第38話 謁見
私は彼女の部屋を出た。外はまだまだ真っ暗だ。そして再度【探知】で地図を出して宿を見つけて、【空間魔法】でえいっと。
部屋に直接戻るのはまずいので、露天風呂の方に出た。よしよし成功。
これで【空間魔法】は8に。いやホント便利だなテレポート。
でもいずれはこの【探知】の地図無しでほいほい出来るようになりたいなぁ。
……ちょっと練習してみよっか。
とりあえず皆の部屋に戻って……よし寝てる。
さっきの露天風呂の所を目指す。一応視界からは見えるのだが……えいっと。
やった! 成功したぞ! よし今度はさっきの部屋の内部へと……えいっと。
よしよしこれもオッケー。今度はちょっと遠くにしてみよう。この部屋の扉の前まで……えいっと。
段々慣れてきた。近距離だけなら速度も上げてみるか。よしよし。
それからもーちょっと試してみて、結構速度は上がったが、ある時急に頭がくらくらしてきたので、今日はもう寝ることにした。
大きなベッドに倒れこむようにして眠る。ふぅすやすや。
明日は謁見かぁ。大丈夫かなぁ。
「……るですぅ……おきるですぅ……」
「ん……」
なんだか可愛い声がする。誰だろう。
「おい、いい加減に起きんか!」
「うわっ!?」
大きな声を出されて、思わず飛び起きると。
ごつん! と大きな音がして、一瞬目に星が飛んだ。
「っつつ……」
「ったたた……おい、何をする! 痛いではないか!」
「えっ……あぁ……ギンシュ……ミレイも……おはよう……」
「『おはよう』ではないぞ! 急に起きたら危ないだろう!」
「……ん……あれ? 二人とも早いね」
「そなたが遅いのだ! いつもは朝早いのに、今日はどうしたのだ?」
「え? あぁ……えっと……」
いかんなんて誤魔化そう。あっそうだ!
「昨日二人が先に寝たから、ちょっと【例の魔法】の練習をしてたんだよ。ほら、やってみるからちょっと待って」
そういうと、私は体を起こして、昨日やった露天風呂との往復をテレポートしてみた。
ほいほいっと。そして丁度【空間魔法】のレベルが9に上がった。よっし!
「ねぇ! すごいでしょ!」
二人は……完全に固まっている。そしてお互いを見てまるで急に頭が痛くなったように、頭を抱え出した。
「朝からこんなぁ……刺激が強すぎますぅ」
「もうどうすればよいのだ……私ではこやつは止められんぞ……」
何が悪かったんだろうか。うーん。
「あれ? まずかった?」
「こないだあれだけ注意しただろう!? 気を付けろと!」
「だから気を付けて一人で練習したし今も誰にも見られてないはずじゃ」
「そういうことではない! うっかり外で発動したらどうするのだ!?」
「エルフの秘術って言えば皆納得してくれるよ」
「それはっ!? ……そうかもしれないが」
いいのかよそれで。この世界のエルフってマジでどーなってんだよ。
「だが! 少しは相談してくれ! 私達には相談一つ出来ないのか!?」
「えっ!? ギンシュからそんな言葉が出るとは思わなかった」
「なんだと!?」
「だって事あるごとに『離れたい』とか『騎士団やめたい』とか言ってたじゃない」
「当たり前だ! だがそれは昔の話だ! 今はもう三人ともお互い友人で、仲間じゃないのか!?」
「私はずっと前からそう思ってるよ?」
「だったらもう少し相談しろ! 話くらいは聞いてやるから」
「でもこの魔法の話したら怒るじゃない」
「当然だ」
「じゃあこっそり練習するよ」
「やめてくれ! 心臓が持たん!」
そんな私とギンシュのやり取りをよそに、くいくいと服を引っ張るミレイ。かわええ。
「ちなみに今どのくらいまで出来るですぅ?」
「この部屋くらいなら簡単に飛べるよ。あと地図見ながらだったら王都中なら割と何とかなる」
「地図?」
「あれ、話してなかったっけ? 私の【探知】スキルの話」
「なんだそれは?」
「聞いてないですぅ」
