緊急魔族会議
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魔族の頂点に君臨する者達の会合
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魔都 魔王城
魔王城には魔王、七つの冠、十二魔将が一ヶ所に集まり会議を行える『ニ十席の間』が存在する。
この部屋は全員の意見が必要な案件または緊急を要する事態が発生し、時間に余裕があり防衛面で問題がない場合にのみ使用される。一同が一度に集まる為、予定のすり合わせ等が困難なのと、魔族領防衛としての戦力が一時的とはいえ大きく偏る事が理由だ。
その部屋が今日、数年ぶりに使用されることとなった。
円状に設置された宙に浮く席だけの空間に魔王、七つの冠、十二魔将全員が揃っていた。席の周りにそれぞれのサイズに合った足の踏み場があり、立ったり座ったりはできる。
全員が着席しているのを確認し、サクラは起立した。
「これより緊急魔族会議を開始します。議題は『神族という存在との契約に関して』です。まずは事前に魔王様から提出された資料の確認から行わせていただきます」
魔王を除く全員が『収納空間』または【収納空間】から資料を取り出した。
サクラは口頭で資料について説明する。
内容は、並行世界について、神族という存在、神族の存在理由と役割、その神族に対して魔王が優位に立って取り決めを行った事、その内容に関して簡潔にまとめられている。
「以上が資料の内容です。ここからは皆様の自由発言の時間とさせて頂きます。なお、【念話】等の意思通信系などの魔導、スキルは全て妨害させて頂きます。ご了承ください」
口裏合わせ防止として妨害が入れられる。これで物理的発言しかできなくなった。
まず第一声を上げたのはセラフィムだ。
「何故何も相談せずに取り決めをしたのです? 魔王よ?」
世界に関わる一大事を一存で決めた事に不満を持っていた。自分達にとって有利な内容を盛り込まれていないのだから当然だ。
「俺と同意見とは珍しいなセラフィム。独断と言うのはやはり解せぬな」
普段はセラフィムといがみ合っているアモンも今回は同調していた。
「確かに、天才である私の意見も無しに決められたのは癪だな」
フェニーチェも何故か同調している。
「その点に関してはいかがなものか、魔神皇帝」
「最善の判断をしたまでだ。何もせずに敵に時間を与えれば反撃の猶予を与えるのと同義。決定権はこちらにあり、温情を与えられているのはどちらかハッキリさせておくのが最適解と踏んだ」
「それはそうかもしれませんが……」
「それに、まだ細かい部分を詰めなければならん。これで決定したわけでも無いのに何が不服だ?」
その問いにセラフィムとアモンは沈黙する。マウントを取って多少優位を取れるとでも思っていたのだろう。
「『細かい文章については我らシステムトリムルティが提示しても?』」
「構わん。ただし平等で正確かつ隙の無い部分のみとする」
「『了解しました』」
「……発言よろしいかな?」
そう言って挙手したのはアギパンだった。
「どうしたアギパン」
「異世界への移動許可ですが、これは本当に漂流者のためだけですかな?」
魔王は待っていたと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべる。
「違うな。異世界への進出は新たな経済、貿易の開拓、あわよくば支配下に置くためだ」
この発言で空気が変わった。
「それはあ、この世界を超えて異世界も統一しようって事お?」
シャイターンが呑気な口調で質問する。
「その通りだ。我らにはこの世界はもう小さすぎる。ならばこの開拓の機会、逃す手はあるまい」
「だからわざわざ異世界人を受け入れて漂流者は返すなんていうボランティアみたいな提案をしたのね♥」
「全てはそのための足掛かりだったわけか。流石魔王様だぜ」
リリアーナとヴァンダルは感心していた。
「だが、それは確実に叶う物なのか?」
それに疑問を飛ばしたのはアズラエルだった。頬杖をつきながら発言を続ける。
「たかだか上から3番目の存在の口約束なぞたかが知れている。その上の連中が真に受けるとは思えんな」
「それなら問題無い」
魔王は一枚の誓約書を取り出した。
「何だその誓約書は?」
サザーランドが顔を近付ける。彼からしてみれば小さすぎる紙でしかないため見づらいのだ。
