全裸少女と封印勇者

あさがおの雫

短編版

全裸小女と封印勇者 ~私の裸を見た者は全員ぶん殴ってやるんだから~

「見つけた! あのくそ主人公!」


 中央都市セブンズの裏路地で、RPGゲーム『セブンブラッド』の男主人公、カイルを見かけて、思わず叫んでしまった。

 産まれる以前の記憶を持っている、転生者の私ことレティシアが、この男に恨みを持つのには訳がある。


 私が前世の記憶を思い出したのは、丁度このゲームが開始される日だった。

 今まで生きていた記憶と、前世の記憶が混ざって、今までの自分が心の奥に消えていく感覚を覚え、恐怖した記憶があった。

 そして同時に、地名や人物から、この世界が『セブンブラッド』のゲームそっくりの世界だと、すんなり確信してしまった。


 そこまで考えた時、もしクエストやイベントまでそっくりだとしたら、私はかなり危ないのでは、と感じていた。

 それもそのはず、レティシアの『セブンブラッド』での出会いイベントは、ゲーム開始日の夜中に暴漢に襲われているレティシアを助けることで、出会うことが出来る。

 もしこのイベントを発生させなかったり助けなければ、レティシアは暴漢に捕まりスラム街の家に押し込まれてその後二度とゲーム中に姿を現すことは無い。

 そして、その後、そのスラム街で押し込まれた家の扉を調べると「誰かの声がする……」とメッセージが流れるのだ。

 それもあり、某即売会でレティシアの薄い本が大量に量産されることになる。


 まあ、私のイベントは、実の兄を探すイベントなのだが、クッソ面倒くさいお使いクエで、シナリオも最初追っていた人物は別人で、実の兄はとっくの昔に死んでいたという落ちで、彼女のシナリオ評価は不評だ。

 しかし、公式人気投票のレティシアの順位は3位だ。

 なぜかって? それは、仲間になる前は、散々苦労するわ「兄様。兄様」と主人公がん無視だったのが、最終イベントを経て仲間になった途端に主人公に対してデレデレになる。

 そのデレっぷりと18歳でロリ巨乳という見た目で絶大な人気を誇っていた。

 それもあり、某即売会でレティシアの薄い本が大量に量産されることになる。


 それで、出会いイベントを発生させたくなかった私は、スラムへ行かなければ起きないと明日の朝まで宿屋に引き籠る作戦をとった。

 だけど、日が暮れたらすぐにベットで寝たつもりが、気が付いたら夜中で路地裏で暴漢に襲われかけてたのよ。

 外に出た記憶も歩いた記憶さえもない、何が何だか分からなかったわ。


 私は結局、主人公は助けに来ず暴漢に連れ去られ、スラム街に監禁され暮らすことになった。全く、私の前世の死因も18歳の時で体育倉庫で強姦中に心臓麻痺というのに惨い事よね。

 暫くして、落ち着いた私に[NPCメニュー]と言うチート能力があることが分かった。

 「ステータス画面」と思うと、ステータス画面とメニューが視界に写り、メニューで色々な事が出来る能力の様ね。

 ただ、NPCと付いているからかゲーム時のような自由度は無いが、小インベントリが使えるのがありがたかった。


 まあ、それと同時に絶望も味わったものだが、ステータス画面の状態異常に[行方不明][死亡回避]、スキル欄に[精神回復][体力回復][性病回復]とあって、この世界の神様か誰だか知らないが、私を肉体的にも精神的にも殺さず、徹底的にここに閉じ込める心算の様ね。



 それから、スラムの家に閉じ込められること半年、解放の時はあっさり訪れた。

 毎朝のステータスチェックの時に状態異常[行方不明][死亡回避]が消えていたのだ。

 恐る恐る、今まで、私だけ開けることが出来なかった外に出るドア開こうとすると、何の抵抗もなく開いて外に出ることが出来たのよ。

 全裸で外に出て、開放感に浸っていると、メッセージが聞こえてきた。


『条件を達成したため、種族を特殊種族[裸人族]に変更しました』


 おいまて、そんな種族ゲームに無かったよ…… あああ、まさかまさか、確か公式18禁MODの『セブンブラッドR』にそんな種族が有った! 詳細!


