第37話 こわいこわい
三人とも飛べるようになったので、今度は氷結姫様との面会でもしておこうかという話になった。
今はマンジローさんの部下に、彼女を呼びに行って貰っている。
「何か話すことがあるのか?」
「いやさ、私が『神の落し子』で、もしかしたら色々出来るかもしれないけど、どうする? って話」
「……おい、何を考えている?」
ギンシュがまた圧をかけてくる。こわいこわいってーもー。
「いやだからえっと……足の話とか」
「治せるのか!?」
「分からないよ。やったことないんだから。でも【光魔法】なら……可能性はあると思う」
「なんと!? それは本当ですかな!?」
マンジローさんも驚く。そりゃねー。
「だからね、この町にスラムとか病院とかそーゆーこう……傷とか病気の人が沢山集まってる場所無いかなって。練習させてもらおっかなって」
「いやはや、このお方は実に恐ろしいことを考えますなぁ。明日、謁見後は……冒険者ギルドに顔を出して、それ以降にでもスラムに向かってみますか」
「お願いします」
「おい、逃げるという話はどうなった!?」
慌てるギンシュに改めて説明する。
「だから王様と勇者がどうこう言わなければ大丈夫でしょ」
「またそんな楽観的な……」
「なんとかなるなるって」
ちなみに今日の静かなミレイは、ギンシュにぴったりひっついている。
最近のお気に入りはギンシュらしい。かわゆ。
「お、いらっしゃったようですな」
とゆーわけで、また氷結姫様とのご対面だ。
「で、アタシに何の用だよ? アタシを知らない馬鹿エルフさんよ。ププッ」
私の顔を見るなりくすくすしだす氷結姫様。そんなに笑わないでよ……。
「これでも昨日、勉強したんだよ? 一応」
私がその話をすると、一気に空気を氷点下にする氷結姫様。ひえっ……こわ。
「……それで?」
「あと私が知らなかったのは、つい一か月前に落とされた『神の落し子』だから」
「へぇ……アンタが噂の。でも黒髪黒目じゃないんだねぇ」
「うん。なんだか特殊でね。それで私達に着いてくるって言ってたけど……ついてきてどうするの?」
「別に?」
「私達の旅、そんなに面白くないかもよ?」
私がそう言うと、鼻で笑われた。
「何言ってんだい。私の事を知らない馬鹿エルフ様についてかない道理がないよ。絶対面白いに決まってる。こんなトコで毎日出される飯食ってるより、アンタの馬鹿っぷりを毎日眺めてた方が、なんぼかおもしろいさね」
「先に言っておくぞ」
私との会話に、ギンシュが口を挟む。
「アンタは?」
「ギンシュ=ライ=バニング。バニング家の娘だ」
「ああ。あの炎キチガイの」
「なんだと!?」
「はいはいギンシュちゃん抑えて」
「ぐぅ……面白いといったな。言っておくが後悔するぞ」
「そんなことするもんか」
「じゃあ一つ教えてやろう。彼女……ミレイの正体は分かっているな」
「名前なんぞ聞かなくても本能で分かるよ」
彼女、結構偉そうにしているけど、実は今も座りながら大きな尻尾を両足で挟んでいるのだ。
……つまり、ビビっている。
「彼女の正体に私が気付き、土下座をしながら許しを請うている時、こいつは何をしていたと思う?」
「……うそだろ」
氷結姫様、想像して唖然とした。
「その通りだ。頭を下げないまま『ドの御方って何?』って聞いたんだぞ!?」
「ヒィッ!?」
「その時の心情……分かるだろう?」
「……やっぱついてくのやめようかね」
えっそんなに!?
