第33話:七美、幼児退行
七美は風邪と認定され、母親に迎えに来てもらってそのまま病院へ向かい、それも終わると家へと帰った。
〜華side〜
「もしかしてお兄ちゃん風邪引いてる!?」
「あら華お帰り〜……なんで知っているの?」
私が家から帰るとお母さんがキッチンで洗い物をしていた。
「妹の勘」
なんだかね……ビビッと来た。それでわかった。
「七美の部屋行っていいけど、風邪うつされないようにしなさいね〜」
「………お兄ちゃんなうつされるなら本望だよっ!!」
本当はいけないけど、私はお兄ちゃんが風邪引いた時はヤッタァ!ってなる。
理由はこれ。
「お兄ちゃん!」
「あぇ?華だぁ!!」
お兄ちゃんは私を見つけると、駆け寄り私に抱きついて来た。
顔は火照っており、呂律も回っていないようだ。
そう……お兄ちゃんは風邪を引くと幼児退行するのだっ!!
「あ〜〜!!お兄ちゃん可愛い!!もっとギュってしていい!?」
「華ならいいよぉ〜」
「はぁああ!!なんでこんなに可愛いんだぁ!?」
私はさらに抱きしめる力を強めた。
「華……苦じぃ……」
「あっ、ごめんお兄ちゃん!!」
私はお兄ちゃんをパッと離した。
お兄ちゃんは普段も可愛いが、寝るとその可愛さは倍増される。
だが、風邪を引くと寝るときの可愛さを引き継いでいる&甘えてくれる……!
天国だよ、うん。
「お兄ちゃん風邪引いてるから私と寝ましょ〜」
「えー?やー、もっと遊びたーい!」
「うぐっ!そ、それでもダメっ!!」
流石に可愛いからといって風邪を悪化させることは許されない。
「さっ、私と一緒におねんね———」
「ちょっと待ったァァ!!」
「チッ……。雪さん何の用ですか……」
せっかく一緒に寝ようと思っていたのに……。雪さんが家にやって来ていた。
「七美が風邪を引いた予感がしたから」
こいつも私と同じように感じ取れるらしい……。
「七美!私が来たっ!!」
「あ!雪だぁ!わーい!」
「おぅ……デレ七美マジ天使……」
「ぐぬぬぬ……」
せっかく二人っきりだったのに……。この女狐ェ……。
「ねぇねぇ!何して遊ぶー?」
「ぐはっ……危ない……鼻から鮮血のウォータースライダーが流れるところだった……」
「私は心臓止まるかと思ったわ……」
「?」
だ……ダメだ!言動がいちいち可愛いんだが!?
そういえば昔お兄ちゃんが風邪引いた時、私が鼻血出しすぎて隔離されたことがあったような……。
お父さんも一緒に……。お父さんは貧血気味になって顔が青くなっていたが、これまでにないほどに充実した顔だったなぁ。
「二人ともどうしたのぉ?なんだか顔があかいよ?」
「だ、大丈夫お兄ちゃん!なんでもないよ!ちょっと暑いだけかな〜」
「そうよ、七美。全く問題じゃないわ」
なんとか誤魔化し、お兄ちゃんを部屋に押し込んだ。
下からお母さんがお粥ができたと言っていたので猛ダッシュで取りに行った。
「お兄ちゃん!お粥食べさせてあげる!!」
「あっ!ちょっと私にもやらせなさいよ!?」
「おかゆ?お腹空いてたー!たべりゅ!」
「はぁ…可愛い……」
「……(無言の頷き)」
布団に転がっているお兄ちゃんの上半身だけを起こし、早速あげることにした。
「ふー……ふー……。はい、あーん」
「んぁー……ん。ん!美味しー!」
「ちょっと華ちゃん?次は私に———」
「はいっ、あーん」
「あーー」
お兄ちゃんに次々とお粥をあげていた。
「ちょっと華ちゃん〜?」
「なんだか……雪おこってる?」
「ううん!!怒ってない!!よしよし、大丈夫よー」
「うん……なんだか……眠くなってきちゃった……」
見れば目がしょぼしょぼとしており、手で目をこすっていた。
「お兄ちゃんお粥だいぶ食べたね」
「私あげれなかった……」
だが……私に……いや、私たちにとって最難関の仕事が待ち受けている。
薬を飲んでもらわなければならないのだ!!
お兄ちゃんは薬が嫌い!嫌がるお兄ちゃんに無理やり飲ませるなど地獄!!
「お兄ちゃん……水と……はいこれ」
「これなぁに?」
「七美。これは薬よ……。頑張って飲んで…」
恐る恐る薬を渡した。
「うー……。でも飲まないと……かぜ治んない……がんばる!!」
「お、お兄ちゃん!!」
「七美!!」
そっか……お兄ちゃん成長したんだねぇ…。
私は嬉しいよ……。
私は雪さんと共に嬉し涙を流しながら錠剤を飲むお兄ちゃんを見つめていた。
「うー……んっ!のめた!!」
「お兄ちゃんえらい!天才!天使!!」
「七美は世界で一番よ!!」
「んぇ?えへへー……」
私と雪さんはお兄ちゃんに抱きつき、頭を撫でながら褒めまくった。
お兄ちゃんはまんざらでもなく嬉しそうであった。
「それじゃあお兄ちゃん、そろそろ寝よっか」
「んー……おやすみぃ……」
「おやすみ、七美」
お兄ちゃんがベッドに転がり、目を閉じるとすぐに寝息をたて始めた。
「ヌワァッ!!」
「華ちゃん、しっ!気持ちはわかるけど!!」
やはり寝ているお兄ちゃんは破壊力抜群だった。
「んー……華、雪あいがとぉ……」
「「……」」
私たちは無言で部屋を立ち去り、ソファのクッションだ悶絶するのであった。
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今年最後の投稿です。
来年もよろしく!!
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