 うん。全裸になると、手の甲とお腹に紋章が現れて、種族値が+3されるというチート種族だった。ていうか、この世界、公式MODも入っているのね。


 種族値+3ってパッとしないと思うけど、人間の種族値が1でオーガやワイバーンが2、属性竜や上級精霊が3、古代竜や真祖吸血鬼が4、邪神や魔王が5なので、人間の1から+3だから、全裸時の種族値は4になる。

 まだレベルは1のままだけど、基礎のステータスが全然違うので羞恥心を犠牲にすれば無双できるだろう。

 いや、羞恥心あるよ! 今は半年ぶりの外でテンション上がっただけだからね。


 とまあ、全裸のままで居てもしょうがないので、家に戻りシーツを目深にかぶってから家を出た。

 顔と体を隠せば、ただのガキに見えるからね。顔や体を見られたら襲われちゃう。

 上手くスラム街の住人に襲われずに、スラム街から出る路地裏に出た時にそいつ、カイルは居た。

 

 私の様にズタボロのシーツを被ってい居る訳ではなく、奴は冒険者の装備でしっかりと身を固めている。

 表情はなんだか疲れたような顔をしていて「どうしようかな」とつぶやきながらこちらに歩いている。まだ私には気が付いていない様ね。

 よくもまあ、偶然とはいえ私の前に顔を出せたわね。前世では推しキャラで公式人気投票にもカイルに一票投じたけれど、だからこそ、私を無視して惨い目に合せて、可愛さ余って憎さ百倍よ!


「見つけた! あのくそ主人公!」


 思わずそう叫んでしまった。カイルはその声で私に気が付いて、辺りを見渡している。その自分に向かって言われたと気が付かない仕草に苛立ちを覚えたわ。


「あんたよ、カイル! あたしはあんたを許さない!」


 そう言って、私はシーツを脱ぎ去り全裸なって、カイルを睨みつける。この時は頭に血が上っていたからだけど、後になって思えば、いきなり全裸になって相手に見せつけるって、完全に変質者の行動よね。


