人族領作戦会議:後


 作戦決行当日 明朝


 転移者、転生者達47人全員が集まっていた。

 カイトは全員が集まったのを確認し、拡声器を取り出した。


「皆、おはよう。全員遅刻せず集まってくれて何よりだ」


 カイトが喋りだすと、全員が静かに傾聴する。それほどまでにカイトは認められているのだ。


「今日の作戦は第1段階だが、成功すれば今後を有利に進められるだろう」


 静かな口調で喋り、これから行う作戦の意義を語る。


「けど、未解明な部分が多いのも確かだし、危険が常に付きまとう状況に皆を置いてしまうだろう。本当に危なくなった時は、遠慮無く逃げてほしい」


 懐から小さな耳栓の様な機械を取り出した。


「これを使えば連絡が取れる。1日中皆からの報告を受け取っているので、いつでも連絡して欲しい」


 カイトが説明している間に、博士が通信機を全員に配る。


「それでは、順次グループ毎に転移を開始する。各自、最後の準備を頼む」



 ・・・・・・



 各々準備が終わり、グループ毎に転移を始めていく。


 最初は半信半疑だった者もいたが、先日カイトが転移装置で遠くまで転移するのを実践したため、疑う者はいなくなった。

 最初のグループが入り、博士が転移装置を起動して転移させていく。


「順調だね、博士」

「うむ、バイタルも安定してるし、問題は無さそうだ」


 今回カイトは首都で待機し、緊急出動要員として動く予定だ。

 全てのグループが上手くいくとは限らない。作戦に失敗する可能性もある。

 それを回収するために最強の実力を持つカイトがこの配置になった。


 最後のグループが転移し、全グループの状態を確認する。

 転移した全員の装備にバイタルチェックする装置を取り付けており、いつでも状態を確認できるとうにしてある。もちろん博士の発明品だ。


「全員と連絡は取れるか?」

「今チューニング中、もうちょっと待って」


 博士が通信基地となる通信装置を調整し、全員の通信を繋げていく。


 だが、中々繋がらない。それどころか砂嵐の様な雑音が酷い。


「……応答が無い。何かあったか?」

「何だろうね、ノイズが酷い。再チューニングする」


 博士が何度か調整するが、まだ雑音が鳴りやまない。

 しばらくすると、


『…………ふ……は……』

「やっと繋がった。こちら博士だ。どのグループか応答求む」

「…………?」


 この時点で、カイトはこの声に聞き覚えが無い事に気付いた。


 声が鮮明になっていくほど、それは確信に変わった。



『フフ、フハハハハハハハハハハ!!!!! 貴様、聞いているな!!!』



 全く聞いた事の無い声にカイトと博士に緊張が走る。


「誰だお前?」

『私の名は十二魔将、フェニーチェ! お前達の敵だ!!』

「十二魔将……」


 この国の最高司令官が言っていた、魔王直属の配下、選ばれし12体の魔族。

 カイトはそのまま通信を続ける。


「どうしてお前が通信している?」

『知れた事、似たような物がこちらにもあるからだ』


 カイトはいつも素っ気ない表情をしているが、今回に限っては曇っていた。


「(迂闊だった。魔族の技術レベルを見誤っていた)」

(カイト、とりあえず皆は無事だ。)


 小声で博士が話しかける。どうやら装備に付けた装置からの発信は問題無さそうだ。

 カイトは気を取り直して通信に戻る。


「皆は無事なんだろうな?」

『おいおい、何か勘違いしてないか? 私はただお前達と喋りたいだけだ』

「どういう事だ?」

『私は仕事をさぼりたい。そのためにお前達を利用させてもらうだけだ!!』

「………………」


 あまりにもふざけた理由で返す言葉が見つからない。

 

 カイトが困惑しているのを他所よそに、博士が質問する。


「そもそも、どうやってここまで嗅ぎつけた? 同じ物があってもそう簡単に繋げられるわけないだろう」

『おお、良い所を突いてきたな! だが教えてやらん! 面倒だからな!』


 意気揚々と答えているが、どうも裏があるのを感じる。

 カイトと博士は目で会話し、敵との通信を長引かせないようにすることにした。転移させたメンバーとは改めてかけ直す事にする。


「悪いが仲良く話す道理はない。切らせてもらう」

『おおそうか! なら最後に転移させた連中について教えてやろう!』

「何?」


 カイトは食い気味で聞くが、敵からの情報なのであまり期待はしていない。


『転移させた連中は無事魔族領に到着している。帰還できるかどうかは別だがな』

「甘く見ないでもらいたい。俺たちを過小評価すると痛い目を見るぞ?」

『フハハハハハ! その言葉そっくりそのまま返してやろう! その内結果も分かるだろうから、楽しみ待っているといい!』

 

