っていた。そんな気がした。


「檸檬」の主人公と私では、置かれた環境も状況もこれっぽっちも一致しないけれど、その焦燥感だけは何か近しいのじゃないか、と思った。




 って、授業を反芻はんすうして現実逃避してる場合じゃない!




 わけのわからない状況ではあるけれど、気持ち悪いし怖くてしかたないけれど。

 まだ、まだ最悪の状況っていうわけじゃない。はず。きっと。


 気付けば私は、無意識に自転車のハンドルを強く握りしめていた。

 じっとりとかいた手汗。

 ハンドルのゴムが痛いくらいに食い込む掌。


 私はペダルを回す足に――これは意識的に――力を入れた。



 ……ああ、もう! 私もが欲しい!! あったら投げつけてやるのに!

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