第33話 ショッピングin王都 with勇者

 私達三人は宿の馬車に揺られてこの町一番のお店が立ち並ぶ界隈かいわいに来ていた。

 ギンシュがぽかーんとしてる。今度はどしたの?

「行こうよギンシュー。そんなトコに突っ立ってたら夜になっちゃうよ?」

「おいエリィ……お前はここがどこか分かっているのか!?」

「王都で買い物出来るお店がいっぱいあるとこでしょ。商店街とかって言えばいいのかな!?」

「違う! いやそうだけど違う! ここは王都一番の高級店が並ぶ通りだ! こんなトコで買い物してたら金貨が幾らあっても足りんぞ!」

「別にそんなに高いものねだらないでしょ。金貨が10枚くらいなら予算の範囲内だって」

「そっそっそんな大金んぅ!?」

「足りなくなったらまた冒険者ギルドで稼げばいいじゃーん。行こうよーミレイが早くも迷子になりそうだよ」

 遠くで「おねぇさまぁ」と声が聞こえる。めっちゃはしゃいでる。

 ちなみにミレイは顔バレ防止用で黒いヴェールをして貰っている。なんか他人から顔の認識を阻害出来る魔法が付与されているらしい。

 宿を出る前にそーゆーのあります? って聞いたら貸してくれた。

 似たようなのあったら買ってくるといいって。ほんとこの宿凄いわ。

 なんならこの界隈で、血とか魔力も同様に認識阻害出来るようなのがあれば欲しいなぁって。

 早速ミレイは気に入ったデザインの服があったらしく「これ! これ欲しいですぅ!」とねだってきた。

 確認。……えっちょっとまってなにこれ。えっろ! 前から見ると普通のひざ上くらいのミニドレスっぽいのに、背中がもう……殆ど空いてるじゃん! お尻の筋とか見えそうなんだけど!

