異世界に君臨するは 2


 雨宮がいなくなって数日。


 皆で雨宮を探したが見つからず、色々な憶測が飛び交っていた。


 智春はよく会話をしていた見張り台にいた。


「(どこ行ったんだよ、雨宮さん……)」


 暗い表情で見張り台から降りて、訓練場に向かった。


「おーい菅田氏!」


 そこへ稲葉が駆け寄ってきた。


「稲葉くん。どうした?」

「いやいや、これを渡しておきたくてですな」


 渡されたのは一枚の紙だった。

 そこには菅田のステータスが書いてあった。


 ーーーーーーー

 名前:菅田 智春

  Lv:25

  HP:135

  MP:300

  ATK:49

  DEF:33

  MATK:132

  MDEF:100

  DEX:50


 ・能力

  【異世界からの旅人】【爆破魔法 Lv5】

 ーーーーーーー


「これって高い数値なの?」

「拙者よりは確実に高いですが、他の人達と比べるとちょっと劣るでござる」

「マジか、こっちの人達より低いとかある?」

「そうですなあ、軍人殿は平均50位なのでかなり防御以外は異常に高いと思いますぞ」

「……何か現地の人に申し訳ない」

「それは心の中に閉まって奥でよろしい」

「やあ二人共、こんな所でどうしたんだい?」


 訓練場にいた太田も近付いてきた。


「太田くん。実はステータスの数値が他の人と比べてどれくらいなのか気になって」

「太田氏は皆の中でトップクラスの数値でしたぞ!」


 へえ、と返事をして太田をジッと見る。


「えっと、見る?」

「ありがとう!」


 ポケットから出したステータス表に目を通す。


 ーーーーーーー

 名前:太田 千春

  Lv:55

  HP:247

  MP:660

  ATK:200

  DEF:181

  MATK:218

  MDEF:198

  DEX:100


 ・能力

  【異世界からの旅人】【勇者 Lv8】【聖騎士 Lv6】

 ーーーーーーー

 

