第42話 【賢者】と【模倣】と【光魔法】

 馬車に乗り込み、大商会の建物へと戻る。

 マンジローさんが、内緒話をするようなトーンの声で喋り始めた。

「……エリィ殿、どう見ます?」

「明日、彼の罪が確定したら引き取ってきて貰えますか?」

「お、ではエリィ殿はもしかして」

「ええ、彼は恐らく本物の【賢者】です」

「魔法が使えないのも?」

「こちらに来たばかりで知識が足りないからかと」

 マンジローさんはなるほど、と頷いている。

 しかしそこにアシンさんは疑問を投げかけてきた。

「つまり、お前さんが何とかすれば、あいつは本物になれるって訳か。……でもだったら、さっき助けてやればよかったんじゃねぇのか?」

「えっとですね……彼はどうやら、こちらに来る際に【賢者】という強力なスキルを手に入れたので、どうも天狗になっているっぽかったんですね」

「『テングになっている』ってなんだ? そいつはなっちゃいけないものなのか?」

「あーえーっと、うわぁこれ説明難しいなぁ。増長するとか、自分でなんでもできると思い込む、自分の能力を過信して自惚れる、とかですかね?」

「ほう……それで、周りに偉そうにしてたり、調子にのってた訳か」

「そんな感じです。そのフフンってなった鼻っ柱を一度折らないと、ああいうのは直りませんから」

「なるほどなぁ……それで、一度奴隷に落とすってことか。怖いこと考えるなぁ」

「少なくとも奴隷階級にしておけば、言う事は聞かせられますからね。それで色々情報とか喋らせないようにして、知識を与えて、で本物の【賢者】にして、人間が丸くなったら解放して、それこそ歴史に名を残すような人物になって貰えれば、私はいいかな、っと」

 きっと彼もそれなら満足してくれるはず。きっと。

「こりゃまた大きく出たもんだ。でも数百年昔の、歴史に名前が残っている賢者様も、もしかしたら最初がアレだったかも、と考えると面白いもんだな」

「全くです。私達がそれに関われるとなるとこれまた……血がたぎりますねぇ」

「という訳でマンジローさん、よろしくお願いします」

「任されましたぞ」

「でも……だったらさっきの喚いてた男の子も仲間になるですぅ?」

「多分ね」

「もう男は要らないですぅ」

 ミレイは不満そうだ。ごめんねミレイ。

「あんなんだけど、多分私の同郷なの。ほっとくと一生奴隷で惨めな生活送ることになると思うんだ。そもそも私の世界の人はこっちの人に比べて体力が無いだろうから……過酷な労働場所とかに運ばれるとあっという間に死んじゃったりするかもしれない。私は、自分で助けられる範囲の人は助けたい。だから……お願い」

「はぁ。お姉さまがそういうなら……でも、私個人はあんまり心を許す気にはなれないですよぅ」

「分かった。気を付けるから。いざとなったら【闇魔法】で色々縛れるから」

「おぉ……なんかおっかねぇこと言ってるぞ」

「ふふふ、アシンさんも気を付けて下さいね。今度の旅は美人さんばかりですけど、オイタはダメですよ?」

「だから俺もその辺はわきまえてるって。本音を言えばミレイちゃんに、エリィちゃんみたいな態度で接して欲しいが」

「私のお姉さまへの愛は唯一無二ですぅ」

「分かってるよ。だから何もしねぇから」

「男の人がみーんなアシンさんみたいに優しかったらいいのにですぅ」

「おっ……俺は今の言葉だけでも嬉しいぜぇ……おーいおい」

「その程度で泣かないでよ……」

 ホント、アシンさんって報われないなぁ。


 アシンさんとマンジローさんとは大商会でお別れ。そーいやアシンさんにまだ魔法教えてないけど旅に出てからでいいや。

 私達二人は宿へ。なんかギンシュがいないとちょっとさみしいね。

 でご飯。はーうまうま。うまうま。

 さてここで私は食事の前に【模倣】スキルを発動ですよ!

 つまりこれでですね、食事を【模倣】してアイテムボックスに放り込めば……いつでもあたたかほかほかベリー美味いごはんが旅の途中に食べられる訳で!

 ねぇ私天才じゃない!? 天才じゃない!?

 ……とゆーわけで試してみた。出来た! ちゃんと美味しく取り出せた!

 これは最高だ! 素晴らしい! よしよしもっと試そう!