 おまけにスパンコールっぽくキラキラ光ってる。なにこれすごいなぁ。魔法なのかなぁ。よくわかんないけど。

「色が黒と赤と青の三種類あるので、全部お願いするですぅ! やったぁこれでみんなお揃いのドレスが着れるですぅ!」

「ちょっと待て! 今お揃いと言ったか? ということはつまり」

「そうですぅ! 明日の謁見で着ていくですぅ」

 え? 私これ着るの? うそぉ……色的に青かな? 黒がミレイで赤がギンシュ。

 いやいやいや。流石にこれはちょっと……夜にみんなで着て色々するなら全然ありだけど。 

 そして……告げられたギンシュは……そりゃあもう真っ赤になっている。多分ドレスより赤いぞ。

「わっ……私がこんなもの着れる訳ないだろう! 私は一応扱いとしては騎士なのだぞ!?」

「えーっ」

「そもそもミレイは謁見を何か勘違いしていないか? 陛下と顔合わせして例え気に入られたとしてもせいぜい食事をご一緒するくらいだぞ!?」

「えっ食事一緒に食べるの? やだぁ」

「やだぁとか言うんじゃない! 名誉なことなのだぞ!?」

「名誉も何も、私王様知らないし」

「そうだこいつはこういうやつだった」

「あれ? 王宮に行ったら夜は踊ったりするからドレス必須じゃないですぅ?」

「くぅううう! これだから世間知らず共は!」

 ギンシュは頭を抱えている。そりゃなー『神の落し子』と『四最貴族』だぞ。世間なんて知るもんか。

「あっちなみに幾らですか?」

 私が店員さんに聞くと。

「ドレスが三枚ですので、金貨三枚になりますね」

「三枚買うので、もう少しお安くなりませんか?」

「お前は何を値切っているんだぁ!?」

「いや三枚買うんだし、ちょっとくらいお安くしてくれたっていいじゃない」

「ここはそういう店じゃない! そんなのがしたいんだったら庶民の店へ行けぇ!!」

「あ、だったら彼女が着けてるヴェールみたいなのあります? 認識阻害の魔法がかかってるやつ」

「そういうのは当店のようなお店ではなくて、魔道具を兼ねた洋服屋に行くとよろしいですよ」

「どこにありますか?」

「この道をまっすぐ行くと物凄い大きな店が見えますから。『いとり』というお店です」

「ありがとうございます。じゃこれ」

 金貨を渡して包んでくれたドレスを受け取る。

 私は店を出るとそれをアイテムボックスにしまった。

「ふーっふーっ……全く、お前たちときたら」

 ギンシュは息が荒い。

「大丈夫?」

「お前たち二人のせいで全く大丈夫ではないわ!」

「ギンシュ、お姉さまと一緒にしないで欲しいですぅ」

「確かにエリィは非道すぎるが、ミレイも結構世間知らずだぞ?」

 当然のように私が一番ダメな子扱いするのやめて。

「そ、そうなんですぅ!?」

「ちなみに店で買い物をした経験は?」

「……ないですぅ」

「支払いをした経験は?」

「……ないですぅ」

「お店でご飯を食べた経験は?」

「そっそれならありますぅ! お姉さまと一緒に」

「エリィと会う以前は?」

「…………ないですぅ」

「ふぅ……それが世間知らずのお嬢様、ということだ」

「うぅ……ギンシュのくせに調子にのってるですぅ」

「なぁっ!? だって……普通に接しろって……」

 めっちゃんこ困ってるギンシュ。そうだーやれやれー

「そうですね……そう考えるといいのかもですぅ。じゃあギンシュ。私とぎゅってしてくれたら許すですぅ」

「そ、そうか……じゃあ、はい」

 ギンシュは両手を広げる。そこに飛び込むミレイ。

「むふーん」

 なんという百合! キマシ! キマシですぞ!

 思わずはぁはぁしてると、二人からジト目が飛んでくる。

「ちょっとエリィが怖いですぅ」

「確かに。あいつは放っておいて行くか」

「あっちょっと待って! おいてかないで! 思わず! 思わず出てしまったのだ!」

「私の口調をまねるな!」

 仲良きことは美しきかな。

 えっ私ハブられてる!? そんなぁ……。


 とゆーわけでやってきましたよ『糸練り』。変な名前のお店。『糸紡ぎ』とかならまだ分かるけど。何練るの。あんこ? つみれ?

 正面の観音開きの扉を開ける。中にはこれはまあ凄いことで。衣装関係もそうだが普通に金属製の道具とかも色々並んでて、これは目移りしてしまいそうだ。

 店内の品揃えに圧倒され、三人並んで玄関入ってすぐのところで呆けていると、店員さんがやってきた。なんと! なんとスーツのお姉ちゃんが出てきたよ! 嘘だろこの世界スーツあるの!? ってか見た目がスーパーOLというよりも堅物女教師って感じですんごくえちぃんだけど! おいどうしてくれんの!?

