第20話 星条旗と日の丸

 そして約十年の月日がたった。彦六はもう二十六になろうとしていた。今日、半助や見世物興行師仲間ときているのは浦賀であった。ペリーの二回目の来航を睨んで、かなり前から現地に乗り込んでいたのだ。

 港の近くの広場にたくさんの人が群がっていた。そして海を見れば大きな黒い船が九隻も停泊していた。しかもそのうちの三隻は煙突から黒い煙を上げる大きな蒸気船だ。集まった人々の半分以上は黒船を見たいと遠くから物見遊山でやってきた観光客だ。特に今日は大きな催し物があるということで、ハマグリやサザエ、イカの姿焼きなどの食べ物屋や団子屋、黒船まんじゅう、黒船に近づいて眺められるというもぐりの貸船屋なんてものまで店を出している。

 マシュー・ペリー提督は優柔不断な江戸幕府を相手に、一度日本を離れていた。幕府はその間に朝廷や大名に意見を聞く大騒動。だがペリー提督は、十二代将軍家慶が病死して次の将軍に変わったと香港で情報を得て、幕府が体制を整える前にとわずか半年余りで戻ってきたのだ。この二回目の来航で武力をちらつかせて、ペリーは日米和親条約を迫り、結局はそれを認めさせ鎖国を終わらせることに成功する。そしてこの二回目の来航で日本のいろいろな文化にも触れ、民間も交流へと動き出す。ついに時代は新しく大きなうねりを見せ始める。このときペリーの掲げたアメリカの星条旗に対抗して初めて日の丸が使われたのだった。今日のこの人だかりの中に造られた土俵の左右にも、西と東の表示ではなく、アメリカの星条旗と日の丸が掲げられて、海風にはためいていた。

 今回の交渉役、選手担当の彦六と会場運営担当の半助が会場に入ってきた。

「おい、彦六。凄い人だかりだ。お前さんの思いつきで日米決戦をやることになって、いろいろ苦労したが、蓋を開ければ大成功だな。土俵のそばの値段の高い席からとぶように売れていったんだ。しかも、今回は寺社奉行の管轄外の自主興行だから、相撲興行なのに、場所代もかかってないし、ほぼ丸儲けだしな」

 だがここに来るまでは長かった。好奇心の強い彦六は黒船の一回目の来航の時にさっそく浦賀にかけつけた。そして、小舟で黒船に近づき、運よく黒船に拾い上げられ、中を見て帰ってきたのだった。その日本のものとは違う高性能の船や砲台、小型の蒸気機関車や牛などの家畜も乗っているのを見て帰ってきたのだった。だがそのあと、浦賀の港で幕府の役人に捕まり、帰ってくるまで大騒ぎだった。それでも新しい世界の入り口である黒船をあきらめきれずにどこかに接点はないかといろいろな働きかけをしていたのである。

「ペリーやその部下にある人を通じていろいろ聞いてもらったんです。まず和食は薄味でさっぱりしすぎていて、未開の地のせいか肉料理がないと評判はもう一つ。浮世絵や陶器は興味を示したんですが、土をこねて作った陶器に高い価値があるとは思えない、黄金や宝石のほうが好きみたいでした。あと、絹とか茶とかは香港で十分手に入るし、いわゆる商人ではないので特に特産物などもあまり興味がないようでした」

「ははは、お前も苦労したね。あとは酒とか女とか…」

「ところが、ところがです。意外なことに、ペリー提督の興味を一番引いたのは相撲だったんですよ。それが、まさか実現するとも最初は思ってなかったんです、ところが、ある人を通じてペリー提督に日本の格闘技の相撲をを見ませんかと誘ったら、思いがけず乗り気でね、提督は向こうで流行ってるという、グローブでなぐり合うボクシングや組み合って戦うレスリングが好きらしくて。それに半年前に来た時に幕府が二百俵の米をペリーに送ったんですが、それを運んだのが力士たちだったそうです。日本人は小さいと思っていたら中には七尺(約二m十cm近く)もある巨漢力士がいて、それがいっぺんに八俵もの米俵を担いで運んでいたらしいんです。それでかなり興味を持っていたらしくて、一度近くで相撲の地方興行を見てもらったら、ペリー提督はその迫力や技の多彩さに驚き、どんどん交渉が進んだんです」

