人族領作戦会議:前


 モルジオナ連邦 首都 サゴンジュ



 各地に現れた転移者、転生者達はここサゴンジュに集められていた。


 老若男女様々で、全員合わせて50人いる。


 だが、今は47人に減ってしまった。



 サゴンジュ 勇者神殿 



 この神殿は所謂多目的施設であり、国が認めた勇者、転移者、転生者達が快適に過ごすために作られた。


 今は勇者として扱われている47人の転移者、転生者達が住んでいる。


 今日は減った3人について話し合うために、殆どの者が会議室に集まっていた。


「今日集まってもらったのは言うまでもないけど、マルガリータ、バベッジ、メリーゴーランドの3名が戦死した。それも魔族領に入る前の魔への谷でだ」



 そう切り出したのは、転移者『クサカリ・カイト』だ。


 この47人の中で魔力量、スキル数、魔法魔術会得えとく数は全て最多で、最強の戦闘力を持っている。



 カイトの報告で、まだ知らなかった者はざわついた。


「それは不意打ちか?」


 発言したのは黒い鎧で全身を包んだ騎士『ヴェルドフ』だ。


「残念ながら、正面から戦ってです。これから説明します」


 カイトは魔道具で作ったスクリーンを起動させ、会議室の壁に映像を映す。


「これは僕が出した使い魔から送られてきた映像です。彼らが魔への谷に入った所から記録されています」


 

 そこに映し出されたのは、軍が死体達によって全滅し、巨大な鬼を仕留め損ない返り討ちにあって3人が敗北する光景だった。



 反応はそれぞれで違った。


 あまりの残酷さに目を逸らす者、鬼の強さに恐怖を覚えた者、凝視して3人を不甲斐ないと思う者、巨大な鬼に興味を示す者、淡々とその事実を受け入れる者。


 カイトは事実を淡々と受け入れていた。



 最後にバベッジが穴に落ちていく場面で、映像は終わった。


「以上が魔への谷で起こった全てだ。それを踏まえてこれから作戦会議を行う」


 この発言で一部の転移者、転生者達がざわついた。


「待ってくれよカイト! さっきの見せておいて戦おうとか言うのか?!」


 そう反論したのはスキル『ジュース生成』を持つ転移者『アキヅカ・エイジ』だった。


「そうだが?」

「そうだがじぇねえよ!? 3人がかりでも倒せない様な奴が門番やってんだぞ! 魔族領の中にはもっと強い奴がいるってことじゃねえか!!」

「エイジ、落ち着け。俺たちはマルガリータ達よりずっと強くなっている」


 カイト達はマルガリータ達が魔への谷に移動している間、首都で自分達の能力を把握、向上を行っていた。


 現在は個々の能力が最大にまで上達し、全員がそれぞれどんな能力を持っていてどんな戦闘スタイルをしているのかを把握している。しかし、戦闘に不向きな者もいるのは確かだ。