 腹の立つ笑い声と共に、通信が切れた。


「博士、もう一度皆と通信を」

「もうやっている。こんな事もあろうかと別のチャンネルを用意しておいた。もうすぐ繋がるはずだ」

「頼む」


 カイトは冷静さを取り戻しつつ、全員の強制帰還も視野に入れて作戦を立て直す。


「(さて、どうしたものか……)」



 ・・・・・・



 バーウィンが目を開くと、そこは見た事のない場所だった。


 とりあえず転移に成功した事に胸をなでおろした。だが、周囲を見渡すと、違和感があった。

 周りを一周する円形の巨大な石造りの建物の中にいる。


 一緒のグループになった他の3人も同じ様に違和感を感じている。


「なあバーウィン爺さん。ここ目的地と違くねえか?」


 十字仮面の鎧騎士『ピュルス』が問いかけてくる。


「うむ、確かに妙じゃ。本当なら都市の目立たない場所に転移するはずだったのじゃが……」


 4人は都市のあまり目立たない場所、居住区の暗い場所に転移するはずだった。

 しかし実際はまるで違う場所にいた。


「もしや、座標とやらが間違っていたのかのお……」

「冗談キツいって……」

「……どうやらそう単純な話じゃないみたいですよ」


 治癒師『ミシェル』が通信機を耳にはめながら呟いた。


 3人も通信機を耳に入れるが、聞こえてくるのは雑音だけだった。


「こっちは故障か?」

「どっちかというと、周波数が合ってないのかもしれません。って言っても分かりませんよね」

「馬鹿にすんな! それくらい分からあ!!」


 ピュルスが大声で怒鳴る。

 しかし元いた世界の技術と比べると進み過ぎているため、ほとんど理解できていない。


「やかましいぞピュルス。俺たちはもう敵地のド真ん中にいるんだ。警戒を怠るな」


 それを制したのは漆黒の剣士『ダルク・モーガン』だった。転移転生者達の中でも上位の実力者だ。


「ダルクの言う通りじゃ。慎重に行かんと危険かもしれん」

「……分かったよ」


 ピュルスは渋々了承する。


「で、これからどうする? ずっとここにいるのもヤバいだろ?」

「そうじゃな、とりあえずここから出て外の様子を知りたい。どうじゃろう?」

「いいんじゃないですか。僕は賛成です」

「俺も爺さんの意見に賛成だ。ずっと留まるのも見つかりそうだしな」

「……残念だが、もう手遅れみたいだ」


 ダルクが建物出入口に対して剣を抜き、臨戦態勢に入った。


「……みたいじゃの」

「ああ、マジかよ」

「……これはいけませんね」


 バーウィンは臭いで、ピュルスは気配で、ミシェルは音で感じ取った。それぞれ武器を構え、攻撃に備える。



 その直後、出入り口から一斉に魔族達が雪崩れ込んで来た。



 その数100体。全身に頑丈な鎧を身にまとい、自身の体より大きい盾を持ってバーウィン達を取り囲んだ。


 最後に、3mもあろう牛頭の大男が現れた。その手には自身の身長よりも大きい大槍を持っていた。

 その隣には小柄なゴブリンの姿もあった。

 

「異常転移反応があったから来てみれば……。まさか本当に転移者が来てるとはなあ」

「信じられませんが、ここまで来たら腹を括りましょう。ラディオン様」

「そうする」


 ラディオンと呼ばれた牛の男は大槍をバーウィン達に向ける。


「おいお前ら。どこの誰だ? 何の用件で来た?」

「……魔族に語る名は持ち合わせておらんよ」


 バーウィンが答えた。

 さっきまでただの優しい老人の様な表情は消え、憎むべき仇と対峙した様な形相だった。


「(魔族。ワシの故郷を奪い、蹂躙した貴様らを決して許しはしない。それが例え異世界であろうとだ)」


 ラディオンはバーウィンの瞳から滲み出る殺気を感じ取り、対話は無理だと判断した。


「じゃあ、他の連中は?」


「我らが神に反逆せし異端者に教える道理はない!」


 ピュルスもバーウィンと似た理由で敵対する。


「同じく、僕も魔族好きじゃないので」


 ミシェルは微笑みながら答えた。


「俺も喋るつもりはない。何せそういう契約だからな」


 ダルクはまた別な理由で断った。


 ラディオンは頭を掻いた。


「そうか。全員敵なのか」


 大きな溜息をついて、大槍を構えた。


「それじゃあ今から倒す。殺されても文句は無しだ」


 隣にいたアバンギャルも戦闘態勢に入った。




 転移転生者に対して、ラディオンとアバンギャルの闘技場での戦いが始まった。


 

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