「なるほど、ペリーはそこに興味をもったってわけかい。ところで先日、玄海部屋が、海兵隊と練習試合をやった時は五分五分の試合だったっていうじゃねえか。日本が負けちまったら、興行的にはやはり失敗だろう。その辺の打ち合わせはどうなってるんだ?」

 すると彦六は、会場に来ていた侍姿の若者のところに行って声をかけた。ペリーと彦六の間を取り持ってくれた例の人のところだ。

「万次郎さん、私が行ったときは取り合ってくれなかったんですけれど、例の件はどうなりましたか」

 それはのちにジョン万次郎の名前で知られるジョン・マンこと中濱万次郎だった。三年前に二十六才で日本に帰ってきたばかりであったが、ペリーの来航にあわせて旗本に召し上げられて浦賀に来ていたのだ。この時代、オランダ語を挟んでの通訳はたくさんいたが、英語で対等に話ができたのは実に万次郎ひとりであった。万次郎は頭をかきながら、話し始めた。

「それが、ペリー提督の連れてきた海兵隊は体はでかいし、プライドも高い、完全に拒否されてしまいました。まわしもつけるのはいやだってね。そっちの格闘技のルールでいいから、細かいところはこっちの言い分も聞けということでした。中には向こうのボクシングの選手だったって男や、レスリングをやっていたという組み技の得意な奴もいて、一度話を向けてみたんですが、全然話になりませんでした。また玄海部屋からも手加減などいらんという声が高く、ほぼ真剣勝負となりました。すみません、彦六さん」

 それを聞いた半助はやはり穏やかではない。

「本当かい? 勝ってくれるんだろうな」

 でも、彦六は自信たっぷりだった。

「ええ、さっき玄海部屋の親方に聞いたら、ボクシングやレスリングへの攻略法をあれから特訓したそうなんです。まあ、見ててくださいよ」

 やがて会場がざわめきだす。マシュウ・ペリー提督が、アメリカ海軍の制服姿でたくさんのお供を連れて、星条旗の下に歩いてくる。ペリーも大きいのだが、さらに大きな海兵隊員がその後ろについてくる。そして、日の丸の下に進み出たのは、現在最強と呼ばれる、玄海部屋の精鋭たちであった。今、あの時小結だった七国山が不動の最高位の大関として君臨し、ベテランとなった大砲丸や高尾錦、新進気鋭の柳虎たちが声援を受けていた。

 そして七国山の土俵入り、ペリー提督も神妙な顔をしてそれを見ていた。そして今度は提督の合図とともに、海兵隊の精鋭たちが土俵に上がり、残りの海兵隊も全員起立し、突然会場に響き渡ったのは、アメリカ国歌だった。歌い終わると、会場が声援でいっぱいになった。あと数分で世紀の一戦が始まるのだ。

 その時、土俵の正面の特別席に二人の武士がお目付け役として座っていた。隠密の藤巻と浦賀の与力、中島三郎助であった。中島三郎助は、最初にペリーが浦賀に来た時に相手を務めた気骨のある人物で、黒船にも何度も乗り込み、船の正確な大きさや大砲などの装備を詳しく調べたことから、密偵と怪しまれた人物である。藤巻はペリーの一回目の来航以来中島の連絡役を任せられ、最近は一緒に酒を酌み交わす中となっていた。

「いや、おどろいたなあ、まさかこんな大舞台になるとはなあ。よく幕府も黙認したもんだ」

 中島の言葉に藤巻が答えた。

「幕府もアメリカが、何に興味を示し、日本に何を求めているのか、いざ貿易ともなれば、日本は何を売り物にしてどう有利に持っていくのか、いろいろ探っている段階らしい。この大勢の観客の中にも、俺の部下の隠密が何人か混ざっている。とりあえずある程度自由にさせ、まわりは固めておくというやり方だ」