「は、はだか! え? 君は一体?」


「私の事を、忘れたの! 猶更許さない!」


 どちらかというと、これも私の失敗ね。『セブンブラッド』のレティシアの髪型はツインテールだけど、今の髪型はぼさぼさで汚れの酷いロングヘヤーだしね。

 それに表情も、馬鹿っぽい穏やかな笑顔のゲームのレティシアと憤怒の表情で睨んでいる今の私で、レティシアと分かれというのが無理があるわ。


「本当にあったことは無いと思うぞ? 君の名前は?」


「レティシアよ! この名前で分からないの!」


「??いや、悪いが全く知らない名前だぞ」


「!! ……っ!」


 ムカついた。一発絶対殴る! そう思い無言でカイルめがけて右拳を思いっきり振るった。


「おわ!」


 だが、私の一撃はカイルには届かなかった。カイルに上手く捌かれてしまったのだ。その捌かれた反動で、私はたたらを踏んで二歩前に出た。

 前世で、護身術として合気道と空手を習っていた私には、偶然躱したのではなくカイルに目で見て捌かれたことを理解した。


「ちょ、まって。落ち着けって」 ブンッ


「うるさい! 黙って殴られろ!」 ブンッ


「いやだよ!」 ブンッ、ゴバァ


 喋りながら、二撃三撃と拳を振るうが捌かれる。そして、捌かれた拳が壁に振れると轟音がして、壁に穴が開いていた。


「うわ! なんだよその力! そんなので殴られたら、一発でお陀仏じゃないか!」


「うるちゃい!」


「くそ! 今の音で人が集まって来そうだな。おいこっちだ」


「待つのにゃ!」


 そう言って、カイルは裏路地の奥に逃げて行ったので、頭に血が上った私はそのまま走り出した。

 暫く、カイルを追っていくと、開けた場所にでて、そこにカイルが待ち構えていた。


「走って落ち着いたか? 話を聞いてくれ」


「うるちゃい! 一発なぐらせちぇ 話はこれからでしゅ」


「お前のその力で殴られたら、話す前に人生終わるわ!」


 私はカイルに一撃食らわせようと攻撃を仕掛けるが、攻撃はことごとく捌かれてしまう。


「くそう。こんなんクソゲーじゃないか!」


 その言葉に私は更に熱くなった。


「やっぱり、あなちゃは、転生者なのでちゅね! だったら私を忘れたのゆるちゃない!」


「ん! 転生者って! 落ち着け! お前もそうなのか!」


「あたちの、純情をかえすにゃ~!」


「わけわからんぞ! おい! 落ち着け! 話をしてくれ!」


「問答無用でしゅ!」


「ああ! もう!」


 しばらく、捌かれ続けて私の体力も無くなって息を切らし始めた。


「はぁ はぁ どれだけ、あたちの技みきられるのよぉ」


「いや、こっちも結構きついんだって、一発貰えば終わりって結構怖いぞ」


「息も切らさずに、そんなこと言うなぁ」


 そして、完全に遊ばれた悔しさで等々私は


「う、ぐすっ うぇぇぇぇぇぇぇぇん」


 その場で、女の子座りをして泣いてしまった。ガチ泣きだ。


「うわ! 泣くなよ! その身長の全裸で泣かれたら、俺は完全に変態不審者さんじゃないか!」


 うん。ついでに言うと、殴り合いをしていても十分変態不審者だよ。


「びぇぇぇぇぇぇん」


「ああ。もう」


 カイルは、マジックバックから体を覆うようなローブを取り出し、私にローブを羽織らせた。


「うう、ぐす」


「少しは冷静になったか? なったなら、話がしたいのだが」


 うう、悔しい、でも冷静に考えたら、言動が合わない気がする。取りあえず深呼吸して落ち着こう。


「ぐすっ ……ふう。 取り合えず殴るのは、話を聞いた後にしてあげるわ」


「その方が助かる。取り合えずここで話すのは不味い。手遅れかも知れんが、誰にも話は聞かれたくないからな」


「確かにそうね」


「なら、俺の住んでる宿の部屋に行くか」


 ここで私は違和感を覚えたので率直に聞くことにした。


「宿? あなたならマイホームには住んでないの?」


「マイホームって、家なんて買える程の金なんて無いよ」


 この一言で、私は盛大な勘違いをしているのではないかと青ざめた。そこの人は転生者だけど『セブンブラッド』を知らない人なんだと。





 それから私はカイルに付いて行って、彼が長期間泊っている宿の部屋に着いた。半年間と長期間泊っているにも拘らず私物は少ない。

 私は机に備え付けられた椅子に座ると、カイルはベットに腰掛けた。


「一応、もう一度自己紹介しておくか。俺はカイル、八級冒険者をしている」


「あたしは、レティシア。無職の転生者よ。それと質問はこっちから先にしていいかしら?」


 手っ取り早く話すために、転生者と言うことはすぐに打ち明けた。


「ああ、かまわないよ」


「なら、単刀直入に『セブンブラッド』ってRPGゲーム知っている?」


「いや、そんなゲーム聞いたこともないな」


「そう? 結構有名なゲームなのに?」


「有名なRPGなら『ゲイルブッシュ』だろ? 販売日に行列が出来たってニュースでしていて、それから「最高のVRMMOを君に」ってキャッチフレーズのCMしていたな」


 はいい? 私の知らないゲーム名だし、VRMMOって存在すらしてないわ。だけど彼の発言で大体わかった。


「はぁ。そんな名前のRPGは知らないわ。VRMMOは存在すらしてないわね」


「という事は、俺達は別の世界から転生してきたって事か」


 彼も理解力が早くて助かるわね。


「一気に面倒くさくなって来たわね。貴方の世界との整合性を合わせるわよ」


「ああ、先にそちらを話した方が良さそうだ」


 そうして、私とカイルはお互いの世界の事を話し合った。

 彼も私と一緒の日本人で、歴史も大体一緒だったけれど、ゲームや漫画の分野は全く違っていた。

 彼の前世は、享年18歳らしく、トップクラスのVR格闘のプロゲーマーで、高校を卒業したらスポンサーがつくことが内定していたらしが、異世界転生お約束のトラックにやられたそうだ。