「いらっしゃいませ。何をお探しでしょうか?」

「お姉さんください!」

「はい?」

 私は慌ててギンシュに口を抑えられる。

「むがーむがー」

「あのぅ、今私が着けてるこういうヴェールの、認識阻害の魔法がかかってるやつが欲しいんですけどぉ、ありますぅ? なるべく強力なやつがいいんですけどぉ」

「ではご案内いたしますね」

 女教師のおねーちゃんにミレイが着いていくが、私はギンシュに止められたままだ。

「おまえは! なにを! いいだすんだ!」

「むぐぐ……っぷはぁ! すみませんつい思わず」

「おい次馬鹿なこと言い出したらお前の財布だけ預かって宿に強制的に監禁させるからな。財布を空っぽにするまで帰ってこないからな」

「はい。すみませんでした。でもあのおねーちゃんと……」

「なんだ」

「×××したい」

「ぶほぉ!? おまっ……おまっ……」

「えっだって凄くない!? あんな服にあんなボディに。もうたまらんですよ」

「お前は……本当に店から叩き出すぞ」

「うぅ……生殺しだよぉ」

 自分でも気付いていなかったが、どうやら私は女教師フェチだったようだ。


 ミレイはどうやらお目当てのヴェールを見つけたようだ。

「これを予備含めて二枚欲しいですぅ」

「では金貨五枚になりますね」

 おねーちゃんは丁寧な接客。早速ミレイはそのヴェールを付け替えていた。

 私はさっさとおねーちゃんに謝ることにする。

「すみません先ほどは失礼しました。つい」

「いえ。美しいエルフの方に言っていただけるなら、私も嬉しいですわ」

「では是非一晩」

「やめろぉ!」

「いたっ! ……すみません、ではおねえさんが着ている、そのような衣服はこちらで売っていますか?」

「え? ええ……ありますけど」

「それ一式下さい」

「ええ……構いませんが」

「あと他にも衣服が見たいのですが」

「それではご案内しますね」

 私達は今度は店の奥へと進んでいった。広いなぁここ。

 てくてく進む途中で、おねえさんが私にこっそり耳打ちしてくる。

「あの……失礼ですが女性ですよね? どうして私なんかに」

「女性でも男性でも、美しい人を美しいと思うのは自然なことです。彼女には怒られましたが……ぜひ」

「うふふ。エルフのお客様って私はじめてなんですけど、結構面白いですね」

「さあ、私が特殊なだけですけど」

 とぼけていると、彼女の歩みが止まったのでそちらを見る。

「この辺りですかね。お好きに見ていただければ」

 八畳くらいの部屋にこれでもかと衣装がかけられている。

 どこぞの百貨店とかを考えるとこれくらいはまあ……と思うのかもしれないが、この世界を考えると……相当大きいぞこりゃ。

 さっきの服屋だって衣服のスペースは二畳もなくて、あとは合わせるスペースだったり店員さんのスペースで占められていたのに。

 私が呆然としていると、二人はきゃっきゃして選び始めた。

 ざっと見ていると、ミレイは随分えっちなのを選んでいて、ギンシュは逆にかなりかわいいやつを選んでいる。

 そういう趣味嗜好なのかなぁ。ミレイはなんか、サキュバス的文化というかそういうのが根底にありそうだけど。

 折角なので私もなんかよさげなのないかなぁと思って物色。あっこれかわいいな。あーでもこっちもいいなぁ。迷うなぁ。

 これから冒険に行くのに冒険者用の装備を買わずに普段着の服ばかりを買おうとする一行。

 それはどうなんだと突っ込む役の人がいなければ、女性達はショッピングに花を咲かせる。

 というわけでそれぞれ数着ずつ決まった。私は汚れにくい魔法がかかってるコートと、まさかのブレザー服を購入。こっちは破れにくいのだとか。

 他にも現在私が身に着けているような、普段着用の緑のミニ丈のワンピースを購入。似たようなデザインで薄紫と青いのも。うふふーかわええなー着るの楽しみだーなー。

 そしてどうやらこのお店の名前の『糸練り』とは、糸に魔法を練りこむことで、服全体に魔法をかけているのだとか。だからどれもこれも服の値段が半端ないわけだ。

 でも同時に日常でも冒険でも使える美しい服を揃えてるのが自慢だそうで、貴族も冒険者もお金持ちなら御用達なんだと。いいお店と巡り会えたな。

 そうそう靴も買わねば。さっきのドレスに合わせる靴もそうだし、私も今履いてるこのショートブーツだけだし。

「あ、あと靴も幾つか見繕いたいのですが」

「かしこまりました。靴はこちらですね」