「しかし驚いたよ。あの彦六殿には。おれはなあ藤巻、江戸の銀水亭で、初めてあいつが離れの料理を任せられた時、偶然会っていたんだ。その時、彦六殿は新しい学問、技術、見たことのない世界への夢を語ってくれた、俺は西洋に対抗できる軍艦の建造を約束したんだ。それがどうだい。十年がたち、今、浦賀の造船所では日本初の西洋式軍艦、鳳凰丸が建造中だ。そしてなあ、実はペリーの一回目の来航の時、小舟に乗って、黒船に向かい、浮世絵や和菓子を見せて、船員にちゃっかり引き上げてもらい、中を見学、浮世絵や珍しい和菓子は船員に大うけ、フランス料理までごちそうになって帰ってきた一般庶民がいるっていうので奉行所にしょっ引いたら、あの時の彦六じゃあねえか。しかも反省するどころか、アメリカと文化交流をしたい、食べ物でも工芸品や絵画でも、何でもいいっと俺を説得しにかかってきた。すごいやつだよ。おれも最後には熱意に負けて力を貸してやった。三年前に日本に帰ってきたばかりのジョン・マン、中濱萬次郎が黒船来航に合わせてこの浦賀にきていてな、紹介してやったら、まあ、意気投合してもう大変だった。そうしたら突然相撲だ。しかも日米決戦だ。またまた驚いたよ」

 すると、若い侍がさっとやってきて中島に声をかける。その若い侍こそ、ジョン・マンこと中濱万次郎であった。

「おい、中島殿、呼ばれているぞ、そろそろ時間だ、土俵に上がるんだろう」

 いよいよ試合が始まる。土俵にお目付け役の浦賀与力の中島三郎助と通訳の中濱万次郎があがり、その左右にペリー提督と玄海部屋の親方が立つ。そして行事から、試合に関する最終確認を行われる。

試合は対抗戦が三試合、特別試合が一試合の計四試合。日本の相撲のルールで行うが、まわしはしなくてもよい。また本番の場所と違い引き分けがある。確認が終わると、みんな土俵から降り、行司が進み出た。

「では第一試合、玄海部屋、前頭三枚目、柳虎(りゅうこ)、対するはアメリカ、アームレスリングの強豪、ディック・アーロン!」

 筋肉質で二枚目の柳虎はその名の通り、柔らかな身のこなしと柳のようにしなる粘り腰で知られている。力水をもらい、塩をまき気合を入れて土俵に上がってくる。ディック・アーロンは靴を脱ぎ上半身裸になって土俵に上がったが、それだけで大きなどよめきがおきた。六つに割れた腹筋、たくましい鎧のような胸、そして何より刺青の入った腕が異常に太いのだ。柳虎も筋肉質の力士だが、その差は歴然だった。観客が驚いているのを見ると、ディック・アーロンは両腕を振り上げ筋肉を誇示した。観客からはさらに大きな声援がおこる。すでにもう、相撲の勝負ではなくなっていた。観客は新しい格闘技の世界に引き込まれていた。

「はっけよい、のこった!」

 物凄い音がして両者激突、組み合ったまましばらく動かない、回しがないので、柳虎は投げに持ち込めず、逆に腕力のアーロンは怪力で無理やり二度、三度と投げに入る。

「柳虎、負けるな!」

 土俵際で何回も粘り腰で怪力の猛攻をかわす柳虎、危なくなるたびに見ているほうも力が入り、声援が飛ぶ。最後にアーロンが大きなかけ声とともに勝負に出た。なんと自分はまわしをしていないのだが、それをいいことに、柳虎のまわしをがっしりつかむと上手投げに入ったのだ!