 私の攻撃を捌ききれたのも、この特技のおかげだ。どうやらVRで動かすよりも、身体が自在に動くらしい。羨ましい事だわ。


 大体、自身の話が終わったので、次の話題を切り出す。


「この世界の事に話を戻すわ。この世界はあたしの居た世界のゲーム『セブンブラッド』とそっくりなのよ」


「別にそっくりなだけなら、問題ないのでは?」


「問題ありまくりよ。そっくりって言ったのは世界観だけじゃないのよ。ゲームのイベントなんかも再現されているかもしれないわ」


「そんなばかな! 半年この世界にいるが、現実そのものだぞ」 


「いえ、実際あたしはゲームのイベントに強制的に付き合わされたのよ」


 そこで、私は転生者だと目覚めた日からカイルに会うまでの事を話す。

 話している途中から、カイルが申し訳なさそうに聞いている。話し終わると


「それで、あんなに怒っていたのか、うん。ごめん。立場が逆なら俺も一発殴りたくなるわ」


「分かってくれたらいいわ。こっちも何も知らないのに八つ当たりしてごめんね」


「それにしてもイベントまでか。それじゃあレティシア。ウィル、ミュリル、ココットって名前知っているか?」


 その名前は知っている。NPCミュリルを仲間にするイベントに登場するNPC達だ。

 そのイベントは序盤限定でセブンスの町で起こる物で、新人冒険者のカイルが三人とパーティを組み依頼をこなしていくものだ。

 このイベントで正式に仲間になるのはミュリルだけで、仲間にした場合はウィルとココットは冒険者を引退して店を始めるのだが、仲間にしない場合は三人で冒険者を続けるか、全員死亡するかになる。

 引っかけ選択肢があって、助けに行ったら全滅していて、助けに行かなかったら怪我はしているけど助かるって初見で分かるか!

 カイルの場合は、助けに行こうとしたら無理やり止められたそうだけどね。止めたくれた人に今度礼を言っておきなさいな。


「うわぁ。殆ど合ってるな。あの時、助けにいったらミュリルは……」


「それで、ミュリルとは今もパーティ組んでいるのかしら?」


「いや、ミュリルとのパーティは昨日解散したよ。ミュリルは六級冒険者に上ったから、俺の呪いの原因を探すために王都に向かったんだよ」


「呪いって?」


「ああ、俺はレベルが1から上がらない呪いが掛かっているんだよ」


「そんな呪いは、ゲームにないわね」


「俺の呪いの事はギルドに知れ渡っていてパーティは組めないから、ミュリルの勧めで奴隷を購入してみればと言われ、奴隷商人の元に行こうとしていたら君と出会ったんだ」


「なるほどねぇ」


 そこで私は、レベル1の呪いに関して思い至ったことが一つあった。


「ねぇ。カイルには、何か能力はないの? 例えばメニューとか」


「メニュー?」


「ああ、頭でステータス画面でろって思うと、視界にステータス画面が出たりとかしない?」


「……うわあ。頭に直接『条件を達成したためメニュー(未完)を取得しました』って言われて、ステータス画面が出た」


 まじか。半年気付かないとか、いや、現実だと思っていたら普通思わないか。

 なら、レベル1な理由は分かった。


「あ~。なら、メニューからクラスを選択して、保留経験値から割り振るとレベルが上がるわ」


「……ない。クラスのメニューは無い。というか、メニュー画面がスカスカだ。【パーティ編成】と【その他】しか表示されてない。空欄があるからそこにクラスの項目があるのかもしれないな」


「酷いわね、バグかしら。なら【その他】に何が有るか見てみれば?」


「ああ。【その他】を開くとステータス画面一杯にポップ画面が出るけど【パーティ編成】【マイホーム倉庫】【○メニュー】の三つしか選択できないな」


「なら【その他】は機能のヘルプね。項目の内容を説明をしてくれると思うわ」


 しかし、ゲームそっくりの世界を創ったにしては、主人公に致命的バグがあったりして、創った奴は何がしたいのだろうか?