 智春は何となく苦い顔をしていた。


「うん、皆そういう顔になるんだよね」

「あ、ごめん! 決してそういうつもりじゃ……!」

「気にしなくていいよ、最初は皆そういう顔するから。多分『勇者』のスキルのおかげだと思う」

「『勇者』のスキルは確か経験値を倍にしてくれるというブースト機能がありましたな」

「それ以外にも色々あるけど、今一番恩恵を受けてるのはそれだね」

「おーい太田、ちょっといいかー?」

「ああ、今行く。それじゃ」


 遠くから呼ばれてその場から去っていった。


「さて、我々も訓練に向かいますかな」

「俺は裏庭で練習してくる」

「そう言えば菅田氏、雨宮氏と最後に会ったのは菅田氏だそうですが、何か聞いてないのですかな?」


 その質問に足が止まった。


「……いや、残念ながらこれと言ったことは」

「そうですか、早く見つかればいいのですが」


 あの時言われた言葉は、秘密にしておいて欲しい。という意味を含んでいる気がしてならなかった。だから今は黙っていよう、そう決めたのだ。



 ・・・・・



 出兵の日が来た。


 雨宮のいない残りの29人が王宮に集められた。王宮の大広間で激励式を行うとのことだ。


 智春は雨宮の最後の言葉を思い出していた。


「(王様達と明彦を信用するなって、どういう意味だったんだろう……)」

「やっぱり加奈子の事が心配か?」

「うお!?」


 明彦に急に話しかけられて驚いてしまう。


「かなり重症だな、まあ俺もなんだが」

「そうなのか?」

「一応小学生からの幼馴染なんだよ。下の名前で呼び合うくらいでそれ以上ではないんだけど」

「ああ、なるほど。明彦は何か知らないの?」

「全く。昔から何考えてるか今一分かんない性格だったから」

「そっか……」


 智春達は大広間に通され、王様やブラブンド宰相を含むこの国の偉い人達が待っていた。


「諸君、出発の時が来た。立派に力を付け魔王を打ち破る勇者として相応しいものになっただろう」


 ル・テラ32世は椅子から立ち上がり、


「この国の、いや、この世界の命運は君達にかかっている! 魔王を滅ぼし、平和を勝ち取ってくれ!!」


 周囲から喝采が上がる。それに釣られる様に生徒達も声を上げた。


 しばらく続いて静かになってから、ブラブンド宰相は今回の作戦を説明する。


「諸君らには人間領と魔族領の境界『アヴェンジ山脈』の麓、『フェアルラ』に向かってもらう。そこに魔族領へ抜ける隠し通路がある。そこから魔王軍の拠点を叩く」


 用意した紙を持ち替えながら説明を続ける。


「フェアルラまでは勇者『竹本夏樹』の『飛空戦艦』で向かう。山脈越えをしないのは迎撃される恐れがあるからだ」


 竹本夏樹のチート能力『飛空戦艦』。


 全長1㎞にも及ぶ超巨大戦艦で、空中を飛ぶことができる。見た目は思いっ切り日本の戦艦『大和』で、空中での迎撃は不得意。乗っている人達で対応するしかないのだ。


「隠し通路を抜けた後も『飛空戦艦』で敵拠点へ向かう。そこからまた拠点を各個襲撃し魔王城へ向かう。これが今回の作戦の主な内容だ」


 質問はあるかと聞いたが、聞く者は誰もいなかった。


「では、勇者諸君! 出撃------」


 

 宰相が言い切る前に、凄まじい爆音が響き渡る。



 その衝撃で城が大きく揺れ、ざわめきが起こる。そこへ兵士が血相を変えて飛び込んできた。


「報告します! 魔王が、攻めて来ました!!!」


 その言葉の意味を理解するのに一瞬だけ時間が掛かった。


 『魔王』が攻めて来た? 『魔王軍』ではなく?


「どういう事だ?! 魔王は一旦戻ったはずでは……!?」

「それが、突然城門前に現れ、一撃で城門と城壁を破壊して、侵入して来ました!」

「転移魔法か!?」

「それに、『十二魔将』もいます!」

「何だと?!」


 あまりの事態に生徒達は慌てふためいていた。


「皆落ち着け!! それぞれ練習した通りフォーメーションを組んで対応するんだ!!」


 太田が大声で指示を出す。それを聞いて冷静を取り戻し、前衛、後衛、支援のグループに分かれる。


「前衛組と後衛組は俺と一緒に迎撃に向かう。支援組は指示があるまで待機。ここで待っていてくれ」


 素早い指示で行動に移る。この数ヶ月の訓練の成果が出ているのが分かる動きだった。


「王様! 行ってきます!!」

「予定外ではあるが、頼んだぞ勇者達!!」


 前衛組と後衛組は大広間から駆け出した。



 ・・・・・



 城内はかなり混乱していた。兵士や騎士達が右往左往し対応にあたっている。


 さっきの爆発で怪我をした兵士を運び出す者、迎撃に向かう者、装備を固める者、それぞれ違う目的で動きながら大声で連絡を取り合っている。前衛組は近くにいた重装騎士に話を聞く。