「ウォー!」

 物凄い勢いで上手投げが決まったかに見えたが、柳虎はぎりぎりで耐え抜き、体勢の崩れたその一瞬にアーロンのぶっとい腕を両腕でつかみ、「とったり」の形で土俵際で投げにはいった。投げられまいと力の入るアーロン、でも柳虎はそのままもつれながら、見事に怪力男を寄り切ったのだった。

 誇らしげな柳虎。怪力を土俵際でまるめこんだ柳虎のうまさが目立った。だがアーロンは両手を土俵に打ち下ろし、その悔しさを叩きつけた。日本人にはない、感情をあらわにするそのしぐさに観客はさらに盛り上がる。まずは初戦は日本が勝ち取った。

「続いて第二試合、玄海部屋小結、大砲丸、対するは、アメリカ海兵隊レスリング出身、スティーブン・スコット!」

 もうベテランの域に達した真ん丸な人気者大砲丸。だが実は大砲丸は練習試合で、このスティーブン・スコットと戦い、まさかのタックル攻撃でしりもちをつき、不覚を取ってしまったのだった。今日こそはあの時の雪辱を晴らすと気合が入っていた。対するスティーブン・スコットはまたアーロンとも違う四角い頑丈な体つきの男で、土俵に突然米俵に俵を担いで上がってきた。そしてそれを土俵の真ん中に置くと、気合とともに高く持ち上げ、そのまま後ろにそり投げで叩きつけたのであった。体はきれいにブリッジを描き、米俵はその衝撃で変形していた。相撲のそりなげに似ているが、物凄い威力だ。観客はざわめき、大砲丸は、敵にはまだこんな技があったのかと驚いた。

「はっけよい、のこった、のこった!」

 こんどこそタックル攻撃は受けない、大砲丸は体制を低くして、それこそ大砲から打ち出された弾丸のように突き進んだ。

 ガツン!

 タックルで押し倒そうとするスコットと激しい激突、しかし今度は大砲丸がわずかに速さと低さでスコットを上回り、スコットを押し返したのだった。

「大砲丸、もう一息だ」

 声援が飛ぶ、力が入る、敵を土俵ぎりぎりまで押し込んでいく大砲丸。大砲丸にはここから相手の足を取る得意の「内無双」もある。きまった? と思ったその瞬間、大砲丸の真ん丸な体が宙に舞った。まさかの土俵ぎりぎりでのそり投げだ。だがもがく大砲丸はそのままスコットとともにもつれて土俵の外へ…。裁定は、なんと引き分けだった。スティーブン・スコットは、そのままくるりと向きを変えると戻って行った。あと一息で勝ちを逃した大砲丸は悔し涙で戻ってきた。

「次は特別試合、体が大きすぎて相手のいなかった大関七国山が、海兵隊の猛者三人を相手に戦います」

 身長もあるが体重もある七国山はウエイトが合わないと敬遠され、相手が三人という特別試合となったのだ。相手は格闘技の経験のない若い海兵隊員だったが、七国山に及びはしないが、背も決して低くないし、腕っぷしも強そうだった。七国山は若い三人を見ると不敵に笑い、静かに土俵に上がってきた。

「はっけよい、のこった!」

 三人は始まるとともに三方にサッと別れた。多分一人が正面から突っ込んで七国山の動きを止め、残りの二人が左右から攻める作戦だったのだろう。恐ろしかったのは、七国山が素人相手に本気で確実に勝ちに来たことだった、まず向かってきた一人の海兵隊員の顔面に強烈な張り手を食わせてのけぞったところに「けたぐり」で、足をかけて倒し、なんと、右から来た体重の軽そうな海兵隊員をそのまま担ぎ上げると、左から来た海兵隊員の首を片手でしっかりと抑え込んだ。足元に一人が転がり、一人は肩の上、そしてもう一人は首を決められていた。七国山は、鬼神のようであった。やがて左の男は豪快に首投げでぶん投げられ、肩の上の一人は一回大きく振り回されてから、土俵の外に落とされた…。あっという間の出来事であったが、七国山のすさまじさが伝わる一戦であった。特別試合ながら、観客は大盛り上がり、最後の一戦に期待が寄せられた。