という訳で【探知】魔法の便利な話をして、二人が震えているので折角だからと思い、見せてみることにする。
その際に【ステータス】変更したら見れるかな、と思ったが、どうやらステータスに『パーティメンバー』のページがあった。へぇこのページ便利だなぁ。
とりあえず今はミレイとギンシュの二人の名前があったので、最終ページの設定を
≪現在の画面表示設定……パーティーメンバーのみ閲覧可≫
に変更した。すると目の前に現れたであろうステータス画面に、二人は大層驚いていた。
「ほえぇ……」
「な、なななんだこれは!?」
「これ? ステータス画面」
「そんな説明で分かるかぁ!」
「これで私とか皆のステータス……鑑定結果の能力値とか常に見れるの」
「なっ!? なななななな……」
「まあ今はそっちじゃないから……地図の話。はいこれ。どんなもんでしょー」
私は画面を操作して、王都の鳥観図をばぁんと見せた。
……あれ、反応がない。
よく見たらギンシュは白目剥いてた。立ったまま白目剥いて気絶とは……流石素晴らしいリアクションをありがとう。
そしてミレイは……震えてた。言葉も出ないらしい。
「お姉さま……これ……誰かに見せたりは?」
「ううん、二人が初めてだよ」
「この事……誰にも言わないでくださいですぅ」
「もちろん、言う気はないけど……」
「なら良かったですぅ……こんなの、危険すぎますぅ」
「じゃあまた見えないようにしておくね」
「あっ……それはこのままでいいですぅ」
「どして?」
「こういうの……見てると楽しくないですか?」
「楽しいよ! 私もこういうの好き!」
「嬉しいですぅ」
私とミレイがほのぼのな空気を作っていたところに。
「好きな訳あるぁああああ!!」
ギンシュ参戦である。
「どうして?」
「あのなぁ! これは王都の立体模型図だろ!?」
「それが?」
「『それが?』じゃない! こんなの軍の上層部以外が持っていたら極刑確定の代物だ! また他の国に売れるなら金貨が幾らあっても足りないぞ! なんでこんな……こんな……」
「なるほど! 軍の侵攻計画に使えるもんね!」
「もうお前は黙っていろ!!」
「じゃあ詳細な地図なんかは」
「そんなもの駄目に決まっているだろう!!」
「えーっ……私の夢だったのにぃ」
「そんな世界に戦乱を引き起こす夢はやめろぉ!」
「あっ……だったら皆平等になればいいんじゃない?」
「……今度は何を言い出すのだ?」
「世界地図を作って、世界中に公表するの。そしたら不公平じゃないよねぇ。あー早く世界地図欲しいなぁ」
「……私は何も聞かなかった。なぁミレイ。そう覚えておいてくれ」
「私もそのつもりですぅ。もうついてけないですぅ」
……あれぇ? おかしいなぁ。地図いいじゃない! ……ダメ?
「そんなことより! 今日は謁見があるのだ! しっかり準備をせねばな! ほらさっさと着替えて朝食にするぞ!」
「はーい」
私は準備をはじめながら皆で今日の予定を話し合う。
「で、謁見を終えたらマンジローさん達とギルドに向かうですぅ」
「そうだね。それで時間があったら【光魔法】の練習、かな。今日の予定としては」
「そういえば奴隷を見るとか言ってなかったか?」
「見たいけど……今日は忙しいんじゃない?」
「それもそうだな……そうだ! 騎士団を辞める旨を伝えてこなくては!」
「だったら謁見後にギンシュは別行動かな」
「しかし私も冒険者の登録をせねばならんからな。ギルドに行ってから別行動の方が……いや、騎士団の本部は王宮内部にある。謁見後に少し時間を貰ってもいいだろうか?」
「構わないよ。じゃあその辺もマンジローさんに伝えておかないとね」
「ありがたい。よろしく頼む」
とゆーわけで使いの人に伝言をお願いして、私達は朝食をいただいた。
うーむ最高! ホントこの宿のご飯美味しいわー
……ちょっと思いついたことがあるので、今晩にでも試してみよっと。
