ブレイクコード:シヴァ Ⅲ

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破壊の申し子が、目覚める


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「『ブレイクコード:シヴァ、あらゆるモノを殲滅する』」



 巨大な腕は天に手をかざし黒い球体を作り出した。球体の周りには赤い炎が纏わりついている。徐々に大きくなり、ものの数秒で腕よりも大きくなった。


 殴られた衝撃でまだ這いつくばって動けていない2人も何かしらの攻撃であることは察した。


「(マズい。一旦退避を……!)」


「うあああああああああああああああ!!!!!」


 突然後ろから叫び声が聞こえた。首だけ動かして振り返ると、ヘカテの全身が燃えていた。


「熱い! 熱い!! 誰か助けてえええええ!!!」


 急いで海へ飛び込もうとアンシェヌから離れて駆け出した。



 【超重力】



 ヘカテの周囲が大きく凹んでヘカテ自身も砂浜に叩きつけられた。体の炎は激しくなり続け、喉が焼け落ち、叫ぶこともできなくなった。そのまま肉と内臓が焼けて動かなくなり焼死した。


 テラマックスは伏せたままその状況を見ていた。


「(どういう事だ? 何故ヘカテだけだ燃えたんだ? 近くにアンシェヌがいたにも関わらず……)」


 そう、さっきまでヘカテはアンシェヌを蹴っていたため、足元にはアンシェヌがいる。なのにヘカテだけが燃えてアンシェヌだけ無事なのが不思議だったのだ。


「(それに、私も無事だ。攻撃するなら全員に当てるべきでは……)」


 ボルテックスカイザーXの方に視線を向けると、ある事に気付いた。


 ボルテックスカイザーXの表面が赤くなっているのだ。全体ではなく、海面から少し上がった位置から上の方だけだ。


 それを見たテラマックスは今何が起こっているのかを理解した。


「(そうか! 地面からある程度の高さにいる対象だけを高温で熱しているのか! となると、まだ私は対象に含まれていないようだな)」


 何とか体を動かせる事を確認し、匍匐前進で砂浜を移動し海へと向かう。


「(海に潜れば判定されることはない。一度潜って態勢を立て直す)」


 レグンボーゲにも伝えるため、ボルテックスカイザーXの方へ進む。


「(だが、何だこの違和感は? あれだけ巨大な球体を出して攻撃が地味すぎる気が……)」


 

 ・・・・・・



 レグンボーゲは殴られた衝撃で緊急停止したボルテックスカイザーXの再起動を行っていた。


 コクピットの中には機体全体を制御操作するキーボードが内蔵されており、コマンドを入力する事で各所点検や再起動を行う事ができる。


 今は機体全体にダメージが入ったため、全ての部位のダメージチェックを行っていた。


「(目立った損傷は無いが歪んだ箇所がいくつかあるな、それにオーバーヒート? 一体何が起こっているんだ?)」


 緊急停止で外部カメラも止まっているため外の様子が分からない。急いで再起動しようにもオーバーヒートの警告が出て時間がかかっている。


「(あともう少し、5秒前…………よし!)」


 ボルテックスカイザーXが再起動しメインカメラが戻る。センサー系も次々回復して外の状況が分かる。


「テラマックス! 聞こえるか」


『警告。前方に超高エネルギー反応』


 画面越しに見えたのは、泣いているシヴァの頭上に巨大な腕が天に手を掲げ黒い球体を生み出している光景だった。


「何だ、これは……?」


『敵性対象のエネルギー充填行為と判断。上昇上限測定不能』


 ボルテックスカイザーXを起こして戦闘態勢に入る。本来物理攻撃しか攻撃手段が無い機体であり、さっきのようなエネルギー系遠距離攻撃はできない。


「テラマックス! 聞こえているなら返事をしてくれ!」


『レグンボーゲ! 無事だったみたいだな!』


 テラマックスは海に入って顔を出している状態だった。


「何で海に?」


『詳細は省くが、地面より1m以上の位置に出ると敵のセンサーに触れてしまうらしい! それでヘカテがやられた!』


「ヘカテが?! おのれ魔族、絶対に許さん!!」


 ボルテックスカイザーXを前進させシヴァに向かって走り出した。


『待てレグンボーゲ!!』


「(ボルテックスカイザーXのオーバーヒートはそれが原因か! 冷却装置を全開にしてももって10分。速攻で決着を着ける!!)」


 ボルテックスカイザーXの右手を横に伸ばす。


「来い! レジェンダリーセイバー!!」


 光と共に大剣が現れしっかりと掴み取った。黄金の柄に赤い宝石が施された大剣を両手で持ち直す。


「(本体である少女を殺せばエネルギー充填も止まるはずだ! 死ぬがいい!!)」


 大剣を大きく振りかぶりシヴァ目掛けて振り下ろそうと操作する。



 後一歩のところで、レグンボーゲの動きが止まった。



「な、に?」


 自分自身でも訳が分からず、レバーを動かそうと力を入れようとするが全く動けない。


「何だ、何をされた?」


(……め、だ……)


 頭の中で誰かの声が聞こえる。


「誰だ、誰だお前は……?!」


(正義の味方は、こんな事はしない……!!)