「最終試合となります。ただ今の特別試合は勝ち負けに入れませんので、今まで試合結果は一勝一分けです。ここで日本が勝てば日本の優勝、アメリカが勝てば対抗戦は引き分けに終わります。玄海部屋、関脇高尾錦、対するはアメリカ海兵隊ボクシング出身、レナード・ボーマン」

 それはペリーの用意した最強の刺客であった。ペリー提督は、その男にまるでトレーナーのように励ましの言葉をかけ、自ら土俵に送り出した。レナード・ボーマンがサッと上着を脱いで土俵に立つ。観客が大きな声を上げる。なんとレナードは鋼のような肉体を持つ背の高い黒人で、しかも見たこともない大きな手袋のようなものをつけているではないか。そして突然目にもとまらぬ速さで拳を打ち出した。あまりの速さに観客が驚いていると、今度は先ほどのディック・アーロンがやはり大きな枕のようなものを持って、ボーマンの前に進み出る、そこに物凄い速さでパンチを打つボーマン、凄まじい音が会場に響く。そして最後の強烈なストレートでアーロンが、体ごと吹っ飛ぶ。会場がシーンと静まる。どこか哀愁を帯びた瞳のレナード、そこに上がってきたのは不屈の闘志の関脇、高尾錦であった。正統派で多彩な投げ技を持つ試合巧者の高尾錦はいったいどう戦うのだろうか?

「レナード!」

 大声で声援を飛ばすのはマシュー・ペリー提督だ。アメリカチームもここで負けると大変なので、応援に力が入る。土俵の真ん中で睨み合う二人。

「はっけよい…」

 会場が一瞬静まり返る。

「のこった、のこった!」

 試合開始とともに高尾錦の張り手とレナードのパンチの壮絶な打ち合いになる。だが、レナードは巧みにフットワークを使って左右に揺さぶりをかけ、張り手パンチ勝負を有利に進め、横からのフックが見事に決まる。一瞬、高尾錦の体ががくんと傾く。

 ここぞとばかりに連打をかけて、高尾錦を土俵際まで追い詰めるレナード。だが、七国山の凄まじい張り手を新弟子時代から受けてきた高尾錦の目は死んでいなかった。もう一度、ツッパリで攻撃すると見せかけて、体勢を低くして、レナードの腰のあたりに両腕を回したのだ。投げられまいと上から横からパンチをボコボコに打ち込むレナード。だがこの技こそ攻略法、必殺の絞め技だったのだ。

「ウグ!」

 起死回生の「変形サバ折り」だ。高尾錦の太い腕がレナードの腰を締め上げる。腰と背骨に激痛が走る。レナードの下半身から、一瞬力が抜けた。

「今だ」

 その一瞬を逃さず、暴れるレナードを締め上げたまま土俵の外へ押し出していく。

「やったー、勝った!」

 座布団が舞い、大歓声が沸き起こる。だが、勝者の高尾錦は、まともに立っていられないほど、ふらふらになっていた。レナードがそっと近づき、高尾錦に握手を求めた。二人で健闘をたたえあい、がっちりと握手をした。そしてともに相手の手をとり、高々と上げたのだった。今度は会場から割れるような拍手の波が沸き起こった。負けたがまだぴんぴんしているレナードの体の汗を拭き、ペリー提督は笑顔で誇り高き戦士を迎えた。

 興行は大成功。大きなトラブルもなく、幕を閉じた。

 そして観客はペリー提督の飾り気のない素顔に触れた気がした。楽しいことに星条旗も日の丸も関係はないのだ。

「今度は力士をアメリカに呼んで、こちらのルールでも戦わせたい」

 試合後、ペリー提督は本気でそう言っていたらしい。だが実現しなかったのは、それからほどなく、アメリカが南北戦争に突入していったからだった。

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