第36話 奴隷契約と飛行訓練

 そんなこんなでまずは三人の奴隷契約を、主人の名前を勇者から私に変更。

 よしよしここまではいい感じ。

 それで、今度は【闇魔法】を発動して、彼女達にかけられている【呪い】を解読して、打ち消す感じで。

 私は魔力を使ってどのような【呪い】がかけられているか、その魔力がどうなっているかを調べる。

 なるほどなるほど。こーなってるのかー。

 ……これ、いつかは私も使えるかも。

 と最低な事を考えながらなんとなーく頭の片隅に記憶していく。

 もっもちろん無理矢理はしないよ!? ちゃんと相手に許可取るよ!

 あったりまえじゃーんあははー……うん。

 でも凄いな。魔法のある世界ってこんなこと出来るんだな。避妊要らずじゃん。いや避妊も魔法で何とかなるのかも?

 うわぁ……ちょっとそーゆー系の知識とか今度ミレイに教えて貰おっと。もしかしたら夜の色々に使えるかもだし。

 とかなんとか妄想してたら解読出来たので、それを【闇魔法】を使ってほどいていく。うんうんいー感じ。何なら他の男にどうこうされない、とかをこちらからつけてもよかったけど、やっぱり無理矢理付けられた痕は消したいよね、と思って全部綺麗さっぱり消してあげた。

 三人はわんわんいって泣いてた。よかった。

 あとは裂傷のある娘を。ごめんねって言いながら椅子に座って貰って下着を下ろさせていただく。傷跡が痛々しい。

 元々の形が分からないので、申し訳ないけどギンシュとミレイに魔法で教えて貰うことにする。二人とも思わず股間を抑えてたけど、見られないと知って一安心してた。

 今度は【光魔法】を発動しながら、その魔力を使って皆の体内を観察し、そして裂傷のある彼女を本来の彼女の肉体へと回復、修復させていく。

 これ結構魔力使うなぁ。でもなんか……いやらしい気持ちになりながら癒しの力を使うって不思議。なんかマンジローさんのダジャレっぽく聞こえた気がしなくもないけど気のせい。

 とゆーわけでいい感じに修復完了。なんなら残りの二人もちょっと傷が見られたので綺麗に治してあげた。

 そしたら彼女、日々ずきずきしてた股間の痛みがさっぱり無くなったらしく、またわんわん泣いてた。

 あー良かった。これですっきりさっぱりだ。

 三人にめっちゃお礼言われた。いえいえなんのそのこれしき。

 おかげで【闇魔法】はレベル7に、【光魔法】はレベル10になった。やったね!

 最後まで送っていこうかと思ったけど、マンジローさんが馬車を出してくれるらしく、もうここで十分と三人に固辞されてしまったのでここで解散。いやはや本当に良かった良かった。

 三人とも、王都で幸せに暮らしていけるといいなあ。



「さて……折角ですので、何があったかお話を聞いても宜しいでしょうか?」

「聞くのは構いませんけど……多分、後悔しますよ?」

「おっほっほっ、後悔というものはですね、既に人生という名の船出をした時から、遥か彼方に置いてきてしまったのですよ。航海だけにね。おっほっほっほっほっ」

「はぁ……では話しますけど」


 かくかくしかじか。


「なるほどなるほど……それはまたずいぶんと……大胆な事を致しましたですな」

「そんな言葉で片付けられる程度の問題ではないだろうが! マンジロー殿も分かるはずだ! 『魔王』なんて名乗った者が、このような所で呑気に事を構えていていいはずがないと!」

