6. ねえ、伝説の聖剣を抜いちゃったみたいなんだけど!?

 Aランクに昇格した私たちは、世界の果てで見つかったという遺跡調査のクエストを受けることになった。

 世界の果てにある遺跡、なんてワクワクする響きだろう。

 そういう前人未到の地を進むのも、冒険者のロマンだと私は思うのだ。



「お、俺たちだけで大丈夫か?」

「大丈夫ッスよ!

 私たちにはシャーロット様もついてるっす。

 ……頼りっきりで申し訳ないっす」


 生憎、アメリアは今日は不在。

 王妃教育が忙しいとのこと。

 クエストは3人で受けることになった。


 マルコットもウィネットも決して弱くはない。

 Aランクには少し実力不足かもしれないが、それでもBランクのパーティーではエースとなれるほどの実力を備えていた。



「今日の遺跡には、Aランクのモンスターもわんさか沸くらしいです。

 決して無茶はしないでください」


 聖女として規格外の回復魔法を使えるアメリアがいないのだ。

 致命傷を負っても回復はできないし、強力な加護も得られない。

 


(アメリア抜きで、どうやって攻略したべきか……)


 私の悩みは――杞憂に終わるのだった。




◇◆◇◆◇


「お姉さま、遅いですよ!」


 最果ての遺跡の前。

 ぷんぷんという擬音が似合いそうな立ち姿で、当たり前のようにアメリアが待っていた。



「あ、アメリア。なぜここに!?」

「魔力を辿って、行先を予測したんです。

 せっかくなら直接合流すれば良かったですね!」


 あ、アメリア。この広い世界から私の魔力を辿って追ってきたの?

 こんな世界の果てまで。


 もはやストーカーの域を超えていた。



 そんなことを話ながら、私たちは遺跡の探索を進める。

 途中で出てくるモンスターは、マルコットとウィネットに基本的に任せていた。

 自分たちが足を引っ張ってしまっていると、随分気にしていたのだ。


 アメリアが聖女の加護をかけ、私も万が一の時には割って入れるように。

 魔法をいつでも発動できるように、警戒したまま進む。

 遺跡探索は順調だった。



「何か怪しげな台座がありますね?」


 最初にそれを見つけたのはウィネットであった。

 探索魔法はウチの役割ッス! と譲らなかったのだ。


 近づいてみると、台座にはきらびやかな剣が刺さっていた。

 派手な装飾のついた剣を見てアメリアは、



「聖剣ですね」


 そう言い切った。

 聖剣とは勇者にしか抜けないという伝説の剣。

 私が興味深々で見ていると、


「おねえさま!

 抜いちゃいましょう!」

「無茶言わないで……!?」


 期待にワクワクとしているアメリアだったが、あいにく私は勇者ではない。


「シャーロットさんの規格外の魔法!

 ドラゴンを一撃で倒した雄姿は、まさに英雄――勇者って感じでしたッス!」

「いつも聖女と行動してたんだ。

 シャーロットさんが勇者だと言われれば、たしかに納得だ!」


 マルコットとウィネットまで期待に満ちた目で私を見てくる。


(挑戦するだけなら)



「もう、期待してダメでも怒らないでくださいね」


 私は台座を登り、聖剣に向き直る。

 資格のない者を拒む無機質な剣だが、不思議と私のことは迎え入れてくれる気がした。

 私は聖剣を握り、グッと力を籠める。


「あれ、抜けちゃった……」



 特に反発もなくあっさりと。

 剣は台座を離れ、持ち主の手に渡ったことを喜ぶようにキラリと光った。


「おめでとうございます、おねえさま。

 あ、言い忘れてましたが聖女の加護を得た者が勇者として認められますね」


 聖女で自分を指さし、勇者で私を指差すアメリア。


    

「加護?」

「毎日これでもかってぐらい、かけてますよ!」


 アメリアは楽しそうにそう答えた。

 王妃から逃げ出したと思ったら、今度は勇者ですって……?


「確信犯じゃない。アメリア~!」

「お、おねえさま。いひゃいです。

 勇者って言葉は、おねえさまにお似合いだと思ったんですよ!」


 頬をつねると、アメリアはわ~わ~騒ぎながらそんなことを言う。


「それに――おねえさまが勇者なら。

 聖女である私とは、ずっと一緒にいられますね!」


 こんな私欲に満ちた子が聖女で良いのだろうか。



「聖女である前に、あなたは王妃でしょう」


 私は勇者ではない。

 王子に罪を断罪された、ただの悪役令嬢だ。

 国の片隅で平穏に生きていたいだけ。

 その聖女の加護は、適当に王子にでも投げておいてください。




◇◆◇◆◇


 ドラゴンを単独パーティーで退治し、ついには伝説の聖剣を抜いたというパーティー。

 凄腕の魔法使いは実は勇者で、聖女の加護を受けている。

 新進気鋭のパーティーは、今や国中で知らぬものの居ない憧れの的であった。


「凄いですね、お姉さま!

 みんな私たちを噂してますよ?」

「正体、ばれないようにね……」


 一時は伝説のパーティーに聖女は次期王妃・アメリアなのではないかという荒唐無稽な噂(真実)も流れていた。

 しかし、次期王妃様が毎日のように冒険者として旅に出ているなど有り得ないだろう、と噂はたちまち消えていった。

 今では「聖女は2人居た」というのが通説になっていた。



「シャーロットさん!

 デュアル・スペルの詠唱破棄、ついに成功しましたよ!」

「ついにやりましたね! おめでとう!」


 マルコットもウィネットも、たゆまぬ努力により腕を上げていた。

 ウィネットには、学園で習った知識をすべて授ける気で魔術を教えた。

 マルコットもアメリアとの実戦形式での稽古により、みるみる腕を上げているらしい。


「シャーロットさんがウィネットと魔術の訓練してる時のリーダーは、本当におっかないんだ。

 ヤキモチなのか、死ぬほど機嫌が悪いんだよ……」


 ウィネットと休んでいると、マルコットがげんなりした顔で休憩室に転がり込んでくる。

 開口一番、そんな愚痴を聞かされた。


 常にニコニコと笑みを浮かべているアメリアのどこがおっかないというのか。

 心優しいアメリアが、まさか嫉妬なんてするはずがなかろうに。

 マルコットの言葉に、私は首を傾げる。


 やがてアメリアも休憩室に戻ってくる。

 そこに座り込むマルコットを見つけると、にこやかな笑みを浮かべて、


「リ、リーダ。違うんだ!

 サボってたわけじゃ――もう今日は勘弁してくれ。助けてくれ~!」

「あらまあ、あれぐらいで音を上げるなんて情けない。

 お姉さまたちも、まだ特訓中みたいですし――私たちも続けましょう!」


 ずるずると引きずられていくマルコット。



 平穏な日常を送りながらも、私たちは高難易度のクエストも何なくこなしていった。

 ついにはSランクまで上り詰めていた。

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