「すいません! 状況は!」

「勇者様か! 城門から侵入してきた魔王が部下3人を連れて王宮に向けて侵攻中だ! おそらく部下は魔王直属の『十二魔将』で間違いない!」


 十二魔将


 魔王直属の部下で五百年その地位を守り続けている魔族最強クラスの軍団。この人族領では敵う者がいないと言われている。


「敵はどっちに?!」

「向こうの城と王宮の間にある中庭で足止めしている! 急いで向かってくれ!」

「分かりました!」


 太田は他のメンバーに指示を出す。


「前衛組と後衛組の半数で迎撃に向かう! 残りのメンバーはここで迎撃の準備をしてくれ! 俺は魔王と戦う!」

「何言ってんだ太田!? 相手の実力は分からないんだぞ?!」

「大丈夫、俺には『勇者』のスキルがある」


 『勇者』のスキルは敵を弱体化させる効果もある。例えどんな強大な相手でも立ち向かえるようになる、を有言実行した内容だ。


「いざとなったら後退するさ。先に行ってるぞ」


 太田は走って戦場に向かった。


「俺達も遅れを取るな! 行くぞ!!」


 応ッ! という掛け声で前衛組と後衛組の半数が向かう。


「それじゃあ菅田、行ってくる」

「明彦も気を付けろよ」

「分かってる。また後でな」


 前田も後続で付いていった。


 前田は後衛組で参加している。前田の能力がレベルアップしたことにより、大量の武器を一度に生成できるようになり、それを利用して後衛組に加入することとなった。


「(皆、無事でいてくれよ)」



 ・・・・・



 王宮と城は城壁で一体となっている。


 いざという時に王族をすぐ守れるようにするためだ。これは軍と王族が信頼関係を築いていなければ不可能な構造になっている。


 今回はそれが功を奏した状況だ。


 王宮にすぐに侵攻されることは無く、敵の侵入を遅らせる事が出来ている。


「重装兵前へ!! これ以上王宮に近づけるな!!」

「大弓用意!! 魔術師隊も連続発射の準備だ!!」


 王宮と城の間にある中庭で衝突していた。兵士の数は50人、全員が頑丈な鎧を着込んでいる。


「大弓、放て!!」


 一斉に矢が放たれ、標的に殺到する。しかし、



「『螺旋衝撃スパイラルブラスト』」



 大槍から放たれた衝撃で矢は全て吹き飛び、重装兵も薙ぎ倒す。そして弓兵も、魔術師隊も吹き飛ばした。


「うわあああああああ!!?」

「だ、駄目だ! 勝てない!!」

「逃げろ! 逃げるんだ!!」


 あまりの力量差に兵士達が次々に離脱する。



「何だ、もう終わりか?」



 舞い上がった粉塵から姿を現したのは黒い鎧を身に纏ったミノタウロスの戦士だった。


 その頭には大きな牛の角があり、身長は3m程度。4mはあろうかと思われる大槍を片手で振り回していた。


「もうちょっと骨のある奴はいなのかよ、弱くて話にならねえ」 


 溜め息を付きながら王宮に向かう。


 そもそもこの男、本気で攻め入ってない。本来の目的は他にあった。


「魔王様はもう着いたかねえ?」

「そこまでだ魔王軍!!」

「ん?」


 転生してきた勇者達が立ち塞がった。人数は合わせて10人。


「……ほーん、ちょっとはマシなのが来たか」

「ステータスチェックだ!」

「分かった!」


 懐からステータスチェック用のマジックアイテムを取り出し、敵の詳細を調べる。だが、


「え、は、何だこれ?」

「どうした、早く教えろ!」

「いやあり得ないってこの数字?! 絶対おかしいよ!!」

「いいから早く見せろ!!」


 混乱しているところから無理矢理アイテムを奪う。ステータスの数字は、



 ーーーーーーー


 名前:ラディオン・ミノス・ヴァルボア


  Lv:11003

  HP:67548

  MP:80990

  ATK:66002

  DEF:70043

  MATK:59022

  MDEF:60551

  DEX:45033


 ・能力

   ?????


 ーーーーーーー


 あまりの桁外れな数値に言葉を失った。自分達の数値は大きくても百単位、それなのに敵は一万台というあまりにも大きな差。これにどうやって勝てばいいのか分からなかった。


「ひ、怯むな! こんなの相手の罠に決まってる!」

「……そうだよな! いくら何でもこんな数値嘘に決まってる!」

「陣形を組むぞ!」


 前衛後衛で陣形を整え、ラディオンに立ち向かう。


「あれ? 前田は?」


 周りを見ると前田の姿が無い。


「クソ! あいつ逃げやがった!!」

「もういいか?」


 ラディオンは退屈そうに聞いた。やる気が無い。それが簡単に分かる口調だった。


「っ! 柿崎! 『神の盾イージス』だ!」

「分かった!」


 真面目眼鏡の柿崎が手をかざすと、半透明なバリアの様な物が出現した。


 『神の盾』はあらゆる物理攻撃を防ぐ最強の盾。その範囲も広く10人程度ならカバーできる。しかも味方と認識した攻撃は透過して阻害することは無い。


「(俺の『カキツバタ』と金田の『六花』が限界まで力を貯めれば真っ二つにできる! それまでは……!)」


 視線で後衛の昼馬、石堂、赤松に指示を出す。


「喰らえ『マシンガン』!」

「『レーザー砲』!」

「『ロケットランチャー』!!」


 陸上部系男子組の昼馬の『無限マシンガン』、石堂の『レーザー砲』、赤松の『無限ロケットランチャー』が火を噴く。


 永遠と尽きない弾丸とレーザー、爆破をラディオンに当て続ける。周囲の石床や花壇が木端微塵に吹き飛んでいく。近くで見ている兵士達からも期待の声が上がる。


「もうこれで決まったんじゃ……!」

「いやまだだ! あいつピンピンしてるよ!」


 後衛のギャル女子、月形が『スーパースマホ』で観測している。ダウンロードしたアプリで相手の生体反応を判別したり、マップを確認出来たりするが、攻撃的なアプリは存在していない。