「それは確かに。では、どうしますかな?」

「どう……とは?」

 固まるギンシュ。まさか反論を貰うとは思ってもみなかった顔をしている。

「ギンシュ殿には今後の計画がおありで?」

「さっきの今だ! そんなものは無い!」

「ならば、ここで作戦会議といこうではありませんか。明日の謁見を終えたら、速やかに王都を出発する。行き先と予定、そして同行する人を決めなければ」

「確かに……それは必要だな」

「そして先ほどの魔法、あれは空を飛ぶ魔法ですかな? あのような便利な魔法、皆が使えるに越したことはないでしょう。その特訓も必要かと」

「なるほど」

「更に言えば、明日の謁見でしっかり誤魔化しきれば、あとは勇者が目覚めるまではどうとでもなりましょう。そこまで急がなくてもよろしいかと」

「ふむ……マンジロー殿の発言を聞いていると、なんとかなりそうな気がしてきたな」

「良かったねーギンシュ」

「良くないわ! 全てはお前の浅慮が原因なのだからな! この馬鹿エルフ! 阿呆エルフ!」

「うっ……そ、そんなに言わなくても」

「いいや! 今回は流石に言わせて貰うぞ! 今代の『なかれ王』で無ければ今頃もまだ王宮で戦闘していたはずだからな」

「なかれ王って?」

 もしかして、どこぞの園長先生みたいに顔が怖くて泣いちゃう、とかそーゆーの?

 あれでも別にそんなに怖くなかったな……どういう意味合いなんだろう。

「そなたも会っただろう? 今代の我らが陛下はあの通り、何か出来事があっても基本的にその事実を認めず、見なかったことにする……そういう事なかれ主義極まる王様なのだ」

「えっ……それでいいの?」

「平時なら最悪それも良かろう。余計な増税や弾圧などする王などより余程マシだ。だが問題は緊急時だ。緊急時もなかれとするのを部下が必死になってお止めし、最終的に殆ど部下に丸投げする事態になるのがいつもの流れだ。もっとも今の大臣格が優秀なのでなんとかなっているがな」

「それはそれは」

 皆さまご苦労なこって。

「だが今の大臣の方々もご高齢でいらっしゃる。それに比べて陛下はまだご壮健だ。それが今の上層部で最も問題となっているのだが……」

「現状ではどうにもならん、と」

「そなたの言う通りだ。禅譲という手も無いこともないが……特に理由もなく禅譲、というのも中々……な」

「まあともかく、今回の私達の件に関しては幸運であったと」

「まさしくその通りだな。そして……どうする? 一応、逃げる時の予定も考えておいた方がいいだろう」

「逃げるとしたら国外だよね。南から来たから北か東か西か。どこが一番いいかな」

「西ですな」

「西だな」

「西ですぅ」

 マンジローさんにギンシュにミレイ。見事に一致した。

「ちなみに北と東がダメな理由、聞いていい?」

「東は最南端、ピピーナの向こうは人の住まぬ荒れ地が続く。一度そこに入ると他の集落に向かうのも一苦労だ。そして荒れ地の北には国境の古龍の山脈が続いている。越えようと思っても龍族の住まう土地なので私達が入るには危険極まる。更に山脈沿いに北に向かうとハドー帝国にぶつかる。この国の北はほぼずっとハドー帝国との国境だが……この国はきな臭いというか、あまりいい噂を聞かんからな、入国は避けた方が良いだろう」