宿で待ってたら迎えの馬車が来た。
それに乗って私達は王宮へ。
そして今は、なんか待合室みたいなところで結構な時間待たされているところだ。どうやらこれから玉座の間へと案内されるらしい。
ちなみに今までの間、王宮の人達は誰も何も私達にこう……つっかかってこない。本当に最低限の事務的な感じがする。
やはり昨日の件はなかったことにされてるのだろうか。
少なくとも、兵士の人も侍女さんとかも、普通の顔してる。いや無表情に近いかな? ちょっと不気味。
まあめっちゃ苦々しい顔とかされてない分マシかも。
余計なことだけは言わずにおこうと思って、もう黙っていた。
ギンシュはしっかり私に指導をしていた。
「いいか、私が横にいるから、同じ動きを真似ろ。最初はしゃがんでおいて頭を下げて『表を上げよ』と言われたら顔を上げて、それで陛下から聞かれたことに答える。それで陛下が下がる時にまた頭を下げる。それだけだ。他の余計なことは一切するな。しゃべるな。いいな、分かったな」
「分かった分かったって。私も面倒ごとは勘弁だから」
「どの口が言うんだぁどの口がぁ!!」
「ひ、ひちゃいひちゃい」
めっちゃ口を左右に引っ張られた。非道いよぉ。
とかなんとかしてたらノックの音が聞こえる。
「皆様、準備は宜しいでしょうか? ご案内いたします」
私達三人は、侍女さんに連れられて玉座の間へと足を運んだ。
さてさて到着ですよここが玉座の間ですかーへーっほーっ。
まあなんというか……フツー。よくある中世ヨーロッパの玉座の間のイメージそのまんまだった。
でも窓は無いのね。それにしては妙に明るいけれど。あれもしかして回りの壁がうっすら光ってる? これもしかして魔法がかかってるのかな?
そして正面中央の、王様が座るであろう椅子の左右にはなんかえらそーなムスッとしたお爺さんが左右それぞれ数人ずつ、私達をじっとりとした目で睨んでいた。見つめちゃいやん。
私はギンシュを少しだけ前に歩かせるようにして、ゆっくりと進んでゆく。それでギンシュが止まったら私も止まり、ギンシュがしゃがんだら私もしゃがむ。
よしよし、ここまでは順調だ。
ってまだ王様現れてないけど。
そうして待っていると、不意にガランガラーン! ガランガラーン! と大きな鐘の音が響く。
すると皆がさっと頭を下げたので、私も習って頭を下げた。
しゅるしゅると
そしてまた鐘が鳴る。ガランガラーン! ガランガラーン!
……これもしかして王様登場の合図なのかな。
じっと耐える。
「……表を上げよ」
「ハッ!」
ちらりと横目で見ると、ギンシュがゆっくりと顔を上に上げるのが見えたので、私も顔を上げた。
「そこなエルフ。名を名乗れ」
「私はエリィと言います」
「そなたは『神の落し子』と聞いた。誠か?」
「はい。私は皆様の言う『神の落し子』です」
「『神の落し子』は皆黒髪黒目童顔と言われている。なぜお主はエルフなのだ?」
どーしよ。来る途中で設定いじりましたって言っても通じないしな。でも嘘はいかんし……うーん。よしこうしよう。
「前の世界では私も黒髪黒目でした。こちらに来たらこの姿になっておりました」
「つまり、見た目や種族が変化したと?」
「その通りです」
「ふむぅ……そんなことがあるのかのぅ……皆、どう思う?」
王様が周りのお爺ちゃん達に聞いてる。
「本人がそう申している事を、我々は否定も肯定も出来ますまい」
「左様。我々では誰が『神の落し子』で、誰が『偽の落し子』なのか判断など出来ぬのですから。本人の言葉のみが真実、ですぞ」
「そうか……そういえば、この報告をしてきたのは誰だったかな?」
「ピピーナ子爵殿ですぞ」
「あ奴か……あ奴なら間違いはあるまい」
「他の貴族ならまだしも、ピピーナ子爵が『神の落し子』と認めたのならば、間違いなく信用出来ましょう」
ちょっと待ってムイさんどーゆー信用をお持ちで?
