ブレイクコード:シヴァ Ⅰ

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善意は悪意によって踏み躙られた。


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 ザバファール大陸 ポックル島


 ザバファール大陸の中でもかなり小さな島で、固有種族の『小木霊コロポックル族』が住んでいる。

 

 シヴァはポックル島の砂浜で4人の異世界人と対峙していた。だが、


「ねえ、お話しない?」


 アンシェヌがそう切り出したのをキッカケに、浜辺での対話が始まった。


 ・・・・・・



 アンシェヌはシステムトリムルティからシヴァの事情を聞いていた。


 他の3人、金髪ショートボブ女僧侶の『ヘカテ』、マントに全身青タイツで筋骨隆々の自称スーパーヒーロー『Mr.テラマックス』、虹色の未来的な軽装で身を包んだスーパーロボットパイロット『レグンボーゲ』達は少し離れた所で待機していた。


 ヘカテは心配そうにアンシェヌを見ている。


「大丈夫なんでしょうか? 相手は十二魔将ですよ?」


 テラマックスとレグンボーゲは難しい顔をしている。


「ううむ、あの様子だと敵意は感じられない。下手に刺激しても良い事はないだろう」


「それに相手は大きくても子供。子供に手を上げるなんて正義の味方がすることじゃないよ」


 2人の話を聞いてヘカテはこれ以上の言及を止めた。とは言え、無言のままというのも気まずい。それを察したテラマックスが話題を変える。


「そう言えば、体の方は大丈夫かい? 私とレグンボーゲは元から耐性があるが、ヘカテは魔術で対応しているんだろう?」


「そうですね、保護魔術を重ね掛けしているので今の所は問題ありません。まさか威圧系スキルで体調を崩すなんて……」


 ヘカテはシヴァと遭遇した際、シヴァの威圧系スキルに当てられて気絶寸前に追い込まれていた。何とか自前の魔術で持ち直した。


「スキルの抑え込みが上手くいってないんだろう」


「それでも閉じ込めず平等に扱っているのは何か対策があるのだろうな」



 

 アンシェヌは3人の心配などいざ知らず、シヴァと会話を続けていた。


「そっかあ、魔王様はそこまでしてくれるんだ」


 シヴァの話を真剣に聞き、優しく答える。


「うん! 魔王様が来る日はとっても楽しいんだ!」


「まるでお父さんだね」


「うーん、そうなのかな?」


「そうよ、だってあなたに沢山の愛情を注いでるもの。きっと父親代わりをしているのよ」


 うーん、とシヴァが頭を悩ませていると、システムトリムルティが割り込んできた。


「『アンシェヌ、あまりシヴァを困らせないで頂きたい。敵意が無いとはいえ容認できない』」


「ごめんなさい、そういうつもりじゃなかったの。何ていうか、お節介を焼きたいのよ」


 言葉の最後の方でアンシェヌの表情が曇った。


「殆どの時間1人で過ごしているでしょう? それってすごく辛いと思うの。システムトリムルティはそう思わない?」


「『魔王及び十二魔将が定期的に会いに来ているため、辛いという感情はほぼありません。何より我らシステムトリムルティが共にいるので問題ありません』」


「そ、そっか……」


 システムトリムルティが強気な発言をしてきてアンシェヌは少々ひるんでしまった。気を取り直して頭を切り替える。


「……とにかく! 話を聞いた以上悪い存在じゃなさそうね。私はあなた達に攻撃するつもりは無いし、作戦も実行しないわ。約束する」


「『それはアンシェヌだけの判断です。他3名の同意を聞いていない』」


「そうね、ちょっと聞いてくるわ」


 3人の元へ駆け寄り、今後の話を始めた。それを遠くからシステムトリムルティが監視する。


「『システムコード・ヴァーユ、音声収集開始。会話内容、先程の宣言と差異無し』」


「『システムコード・カーマ、真偽判断。現状変化無し』」


 システムトリムルティはフル稼働で4人を分析する。万が一攻撃してくる可能性を考え徹底的に調べ尽くす。



「『システムコード・ヴィヴァスヴァット、対象4名の異常を感知』」



 ・・・・・・



 時は少し遡って4人が合流した時まで戻す。


「というわけで、私は攻める必要は無いと思うの。平和的に対話で解決すべきよ」


 アンシェヌが3人に自身の結論を伝える。


「ふむ、それなら私も納得だ。魔王も悪い奴ではなさそうだしな」


 テラマックスは笑顔で賛同した。


「俺もテラマックスと同意見です。別に魔族に対して恨みあるわけでもないし」


「私も右に同じです」


 レグンボーゲとヘカテも頷いて同意の意思を示した。


「それじゃあ皆同意見って事でシステムトリムルティに伝えるわ」


 シヴァの元へ行こうとした時だった。



『『女神の加護』が消失しました』


 

 アンシェヌの頭の中にいきなりアナウンスが流れた。


「え?」


 いきなりの事態に困惑して動きを止める。


「(『女神の加護』が、消えた?)」


 ステータスを開いて自分の状態を確認するが、確かに『女神の加護』が無くなっている。


「(……他のスキルや加護に異常は無い。何で『女神の加護』だけが?)」


 アンシェヌは既に異世界転生を2度経験した猛者だ。そのため大半のステータス数値はかなり高い。スキルや加護も苦難や試練を乗り越えて手に入れた。


 その中で『女神の加護』はこっちに来る際に貰った加護だ。それが唐突に無くなるという事は、


「(『女神』が加護を没収した? もしかして、さっきの会話を聞いて……?)」


 そうなると、他の3人ももしかしたら没収された可能性がある。


「皆! 『女神の加護』なんだけど!」


 心配して咄嗟に振り返る。



 視界に入って来たのはテラマックスの拳だった。



 アンシェヌはギリギリで後ろに飛んで直撃を避ける。崩した態勢を修正して何とか着地した。


「ちょっと! 何するのよ!?」


 3人へ向き直るが、明らかに様子がおかしい。目は虚ろで、まるで自らの意思とは関係無く動いているようだった。


「皆……?」


 アンシェヌはこの状況の危険性に冷や汗が出た。


「魔族は、滅ぼす。魔族は悪なのだ!」


「例え子供でも魔族は死すべし! 慈悲などいらん!!」


「危うくだまされる所でした……。魔族にたぶらかされるところでしたよ」


 さっきとは言っている事がまるで違う。完全に思考を変えられている。


「しっかりして皆! どうしちゃったのよ?!」


 アンシェヌの言葉に耳を貸さず、3人はシヴァに向かって走り出した。


「(まさか女神が仕向けているの!? 何考えてるのよあの女!!?)」


 アンシェヌは3人を追う形で駆け出した。





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