魔法使いの魔王


 魔法には属性が存在する。

 

 自然に存在する現象から『火』、『水』、『風』、『地』、『光』、『闇』、これら6つは『基本属性』と呼ばれている。


 そこから複合、派生した属性魔法を『応用属性』と総称されている。 


 これらの属性を多数使えるのは、知識と訓練を重ねた『魔法使い』だけである。


 

 そして魔王もまた、『魔法使い』として努力を重ねた者である。



 ・・・・・・


 魔王城の敷地内には、城の他にもいくつもの塔が存在し、それぞれに『魔導記録書』が保管されている。


 これまで記録した公文書から計算書、メモ書きに至るまで保管している。魔導記録書は魔王の魔力が込められているため、燃やそうとしても濡らそうとしても破こうとしても決して破損することがない。それを保管している塔も、例え異世界の勇者が本気で壊しに来ても絶対に損傷しない頑丈さを持っている。



 その魔王城の塔の一番高い屋根の上で、魔王は【魔法弾マジックバレット】を出して遊んでいた。



 【火弾】、【水弾】、【風弾】、【石弾】、【光弾】、【闇弾】を形が大小異なる物を同時に出現させ、旋回させたり回転させたりと、個々によって違う動きをさせている。


 傍から見ると、綺麗で可愛らしい光景なのだが、これがかなり難しい。1つ操作するのに指示を的確に与えなければいけないため、かなりの集中力を使う。それを全ての弾に別々の指示を与えている事になる。さらに、見えていない背後の弾も操作しており、【魔力感知】も使って弾の位置を全て把握しながら行っているのだ。


 『遊んでいる』というよりは、『訓練している』と言った方が合っているだろう。



 ちなみに魔王が何故塔の上でこんな事をしているのかというと、気分だ。



 しばらく【魔法弾】で遊んでいると、遠距離通信魔道具『フォルン』から連絡が入る。


 魔王は相手を確認して連絡に応じる。


「どうしたスマイル?」

『魔王様、少々急な案件なのですがよろしいでしょうか?』

「構わん。申してみろ」

『先ほどフェニーチェ君が落下してきまして、仕事場に送り返そうとしたら、断固拒否されている状態なのですが……』

「今から向かう。決して逃がすな」


 ・・・・・・


 リングネル大陸 上空


 スマイルはリングネル大陸の植物の生態調査に来ていた。


 今回はたまたま調査エリアの近くにフェニーチェが落下し、事情を聴く事になった。しかし、相手は魔道フェニーチェ。真面目に答えてくれるわけが無く、その場から逃げ出そうとしたため力づくで止める事になった。


 上空で互いに睨み合い、飛んで逃げようとするフェニーチェを『植物生誕』で生み出した『爆破種子』で行先を爆破で封じている。さらに全長30mにもなる『樹木龍』に乗って先回りし、攻撃を入れる。


 だがフェニーチェが使う【雷魔法】により全て打ち消され、無力化されてしまう。


「どうしたスマイル! この程度か?!」

「厄介ですね、フェニーチェ君」


 悪態を付きながら次の攻撃準備に移る。『収納空間』から種を取り出し一気に成長させる。



「『植物生誕』、『超級薔薇獣メガトンローズ』!!」



 出てきたのは巨大な薔薇を模した怪物だった。大量の触手をフェニーチェに放ち、捕獲しようとする。


 それを四方八方に飛び回って攪乱し、追い付かれそうになれば撃ち落した。


 しかしそれもスマイルの想定内。薔薇の触手は即座に元通りになる。


「ほう、やるな!!」

「君の【雷魔法】でも再生する植物だ。対策していないとでも?」


 【雷魔法】の特徴として、『燃焼』と『麻痺』、『光速』がある。『燃焼』と『麻痺』を同時に受ければ、再生能力以上のダメージが入り続け、再生能力自体が停止する。それが認識困難な『光速』のためさらに厄介だ。


 そんな【雷魔法】の対策として生まれたのが今回の植物だ。


 【雷魔法】による攻撃を受け、その部位が重度の損傷をだった場合、損傷部位を最小限分離し再生する。これにより【雷魔法】のダメージを最速で治す事が出来る。


 薔薇の怪物はフェニーチェの攻撃に怯む事無く攻撃を続け、鞭状の触手を振るい、突き、捕縛しようと猛攻を続ける。


「(スマイルも十二魔将、やはり簡単には行かせてくれぬか)」


 フェニーチェはさらに飛行速度を上げ、異常な軌道を描いて逃げ回る。何とか追い付こうとスマイルの『樹木龍』の速度を上げるが、乗せている薔薇獣の重さで思った様に速度が上がらない。


「フェニーチェ君! いい加減諦めて仕事に戻りなさい!」

「すまんなスマイル! 私はサボる事には全力で頭を使うからな!!」

「威張って言う事では無いでしょう!!」


 スマイルは『追尾誘導果実』を生み出し、フェニーチェに向けて発射する。


 凄まじい速度でフェニーチェを追いかけ、至近距離まで接近すると爆発した。それを何千発と撃ち続ける。それすらも躱して徐々に距離を離していく。


「(地面が無いせいで手数が限られてしまう。手が尽きる前に逃げられなければいいが……)」


 突然フェニーチェが急停止して、スマイルと向き合った。


「(何のつもりだ?)」


 スマイルが身構えると、フェニーチェは『収納空間』から拳大位の鉄の塊を取り出した。


「すまんがスマイル、ここで終わりだ」


 そう宣言すると、鉄の塊に雷が纏い始める。そして宙に浮き始め、高熱によってドンドン赤みを帯びていく。


「(っ!! まずい!!?)」


 スマイルが察した時には既に遅かった。



 【鋼鉄雷撃レールキャノン】!!!!!



 雷を帯びた鉄の塊を発射する。


 その煌きは赤い一直線を描き、スマイルの樹木龍を貫いた。一目見ただけで分かる絶大な威力は、樹木龍にできた大穴と数十km先にあった山の先端を吹き飛ばした事で証明された。


 スマイル自身に当たらなかったものの、もう樹木龍は使い物にならなかった。自身は【浮遊魔法】で浮いているが、樹木龍と薔薇獣はそのまま落下してしまった。


「楽しかったぞスマイル。ではさらばだ!!」


 スマイルがフェニーチェの速さに追い付けないのは知っている。後は逃げるだけだったのだが、



「ほう、どこへ行くつもりだ?」



 魔王が目の前に現れた事により、敵わなくなった。


「げえ魔王?!」

「よく持ち堪えた、スマイル。下がって良いぞ」

「はい」


 短く返事をして、これから起きる惨事に備えて離れた場所に避難した。


 何とか通ろうと素早く動くフェニーチェだったが、完全に前を遮られ逃げる事が出来ない。


「さて、フェニーチェ。これからお前に罰を与える」


 魔王とフェニーチェの周囲に数え切れないほど大量の魔法陣が展開される。


 魔法陣は簡易詠唱や無詠唱では難しい魔法を連続で使用する際に使われる。さらに、魔力を流すだけで

発動できるため、連続再現速度が上がり連射する事が可能になる。


 つまりフェニーチェは『発射口』に取り囲まれている状態だ。


「ま、待て魔王!? 流石にこれはやりすぎでは……!!?」

「案ずるな。10分以内に『復元リライズ』すれば何も後遺症は残らん」

「殺す気満々ではないか!!!?」


 フェニーチェの絶叫も空しく、一斉にフェニーチェに魔法が放たれた。



 【鳳凰烈火】【劫火】【龍の怒号】【焦熱一閃】【獄炎轟輪】【殲滅砲】【地獄の業炎】【滅亡賛歌】【全滅総葬】【滅却の剣】【瀑布圧殺】【八岐大蛇】【水流閃】【海王の槍】【細断豪雨】【氷結結晶砲】【雪花繚乱】【獄中吹雪】【氷牙双槍】【無限氷桜】【一季千風】【螺旋爆風突】【風魔七旋】【龍の息吹】【風拳乱打】【嵐乱剣戟】【針の筵・雷光】【超電雷撃】【雷鳴剪断】【瞬雷】【武御雷】【宝石連撃】【無限銃弾】【武装演武】【隕石】【喰砂塵】【徹甲突貫弾】【餓鬼流鉄】【鉄拳制裁】【斬鉄】【創造の剣軍】【光線】【超光弾】【聖葬】【聖剣・抜刀】【幽闇埋葬】【暗闇の波動】【深淵】


 

 多少の時間差があったものの、全てフェニーチェに直撃し木端微塵に消し飛ばした。

 

 ・・・・・・


 数分後


 フェニーチェが『復元』で元通りになった所で【転移】で仕事場に戻した。魔王とスマイルは昼休憩がてら近くを飛んでいた天気庁に寄ってお茶をしていた。


「今回のフェニーチェの件、よく対応してくれた。礼を言う」

「当然のことをしたまでです。それで、彼の処遇は?」

「仕事で返してもらう。またブレインハッカーを使うか……」

「彼のサボり癖には困ったものですね」


 スマイルが茶を飲んでいると、奥からティターニアがお菓子を持って来た。


「魔王様もスマイル様もお疲れ様です。これ、私が作ったマドレーヌです。どうぞ食べて下さい」

「ありがとうございます。ティターニア様」

「突然すまなかったな、ティターニアにも礼を言っておきたかった」

「あら、私は何も……」

「フェニーチェを墜落させたのはティターニアだろ?」


 口を隠して微笑んでいたティターニアは軽く息を吐いた。


「お気づきでしたか」

「フェニーチェを戻した際に付いていた傷、あれはティターニアの【大気万象】によるものだ」

「【大気万象】、確か敵が空気中にいれば全方向から攻撃する事ができる魔法でしたね」

「そうだ。回避不能の物理魔法であればフェニーチェの全身打撲の痕跡に説明が付く」

「私も参戦すれば良かったのですが、ここを離れるわけにはいきませんでしたので、スマイル様には申し訳ない事をしました」

「気にしないで下さい。あれくらいどうという事はありません」


 茶を飲み干し、席を立った。


「では私はこれで、まだ調査準備が出来ていない植物がありますので」

「なら我も戻るとしよう。邪魔をしたなティターニア」

「いえ、また気軽にいらしてください」


 魔王とスマイルはその場で分かれてそれぞれの行先へ向かった。


 スマイルは戻っている途中で先程の魔王とフェニーチェの光景を思い出していた。


「(あれほどの魔法を一度に発動できるのはおそらく魔王様とアギパン様、それにシヴァ君のシステムトリムルティ位でしょう……)」


 魔法の魔力使用量は魔術と比べて倍以上ある。その分強力なのだが、制御が難しいものも多い。その制御をものにするのに、長い年月をかけて修練を重ねるのだ。


「(あれだけ強くてもそれを凌駕してくる存在、異世界転生者。本当に忌々しい……)」


 その努力を否定する存在が異世界転生者。


 突拍子も無く現れ強力な力で日常を脅かす、最悪の場合甚大な被害をもたらす爆弾であり災害。迷惑この上ない存在だ。


「(私ももっと強くならなければ……)」


 スマイルは心の中で決意を新たにするのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る