第3話 身の上話
「私の出身地は北方の小王国です。
私は、両親ともに冒険者というわけではなく、
国王の近衛騎士だった父と、町で防具屋の看板娘をしていた母との、
恋愛結婚の末に生まれたんです。
父は近衛騎士として優秀だったようで、よく家に父を慕う
後輩の騎士さんたちが遊びに来ていました。
そんな父が、なぜか国王への謀反の疑いを立てられ、
斬首刑となったのです。
私が今も家名を名乗らないのは、そのためです。
父の収入を頼って、防具屋の看板娘から専業主婦となった母では、
お金を稼ぐのも容易ではありませんでした。
挙句、国王への謀反を企てた大罪人の家族ですから、
雇ってくれる人もなく、母は娼婦として働かざるを得ませんでした。
多忙な娼婦としての生活の中で、客から病気をうつされ、
最後は苦しみながら亡くなりました。
そして私は、生きていくため、父が残してくれたこの家宝の剣と、
母の形見であるペンダントをもって、冒険者になったんです。
父から、ままごと程度の剣術は教えてもらっていましたが、
その程度でやっていけるほど冒険者は甘くなく、
ギルドの試験を突破したのも1カ月前なんです。
それでも、試験に落ち続けた2カ月間、
『代金は出世払いでいいよ』と言って女将さんが
白狸亭に無料で泊めて下っていたんです。
そんな女将さんが経営のことで悩んでいるのを聞いて、
これで恩を返すしかない、と思って高難度のクエストに応募したんです。
龍があんなに硬くて強いなんて思っていませんでしたけど…」
そう言って肩を落としながら語るイヴに、
「そうか。大変だったんだな。
じゃあ、また機会があれば。」
そう言って立ち去ろうとすると、
「ちょ、ちょっと!?
ここで会ったのも何かの縁ですよ!
ここまで身の上を話したのに、
そんなあっさり私を捨てるんですか!?」
と涙目+大声で騒ぎ立てるものだから一気に注目が集まる。
てめえ、ふざけてるんじゃねえぞ、という視線をギルド中から感じる。
心なしか、誰にでも神対応で有名な受付のミーシャですら、
ゴミを見るような目でこちらを見ている気がする。
「わかった!わかったから、人聞きの悪い言い方をやめろ!
お前のせいで俺の評判がガタ落ちだろ!?
これからしばらくの間、面倒見てやるから!」
と言うと、イヴはよろしくお願いします、と
満面の笑みを見せた。
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