 あ、主人公と言えばもうひとつ聞いておく事が有った。


「ねぇ。ファイって女性は知ってるかな。『セブンブラッド』の女性主人公なんだけど」


「ファイなら俺の幼馴染だな、記憶では一日早くこの街に旅立ったのだけど、行方不明になっているな。どうやらこの都市に来ていないらしい。探してはいるが手掛かりはない」


「え? 一日早く? ねぇ。カイルがこの街に来たのは何月何日?」


「ん? 確か〇月×日だったはずだが、どうかしたのか」


 カイルが言った日付は、ゲーム開始日の翌日だ。だとすれば、私を助けることなんて絶対に出来ない。なにしろ私が襲われた日にこの都市に居ないのだから。

 本来はファイが正規の主人公だった? 何かトラブルがあって無理やりカイルを翌日に? 情報が足りないから確証はもてないけどそんな所だろうか。


「いえ、なんでもないわ。ところでメニューの確認はできたのかしら」


「出来たけど、【パーティ編成】は便利で良いのだが、【マイホーム倉庫】は現状役立たずだし、【○メニュー】は機能全開放されているけど、この機能とスキルは駄目だろ」


「それねぇ。【後始末】とか【体内洗浄】とか普通に使っても結構便利なスキルがあるのよ」


「何となく名前で使い方は解るけど、普通の使えるスキル以外は禁止な」


「解っているわよ」


 まあ、ここでは言わぬが花ってね。




 というわけで、カイルを襲ったのは私の完全な勘違だったわけで、彼の境遇から私の償い方はおのずと決まってくる。

 それに、今、私一文無しだし、誰かに養ってもらわないと生きていけないし、元ゲームの一推しキャラだし、こんな提案するのは異常だけど普通だよね。


「カイル、これからどうするの? 奴隷商人に奴隷を買いに行くのかしら?」


「いや、今日はもう行く気は無いな。明日改めて行こうかと思っている」


 我ながらやばい考え方だが、確実にカイルに養って貰う為に、私の案を伝える。


「それなら、ここにゲームの知識も豊富でアドバイスできるし、【メニュー】で理想の成長が出来る良い物件が有るんだけど?」


 その言葉に大体の理解を示したカイルは


「……いや、普通にパーティ組めばいいじゃないか?」


「それだと、対等な関係だから、無一文でレベル1の私には冒険者はできないわ。それに、私を冒険者ギルドに連れて行ったときに、奴隷でなければ何処から連れて来たんだってことにならないかしら」


「余計な詮索を他の冒険者やギルドにされてしまうか。冒険者パーティ内で奴隷を連れているのも多いからなぁ。けれど、いいのか?」


「いいのよ。カイルにいきなり襲ってしまった償いを兼ねてね。それに、ゲームだと私は既に居ない人だしね」


 そうなのだ、私はレティシア、ゲーム通りだと初日のイベントが失敗したから今後一切登場しないキャラなのよね。

 ゲームの設定やイベントは全て暗記している私にとって、イベントを利用して利益を得ることは出来る。が、しかし、イベント発生フラグは、能動的なものは主人公のカイルで無ければ起たないかもしれない。