「第1級神共との誓約書だ。スラーパァと結ぶ誓約書は神族全体に有効にすると約束させたな」
ブホオ!!? と一部の十二魔将達と一部の七つの冠達が噴き出した。
「な、ば、はあああ?!!」
ラディオンはいきなりの事態に混乱して奇声を発した。
「落ち着けラディオン。俺も少々驚いている」
レオールは冷静にラディオンを落ち着かせる。
「その誓約書は本物ですか?」
スマイルもまた冷静に質問をする。
「スマイル、この場で嘘をつくはずがないだろう。魔王様に失礼だぞ」
マリーナが睨んでスマイルに突っかかる。
「よい、言葉だけでは信用に欠けるという意見も必要だ。許そう」
「寛大な対応、ありがとうございます」
スマイルは一礼し、頭を深く下げる。マリーナはどこか不服そうだ。
「証拠はここにあるサインと血の拇印がそうだ。『鑑定』すれば分かる」
そう言って【浮遊】でスマイルの前に誓約書を移動させ、手に取って確認させる。『鑑定』を使い確かめるが、魔王の言う通り本物で間違いないだろう。
「……この魔力反応。そして強度、波長。この魔族領や人族領にも存在しないものです。間違いありません」
スマイルは魔王に誓約書を返した。そしてまた深々と頭を下げた。
「失礼な発言の数々、誠に申し訳ございませんでした」
「構わん。この程度で咎める程、我の器は小さくない」
「ありがとうございます」
魔王は他に意見が無いか周囲を見渡す。すると、
「ところで~、この『権能』ってどこまでできるのかしら~?」
クトゥルーが興味深々で聞いてきた。
「もしこの世界にあらゆる影響を与えられるなら相当な代物よね~」
「それは受け取ってから調査する予定だ。詳細はまだハッキリしていないからな」
「何か分かったら教えて頂戴ね~」
手をヒラヒラさせておねだりした。
「して、魔王よ。いつまでに誓約書の調印式を行うつもりだ?」
ディアーロが腕を組みながら質問する。
「早くて3日後だ。その際は七つの冠全員についてきてもらう」
「ほう。理由は?」
「奴らの領域の感触を実感してもらうためだ。我が簡単に乗っ取れたのだからお前達にもできるだろう。そこからの発現もな」
「我には不要かもしれんぞ?」
「ディアーロよ、何事も経験だぞ」
「我々十二魔将は?」
魔王とディアーロの会話にビクトールが挟まる。
「十二魔将達には従来通り魔族領の守護についてもらう。少しではあるが留守を頼むぞ」
「畏まりました」
「ところで、権能が手に入ったら私のお役目はゴメンなのでしょうか?」
ティターニアが頬に手を当てて質問する。
「世界のルールを書き換えられるのなら、天候の変更なんてお手の物ですよね? そしたら私は不要になるのでしょうか……?」
「例え出来たとしてもそんな事はせん。お前達の仕事を奪うような真似は絶対にしないから安心せよ」
「え、私の仕事は減らないのですか?」
「フェニーチェは真面目に仕事をしてから意見せよ」
この質問を最後に、詳細を決める会議へと移り変わった。
・・・・・
それから1日
休憩を挟みながら会議は続き、誓約書が完成した。
他の業務が溜まり始めているため、即時解散となった。ニ十席の間には魔王とサクラだけが残っていた。
「さて、我らも通常業務に戻るぞ」
「魔王様。私独自の意見ではありますがよろしいでしょうか?」
「何だ?」
サクラは深刻な表情で魔王を見る。
「人族の魔族化、権能で実現なさるおつもりか?」
サクラらしくない口調で問いかけて来る。サクラと魔王の間に重い空気が流れる。しばらく時間を置き、魔王が口を開いた。
「当然だ。人を魔族にし、この世界を完全な魔族の世界へ創り変える。我の悲願、ここで叶えずべくしていつ叶えるか」
サクラは下唇を噛んだ。
「……彼らがそれを良い方向に受け入れてくれるとは思えません」
「その時は分からせるまでだ。誰が頂点にいるかを」
魔王は【転移】でニ十席の間から退出する。独り残されたサクラは天を仰いだ。
「何故そこまで人族にこだわるのですか? お父様……」
複雑な感情で、独り言を呟くのだった。
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お読みいただきありがとうございました。
次回は『調印式』
お楽しみに。
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