私がそんなショックな顔をしていると、私の方を見て
「多分ねぇ、アタシでもその場にいたら、彼女と同じ反応するさね。ってかアンタ……伯爵家の娘ってことは『ライの子』ってことだろ? よく生きていられたね」
「毎日死んだようだったよ……心臓がいつ握りつぶされるかと思って」
「苦労したんだねぇ……凄く、凄く分かるよ」
「あぁ……姫様に分かって頂けるなんて……って私からすればアンタも大して変わらんからな!」
「その割には今も随分と大きな態度じゃないかい? 私はまだ何も『許し』てないんだけどねぇ?」
姫様がそういうと、ギンシュは一瞬固まり、私を見た。
いや私も見ても分からないよ? きょとんとする。
ギンシュは……一気に青くなっていく顔。股間を抑える手。あっまた漏らしたな。
「ひぇっ……えっと……あの……」
にやり、とする氷結姫様。
「……っ……っ……」
声にならずに固まるギンシュ。あーあー。
「別にいいさね。アタシはむしろそーゆーの嫌いだから構わないさ。アンタ、横にいるお方とこの馬鹿エルフのおかげで大分麻痺してるから、気を付けた方がいいんじゃないかい?」
「くぅ……」
「だって。気をつけなよ」
「お前のせいだぁ!! この馬鹿エルフ!!」
「そんなぁ」
「アッハハハハ! やっぱついてくよ! こいつぁ絶対面白そうだよ!」
「面白くないよ! もう……」
「アッハハハハハ!」
「あっあともしかしたらその足治せるかもしれないけど」
「アッハハハハハ! 治せる訳ないじゃないか! 一体どこの伝説だよ!! アッハハハハハ!」
「そんなに笑わなくても」
「まあ期待しないで待っとくさね。あーおっかし。いやぁ……実に面白かったさね」
「むぅ……」
そういうと氷結姫様は足を引きずるようにして去っていった。
あと地味にこっそり【鑑定】したけど凄かった。
いや能力もそうだけどスキルの数も。なんかざっと見たけど殆どレベル10だし。能力ももうなんか桁が違った。なにあの数値。
おまけにあんだけ数値めちゃんこ高いのに魔力関係の数値が非道いのがこれまた凄い。HP六桁あるのにどうしてMP二桁しかないの?
完全にバグかチートのキャラにしか見えなかった。こわい。なんかドの御方とかそーゆーのじゃなくて、逆の意味で怖い。
このクラスのモンスターが目の前にいて、私を見てけらけら笑ってたのが怖い。
これは……本気で怒らせたらいけないな、と肌で感じてしまった。ひえぇ。
「さて……話し合いも済まされましたし、今日はこのあたりで帰られますかな?」
「そうします。あと宿ありがとうございます」
「いえいえ、あれくらいしか出来ませんが」
「そんなことないです! とっても気に入りました! もうずっとあそこに住みたいくらいです!」
「おや、そう言っていただけるとこちらも嬉しいですな」
「あとお支払いに関しても……感謝してます」
「とんでもない。こちらとしては先行投資のつもりですぞ」
「先行……投資?」
「いずれ旅によって私に莫大な利益を持ってきてくださる方々だと、私の『目利き』が言いますからな。今に恩を売れるだけ売っておこう、という算段ですよ。私、これでも商売人ですからね。払った金貨を倍にして手に入れるつもりです」
マンジローさんの目、いつもと違って全然笑ってない。怖い。これはこれで怖い。
「が、がんばります……」
「いえいえ、頑張る必要はないのです。むしろエリィ様は、その何も知らない自然体でいいのです。私達の世界の常識が無いからこそ、新たな発見、新たな商機を教えて下さるのですよ、私という、知識を金に換える職業の商売人へと、ね。おっほっほっほっほっ」
「は、はい……そうなんでしょうか」
「そうでしょうとも!! 昨日の魔法の一例だけで分かりますとも!! なにせ! なにせ一生諦めていた私が! この平民の私が! まさか風魔法で! 世界中で諦められていた空を! 空を飛べるのですぞ!? これが興奮せずにいられましょうか!!!」
「そ、そんなにですか?」
「本来ならば、この知識だけで私の部屋が金貨で埋まってもおかしくない……それくらいの価値なのです! 残念ながらこの知識は外には出せませんがね……それでも私は、夢を見ますよ……いつか、貴族位どころか国まで買えそうな気がしますから」
「そんな無茶な……」
唖然とする私に対し、ミレイもギンシュもこくりと頷く。
えっ?