「で、消去法で西、と」

「ちなみに西に向かうと、メルメルシュド=グランセン=リップハイツァー王国に入るか、あるいは北西の迷いの森か、だな」

 なんだそのクッソ長い国名。ピカソの名前みたいだな。

「そして迷いの森を抜けるとギケー皇国だ。ギケー皇国に入るというのもいいな。何しろ神の落し子はこの国が最も好みらしいからな」

「そうなの!? 良く分かんないけど行ってみたい!」

「現状、世界で最も古い国だ。初代皇はそれこそ神の落し子ともその末裔とも言われているが、余り詳しくは知らんのでな」

「じゃあとりあえず西に抜けるということで、方針は決まりっと。で面子は?」

「私達三人は確定で移動ですぅ。あとはどうするですか?」

「おいおいアシン船長忘れてるよ。あと氷結姫様も着いてくるみたいだからとりあえず五人かな」

「そういえば、エリィ殿は他にも奴隷が見たいなどとおっしゃっていませんでしたかな?」

「なら全部で五人か、それより少し多くなるですぅ」

「ふむ……では四人乗りの馬車ではなく、荷馬車のような大きめの馬車を用意しておくとしますかな」

「えっ!? マンジローさん馬車用意してくれるの!?」

「国を出るまでなら多少の援助は出来ますぞ。何よりウチのアシンを優秀な魔法使いにしていただけるのですからな。あと私も、風魔法を使えるのが楽しみでならんのですぞ」

 こいつは嬉しいねぇ。だったらその前払いって訳じゃないけど。

「じゃあそれなりに予定も決まったし、魔法の練習でもしますか」

「それならアシンもいた方がいいのではないか?」

「なぁに、アシンはこれからずっと皆様とご一緒出来るでしょう? 私は今日と明日しか無いのですから、ほら早速にでも」

 マンジローさんはとにかく魔法が使いたくてしょうがないらしい。そんなにか。

「わ、わかりました。ではどこでやります?」

「ここで構いませんぞ」

「いやぁここは流石に」

「この部屋は一応、防音は勿論ですが多少の攻撃魔法なら防御出来るようになっております。万が一私の魔法が暴走したとしても、皆様がいらっしゃいますし、なんとかなるでしょう。おっほっほっ」

 いいのかなぁ。大丈夫かなぁ。

 でもまあ、建物の持ち主がいいって言ってるからいいのかな?

「じゃ、じゃあ……折角だし、皆一緒に【風魔法】で空を飛ぶ練習しようか」

「あれか……」

「が、頑張るですぅ」

 皆様気弱な発言。でも出来ると便利だし楽しいからね。



 そんなこんなで皆で特訓を行う流れになった。まさかの室内で。

 マンジローさんは初期の魔法の発動から。

 そして二人は魔法のコントロールを。風の力を調節しつつ、どうすれば自分の体を浮かせられるか、そして浮かせた後のコントロールをいかにするか。

 やっぱり二人は、魔力こそ安定していたけれども調節が難しいのか、中々上手くいかなかった。

「エリィ……お前はこれをどうして出来るのだ?」

「いやだってそりゃ練習したし。魔法で空飛ぶの夢だったんだよねー」

「お姉さま……尊敬しますぅ」

 そしてマンジローさんには『えちちな妄想が必要』というとなんかきょとんとしたあと大笑いされたけど『なるほど……魔法使いは変態が多いというのはあながち俗説でもないかもしれませんな』となんだか聞いてはいけない独り言を聞いてしまって私はどうしたものか。

 とかなんとかやってる間に、マンジローさんは【風魔法】をそこそこコントロール出来るようになった。マンジローさん何気に優秀だよな。そしてよくえちちな想像をこんな瞬間的に出来るな。とゆー訳でこれからは皆と一緒に練習だが……マンジローさん本当に飛べるのかな?

「エリィ殿、失礼ながらお願いをしても宜しいですかな?」

「なんでしょう?」

「私はまだ一度も飛んだことがありませんもので、一度ご一緒して、私を飛ばせていただいても宜しいですかな? 実際に飛ぶ、という感覚を教えていただきたいのです」

「ええ、構いませんよ。魔法は想像力が大事ですからね」

 とゆーことでマンジローさんと一緒に空中に浮き、ふわふわと部屋を一周して元に戻る。

「ほっほっほっほっ、なるほどなるほど……こういう感覚なのですな」

「ええ。理解出来ました?」

「ほどほどに。そしてもう一つお聞きしたいのですが」

「いいですよ。今度はなんですか?」

「エリィ様は、どのような想像をして、空を飛んでいるのでしょう? 風に運ばれる想像なのか、あるいは雲に乗るような想像なのか……きっとそこに、私は空を飛ぶ方法の秘訣が隠されていると思うのですよ」

 あーなるほど。それは確かに大事かも。

「私は単純に、背中や足からロケットエンジンみたいにこう……」

「「「ロケットエンジン?」」」

 あっ三人ともきょとんとしてる。そらそーだ。

「えっと……これ説明するの難しいなぁ。ってかよく考えたら重力とか引力の話もした方がいいのかな?」

「「「重力? 引力?」」」

 なんかいつも私が説明されてる立場だから、こーやって皆に説明することあんまし無いかも。魔法以外に。

 なのでちょっと概念の根っこの部分からお互いの世界の前提があると思うので、その辺から話をしてみる、というか聞いてみることにした。

「えっと……例えば私がこうピョンっとしたら、ちょっと浮くけどすぐ地面に戻りますよね? それって皆さんの世界だとどういう認識なんです?」

「何を当たり前のことを言っているのだ? 大地神が我々生きとし生ける者全てにしがらみを教えたからであろう?」

「しがらみ?」

 おっとーこれはまたよく分からない話になってきたぞ?