 だから今はどうしても、カイルに付いて行かなければならない。別れるにしても、イベント発生フラグが誰でも解放できるのか確認してからでも遅くない。


 そして、一番の理由は、このカイルは放っておけないのよ。元になったゲームを何も知らない、しかもチート機能がバグってまともに使えない。

 彼が悪い方向に進まない様にサポートしてあげたい。襲ったことを棚に置いてそんなことを考えていた。


「分かった。俺もこの街で活動する仲間が欲しかった所だ。レティシアが良いなら、買わせてもらうよ」


「購入ありがとうございます。誠心誠意尽くしますのでどうか見捨てなきようお願いします」


「ぶぁ!」


「あ、こら笑うなぁ」


「いや、すまん。まあ、二人の時は普通にしてくれ」


「ふふ、解ったわ。じゃあ、そうと決まれば、奴隷商人の所に行って契約しに行こ!」


「そうだな、まだ昼前だし明日にすることも無いか」


 私とカイルは、宿を出て奴隷商の店に向かった。




 奴隷契約は、首輪代と契約手数料だけで済んだ。結構奴隷契約だけしに来る人は多いそうだが、主と奴隷が仲がいいのは珍しいらしい。奇特な目で見られてしまった。


「それでは、今から貴方の事は、カイル様と呼ばせてもらいますね。それともご主人様の方が良いかしら?」


「……カイル様の方でお願いする」


「カイル様、わかりましたわ。では、早速ですが今所持金幾ら持ってる?」


「いきなりなんだ? 大体金貨10枚程だな。いったいこれが何になるんだ?」


「それなら十分かな。ゲーム内のマイホームイベントが出来るかどうか、確かめに行きましょう」


「そういう事なら、早い方が良いのか」


「ええ、じゃあ行きましょう」



 そのイベントが起きる家は、冒険者ギルド近くの一軒家で、カイルの泊っている宿の近くでもあった。


「カイル様は、この家に挨拶したことはある?」


「いや無いな。この通りには足を踏み入れたことは無いな」


「じゃあ、ノックするね」


 私がノックをすると、年老いたおじいさんが出てきた。


「何かご用かね…… おぬしは冒険者かな? それなら話があるのじゃが、中に入ってくれ」


 いきなり催眠術でもかけられたようにおじいさんは私達を家に招いた。


「いきなり、家に入れるとか。どうしたんだあの爺さん」


「……マイホームイベントのセリフ通りよ」


「げ、まじか」


 このイベントは、最初に獲得できる、マイホーム(小)を手に入れることが出来るイベントよ。

 概要は、お爺さんが娘夫婦の所に引っ越したいが、この家の買い手がつかないので、格安で買ってくれないかというものだ。

 出会ってから最後まで、ゲームと同じ台詞を吐くお爺さんに、うすら寒いものを感じてしまったわ。

 指定された金額は、カイル様でも買える価格だったので(それも相場の十分の一くらいの価格)購入すると、すぐに「家の中の物は自由にしていいよ」と言って娘夫婦の所に行ってしまった。お爺さんの後姿を呆然と見ながら。


「……この世界がゲームの世界に似ているって意味、嫌という程理解したわ」


「あたしも、自分のイベント以外では初だけど、ここ迄とは思わなかったわ」


 でも、カイル様は、最低でも一つミュリルを仲間にするイベントをクリアしているはず。


「ねぇ。ミュリル達もあんな風だったの?」


「いや、あんなあからさまでは…… ん? なぁ、そのイベントのフラグになる依頼って何か分かるか?」


 知っていおるので、フラグになる複数の依頼を教えると


「ウィルって結構ずぼらでな、集合するときは最後に顔を出すのだが、その依頼の時だけは、俺が一番最後に現場に着いていたな」


「強制されて、集合しているってことになるのか」


「戦闘中は、ハッキリ言って自分の事で手いっぱいだったからな。掛け声とかはしっかりしていたよ」


「もしかしたら、私達がイベント発生させないと、ずっと場所や行動に制限されてしまうのかしら」


「さっきの爺さんだな。俺が来なかったから、イベントが発生せず何時までも娘夫婦の所に引っ越せないか」


「イベントはあたしが網羅してるから、出来る所からこなしていきましょう。カイル様はレベル1ですから、メニューを開放する方法も探さないといけませんね」


「レティシアと出会って急にやることが増えてしまったな」


「あら、ご迷惑でしたか?」


「いや、こっちに転生してから、あてもなく呪いを解く方法を探していただけだからな。しっかりした目的が出来てやる気が出て来たよ」


「それはよかったわ、じゃあ、次はあたしの冒険者登録よね」


「ああ、そうだな、ここから冒険者ギルドは近いからすぐに行こう。それが終わったら宿を引き払ってこっちに移ってしまおう」


「ええ、少し後ろめたいけど、有難く利用しましょ」






 そうして、冒険者ギルドに行ってレティシアの冒険者登録が終わるころ。ギルドの扉が大きく開いて、一人の冒険者が叫んだでいた。


「た、大変だ! ネネ村がゴブリンの群れに襲われて壊滅だそうだ!」


 その声に、冒険者ギルド内は騒然となる。

 ネネ村はこの街の北東にある林業が特産の小さな村だ。その村が100匹ほどのゴブリンの集団に襲われて壊滅状態だそうだ。

 そして、ネネ村、ゴブリン襲撃でピンとくる。これもゲームのイベントの一つだと。

 

