ブレイクコード:シヴァ Ⅱ

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窮地の先に待つは


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 突如として襲い掛かる異世界人達にシステムトリムルティは既に防御手段を取っていた。


「『システムコード・ガルダ、【千重防壁】展開』」


 何重にも重なった無色透明の壁が出現し3人の突撃を物理的に阻止する。しかし、止められたにも関わらず壁を突き破ろうと貼り付いて攻撃を始める。


「オオオオオオオオオオ!!」


 テラマックスは拳を振り上げて連続して殴り始める。一撃で壁一枚が粉砕し、どんどん破壊されていく。


「何?! 何?!」


 シヴァは突然の事態に慌てふためいていた。【千重防壁】を発動するのにリソースを使い過ぎたため、シヴァを眠らせる時間が無かったのだ。


「『システムコード・クリシュナ、魔力測定及び敵性判定完了。脅威レベル10、敵性対象です。迎撃を開始します』」


「『システムコード・パールヴァティー、至急シヴァの意識の強制終了を提言』」


「『トップシステムコード・ブラフマー、防衛及び迎撃準備にリソースを回しているため不足。提言を却下』」


「『システムコード・ヴィヴァスヴァット、敵性反応捕捉。有効術式を提示します』」


「『トップシステムコード・ブラフマー、ヴィシュヌ、承認します』」


「『システムコード・ドゥルガー、術式展開開始』」


「『システムコード・ヴァーユ、目標までの風向、風量確認完了。誤差軽微。問題無し』」


「『システムコード・アグニ、目標までの誘導計算完了』」


「『トップシステムコード・ヴィシュヌ、攻撃プログラム起動』」


 シヴァの後ろに魔法陣が展開され、3人に狙いを定める。


「『発射まで、3、2、1』」


 攻撃までのカウントダウンが完了しようとした時、


「ダメ!!」


 シヴァがそれを拒絶した。


「アンシェヌさんのお友達だから傷付けちゃダメ! 絶対ダメ!!」


 最悪な事に、必死の我が儘にシステムが反応してしまった。


「『トップシステムコード・シヴァの権限により攻撃は却下されました。術式を解除します』」


「『トップシステムコード・ブラフマー、ヴィシュヌの権限が一時的に制限されます。防衛に専念します』」


 システムトリムルティ全般が攻撃を止め、防衛のみにリソースを回し始める。



 システムトリムルティ最大の弱点は『シヴァの意思』だ。


 本体であるシヴァはトップシステムコード以上の権限を持っているためちょっとした反抗にも逆らえない仕組みになっている。

 普段から戦闘の時だけ眠らせていたのは幼いシヴァの意思によって阻害されるのを防ぐためだったのだ。



 今回はトップシステムコード両方の判断の甘さから来てしまった事態だ。


 シヴァは【千重防壁】を挟んで3人に訴えかける。


「ねえどうしたの?! 仲良しじゃなかったの!?」


 幼い語彙力で何とか意思を伝えようと言葉を並べる。


「魔族は絶滅だ! それ以外に道は無い!!」


 テラマックスは鬼気迫る表情で【千重防壁】を壊し続け、残り半分まで来ていた。


 アンシェヌはヘカテを取り押さえて補助魔術を阻止している。


「いい加減にしなさいあんた達! 何してるのか分かってるの!?」


「魔族に誑かされた裏切り者に貸す耳などない! 私はいいからそのガキを殺せ!!」


「口汚ないわよヘカテ!」


 ヘカテは全身の血管を皮膚に浮かび上がらせながら途轍もない力で全力のアンシェヌに抵抗する。明らかに普通じゃない力の入り方でアンシェヌに力勝ちし始めている。


「(何よこれ?! ヘカテはこんなに力無いわよ! 女神が無理矢理力を上げているの?!)」


 アンシェヌを他所に、レグンボーゲが加勢して【千重防壁】を破壊する速度が上がっている。


「レグンボーゲ! ボルテックスカイザーを!」


「分かった!」


 突然、レグンボーゲが空へ飛んだ。


「来い! ボルテックスカイザーX!!」


 巨大な光の柱がレグンボーゲに降り注ぎ、光の柱の中から一体の巨大な人型機械兵器が姿を現した。



 ゴツゴツとした直角的な外装に意匠性を重視した全体像、しかし細かな部分に機械的機能をふんだんに盛り込んだ鋼鉄の戦士がシヴァの前に降り立った。


 高さ20mにもなる鋼鉄の戦士は背中に大きな黄金の翼を展開する。



『レッツゴー!! ボルテックスカイザーX!!!!!』


 中からレグンボーゲの声が聞こえ、巨大な鋼鉄の戦士はポーズを決めた。