「歴史上、金で戦争を終わらせた例は沢山あるのだ。多くの金貨が、剣にも権力にも引けを取らぬ力だと、誰もが知っている」
「そうですぅ。神話には神の位を金で買ったという男の話があるくらいですから」
えっ!? そんな凄い人いるの!?
「大抵の商人は、その方の加護を求めますぅ。自分もそれくらい稼ぎたいと。でも大抵は貰えないんですぅ。ケチなので」
「神様にそんなこと言っちゃっていいの?」
「有名で誰もが知っているから今更どうこうしないですぅ。本人も『俺はケチだから金を沢山貯めれた。商売人はケチでないといかん』って皆に言い残して天に昇って行った、という話で終わるくらいですからぁ」
凄いなぁその神様。ってかこの世界の神話も相当面白そうだ。
私が相変わらず真っ白な自分の頭に、この世界の知識を入れていると。
「そうそう、その粋ですぞ! その粋で私に商機を! 商機をくだされぇ!!」
とマンジローさんが私を拝んでいた。ごめんね私その神様じゃないから!
そんなこんなでファット大商会でのお話も終わり、例の宿へと送ってもらった。
なんかもう全然歩いてないな。馬車か空飛ぶかばっかり。いや便利でいいんだけど。
そして宿でご飯食べてお風呂入って。あーさっぱりさっぱり。
今日はお風呂でにゃんにゃんしたよ。ってかお風呂ってどうしても皆裸になるからね……ついね……高ぶっちゃうよね。
でちょっと湯あたりしちゃって皆で冷ましながら……あらら、二人とも寝ちゃった。
……これは、チャンスである。
今晩はまだ時間が結構あるのである。
私は例のメモを取出し、【探知】で王都の地図を作り出し、住所を検索。
そうこれ検索とか出来るの。もうホント便利。携帯に入ってる地図アプリと大差ないレベル。ああ早く大陸全部の地図埋めたいなー。
そしてピンが立ったので、【探知】の地図で回りの建物周辺のリアルな映像を出して……よし人いなさそう。
さあ【空間魔法】の時間です……テレポート! えいっ!
……よっしゃ成功! 結構遠距離だけど何とかなった。そして一気に【空間魔法】のレベルが7に上がった。よしよし。
えっと、住所のメモだと……ここかな。コンコンコンとノック。
「はい、どなたですか?」
「メモを頂いたエルフのエリィです」
私はそう言って、少し待つ。
扉が開くと、そこには私服姿のラフな格好のおねーちゃんがいらっしゃいました。
これはこれで……実によきよき。
「本当に来てくれたのね。嬉しいわ。さ、入って入って」
「お邪魔します」
部屋はシンプルだが、所々に女の子らしさがあって、かわいらしい。
というかもう空気が女の子の部屋の空気なのだ。はぁはぁしちゃう。あーすんばらっし。
彼女は私にお茶を入れてくれた。
「ごめんなさいね。まだ帰って来たばかりなの」
「いえいえこちらこそ」
「それで? 何時までに帰らないといけないとか、ある?」
「えっと……二人とも寝ましたし、魔法でどうとでも出来るので……朝までにバレなければ」
「あらあら……それじゃ、色々楽しめるわね」
「色々……ですか」
「そうよぉ……い、ろ、い、ろ♪」
お互いお茶で口を湿らすと、その濡れた唇と唇で、お互いの唾液を交換する。
「私ねぇ……異性はもちろん好きだけど、同性とするのも、嫌いじゃないわ」
「同感ですね。私もです」
「じゃあ、これから楽しみましょうか」
「ええ……素敵な一夜を」
という訳で堪能。
「あっ、それと……『リンドゥー』って、呼んでくれない?」
「分かりました。私は『エリィ』で。『綺麗だよ、リンドゥー』」
「あらもう素敵。『貴女もよ、エリィ』」
今宵も夜の帳が下りていく。そして例によって彼女の台詞のみで進行させていただきます。
「ほらぁっ! どおっ! 気持ちいいでしょぉ!」
「あぁんっ! すてきぃ! 堪らないわぁっ!!」