 また別のところへ。今度は二階に案内された。なんだこの店。ホント広いな。

「靴はまず足の大きさを計りまして、それとお客様お好みの柄や形などを作っていく流れとなります」

「えっ、ってことはオーダーメイド? オートクチュール?」

「えっと……」

 あっそっか言葉が通じないのか。

「全部一点ものってことですか?」

「はい。そうなりますね」

 ギンシュは案の定固まる。

「おい帰ろう……流石に私は寒気がしてきたぞ……今日だけで幾ら使ったと思っているんだ……」

「多分金貨十五枚はかたいよねぇ」

「私の食費何年分だと思っているんだ……もう帰ろう、なぁ?」

「いやだって私二人に服買うって言っちゃったしぃ」

「もう私は満足だ! 満足したから!」

 ギンシュちゃん涙目。なんかこの娘ホントに伯爵家御令嬢なのか? 物凄く感覚とか反応が庶民っぽいのだが。

「でも服買ったら合う靴も買わないと」

「私は! 私はこれで十分だから! なぁミレイもそう思うだろぅ!?」

「へ? 服はそれぞれ合う靴が必要じゃないんですぅ? 服の数だけ靴も必要ですよねぇ?」

 あっダメだこの反応。本物のお嬢様だ。

「くっそぉミレイめ! この手の話だと一番非常識な言葉が返ってくるぞ!」

「さ、流石にそんなには買えないかな……せめて一人二足くらい」

「二足だと!? じゃあ三人で六足も注文するのか!? お前一体幾ら使う気だ!?」

「別にあるだけ使っても構わないよ?」

「私が構うのだ! 頼むから」

「あ、計測お願いします」

「エリィぃいいいいい!!!」


 とゆーわけで計測の後、注文。

 最終的にギンシュが折れたのは、無理矢理帰ろうとするギンシュにミレイが服の裾を引っ張り、瞳をうるうるさせ始めたから。

 ギンシュがその顔を見て、さぁーっと青い顔になって、とぼとぼと椅子に座ると、ミレイがまたぎゅっとしてた。

 私は一人で興奮してた。

 で計測を終えて、お金を支払う。いやはやこれは大盤振る舞いですね。また今度冒険者ギルドで稼ごっと。

 その時に店員のおねーちゃんからこっそりメモを渡される。

「これは?」

とこっそり聞くと

「最近、夜は一人でウチにいるので、その……よかったら」

と目線を反らされる。えっうそそゆこと!? こんなことあるの!?

 私どこかの小説とか漫画だけの話だと思ってたけど!?

 余りのことにどぎまぎしていると、

「おいエリィ、行かないのか? そっそれともやはり支払いが足りないのか!?」

とギンシュが慌て出したので、

「大丈夫! 今お釣り貰ってるから。すぐ行くからー」

と声を出した。そしておねーちゃんには

「数日中にこっそり二人を出し抜いてきます」

と声を返した。やっべー超楽しみ。いいのかなぁこれ。いいのかなぁ。


 店を出るとと二人がヤンキーに絡まれていた。えっこの世界ヤンキーいるの!?

 金髪は金髪でも、今までみたイケメン達のサラサラ金髪ではなくて、ワックスしっかりかけてるようなツンツン金髪。割とガタイもいいぞ。190センチくらいはありそうで、胸板厚くて湘南にいそうなちゃらけたサーファーみたいな感じ。いや肌は焼いてないけど。むしろ根性焼きとかキメてそうだけど。

 そんなヤンキー野郎が私の、そう私の! ギンシュとミレイに絡んでいた。

「おいねーちゃんたち! 俺とイイコトしようぜぇ」

「いや……あの……それは……」

 ギンシュは断り切れないでいる。ミレイは完全に固まっている。こういう経験ないんだろうなぁ。

 ってかこいつ他にも女連れてるし。二人? 三人? しかも鎖で、ってあぁもしかして奴隷? それにしてはかわいこちゃん揃いだなぁ。

 そう思っているとヤンキーは私を見つけると、ニヤニヤしだした。

「ん? なんだよまだいるじゃねぇか! しかもこいつは初めて見るなぁエルフだよエルフ! しかもすんげぇエロいねーちゃんだなぁおい!」

 そういって私の肩を組もうとするが、私はその手をパシンと弾き返す。

「あん?」

「アンタみたいなのとはお断り。彼女たちも私の連れだからお断り。帰りなさい」

「へぇ……お前知らねぇみてぇだなぁ?」

 何を?

「エリィ! 謝れ! 頭を下げろ! 頼む!!」

 どうして?

「俺はなぁ……この世界では勇者なんだぜぇ!?」

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