『行くぞ魔族!! 『ギガントジェットパンチ』!!』


 両足をしっかりと開き踏ん張りを利かせ、握り拳を作った両腕を前に突き出した。そして、肘辺りから炎が噴き出し始める。


『シュート!!!!!』


 掛け声と共に腕が発射され、シヴァ目掛けて一直線に飛んで来る。周囲の海水や砂を吹き飛ばしながら豪速で拳が宙を貫く。


「『緊急防御術式展開。攻撃軌道強制変更』」


 システムトリムルティによって飛んで来た拳は大きく逸らされ、何も無い上空へ飛んで行く。


 その一瞬の隙を突いてテラマックスが大振りの攻撃を放つ。


「『スーパーブレイクタイム』!!」


 残りの【千重防壁】を一撃で砕き、シヴァを無防備にする。アンシェヌも危険な状況であることに気付き、ヘカテの顔面を地面に全力で叩きつけて駆け出した。


「シヴァちゃん!!」


 【飛行盾】を出現させ、シヴァを守ろうと飛ばそうとする。


 

『『女神の束縛』が付与されました。全能力が停止しました』



 アナウンスが頭の中に流れたのと同時にアンシェヌは砂浜に転がった。体が動かなくなったのだ。


「な、に?」


 アンシェヌは何とか体を動かそうと藻掻くが、痺れた様な感覚が強すぎて指一本まともに動かせない。その後ろからヘカテが近付いてきた。


「よくも、やってくれたなこの屑が!!」


 勢いを付けてアンシェヌの腹を蹴り飛ばした。女神の力で強化された蹴りの威力に肺の空気が出てしまった。


「あぐう!!?」


「いつまでも偉そうにしやがって! 死ね! 死んじまえこの裏切り者!!」


 抵抗できないアンシェヌに何度も蹴りを入れ鎧がベコベコに凹んでいく。


「(っ、シヴァ、ちゃん……!)」


 アンシェヌが襲われている間もシヴァは2人からの攻撃を紙一重で回避していた。システムトリムルティの緊急術式で何とか躱しているといった状況だ。


「ええい当たらん!!」


『物理が通らないとは!』


 拳を振り回す2人から何とか逃げようとシヴァは慌てて動いていた。


「ねえどうして?! どうして危ない事するの?!」


 まだ状況をちゃんと理解できていないシヴァは訳の分からないままだ。


「このままでは逃げられてしまう! ……む?」


『これは、女神からのスキル!』


 2人に突然スキルが追加された。


「早速使わせてもらおう! 『アイズ・ビーム』!!」


 シヴァ目掛けてテラマックスの目から赤い光線が放たれた。


「『緊急術式展開』」


 だが、システムトリムルティの緊急術式をすり抜けて光線がシヴァの肩に直撃する。高熱で髪と肩が焼け、その場で転倒してしまう。シヴァはあまりの痛みに傷口を押さえて縮こまってしまった。


「う、ぐ、痛い。痛いよおおお……!」


 徐々にぐずり始め、ドンドン涙が溢れてきてしまう。システムトリムルティも急いで治療しようと治癒魔術を使用する。


「『システムコード・パールヴァティー、【大回復ハイヒール】発動』」


『させるかあ!!』


 レグンボーゲの乗ったボルテックスカイザーXの後ろからオレンジ色の光の弾が出現し、ドンドン大きくなる。


『喰らえ! 『サンライトバースト』!!』


 エネルギーの塊から一直線に光線が放たれ、システムトリムルティが咄嗟にシヴァを浮かせて回避しようとしたが、両足に直撃してしまった。


「うぎゃあああああああああああああ!!!!!」


 肩に加えて両足にも大怪我を負って思わず叫んでしまった。


「うう、ぐす、痛い! 痛い痛い痛い! うえええええええ!!」


 とうとうシヴァは泣き出してしまい、目を両手で擦りながら大粒の涙を流す。そんなこともお構いなしにテラマックス達が追撃してくる。


「これでトドメだ!」


『もう一発ぶち込んでやる!!』


 確実に仕留めるために距離を一気に縮めてきた。



 だが、2人は殴り飛ばされ無理矢理後退させられてしまった。

 

「うぐう?!!」


『ぐわあああああ!!?』


 テラマックスは砂浜に、レグンボーゲの乗ったボルテックスカイザーXは海に叩きつけられた。


「な、何だ……?」



 テラマックスが見上げると、そこには大きな腕が宙に浮いていた。


 

 複雑な模様が入った左右の腕だけが浮いており、片腕の全長は50mを超えている。



「『シヴァに対する損傷が3割を超えました。緊急コードを起動します』」


 どこからともなく声が聞こえ、巨大な両腕はゆっくりとテラマックス達の前に立ちはだかる。




「『ブレイクコード:シヴァ、あらゆるモノを殲滅する』」




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