「カイル様少し良いかな」


「どうした? あ、まさかこれも?」


「ええ、少し人目を避けて話しましょう」


 ということで、マイホームに戻ってきた私達は


「最初に言っておくけど、カイル様は悪くないわ」


「……そうか」


「ええ、カイル様は依頼か何かでネネ村に言ったことは在りますよね」


「ああ、冒険者になって最初の依頼でネネ村で、猪退治をしたな」


「その時誰かを助けたことは?」


「無いなって、そういうことか……」


「そういうことよ、ネネ村にはゲーム上で結婚できるNPCが居るわ。ちなみにミュリルは結婚できないキャラで、あたしは出来るキャラだったわ」


「え、ミュリルと結婚できないのか」


「いや、ゲーム内でだから。ミュリルのイベントは終わって自由になってると思うし、カイル様次第じゃないかしら」


「そっか」


「こほん、まあ良いわ。ネネ村に居るのはメープルって言う13歳の女の子よ」


「げ、13歳か」


「イベントはあたしと同じね。ゴブリンに襲われている彼女を助けるイベントがあるのよ」


 助けたことで懐かれて、その後何回か出会って、好感度を上げるとこの世界の成人の15歳の時に結婚できるようになるのだけれど。

 助けない又スルーすると、ゴブリンに拉致されて監禁されカウントダウンが始まる。カウントダウンが終わるまでにゴブリンの巣穴からメープルを助けると、そこでイベントは終わって心に傷を負ったメープルは修道院に保護される。

 カウントダウンが終わるまでに助けないと、ゴブリンの集団がネネ村を襲撃するイベントが起きるのよ。その際のメープルは、記述にないわ。巣穴に行っても姿は確認できないので、死亡説が濃厚だったわね。


「ただ問題は、メープルも転生者だった場合よ」


「その子も転生者の可能性は高いのか?」


「対象がまだ少ないから確証じゃないけど、主人公と結婚できるNPCが転生者である可能性があるわ」


「俺とレティシアが転生者で、ミュリルやウィルは違うからか」


「そそ、だから、転生者の場合私と一緒の状態異常とスキルを持っているかもしれないわ」


「おそらく村が壊滅したんだ、騎士団の前に冒険者ギルドで討伐隊を編成するだろうな」


「でもそれには参加しないわ。半年ほど前の未達成の依頼を探して、メープルの名前が有る依頼を受けましょう」


「行方不明の捜索依頼か、あれって達成率悪いから、受ける奴余り居ないんだよな」


「じゃあ、冒険者ギルドに行って依頼を探しましょうか」


「ああ」


 私達は冒険者ギルドの受付で依頼を探した結果、一つの依頼を見つけることになる。

 その依頼は、フォレストウルフに攫われた娘の遺体をさがしてほしいという依頼だった。

 なんでも、娘が居なくなって森を探したところ、娘が持っていた籠と血まみれの服の切れ端が見つかった。辺りの状況からフォレストウルフに襲われたと判断した村人たちは娘は狼に食われたと判断した様ね。

 でも、遺体か遺品の娘がつけていたペンダントを埋葬したいという娘の父親からこの依頼が出ていた。

 その娘の名前がメープルだったのよね。


「ねぇ。こんな偽装工作するゴブリンっているの?」


「いる、ある意味、キングより恐ろしいゴブリンだ」


「キングより恐ろしいって強いの?」


「いや、ゴブリンプリーストだ。こいつは、偽装工作が出来る位に知力も高いが繁殖特化のゴブリンでな、捕まえた雌を死なせずに何度も産ませる魔法を得意としている」


「もういいわ、そういう事ね。ゲーム通りなら巣穴の場所は特定できるわ確認しに行きましょう」


「当然だ、レティシアは俺は悪くないというが、無知も罪だとも思う。せめて助けられるのなら助けたい」


 そうして、私とカイル様の贖罪の旅は始まったのです。

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