 レグンボーゲの動きを止めたのは、レグンボーゲ自身だった。


「何だとお!?」


(今のお前は本当の俺じゃない!! 目を覚ませ!!)


 頭の中の叫びが強くなり頭痛が起き始める。


「ぐ、ウウウウウ!!!??」


 レバーから手を離し、頭を抱え苦しみ始める。


 同時にボルテックスカイザーXの動きも止まり、シヴァまで後数mのところで剣を下ろした。


「どうしたレグンボーゲ?!!」


 テラマックスは海面に頭を出しながらボルテックスカイザーXを見入っていた。急に立ち止まり剣を下ろしたことに驚いていた。


「(もしや熱で中までやられたのか?!)」


 近付きたいがボルテックスカイザーXは海から上がって砂浜の上にいる。下手に近付けば焼かれてしまうだろう。


 手をこまねいていると、シヴァの黒い球体の巨大化が止まった。



 次の瞬間、巨大な黒球は一気に小さくなりシヴァの額に高速で激突した。


 

「『ブレイクコード:シヴァ、サードアイ起動。シヴァ本体の意識を掌握する』」


 シヴァの体が数度痙攣した後ぴたりと泣き止んだ。ゆっくりと起き上がりボルテックスカイザーXと正面から向き合う。両目は閉じて何処か奇妙な雰囲気を纏っている。



 シヴァの額にさっきまで無かった切れ目があった。


 両目と共にゆっくりと開き、その正体を現した。



 『第三の目』



 額にできた切れ目は閉じた眼だった。


 大きく開いた眼から光が溢れだし周囲一帯を飲み込んだ。



「『敵性対象、殲滅開始』」



 ブレイクコード:シヴァの宣言したのと同時にボルテックスカイザーXが崩壊を始めた。


 まるで砂の城が風で消し飛ばされるように鋼鉄の戦士は崩れ、破片が吹き飛ばされていく。ものの数秒で外装は無くなり中に入っている機械も消滅を始める。それはコクピットも同じで、レグンボーゲのいる場所も露呈し光に飲み込まれていく。


「あ、ああああああああああああああ!!!???」


 着ている装備が崩れ剥がされ、下にある皮膚や肉も同様に崩壊していく。


「消える! 消えてしまう! 止めろ、止めてくれえええええええええええええええええええ!!!!!!」


 咄嗟に顔を守るが守るための腕も消え去り全身が崩壊に飲まれていった。


「あ、ああ、すま、ない、シヴァ、ちゃ、ん」


 最後の言葉を残して、レグンボーゲは消滅した。



 その姿を見たテラマックスは急いで海中に潜った。猛スピードで泳ぎ距離を離していく。


「(マズい。あれはマズい!!)」


 危険性を察したテラマックスは何とか逃れようと無駄な抵抗をする。


 何故なら、既にテラマックスの足先が崩壊を始めたからだ。


「う、おおおおおおおお!!!!!」


 どうにもならない絶望がテラマックスを捕まえる。足が無くなり、泳ぐことができなくなり海中で溺れだす。


 海中から出ようと藻掻くが、それも叶わず海の藻屑となっていく。


「(ぐ、あ。何故、私はあんな、事を……。ヒーロー、失格、だ)」


 テラマックスは海の塵と化して消滅した。



 ・・・・・・



 アンシェヌは光に飲まれてはいたが、テラマックス達の様に消滅していなかった。ヘカテによって重傷を負い、砂浜に転がったままでいたのだ。


「シ、ヴァ、ちゃん……」


 虫の息で痛む体を無理矢理動かして少しだけ起こした。


「ぐあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 シヴァの絶叫が空気を揺らした。


「『シヴァの肉体を未成熟と判定。これより急成長を行う』」


 シヴァの少女としての体が無理矢理成長を始め瞬く間に10歳ほどの肉体へ成長する。


「『成長完了次第次の段階へ移行。魔族領の征服を開始する』」


 肉体は成長を続け、大人の女性へと変貌していく。


「うう、ぐううううあああああああああ!!!!!」


 悲痛な叫びはどれだけシヴァが苦しんでいるのかを表している。アンシェヌはそれを倒れたまま聞く事しかできなかった。


「(さっきの光で、『女神の束縛』が消失したみたいだけど、蹴られた箇所が悪かったみたい)」


 出血と骨折に打撲、内蔵破裂までしていた。過去に何度か経験した痛みだから分かる。


「(ごめんね、シヴァちゃん。何も、助けてあげられなくて……)」


 意識が遠くなり、視界がぼやけ始める。


「誰か……あの子を……たす……け……」


 最後の力を振り絞り、掠れた声で助けを求めた。




 それに応えるかのように、『それ』は現れた。




「え……?」


 失いかけた意識で見た『それ』はシヴァより強力な光を放ちながら空を覆い尽くした。


「『外部より阻害。進行強制停止。ブレイクコード:シヴァの、継続、コン、ナ、ン……』」


 声が途切れ始め、無理矢理止められた様に沈黙する。シヴァの肉体も徐々に少女の姿へ戻り出した。


「あれは……、一体……」


 アンシェヌは温かい光に包まれながら、安心した気持ちで意識を失った。




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