男の娘、秋、狐の嫁入り

 慣れていて頼もしい、それが彼に対する素直な気持ち

 今までコスプレイベントの更衣室で着替えて女装コスの写真を撮ってもらう関係だった彼にお願いしてみたのだ。

「私服で女装してポートレートを撮って欲しいな」

「だったら大須がいいよ!公園もあるし大須観音もあるから、あと地下アイドルが衣装のまんま移動してたりするから目立たないし、メイちゃんかわいいから女装って気づかれないかもしれないけど……あとコンデジの方がいいかな彼女の写真撮ってる自然な感じに一眼は目立つから」

「やった!」

 さすがにかわいいから女装と気づかれないとか彼女の写真撮ってる風とかはお世辞も含まれているのはわかっているけれどどこか浮かれてしまうものだと思う。


 私服で女装するときは重ね着前提コーデをしている僕にとって涼しさを感じられるような陽気になってきたのはありがたい。

 ハイウエストのワンピースで女の子と違う腰の位置をごまかして厚めのニーソックスを履く、ふんわりした長袖の上着で肩まわりの骨っぽさをカバーする、顔は元々女の子みたいと言われていることに感謝しつつ柔らかさを重視した色味のメイクを施す。


大須についてからの撮影コースはほぼデートコースだった。大須観音にお参りして、寒い寒いと言いながらもおしゃれアイスを食べて彼はそのたびにカメラでいっぱい写真を撮ってくれた。コンデジでいい?と言いつつコンデジのなかでもハイエンドモデルを三つも持参してきたのには笑ってしまったけれど。

「かわいいよ、メイちゃん、階段の上からこっち振り向いて」

「も~かわいいって言い過ぎ、いつも私服撮影でもそうなの?」

「だってかわいいんだからしょうがない、しょうがない!それにいつものメンバーも綺麗だけどあいつら中身に可憐さがないんだよ~」

「えっ」

「あっ」

 彼は明らかにしまったという顔をした、彼がいつもカメラマンとして女装を撮ってるメンバー達が女装は趣味ではあるけれど恋愛対象は女性の男性ばかりではあることは知っていたけれど僕の恋愛対象が男性であることはまだ言ってなかったはずだ。

「雨………」

「ヤバイね横殴りの天気雨だ、とりあえずアーケードまで避難しよう!」

彼に手を引かれアーケードまで走る、それはお互いごく自然のながれでこのまま恋も自然に始まらないかなと思わせられるのに十分だった。


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