 そんなこんなで料理人さんに色々と美味しかったメニューをお願いして作って貰って、それを運んでもらうことに。

 それでアイテムボックスがかーなり料理で埋まった。でもこれは必要な措置なのだ。うむうむ。

 でいつものようにえちちしてお風呂入って就寝。すやすや。

 おっとその前に私はこっそり抜け出してリンドゥーさんのところへテレポートっと。


 リンドゥーさんには今日の流れをざっと話して、数日中には出るよ、早いと明日には出るかもだよ、と伝えておいた。

 まだ皆には話してないけど、まあなんとかなるでしょ……なって欲しい。

 その時には迎えに行くから、と。

 リンドゥーさんも楽しみにしてくれてるっぽい。

 さて……そして本番はこれからですよ。むふふのふ。


 今日も我々のフルーツは絶好調ですね!

 お互いの練乳がいい感じに甘さを引き立てあっておりました。

 彼女の肉体に刻まれた印は、これまた二人を燃え上がらせてくれましたよって。

 あと……夜のお散歩、しちゃった。

 マーキングまでさせちゃった。

 リンドゥーさん『絶対いや!』って言ってたのにいざ始めたらもう大洪水ですよ。

 あーこの人ホンマもんのMなんやなって思いました。

 最後に『どーだった?』って聞いたら『一生忘れられない……さいっこう』だって。

 また今度もエッグいことしてあげるからねーふひひ。

 ……一番回数短いのに一番濃厚なのしちゃってるのってどうなんだろう。



 さて今日は……病院よりは噂が広まりにくいんじゃない? ということで、王都のスラム街へとお邪魔しております!

 王都のスラム街は南東にあった。私とミレイとアシンさんの三人で来たけど……場違い感が凄い。

 私も勿論そうだけど、ミレイは本当にもう……なんかこうして歩いてるとお嬢様オーラというか、お金持ちオーラというか、苦労してないよねってオーラがぷんぷんである。

 いや彼女は彼女なりの苦労をしているのだが、少なくとも金銭的な苦労は全くしてないな、って感じ。

 そりゃそうだ。なんせ何よりお金のかかる衣食住の食が、彼女は根本的に違うのだから。

 それでも普段は、時々は一緒にご飯食べたりもするけれど、基本はそうじゃないからね。夜の営みがごちそうだからね。

 ちなみにミレイは、私と出会ってから本当にその、空腹感が感じられなくなったようで、未だに時々私に感謝の言葉を投げたり、時々拝んだりしてるらしい。私は気付いてないけど。ギンシュがいってた。

 そんなに思わなくてもいいのになぁ、と思うけど、本人にとっては切実なのだろう。

 別に私が困る訳ではないので、好きに任せている。

 それでスラム街を三人で歩いているのだが、どうやらアシンさんはこの辺りに顔が利くようで、この辺の顔役というか元締めというか、そういう人の所へと案内してくれた。

「おーいウォン、いるか?」

「誰だ?」

「俺だ、アシンだ」

 そういうと二階から音も無く飛び降りてきたのは……すげぇ。狼男だった。

 二足歩行のムキムキマッチョ。上半身はもふもふの毛で覆われて、顔付きは人の顔じゃなくてまさしく狼の顔。こう鼻がながーくなってるあれ。そして手には肉球もある、それはそれは立派な獣人さんでした。氷結姫様の耳としっぽだけついてる獣人とは違うね。ガチだね。ちなみに身長は二メートル越え。でかい。威圧感半端ない。マジでマフィアのドンみたいな。ぶっとい葉巻何本も吸ってそう。あっでも葉巻とか狼の鼻にはきっついんじゃないかな、とどうでもいいことを考えてた。

「おうアシンじゃねぇか。なんだよ久々だなぁおい!? 今更こんな掃き溜めに何の用だ?」

「それがよう、こっちの嬢ちゃんから妙なお願いをされちまってよぅ」

「あん?」

 うわぁめっちゃ睨まれた。怖いよぅ。

「はじめまして。エリィといいます」

「エルフかよ。エルフの嬢ちゃんがこんなトコに何しにきやがった」

「えっと、病気で死にそうな人とか、あと腕とか足とか無い人いませんかね? そういう人がいたら、ちょっと治療の魔法の特訓をさせて貰いたいなと思って」

「はぁあああああ!? なんだそりゃ!?」

「えっと……治したい人がいるのですが、いきなり一度で成功するとは思えなくて、でも、失礼な言い方で申し訳ないのですが、ちょっとこう……実験台にさせて欲しいなと。勿論お金とかそういうのは頂きませんので」