「なら私の『ハイパーハンマー』で……!」

「待て池田! それは最後の切り札だ! 俺の『カキツバタ』で切り裂いた所を頼む!」

「っ、分かったよ山田!」


 野球男子の山田の『カキツバタ』は桜色の日本刀で、魔力を注入すればするほど威力が上がる。


 清楚系美女の金田の『六花』は変わって白銀の日本刀で、集中すればするほど連撃を放てる。


 それらを合わせた必殺技はあらゆる物を切る事ができる。


「今だ金田!!!」


 山田の合図で一斉に突っ込み、斬撃を放つ。確実に目視で腹を捕らえた。



 直撃した直後、高い金属音と共に二人の刀が折れた。



「……は?」

「何だ。転生者だからマシかと思ったが、勘違いだったか」


 呆然としている二人に大槍が薙ぎ払われる。


 黒板消しで文字を消すかの如く簡単に山田と金田の上半身が消し飛んだ。遅れて鮮血が吹き出し、下半身だけが地面に転がる。



 目の前で同級生が『殺された』。その事実は未熟な彼らに強い衝撃だった。



「あ、うわあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

「う、えええええ!!?」


 それに耐え切れず絶叫したり嘔吐したりしてしまう者がでてきた。


「殺しに耐性が無いのに戦うつもりだったのか? そりゃあんまりにも間抜けだぜお前ら」

「黙れこのクソ野郎!!」


 小走の『鉄骨』で5mの鉄骨を2本出現させる。両手でそれぞれ持ち、小柄な女子でありながら軽々と振り回して突撃する。


「くたばれぇぇええええええ!!!!」

「待て小走!!」


「遅い」


 目で捉える事が出来ない速さで鉄骨ごと貫かれた。貫かれた衝撃で肉体は四散し、ただの血と挽肉に成り果ててしまった。


「小走ちゃん!!」

「ほれ、次々来い」


 ラディオンは指のジェスチャーで攻撃するよう挑発する。


「こんのお……!」

「駄目だ! 俺の後ろにいるんだ!」


 柿崎が前に出ようとした池田を制止する。


「俺の『神の盾』があればまず攻撃は当たらない! その間に態勢を立て直すんだ!」

「なら俺達の能力で時間稼ぎだ!!」


 3人の猛攻が再開される。凄まじい爆音でと共に周囲が吹き飛んでいく。


「月形! お前は待機している前衛組にこの事を伝えてくれ! 応援を呼ぶんだ!」

「でも柿崎達が……!」

「このままじゃどうにもならない! 早く行ってくれ!」


 月形は下唇を噛んだ。悔しい思いを我慢しながら、


「分かった……。それまで死んじゃ駄目だからね!」


 スマホの透明化アプリで姿を消して王宮内に残っているメンバーを呼びに行った。


「おーおーカッコいいねえ。まあ賢明な判断だよ、非戦闘員を撤退させるのは定石だ」

「言ってくれるなこの野郎。だがお前もここで終わりだ!」


 『神の盾』をラディオンの周囲に展開する。まるで包み込むようにしてバリアを収縮させる。


「なるほど、壊れないから閉じ込めるのに使おうってか」

「素直に答えると思うか?」

「及第点だ。だが相手が悪かったな」


 ラディオンは槍を構えて柿崎に狙いを定める。



「『螺旋破撃スパイラルクラッシュ』」



 その一撃は全てを貫いた。



 『神の盾』を、柿崎を、周囲にいた全ての人間を、螺旋の衝撃で捻じり、巻き込み、砕き去った。



 放たれた後には何も残らず、後方にあった王宮の一部も消し飛ばした。


 ラディオンは深呼吸して満足そうに吹き飛ばした後を眺める。


「数分位の暇つぶしにしかならなかったが、今回の作戦だとこんなもんか」


 空を仰いで遠くを見つめる。


「さて、残りの連中を待つとしますか」

 


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