「それに、エイジは今回の作戦では首都で待機だ。安心してくれ」

「そういう事を言いたいんじゃなくて! このまま行っても勝てる見込み無いんじゃないかって言いたいんだよ!!」

「過信はしていない。が、確実に勝ちに行くつもりだ。それを今から説明する」


 エイジの必死の意見を聞いた上で、カイトは作戦会議を進める。


「まずはこれを見てほしい」


 スクリーンの映像を切り替えると、世界地図が映し出された。魔族領の全ての大陸を含めた物だ。


「これは先日博士が完成させた世界地図だ。人工衛星からの高性能写真を繋げたもので、かなり高い精度を持っている」


 長く細い棒で大陸間の中央、何も無いように見える海域を差した。


「博士が言うには、この海域から強力な魔力反応があったそうだ。ここに魔王がいると推測される」

「大陸も島みたいのも映ってないぞ?」


 転生者の一人が質問する。


「おそらく何らかの方法で不可視にしているんだろう。現地に行って探すのが一番手っ取り早いが、そうもいかないからな」


 カイトは魔王がいると思われるエリアでは無く、大陸に点在する都市の様な場所をズームした。


「まず攻略するのは各地に存在する地方都市だ。ここに奇襲をかける」

「待て待て、カイト」


 意見したのは転移者、老騎士『バーウィン・マーシャル』だった。


「どうやってその都市に行くつもりだ? まさか【飛行】で行こうなんて言わないだろうな」

「まさか。それこそ愚策ですよ」


 カイトは素っ気ない態度で話を進める。


「今回は博士が用意してくれた『転移装置』で行きます。各都市へそのまま転移して、主要機関を破壊。成功したらまた転移で戻ってきてもらいます」

「転移装置?」


 首を傾げたのは、大男で専用武器『牛王の大斧』を持つ『ボロック』だ。


「実際に見てもらった方が早い。皆付いて来てくれ」



 ・・・・・・



 カイトが案内したのは、神殿内にある『博士』と呼ばれている転生者の研究室だ。


 研究室と言っても、神殿の中庭にあり、プレハブ小屋が建っているだけだ。その周りに研究で作った物が大量に置いてある。一目見ただけでは何の用途に使うのか分からない物ばかりだ。


 カイトは小屋のドアをノックする。


「博士! 転移装置について説明を頼む!」


 しばらく間が開き、もう一度ノックしようとした時にドアが開いた。



 出てきたのは、まだ年端もいかない少年だった。

 見た目と合っていない服のチョイスで、あちこちボロボロだった。



「カイトか。転移装置ならあっちだ」


 博士はプレハブ小屋の裏側へ案内し、とある装置の前で立ち止まった。埃防止のシートが被せてある。


「これが『転移装置』だ!!」


 博士はシートを思いっきり外し、装置の全貌を露にする。



 見た事の無い台座の上に、高さ5mはあるガラスの円柱が設置してあった。台座には大量のコードが接続されており、如何にも未来の機械と言った代物だった。



「このカプセルの中に入って指定した座標を送れば転移できる装置だ! しかも魔力コストも低く何回でも転移し放題! 魔力波長を覚えさせた生物ならこっちに呼ぶ事も可能なのだ!!」


 博士が熱弁している内容が全く理解できない者が結構多く、かと言ってこれ以上分かり易い説明も無いので補足する事が無い。そのため、反応がまちまちである。


 カイトは仕切り直して、作戦の説明に戻る。


「皆にはこれを使って魔族領の都市に奇襲を仕掛けてもらいたい。グループはこちらで決めておいた」


 【収納空間アイテムスペース】から紙の束を取り出し、各自に配っていく。


「このグループ分けは相性が良く、連携効率が良い人達で分けている。一度それぞれのグループで打ち合わせをしておいてほしい」

「作戦開始は?」

「4日後を予定している。あまり期間を開け過ぎると情報が変わってしまうからね。それまでに衛星画像、写し絵で転移先とその周囲の状態を頭に入れておいて欲しい」


 他にも細かい説明をして、解散となった。



 ・・・・・・



 その日の夜


 カイトは会議室で細かい調整を行っていた。手元で衛星画像を映しているタッチパネルを操作している。


「カイトー」


 会議室に入って来たのは、かなり小柄な女性だ。一見少女と見間違えそうだが、顔立ちと大きな胸で違うと分かる。


 この女性も転生者で、全体で見て3番目にあたる強さを持っている。


「どうしましたかアンシェヌさん」

「ちょっと気になった所があって。世界地図出してー」


 カイトはスクリーンに世界地図を映した。アンシェヌはスクリーンに近付いてある場所を指差した。


「ここ、ここ拡大して」


 指差した場所を拡大していくと、あるモノが見えてきた。


「ちょい下ー、そうそう、……ここでストップ!」



 そこに映し出されたのは、巨大な少女が浮いている姿だった。



 カイトもこれには気付いていなかった。


「……これは一体」

「私この子に会いたい」


 アンシェヌは真顔でカイトを見つめる。


「……容認しかねます。どんな危険があるか」

「それでも、私はこの子に会いたい」


 2人の間に沈黙が流れる。しばらく互いに黙って見つめあい、カイトは溜め息をついた。


「……分かりました。ですが、危なくなったら有無を言わさず帰還させますから」

「ありがとう」


 アンシェヌは微笑んで会議室を後にした。


「これは再調整かな……」


 カイトは黙々と作戦を組み直すのだった。



 4日後



 調整を繰り返し、作戦決行の日がやってきた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る