「つまりだ、金とか報酬は要らんから、回復系の魔法の実験台になってくれる奴を探している、と」

「そういうことです」

「そんなのそこら中にいるぜ。病気で具合の悪い奴ならよ」

「えっと……出来れば大変そうな人がいいんですけど」

「よかねーよ。……まあでも、それなりにアテはあるから案内してやるよ」

「ホントですか!? ありがとうございます」

「アシン、こいつら大丈夫なんだろうな?」

「エルフの魔法の腕に心配がいるのか?」

「いらねぇな。俺が悪かった。でもそうじゃなくてよ、頭おかしいんじゃねぇのか?」

「どうしてですか?」

「普通どう考えても見返り取るだろ。しかも魔法使いだぜ? 高額に決まってる。おい後から払えとか無しだからな?」

「言いませんよ」

「まあアシンの連れだから案内してやるがよ……信じられねぇや、ったく……こっちだ、着いてこい」


 案内されたのは、寝たきりのお母さんと子供が二人いる、ボロ家だった。

「おう、邪魔するぞ」

「あ、ウォンだ」

「おんだ」

「お前ら呼び捨てにすんじゃねぇの! 俺これでもそこそこ偉いの!」

「ゲホッゲホッ、どうしたんだい」

 寝たきりのお母さんは、無理にでも体を起こそうとするが、狼男さんが止めてた。

「いいから寝てろって。いやな、ちょっとこいつに診て貰おうと思ってな」

「お金なんかないよ」

「いらねぇってよ」

「子供は売らないよ」

「売らなくていいってよ」

「そんな話には騙されないよ」

「いいから、ちょっと黙ってろよ」

「ゲホッゲホッ」

「ちょっと診てくんな」

「分かりました」

 私がお母さんの様子を伺おうとすると、子供が……兄と妹の二人が、私の服を掴んで言うのだ。

「お母さん……元気になる?」

「なりゅ?」

 私はドキッとした。自分の思いつきかもしれないが、それでこの三人が、家族が元気になるのなら。

「精一杯、頑張るよ」

 私は【鑑定】を使ってお母さんの状態をチェックする。

「んー、栄養不足と体力の低下によって、ただの風邪が重症化してる……じゃあまずは風邪から治すかな」

 私は【光魔法】を発動して、体内の様子を伺いながら、弱っている部分を回復させた。胃腸と肺がちょっと危険だったかな。でもこれでよし。

「あら……随分気分が良くなったねぇ」

「あとは栄養不足は……なんかないかなぁ」

 私は色々と探すと……

「あっこれならいいかも」

 取り出しましたるは、猪の肉。前の残りがアイテムボックスにあったよ。

「おいおいそれどっから出したんだよ」

「細かいことは気にしない。最初はおなかが弱ってるからいつも食べてるうっすいスープとか飲んで欲しいけど、多少体力が回復したら、皆でこれ食べてね」

 猪のお肉を二週間分くらいは渡しておいた。これだけあればなんとかなるだろう。

「ホントに渡せるお礼はないよ。子供たちだけは勘弁してくんな」

「だから要らないって……全く信じて貰えないんだけど」

「そーゆー場所なんだよ。悪ぃな」

「おねーちゃんありがとう!」

「あいあと!」

「どういたしまして。お母さんと仲良くね!」

「うん! 神々のお導きを」

「かみがみのおちゅびきを」

 なにこれ。あいさつ?

 良く分かんないから同じ言葉返しとこ。

「はい。神々のお導きを」


「……さっきのアレって挨拶?」

「出たですぅお姉さまの非常識。あれは感謝を伝える時の言葉ですぅ。私達に神々からご加護が与えられるように、神々からのお導きによって、私達が受けたありがたい気持ちの分だけ、幸せが訪れるように、っていう」

「へぇ……そうか、こっちの神様だとそういう扱いを受けるんだね」

「お姉さまの世界だと違ったですぅ?」

「うーん……いや、似たような感じではあるけれども、基本的にほぼ人前に現れたり既に影響力がなかったりするから、神様が見てるとか困った時の神頼みとか……ものすごーく遠くから見てる人、みたいな感じだったかな」

「面白いな、世界が違うとそんなに色々違うのか」

「そうですよ。私がいた世界なんて魔法も【スキル】もないですからね」

 そう言うと固まる一同。

「……嘘ですぅ」

「……嘘だろ」

「いやホントだって。こっちに来る時に色々強力な【スキル】を手に入れるんだって」

「はぁ……俺もう訳分かんねぇわ」

「それでいいと思うよ」

 そして私達の会話についてこれない狼男のウォンさんは、どうやら気付いてしまったようで……絶句してた。

「なぁ……アンタ……もしかして……」

 あ、そういやその辺何にも話してなかった。

「あの、私の出自については秘密にしておいてくださいね。その分働きますので」

「言わねぇし言えねぇよ。それに言ったって信じて貰えねぇさ。そんなことより俺はこの辺の奴らが多少なりとも元気に暮らしていけるなら万々歳ばんばんざいだぜ」

「じゃあもっと頑張りますね」

 そうして私達は、次の場所へと案内されていった。

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