~4~ with you

『私を見る目が悲しそうなこと。

    

     

    笑った時に八重歯が見えるのが可愛い。


 手に触れた時の暖かさ。

          

         一緒にいる時のこの気持ち。



   大丈夫なのに、荷物を持ってくれたこと。


なぜか悲しそうな顔。



      走る姿がかっこいい。


 コーヒーを買ってきてくれた。

            

            一緒に歩くのが楽しい。



自転車の後ろに乗せてもらった。


   ポテトチップスを一緒に食べたことは内緒。


  朝目玉焼きだったでしょと聞くと恥ずかしそうに口を拭いていた。


       貰ったスティックパンが美味しい。



シャンプーのいい匂い。


     この間のパンが美味しかったと言ったらコンビニで一袋100円で売ってると笑われた。



記憶がない私に付き合ってくれたこと。

私を見る目がどこか悲しそうなこと。

なんでも一生懸命なこと。

慌ただしいこと。

宿題を良く忘れること。

一緒にいると楽しいこと。

胸がなんとなくドキドキすること。 


松井君の時々見せる悲しそうな顔を見て思った。きっと私は忘れちゃいけない事を忘れてしまったのだろう。

病気で死んだと言われたお母さんのこと、学校のこと、友達のこと。楽しいことも悲しいことも17年分の思い出。

大切なことが、忘れちゃいけないことが、大事にしてきた思い出が、きっとたくさんあったはずだ。

なのに、私は何も思い出せない。  

                      』


視界がぼやけて、その原因がノートに頬を伝って落ちていく。いっぱいありすぎて読みきれねぇ。記憶を失った彼女は彼女なりに自分を探そうと必死だった。いろんなことが書いてあった。幼馴染として手伝ってて、一緒にいる時間が多かったから………?半分は僕のことだ。相変わらず。

記憶を失って、自分を見つけようと周りを観察して、それで、彼女が最初に気付いたこと、それは…

それは、一番思い出しちゃいけないこと。

それは、記憶じゃない。「気持ち」


僕は彼女が一番幸せだと言った思い出と一番辛いだろう記憶を奪った。

ようやく僕は自分が彼女から奪ったモノの意味を理解した。


鶴見さんに病室を聞いて、家の玄関に買い物を投げ置いて、それから僕は。


それから僕は走った。

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