「全ての生き物は、そのしがらみによって大地から切り離されては生きていられないのです。そのように大地神が我々を縛っていると考えられています」

 マンジローさんが更に丁寧に解説。なるほどなるほど。

「でも鳥は飛べますよね? あれはどうしてですか?」

「全ての空飛ぶ者は天空神の加護を与えられているからだ。その加護が無ければ空を飛ぶことなど不可能だ」

 それだ! きっとそれだ!

「あーそれですよ。その皆さんの頭の中にある『天空神の加護が無いから飛べない』って常識が、皆さんを飛べなくさせているんだと思います」

「なんと!?」

「そんな馬鹿な!?」

「びっくりですぅ」

「その常識を疑うか、いっそ『私は魔法で擬似的に天空神から加護をいただいたので今だけ空が飛べる』とかそういう風に想像するといいんじゃないです? それこそ背中から翼が生えた想像をしてみるとか」

「なるほど……いやはや、やはりエリィ殿の考察は示唆にとんでおりますなぁ」

「ではもう一度、皆さんでやってみましょうか。はいどーぞ」

 三人とも目をつぶって……一生懸命想像しているようだ。

 なんかミレイは肩甲骨が動いてる。なんで? ってあれか。羽を想像してるのかな?

 とかなんとか思ってたらそのミレイが最初に空中に浮かび出した。

「お、ミレイやったよ! 飛んでるよ!」

「えっ!? あっ……本当ですぅ! 私飛んでるですぅ!!」

 とりあえず部屋を一周して貰った。よしこれで合格だ!

「おめでとうミレイ! 一番最初に出来たね! ミレイは優秀だなぁ」

「そんなことないですぅ」

「ほら、ギンシュなんか悔しそうだよ」

「ぐっ……きょ、今日は一番を譲ってやったのだ! 次は私が先だからな!」

「むふーん、今度も私が勝つですぅ」

 とかなんとかやってたら。

「おっほっほっほっ、これは気持ちいいですなぁ」

 とマンジローさんも成功した。しかもマンジローさん結構器用に飛んでる。サッカーボールが空中をふわふわ漂ってるように見えてちょっと面白い。失礼だけど。

「マンジローさんおめでとうございます! これで二号ですね」

「いやはや……決して飛べぬと言われていたことが、自らの手で出来るとは……感無量ですな。しかし……外で迂闊に披露出来ないのが残念です」

「あ、馬車に乗っている時にちょっとだけ飛んでると、お尻が痛くならないですよ」

「なるほど! その使い方は私には朗報ですな……」

「あとは、マンジローさんはその体型ですから、歩いているように見せかけてふわふわ浮くのもアリですね。回りから『あれ?』って思われたら魔法を解除すればいいだけですし」

「いやはやこれはこれは。エリィ殿は実に優秀な魔法使いですな。技術、指導、そして使い道まで浮かぶ発想力。条件さえ揃えば、実に優秀な教師となったことでしょう」

「そんな……買いかぶりすぎです」

「もし可能ならば、全ての奴隷を【鑑定】して魔法を覚えられそうな奴隷を教育していただき、冒険者として金を稼がせて一定額貯まれば自由に、なんてことも出来たかもしれませんな」

 なるほど……それいいな。

「いつか、時間を作れたらそれは是非私も挑戦してみたいですね」

「ええ……いつか、必ず」

 私とマンジローさんはがっちり握手をした。

 その頃にはギンシュもやっと飛べるようになっていた。

 やっぱり一番頭が固かったようで、常識を覆す想像力は苦手らしい。

 でもギンシュもよく頑張ったよ! お疲れ!

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