「なるほど……まあよいとしよう。ではこれにて」
「陛下……一つ、宜しいでしょうかな?」
王様のすぐ右隣りにいるお爺ちゃんが声を上げた。あっ私側から見て右ね。陛下から見ると左。
お願い厄介事とか言い出さないでねホントマジで。
「ガナル公爵か。
「昨日町で噂になっとったのですが、『エルフの魔王が現れた』という話を聞きましてな、その方、何か知らぬか?」
ヤバい。一番聞かれたくない質問きちゃった。どうしよう。
「なんと!? そのような噂が!? しかしエルフなどそうそう見かけませんぞ」
反対側のお爺さんがびっくりしてる。それに対してガナル公爵とか呼ばれたお爺さんは淡々と答えてた。
「儂もそう思うておる。あの引きこもりのエルフが王都なんぞに来る訳がないとな。しかし彼女はエルフ。エルフ同士ならば何か知っておるのではないかと思うてな。如何かな?」
何も答えられない。前向きながら汗だらだらしてたらギンシュちゃんファインプレー決めてくれましたよ!
「恐れながら申し上げます! 彼女はそのような事とは全く無関係であり」
「すまんが、そなたには聞いておらん。儂はそちらのエルフに聞いておるのじゃ」
「……失礼いたしました」
あー残念。キラーパスされてしまいました。でもありがとうギンシュ! アナタの犠牲は無駄にはしない!
……とは言ったもののどうしよう。どうしようか。
ってかそもそも私悪くなくない!? だって勇者が暴れてたんだよ! 勇者倒すなら魔王じゃん。
「ほれ、はっきり何か言わぬか。言わぬとそなたが犯人になってしまうぞい」
あーもーめんどくさくなってきた。なんだあの爺さん。偉そうにしやがって。
そもそもお前らがきちんと勇者の手綱を握ってなかったから私が魔王なんて名乗る羽目になったんじゃないか。
いいやもう正直に言っちゃえ!
「これエルフよ」
「勇者に並び立つ者は、賢者か魔王だと言われております」
「うむ? そ、そうじゃな。だがそれは今は」
「そして勇者は昨日、市内で大手を振って歩き、奴隷を虐げ、私の連れをも従わせようと、彼女達に乱暴狼藉を加えようとしておりました」
「だからなんだというのじゃ。勇者はそれだけの権力を持っておる」
「そう、その勇者の権力に対抗するため、私はその場で魔王を名乗っただけのこと。他意はありません」
「なっ……何を言うておるかぁ! 王都で魔王を名乗るなぞ! なにを考えておるのかぁ!」
爺さん喚き出した。あったまきたもう知らない!
私は立ち上がって爺さんをギン! と睨み付けた。
すぐ横でギンシュがはわわしてるけど彼女は動けないっぽい。ごめんねギンシュ。大人しく出来なくて。
でも気に入らないことはちゃんと言わないと分からないんだよ! こうして上でふんぞり返ってる爺さん共にはさ。
「何も考えてないのはあなた達の方じゃないですか! 勇者が連れてた三人の奴隷は皆王都の、普通に暮らしてたはずの女性でしたよ!? 彼女達が虐げられているのに声を上げないあなた達の方がどうかしている! 民を守るのは貴族の、王の役割なのでは!?」
「違うぞエルフよ、民は貴族の為におり、貴族は王の為におる。そして王が、『ドの御方』方が、神々を支えておられるからこそ、この世界は成り立っておるのじゃ」
「じゃあ民を皆奴隷にして、こき使えばいいじゃない! そんなことしたら国中反乱だらけであなた達貴族は引きずり降ろされて失脚して、一族郎党皆殺しに遭うから!」
「なんと恐ろしいことを! やはり魔王は魔王か」
「違う! 勇者が民を痛めつけていたから私はそれを正した! 間違ってるのは勇者とあなた達よ」
「ふぅ。儂はなにもみなかった。それでよいな」
ここで王様が最高最悪の一言を繰り出した。アンタ上に立つ者としてそれ最低だかんな。
ああもう私しーらないっと。怒髪天だよ怒髪天。もう皆許さない。
今更頭下げたって許してやるもんか!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます