テルモピラーの戦い:Ⅲ



 レオールが回復した後も、テルモピラーからの総攻撃は止まない。魔術弾、矢が絶え間なく襲い掛かり、反撃を許さなかった。


 マルガリータ達は前進したかったが、テルモピラーまで目測800mまであり、その途中にはレオールがいる。


 連携という概念が無い3人では突破は難しいと薄々感づいている。


 マルガリータは少し苛立っていた。


「(ここまで俺の見せ場が無いではないか……! 何とかしてこの2人より先に戦果を上げなければ……!!)」



 ここに連れて来たあの女神。


 一番活躍した者に永遠の栄誉と富を与えると宣言していた。



 マルガリータがこの世界に来ることを承諾した一番の理由だ。


 元いた世界では上級貴族として暮らしていたが、王族にはどうしても勝てなかった。だからこの異世界で戦果を挙げ、誰よりも偉い人間になると誓ったのだ。

 

 だが、今現在まで目立った戦果を挙げる事はおろか、何もできないままでいる。

 その事に焦り、苛立っている原因にもなっている。



 そんなマルガリータを他所に、バベッジはレオールを監視していた。


「(……動かないか)」


 トドメを差す機会を逃し、距離を取られてしまった。早々にトドメをさせなかった自分も悪かったのだが、頭部だけは紙一重で全て躱されていた。心臓を何度も突いたが、筋肉と骨が異常に硬く、何度も攻撃したが貫けなかった。


 そのせいでメリーゴーランドの機嫌はすこぶる悪い。どう見ても眉間にシワが寄っているし、凄い握力で握っているせいか、あの女神から貰った大剣『彼岸への手向たむけ』を持つ手に明らかに血管が浮き出ている。下手に声を掛ければこちらが殺されかねない雰囲気だ。


「(どうにかこの状況を打開して、機嫌を直してもらわねば)」


 視線を戻すと、レオールが上空を見上げた事に気付いた。


「上……?」


 バベッジも釣られて上を見た。



 ・・・・・・



 レオールが全員に作戦を伝え、テルモピラーにいる兵士全員が慌ただしく動いていた。


「魔法陣用意!! 1秒でも早く準備するんだ!!」

「予備の魔造石こっちに回して!」

「弾倉倉庫から持って来て! 数がギリギリだ!」


 各所の兵士達が声を上げてそれぞれの状況を報告し、助け合いながら物資の運搬、追加の魔法の準備などに取り掛かっている。


 それをテルモピラーの指令代理を務める『アッカード』が取り仕切っていた。


「ボックス1、2、3は幕壁部隊に物資運搬! マジック1、2はレオール様から注文された物を大至急作成! ボックス4はマジック1、2への物資運搬に専念! ドール1、2は準備完了次第報告! ボックス5、6はレオール様の支援要請があった物を射出準備! 射撃部隊はそのまま攻撃続行! スキャン1、2、3、4もそのまま監視続行! 私も作成作業に参加する!」


 素早く指示を飛ばすと、全員が最短で移動し、10分足らずでこなしてしまう。



 そして、伝声管から各所から大声が響いた。



『こちらドール1! 準備完了! いつでもどうぞ!』

『こちらマジック1、2! 準備できました! どうぞ!』

『こちらボックス5、6! いつでも出せます!』

『こちら射撃部隊のイーグル1。全ての弾倉を受け取りましたどうぞ』


 

 全ての準備が整ったのを確認し、【念話テレパス】でレオールに伝える。



『全員準備完了しました! 後は開始の合図だけです!』


 アッカードの言葉を聞いたレオールは、静かに答える。



「これより緊急迎撃作戦を開始する!」



 テルモピラーからの総攻撃の下、改めて指示を入れた。



「行動、開始!」



 レオールの合図と同時に、テルモピラーから大型の物体が射出される。


 その着地点を見定め、自分の周囲に落下するのを確認した。


 上空を見上げると、それは綺麗な弧を描きながらレオールの真横に落下した。着地の衝撃波と轟音と共に土煙が上がり、見事に地面にめり込んでいた。レオールはそれを片手で掴み、一気に力を入れる。


「……ぬうん!!」



 目一杯の力で引き抜いたのは、既に持っている金棒と全く同じ金棒だった。



 自身の背丈程ある突起が複数付いた金棒。見間違える事無いそれはレオール専用の金棒だ。


「(本来予備で置いてあった武器だ。まさかこんな事で日の目を見る事になるとはな)」


 金棒を2本を両手に持ち、軽く振って感触を確かめる。


「(問題無さそうだ。次は……)」


 金棒を持って構えを取る。そして、新たに指示を出す。


『ドール1、2。今だ!』


 【念話】で指示を出し、次の段階に入った。



 ・・・・・・



 遠くからレオールが金棒を2本持ったところを見ていたバベッジとマルガリータ、そしてその横で大剣を愛でる以外目立った行動をしないメリーゴーランドが警戒を強めていた。


「金棒を2本持ったところで何が変わる? さっきと同じ目に合わせて今度こそ殺してやる!」


 マルガリータが意気込んでいる横で、バベッジは何か嫌な予感がしていた。


「(何だ。何か悪い予感がする)」


 周囲を見渡しても怪しい物は無い。前方からの遠距離攻撃以外異常は無い。だが、ずっと背中に纏わりつく悪寒が収まらない。そして、何かを失念していないかと不安になってくる。


「(貴族の嗜みとして下等種族を山ほど殺してきたが、こんな感情は初めて大型モンスターと対峙した時以来だ……!)」


 メリーゴーランドに視線を向けるが、彼女は目の前のレオールに集中している。バベッジ自身が感じている予感には気付いていないだろう。


「(何だ、これは。 一体何が起きようとしている……!)」



 バベッジが困惑している最中に、地面から手が飛び出し、バベッジの足を掴んだ。


 それを皮切りに、一気に大量の屍者達が沸き上がった。



「な、にィィィィィ!!?」


 彼が忘れていたのは、魔への谷に入ってから罠として設置されていた動く死体達だ。


 絶叫する彼らを死体達は問答無用で引きずり込もうと押し寄せる。跳躍が遅れた3人は死体達に掴まれてしまう。


「この、汚らわしい屑共が!!!」


 

 『流体金属:斬撃』!!!



 バベッジは自分の周囲に集まった死体達を流体金属で切り刻んでいく。


「寄るな愚図共!!」


 

 【ウォータードラゴンバレット】!!!



 マルガリータも水の球体を死体達に高速で射出し、粉砕していく。


 メリーゴーランドは大剣を振り回して死体達を吹き飛ばした。


 だが死体達はまだ湧いてくる。


「こいつら鬱陶うっとうしいわ!!」


 さっきまでの苛立ちを含めてむやみやたらに大剣を振り回す。

 

 振り切ったと同時に、大剣に大量の死体がしがみつき、バランスを崩してしまった。


 そのままよろけてマルガリータとバベッジから距離を離されてしまう。


「(まさか、分断が目的!?)」


 気付いた時にはもう遅く。死体が一気に溢れ出し、一つの大きな壁になった。


 死体の上では分が悪いと考え、地面のあるテルモピラー側へ飛び移る。自分の身長よりも高く飛び上がり、死体からの拘束を振り切った。テルモピラーからの攻撃はバベッジの『流体金属』が防御してくれている。



 着地すると、目の前にレオールがいた。



「(あの魔族のせいで服が汚れた……。この私の美しい衣装が……!)」


 沸々と怒りが湧き、大剣に力を入れていく。


 

 飛び掛かろうとしたその時、レオールの背中に弾丸が当たった。



 メリーゴーランドは踏みとどまって、様子見をする。弾丸をよく見ると、何か注射器の様にも見える。


「(何のつもり?)」


 あれだけ正確に打ち込んできた射撃が今になって狂ったとも思えない。



 すると、レオールの全身から血管が浮かび上がり、まだ完全に塞がっていない傷口から血が出始める。



 その流れた血は地面に落ちることなくレオールの身体に纏わりつき、形を成していく。


 更には、視線の端で、何か蠢く物を見た。それはレオールがさっきまで流していた血液だ。一滴残らず集まっていき、まるで鎧の様になっていた。



「何、何をしているの?」


 その異常な光景にメリーゴーランドは声を漏らした。


 レオールから漏れ出す『何か』で足が竦み、動きが鈍くなる。ただレオールの姿が変わっていくのを見ている事しかできなかった。



 そして、全ての血がレオールを包んだ。



 その姿はまさに『鬼』。


 深紅の血がなぞる様に鎧と化し、乱雑についた細かい溝はまるで血管の如く躍動し、されど無二の強固さを主張している。


 それは顔面にも及び、顔全体を仮面の様に覆い、怒りと殺意を形作ったような表情をしている。


 金棒にも突起部分全てに棘の様に纏わりつき、唐草模様を描いていた。




 『闘鬼再臨とうきさいりん地獄鎧じごくがい紅血こうけつ』!!!!!




 その雄叫びは谷を揺らし、転移者達を威圧する。


 呆気に取られていた3人だったが、先に動いたのはマルガリータだった。2人は死体の山を全員沈黙させ、普通の地面に立っていた。


「その程度のこけおどし! 俺に通用すると思ったかゴミカスがあ!!」


 レオールに手をかざし、巨大な水球を作り出す。


「喰らえ! 【ハイパーウォータードラゴンキャノン】!!」


 水球から巨大な龍が飛び出し、レオールに向かって一直線に突撃する。



 『紅蓮双撃ぐれんそうげき・地獄堕』!!!



 赤く染まった2つの金棒を振り下ろされ、水の龍と激突した。



 しかし、勝負にはならなかった。


 圧倒的なレオールの力で、水の龍は消し飛んだ。



「な、あ、俺の、最高威力の魔法が……!」


 マルガリータは愕然としていた。バベッジも今の結果には驚きを隠せなかった。


「(馬鹿な、マルガリータの【超水龍砲】は飛距離があればある程威力が増す魔法だ。ここからだと目測でも200m程度。最高威力には十分到達していた。それをたった一撃で……!)」


 バベッジは『流体金属』で防御に専念していたが、攻撃の手段を取り出す。


「(『鉄線雨メタルレイレイン』ならば、あの鎧の隙間を通って奴の体の傷口に入れる。そして内部から破壊する!)」



 ・・・・・・



 レオールが攻撃を放った直後、前方2人の動きが無くなったのを確認する。


「(片方は折れたか。もう一方は、何か仕掛けてくるか?)」


 

 動きを予測している最中、メリーゴーランドが大剣を振り下ろす直前まで来ていた。



 レオールは咄嗟に金棒で防御する。


 武器同士がぶつかった余波で、周囲の地面が吹き飛んだ。


「……やはりその大剣、複数のスキルを持っているな?」

「だったら何だと言うのかしら?! ここで死ぬのだから知る必要は無いでしょう!!」


 重量のある大剣を軽々と振り回し、連続でレオールに斬撃を入れていく。レオールも2つの金棒で応戦する。


 武器が猛烈な速さでぶつかり合い、凄まじい金属音が谷中に響き渡る。


「(何こいつ?! さっきよりもずっと速い!?)」


 攻撃を入れても片方で捌かれ、もう一つの方で攻撃を入れられそうになりそれをギリギリで防御する。相手の手数が増えた事で攻撃も防御もできるようになり、メリーゴーランドの対応が遅れ始めている。加えて、明らかに動作速度が上がってきている。


「(どうして!? どうして!!?)」


 徐々に押され、一歩、また一歩後退する。


 焦りが心に生まれ、汗が滲み、息が荒くなる。気付けば、メリーゴーランドは防御で精一杯になっていた。


「(これだけ動いて、止まる様子が無い?! どうなってるの!?)」


 攻撃が始まってから既に何分も経っている。それなのにレオールは止まるどころか速度を上げている。普通なら遅くなって隙が生まれてもおかしくない。


「(何か、何か秘密が……!)」


 視線を少し変えてレオールの鎧を見る。



 目を細めると、鎧が少し躍動しているように見えた。



「(……まさか)」



 メリーゴーランドは一つの可能性を考えた。


 しかし、だとしたら、これは相当マズい状況に立たされている事になる。



「(まさか、鎧を動かして無理矢理動作速度を上げている!?)」



 さっき見た『衆合地獄・鉄血山』と同様に血を操れるとすれば、鎧そのもので自分自身を操作している。


 そうだとすれば、自身への負担を無視して攻撃の速度を上げ、こちらが対応できなくなる速度に到達する可能性がある。


 早々にその事に気付いてしまったのが災いし、焦りが顔に出てしまった。


「気付いたな。だがもう遅い」


 表情で焦りを見破られ、一気に加速していく。


 メリーゴーランドは大剣を盾の様に構え、猛攻に備えた。レオールは容赦なく2つの金棒を叩き込んだ。



 

 『双乱そうらん血闘太鼓けっとうだいこ』!!!!!




 打ち込む姿はあまりの速さで分身し、赤い影が絶え間なく叩き続ける。


 衝撃は何百にも重なり、巨大な衝撃となって押し潰そうとする。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」


 レオールの絶叫がさらにその圧を上げていく。


 メリーゴーランドはこれに耐えようと大剣を持ち続ける。


「(耐えろ! こいつの連撃だって永遠ではないはずですわ! いずれ限界が来る!)」


 大剣『彼岸への手向け』は決して折れない。相手に苦痛を与える鋸刃のこばの剣であり、女神の加護を持つ最強の剣だからだ。


 今は盾として使っているが、折れないなら防御手段としてはかなり有効だ。


「(もう少し、もう少しだけ……!!)」



 突然、彼女の体から力が抜けた。



「(な、に?)」


 痺れと倦怠感が襲い掛かり、全身が脱力し始める。


 上手く立っていられなくなり、その場で膝をついてしまった。


「(何が、起きて、いるの?)」



 勝手に脱力していく中で、大剣から伝わる感覚だけが大きくなってくる。



「(何、体中に、振動が)」



 彼女は見落としていた物に気付いた。


 

 何故金棒にまで血を張り巡らしていたのか。


 それが何の意味を成しているのか。


 

 あの突起に付いた血は、振動していたのだ。


 武器がぶつかる度に振動が伝えられ、メリーゴーランドの全身に微弱なダメージが与えれていた。


 それがこの連撃で加速し、とうとう限界に到達してしまった。



 その結論に至るまでに、大剣を持つ指にも痺れが来た。


「(マズい。このままだと、先に私が、負ける……!!)」

 

 

 その時、バベッジが動いた。




 一瞬、『流体金属』の防御を開けてレオールに狙いを定める。



 『鉄線雨』を放つために掌に溜めた流体金属を投げようとする。



 大きく振りかぶった瞬間、テルモピラーから一筋の閃光が放たれた。



 閃光は開けられた隙間を縫って、バベッジの腹部に直撃する。



「がは、あ!!?」


 バベッジは直撃した衝撃で吐血してしまう。


 腹部に直撃した物は、弾丸だった。


「ば、かな、流体金属の、自動防衛が、起動、しなかった、だと」


 出血する腹部を抑えながら驚愕していた。倒れそうになりながらも、意識を保とうと必死に堪える。持っていた『鉄線雨』は地面に落ち、他の2人を守っていた流体金属が崩れ始める。


 更に、弾丸が当たった部分を中心に氷結が始まっていた。血は凍り、肉も動かなくなっていく。



 ・・・・・・



 テルモピラーで弾丸を撃ち込んだエパは、弾丸に仕込んだ魔法を起動させる。


「花開け、【絶対零度のスノウフラワー・六花結晶アブソリュート】」



 ・・・・・・


 傷口から氷の結晶が生え始め、バベッジを凍らせていく。


「追い打ち、か。おのれ、下等種族……!」

「おい! 何やってる!? ちゃんと俺を守れ!!」


 マルガリータがバベッジに掴みかかった。


 マルガリータの【水魔法】だけでは見えない弾丸に対抗する手段が無く、蜂の巣になるのは時間の問題だろう。


 バベッジも抵抗したかったが、腹部の痛みでそんな気力は残っていない。


「何とか言えこの愚図!!」


 大きく揺さぶりながら必死の形相で詰め寄っていた。


 

 マルガリータの太ももに、弾丸が直撃した。



「あ?」


 視線を下すと、太ももを見事に貫通し、派手に出血しているのが見えた。


「あ、ぎゃああああああああああ!!!?」


 マルガリータは激痛に耐え切れず、地面に転がった。


「痛い! 痛い痛い痛い!!!」


 泣きべそをかきながら這いずり回り、出血した所を掴む。太い血管に穴が空いたため出血が止まらない。


「畜生……! どうして、どうしてこんな事に……!!」


 テルモピラーからの攻撃は止まず、肩や腕、腹に足と全身に直撃が続く。


「あ、が、ぎぃ! うぐえ!!」


 直撃する度に体が跳ね、鮮血が噴き出す。


 マルガリータは数秒で弾丸を全身に受け、動けなくなった。それでもテルモピラーからの攻撃は続き、まるで動かない的に撃って競っているような状況だった。


「あ、そんで、いる、のか」


 動きが悪くなるバベッジには一切の攻撃が止み、マルガリータにだけ攻撃が集中している。バベッジはその様子を見る事しかできなかった。


 

 弾丸と矢がマルガリータを人の形から遠ざけ、ボロ雑巾の様になっていく。

 そして、マルガリータが虫の息になったところで、弾丸が頭部を集中砲火し、木端微塵に粉砕した。



 殆ど人の形を成していないマルガリータの死体を見届けながら、全身が凍り付き、バベッジも動かなくなった。




 メリーゴーランドは2人が死んでいく様を見ながら、次は自分の番だと思い、背筋が凍った。



 片手は使えなくなり、持っているもう片方の手も親指と薬指だけで持っている状態だった。


 連撃は止まず、大剣は大きく揺れ始めていた。



 そして、大剣を離してしまった。



 レオールは金棒を止めず、メリーゴーランドに撃ち込んでいく。



 メリーゴーランドは魔法を発動するのも間に合わず、動きたくても体が言う事を聞かないのを理解していた。


 

 勝てると踏んでいた勝負で負け、殺される。

 こんな事が許されるわけがない。

 これは何かの間違いだ。

 あっていいはずがない。



 否定の言葉を頭の中に浮かべながら、レオールの金棒の攻撃を直撃した。



 音速に近い速さで撃ち込まれる連撃は、少女の体を骨の一片まで残さずり潰した。



 レオールが止まった頃には、巨大なクレーターができていた。



 ・・・・・・



 数分後


 レオールは紅血を外し、バベッジの傍に近付いていた。



 『蛮族ばんぞくまつり火・小』



 口から小さく炎吐き、バベッジの頭を溶かす。


 すると、バベッジの口が動いた。


「なんの、つもりだ」

「お前を拘束する。色々聞きたい事があるからな」

「……ならば、先に、聞かせろ」


 バベッジはレオールを睨んだ。凍って動かしずらい口を無理に開けて喋る。


「どうして、【防壁】も、『流体金属』も、貫通できた?」


 その質問にレオールは目を少し開いた。


「……気付いてないのか?」

「な、に……?」



「お前達の【防壁】。あれは確かに強力な防御魔術だが、『攻撃を加える対象、又は攻撃をしてくる武器を視認』できていないと起動しない欠点がある」



 その発言にバベッジは言葉を失った。自分達の知らない欠点をあの短時間で見破ったからだ。


「ば、かな。威力が、強かっただけでは、ないのか?」

「【防壁】が破られたかどうかも気付いていなかったのか……。あれは一点集中防御型の魔術だからな、拡散した攻撃にも弱い傾向がある。鉄血山で砕けていたからな」

「で、では、自動防御が起動、しなかったのは……?!」

「あの液体金属か。あれは温度で反応していた。だから『隠蔽』スキルで隠した絶対零度の弾丸を使って反応しないようにしたのだ」

「ど、うやって、分かった。俺でも、知らなかった、ぞ」

「最初の俺の攻撃で反応が遅れていた。魔術弾には反応が速く、『地獄堕』で反応が遅かったという事は『魔力』、『熱』、このどちらかで反応していた事になる。だから魔力を持たせず冷やした屍者で確認した。足を掴むまで行けたという事は温度で判断していると踏んだ」

「…………ま、さか、そんな」


 自分達の力を過信した結果だった。


 ろくに自分達の能力の下調べをせずに、勝てると過信して突っ込んでいったのが敗因だ。


「さて、ここから運ぶのも面倒だ。このまま落とす」

「?」


 レオールが蹴りを入れ、沈黙している死体の山にバベッジを放り込む。


 すると、死体と共に地面に沈んて行く。


 沈んだ先には、巨大な地下空間が広がっていた。地下通路の様な構造で、テルモピラーまで続いている。


「そ、うか、死体共は、ここを通って……」

「はいはーいもう黙ろうか」


 シィカがバベッジに幻術をかけ、そのまま眠らせる。それを屍者に持たせ、テルモピラーに向かって運んでいく。



 ・・・・・・



 地上にいるレオールは大きく深呼吸して、心を落ち着かせた。


「(今回は何とか勝てたか……。十二魔将の名が泣く)」


 どこか余裕を持って勝てると慢心していた気がした。


 そのせいで窮地に立たされ、命を落としかけた。


「(まだまだ修行が足りない、か)」


 無理に動かした身体が悲鳴を上げ始め、動きが悪いのを感じた。傷口も所々開き始めている。


「早く戻るとしよう……」


 フラフラと歩きながら、テルモピラーへ帰還するのだった。



 こうして、テルモピラーの戦いは決着した。



 ・・・・・・



 テルモピラーの戦いを、一羽の鳥が見届けていた。


 レオールが帰還する姿を最後にその場から飛び去って行った。


 その鳥は、モルジオナ連邦へと飛んで行く。



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