「へぇっ!? なにそれ……あなた、女の子のはずじゃ……」
「うそぉっ! こんなぁ! こんなぁっ!?」
「許してぇ! もうだめぇ! 許してぇぇ!!」
「ああぁっ! でちゃうぅ! でちゃうのぉっ!!」
「えっそんな恥ずかしいこと!? わかったぁ! 言いますぅ! 言いますからぁ!」
「うぅ……『私は、身も心も全てアナタのものです』……あぁ……言っちゃったぁ……」
「もうワタシ……アナタに一生逆らえないのねぇ……あぁ……そんなぁ……」
「えっそんなの着けるの!? ……さっき宣言したぁ!? あぁ……『ハイ』……」
「どうしよう……アタシ……一晩でこんな……」
……あかん。はっちゃけすぎた。
最初は彼女が上位をしたかったっぽかったので、私が下でもいいかなと思ったんだ。
下も中々楽しいんだけど、彼女はそーゆーのされたい目を、本能をしてたから……つい……。
おまけにテンション上がっちゃって、試しに【肉体変化】とか使ってみたら……いやぁ出来ちゃいましたよ。
何がって? マンゴーの上にバナナが出来ました。夜のデザートの完成です!
これでリンドゥーさんのマンゴーと一緒にフルーツポンチを美味しくいただきましたって感じ。
おまけにあの二人には出来ない所まで色々しちゃった。
えっと……あれですよ。ピアスとモンモン。うん。これ以上は言えないし見せられません。
ぶっちゃけ【闇魔法】最高! としかもう言えない。これ便利すぎるわ。
「ちょっとぉ……ねぇこれぇ……刺激が強くてぇ……歩けないんだけどぉ」
「大丈夫。半日も経てば慣れますから」
「貴方ねぇ……でも凄かったわぁ……」
「あはは……」
「今日仕事になるかしらぁ……」
「ダメですよ、休んじゃ……『命令』、です」
「あうっ……そんなぁ……。ねぇ……ちなみに彼女達とは?」
「こっちに来る前に、堪能してきましたよ」
「あらなんて羨ましいの……私も混ざりたいわ」
「じゃあ……混ざってみます?」
「いいの!? ホントに!?」
「あぁでも、私達早くて明日には王都を出ないといけないかもしれません」
「あらもう行っちゃうの? 残念ねぇ。王都に出てきたばかりなんでしょ?」
「ええ。今度は西に」
「西、ねぇ……」
おねーちゃん、少し考えると、まさかの発言。
「ねぇ、私もついていっていいかしら?」
「ええっ!?」
なんかこっちの人って皆フットワーク軽すぎないか? 船長しかり、氷結姫様しかり、おねーちゃんしかり。
「何かまずいことでもあるの?」
「いや……その……私達の関係とか」
「そんなの秘密にしてればいいじゃない」
「いやそういう訳にも」
「それとも……この体、皆に見せちゃうのぉ……まぁ私は逆らえないんだけどぉ」
「いや流石にそれも」
「だったら秘密にするしかないんじゃない?」
「確かにそうですね……。あと私冒険者なので、戦闘とか」
「ふふっ……私、こう見えても一応、一人でも戦えるのよ?」
「そ、そうなんですか……」
「だったら今日にでも仕事やめてこないとね。あらあら忙しいわぁ」
大丈夫かなぁ。
「あの、私以外にも結構凄い人とかいらっしゃるんですけど」
「だいじょーぶだいじょーぶ。それとも……こんな体にして、あーんな宣言させた私を置いてくの……?」
確かに。それはそれで非道い奴だな私。
「私……もう一人じゃ満足出来ないわよ……おまけにこの体……他の人には見せられないし……私はアナタの『モノ』なんでしょ? じゃあアナタの行く所についていくのは当然じゃない?」
「そ、そうですね……あはは」
やっちまった。これはいかんなぁ。
……でもまあなんとかなるでしょ。きっと。
皆優しいし。うんうん。じゃあ今日もがんばろっと!
私はそう、思っていたんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます