手料理、ひっつめ髪、音楽
さやかがいつも作ってくれたマフィンと違って自分で作ったマフィンは味見してみるとなんだか粉っぽくて混ぜ込みが足りなかったのかなと思いながらそれでもきちんとダイニングテーブルで食べようと思いなおす。さやかが絶対白じゃいやだと譲らなかったピンクの電気ケトルでお湯を沸かしている間に紅茶の場所を探してみても見つからなくて仕方なくペットボトルの無糖コーヒーに氷をいれて椅子に腰かけて自分の作った粉っぽさの残るマフィンを食べた。その時ふと思い出したのはこんな歌詞の懐メロがあったなと、スマホで調べてみればあまりにも自分の今と重なって笑ってしまう、あの歌はヤカンだったけれど。
さやかがピンクのエプロンをしていつもはきちんとセットした栗色の長い髪を一つにまとめてオーブンレンジの前でマフィンの焼き加減とにらめっこしている姿を見るのが好きだった。
冷静タイプの私に甘えたなさやか、そんな風にまわりにはそんな風に見えていたんだろうし私自身もそう思っていた、それが違うことにいなくなって痛感させられるなんて私はなんてわかりやすい女なんだろう。
「新しい彼女と幸せになってね」
さやかが自分のあつめたファンシーな家具をほとんど持って行かずにスーツケース一つで出ていく場面になってもかっこつけたがりの自分を捨てられなかったことをきっとまだ私自身後悔しているんだろう。
「絶対新しい恋してみせるよ………」
独り言は虚しく零れ落ちたけれど私はかっこつけじゃなくカッコイイ女になるんだから!
そのためにはまず紅茶を探さなくちゃいけないな
三題噺短編集(お題はくじで) 南野月奈 @tukina
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