4. ねえ、Aランクモンスターが弱すぎるんだけど!?
「ついに初クエストね!」
夢を掴んでからというもの、毎日が楽しくて楽しくて仕方がない。
今日は初めてのクエストだ。
私は期待に胸をときめかせながら、パーティーメンバーとの待ち合わせ場所に向かい――
「お姉さま!」
「アメリア、なんだってここに!?」
そこには当たり前のような顔でアメリアが待っていた。
いい加減、慣れつつある自分が恐ろしい。
「私もパーティーメンバーです!
ここにいることに問題ありますか?」
「大ありです。
王妃教育は? あなたがお城にいないことがバレたら……」
私のお小言を、アメリアは首をすくめて受け流す。
「そんなものはとっくに終わらせました。
今はメイドのアンが身代わりになっています。
さあ、バレる前にさっさと終わらせましょう!」
そう言って私の手を引くアメリア。
その積極性は、どうか王子に向けてあげて下さい。
というか大丈夫か、城の警備?
◇◆◇◆◇
私たちが受けたのは、D級モンスターの討伐クエスト。
「ちょっと簡単すぎるかもしれませんが肩慣らしです。
今のパーティーの実力でも、余裕でクリアできますよ?」
アメリアは自信満々に言う。
冒険者としては彼女の方が先輩だ。
「討伐対象は、あのスライムで良いの?」
先導するアメリアに付いて行く途中で、私はターゲットを発見する。
目の前でぷよぷよと震えるスライム。
「はい、おねえさまは見ていてください」
結論から言うと、聖女の力を有したアメリアはアホみたいに強かった。
高位の神官ですら習得に苦戦し、複雑な魔法陣を描かなければ発動できない高位の光属性魔法を、呼吸をするように発動してみせるのだ。
現れるのは眩い光の十字架。
ゼリー状のスライムは、それを受け跡形もなく蒸発する。
明らかなオーバーキルだ。
「どうですか、お姉さま!」
「ま、まあまあじゃない……?」
私が褒めるとアメリアはパアッと笑顔になる。
(アメリアの力が、これほどのものだったなんて。
……怒らせないようにしよう)
引きつったような笑みを浮かべるしかなかった。
「さ、流石はアメリアだ。
シャーロットちゃんも、リーダーの雄姿を目に焼き付けると良い。
ウチのリーダーはやっぱりとんでもないな……」
大盾を持った男が、誇らしげに私に話しかけてきた。
全身を鎧に包んだ彼の名前はマルコット。
もともとアメリアとパーティーを組んでいた前衛職だ。
「ウチらの出番なんて、もうないッスね?」
ひょこっと顔をのぞかせたのは魔術師のウィネット。
ウッドメイスを携え、頭に真っ黒な魔女っ娘の帽子をちょこんと載せている。
「このパーティーがCランクまで上がれたのは、アメリアの実力が大きい。
恥ずかしながら、とっくに釣り合いは取れていない。
それでも『駆け出しのころに面倒を見た恩返しだ』と言って、パーティーを組んだままなんだ。
足を引っ張らないよう、俺たちも気合を入れないとな」
気合を入れるマルコットだったが、残念ながら前衛にの出番は来なかった。
魔物の姿を見るなり、アメリアが光魔法をぶちかますのだ。
それだけで戦闘は終わる。
私たちは、無双するアメリアの後を付いて行くだけだった。
◇◆◇◆◇
順調に進んでいるかのように見えたクエスト。
だが異変は突然訪れる。
「あ、あそこにいるのは。
Aランクに指定されたモンスターじゃないッスか?」
最初にそれを見つけたのは、魔術師のウィネットであった。
索敵魔法に引っかかったらしい。
「俺たちの今のランクはCランク。
到底、倒せる相手じゃない。
幸い気づかれてないみたいだし――このまま逃げよう」
マルコットはそう慎重に判断。
「Aランクのモンスターなんて、放っておいたら被害が出てしまうんじゃないですか?」
「それはそうだが……」
おずおずと私は切り出す。
こんな近隣の森で、それほどの危険なモンスターと出会うなんて。
初心者も多く利用する狩場である。
できる限り安全を保つべきだろう。
「ちょうど良いです。
そろそろお姉さまにも、実力も見せてもらいましょう!」
アメリアはトテトテとこちらに駆け寄ってきて、ニコニコとそう言い放った。
「じょ、嬢ちゃん1人にやらせようって言うのか?」
「無茶ッスよ!」
マルコットとウィネットが慌てて止めようとするが、アメリアは「お姉さまは、私が一番信頼する魔術師です!」と不敵に笑うのみ。
そこまで言われては、やるしかない。
それに私としても――特に、あのモンスターを脅威とは感じなかった。
「任せて!」
私は一歩前に出ると、杖を構え――
「アクアカッター!」
もちろん詠唱はショートカット。
魔術師の弱点は詠唱時間である。詠唱を破棄した上でどこまで大掛かりな魔法を使えるかが、魔術師の腕の見せ所とも言えるだろう。
水の刃がモンスターに飛んでいき、一切の容赦もなくその首を切り裂く。
「ウィンドブレイク!」
Aランクのモンスターともなると、首を落としてもまだ動くかもしれない。
竜巻魔法を使って敵の肉体を粉砕し、
「フレイムアロー!」
そのまま焼き払う。
素材が取れなくなってしまうのは勿体ないが、相手は格上のモンスターらしい。
念には念を入れて、最大火力をお見舞いする。
「アースクエイク!」
もはやモンスターは跡形もなかったが、私は警戒を解かずに様子を伺う。
なぜかパーティーメンバーはドン引きしていたが、きっと気のせいだろう。
「今、4属性の魔法を使ったっスね?
それもあれだけの威力で。
す、すごいっス!」
「弱点が分からないので総当りしました。
お恥ずかしいです……」
私の答えに、ウィネットはあぜんとする。
「シャーロットさんは、何属性まで魔法を使えるッスか?」
「さっき見せた4属性に加えて光・闇もたしなみ程度には。無属性も中級までなら詠唱は必要だけど使えるわね」
「詠唱破棄なんて魔法戦士のような前衛職でもない限り、試そうともしないっスよ……」
なぜだろう。
私が答えれば答えるほど、ウィネットがドン引きしている気がした。
「Aランクのモンスターを、単独で苦も無く撃破するなんて。
その腕前は到底Cランクではないな――君もアメリアの友達ということか」
戻った私を迎えるマルコットからは哀愁が漂っていた。
アメリアの光魔法みたいなバケモノみたいな能力と一緒にしないで欲しい。
「一般人枠だと信じてたのに。がっかりッスよ!」
ウィネットも何やら憤慨した様子。
失敬な、私はちゃんと一般人ですよ!
「どうですか?
おねえさまは本当に凄いんですよ!」
そんな2人を見るアメリアは、とても満足そう。
私にとっての初クエストは、全くと言って良いほど苦戦することなく達成されたのだった。
私としても魔法の腕は、少々どころではなく自信があった。
こうして冒険者になっても通用すると分かり、ひと安心だ。
私たちは着々とクエストをこなし――みるみるうちに冒険者レベルを上げていくのであった。
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