5. ねえ、ドラゴンを一撃で粉砕しちゃったんだけど!?
「このクエストに成功すればAランクに昇格。
気合いを入れていきましょう!」
みるみるうちにBランクまで昇格し、ついに迎えたAランク昇格の条件。
討伐対象は――まさかのドラゴン。
「アメリア。ドラゴンが相手なんて、本当に勝算があるの?」
というか当たり前のようにここにいるけど、王妃教育はどうなってるんだ?
一応毎日帰ってはいるみたいだけど。
こうも頻繁に城を抜け出せるのは、城の警備に不安しかない。
「楽勝ですよ。私とお姉さまが力を合わせれば、敵なんていません!」
ドラゴンの討伐と言えば、複数のパーティーで組んで挑むのが定石。
参加することがAランク昇格の1つの条件ともなる、非常に危険も多いクエストなのだ。
間違っても単独のパーティーで挑むような相手ではない。
――普通なら
実際、私もアメリアの聖女の力があれば、どうにかなるかもと楽観的に考えていた。
私の魔法もささやかながら役に立つはずだ。
「お、王妃としての心構えはどうしたのですか。
お城に戻って国のために――」
「王妃教育でドラゴンと戦ってはいけませんなんて言われてませんもん」
「当たり前です!」
アメリアはこれでいて、公式の場では王子と並び立って遜色のない完璧な立ち振る舞いを見せるという。
それでいてドラゴン退治に行こうという非常識さ。
王妃教育の完全敗北である。
当たり前のような顔で、アメリアは転移魔法を使い城とここを行き来していた。
転移魔法って、伝説級の魔法のはずなのにね。
聖女の力は非現実的なことも可能にするチート性能なのだ。
「これも国の平和を守るためです。
行きましょう、おねえさま!」
そういって私の手を引くアメリア。
その凛々しい姿は、どうか王子に披露してあげて下さい。
◇◆◇◆◇
「あれが今回のターゲットですね」
ドラゴンを前にして、流石に緊張した様子のアメリア。
あまりに大きな巨体。
その口から吐き出される炎は、立ち向かうものを等しく塵にすると言われている。
立派な鱗に覆われた凛々しい立ち姿は、人が挑んではいけないという本能的な恐怖を刺激する。
「無理に決まってるッスよ!」
「相手が悪すぎる。やはり一度引いて、合同パーティーに加えてもらうべきだ」
ウィネットとマルコットも及び腰だ。
これまでとは比較にならないほどの強敵。
当然の反応だろう。
一方の私は、張り切っていた。
これまでの相手は――あまりに歯ごたえがなかったのだ。
どいつもこいつも初級魔法の一撃で沈んでしまうのだ。
少しは歯ごたえのある戦闘がしたい――それも冒険の醍醐味のはずだ。
ドラゴンを前にアメリアは祈る。
パーティーメンバーに加護を与える聖女の祈りだ。
負けることなんて、これっぽっちも考えていない表情。
(やっぱり、アメリアは聖女なのね……)
アメリアが祈ると、場の空気が"変わる"のだ。
普段ののんびりした笑みからは想像できない、厳かな空気を身に纏うのだ。
感覚が教えてくれる。
ここ一帯の空気を、彼女が支配しているのだと。
(それでもアメリアは私に華を持たせてくれるのね)
アメリアの力があれば、ドラゴンの1匹や2匹。
簡単に蹴散らせるだろう。
それをしないということは――
「バッチリ決めてあげる」
私は呪文の詠唱を始める。
唱えるのは土・闇・闇・闇のクアドラプル・スペル。
クアドラプル・スペルというのは、国でもなかなか唱えられる者の居ないという複雑な術式だ。
魔術というのは、属性を重ねるほどに威力が指数関数的に跳ね上がる。
今まで唱えてきたのは単属性魔法、誰でも使える初歩的な魔法であった。
もっとも鍛えまくった魔力値により、初歩的な魔法であっても弱いモンスターであれば簡単に屠れるほどの威力があった。
たが今日の相手はドラゴン。
一筋縄にはいかないだろう。
「――メテオ・ストライク!」
亜空間から隕石を呼び寄せる闇属性の魔法。
アメリアの加護を受けた今、その気になれば更に属性を重ねることも可能だろう。
まずは簡単なクアドラプル・スペルで様子見するのだ。
「ク・クアドラプル・スペルだと!?」
「あ、有り得ないッス。
その難易度の魔法を、さらに詠唱圧縮するなんて!?」
何やら驚愕した声が聞こえるが、今はドラゴンとの戦闘の最中。
あんなクソ長い詠唱、実践で使えるはずもないので詠唱圧縮は当然の判断。
集中力を切らさぬようドラゴンを注意深く観察し――
その魔法はドラゴンをも一撃で粉砕した。
「は――?」
ポカンとしたマルコットの表情が、妙に印象的だった。
アメリアは「流石は、お姉さまです!」とにこやかな笑み。
そこに驚きは見られず、当然の結果を見届けたというような表情。
それもそうか。
聖女の加護を得たのなら、ドラゴンぐらい一撃で粉砕できるものなのだろう。
そうに違いない。
ドラゴンとの激戦を経て。
周辺の地形がだいぶ変わってしまった気もしたが、きっと気のせいだ。
気のせいじゃなくても――そういうことも、よくあることだ。
「お姉さま、最高に格好良かったです!」
アメリアが無邪気に私の胸に飛び込んできた。
よしよし、と私は受け止めながら髪を撫でる。
「アメリアの加護のお陰よ」
私とアメリアがいれば、決して倒せない敵など居ないだろう。
たしかにそう思える手応えのある戦闘だった。
こうしてドラゴンスレイヤーとなった私たちのパーティーは、あっさりとAランクに昇格した。
単独でドラゴンを倒したパーティーは歴代でも数える程しかいないそうだ。
人数・平均年齢ともに史上初となる快挙であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます