孤独戦艦・シヴァ


 ザバファール大陸 ニュート島


 ニュート島はザバファール内でも面積の小さい島で、固有種族の蜥蜴魔族リザードマンが住んでいる。自然が多く、たまに休暇で訪れる者がいる静かな島だ。


 その島の海岸に魔王の姿があった。波に当たらないギリギリの場所を歩いている。


 しばらく歩くと、岩場に着いた。岩場を登り、先端まで辿り着く。


「シヴァよ、いるか」


 魔王が声を掛けると、海面が盛り上がり、巨大な影が姿を現した。


 

 青色の瞳、斑模様の隙間なく密着した服装、紫色の腰まであるロングヘアに多種のアクセサリー、そしてその容姿は人族の少女そのものだった。だが、体の大きさは100mを超す巨体だ。



 上半身が海面から出た事で、大量の海水が飛沫となって降り注ぐ。巨人は魔王を見下ろしてその姿を確認する。そして、


「あ! 魔王様ー! おはよーございまーす!」


 天真爛漫な可愛らしい笑顔で挨拶をした。


「今日も元気そうだな、シヴァ」

「はい! シヴァは今日も元気です!」

「システムトリムルティも正常か?」

「『トップシステムコード・ヴィシュヌ、正常稼働中』」

「『トップシステムコード・ブラフマー、正常稼働中』」


 システムトリムルティ。シヴァの髪に付いているアクセサリーで、超越技術オーバーテクノロジーで出来た人工知能だ。代表する2個と細分化した23個それぞれに高度な演算機能、情報収集能力、判断機能、戦闘能力がある高性能の物だ。


「ふむ、問題なさそうだな」

「ねえねえ魔王様、今日は何して遊ぶ?」

「そうだな、久し振りに絵本を読んでやろう」

「やったあ! 絵本大好き!」


 シヴァはコロコロと笑いながら浜辺に上がり、腰を下ろした。


「今日はなんの絵本?」

「今日は『三匹のオーク』だ」


 スキル『収納空間アイテムスペース』からシヴァのサイズに合わせた絵本を取り出した。それを見たシヴァの表情が明るくなる。早速膝の上に絵本を広げた。


「魔王様! 読んで読んで!」


 魔王はシヴァの肩に飛び移る。


「ああ。……『昔々ある所に、三匹のオークがいました---------』」



 シヴァ=ヴェーダ


 5歳という幼さで十二魔将に就任した異例の存在。種族不明の魔族で、履歴も不明。

 肉体と一体となった人工知能の優秀さが認められ、十二魔将に席を置く事となった。

 現在15歳になるが、精神的成長が未だに見られない。


 

 魔王が絵本を読み進め、シヴァはそれに合わせてページをめくっていく。


「『---------三匹のオーク達は平和に暮らしましたとさ。めでたしめでたし』」

「おもしろかった! もう一回読んで!」

「ああ、いいぞ」


 魔王はシヴァのお願いを聞き、もう一度絵本を読む。



 ・・・・・・



 しばらくして、絵本を10回くらい読み聞かせた所でシヴァがウトウトし始めた。


「『警告。シヴァの体温の上昇を確認。至急体温を低下させて下さい』」


 システムトリムルティの一つ『クリシュナ』が警告した。


 シヴァはその巨体故に、体温が上がり易く、少し間違えると体調不良を起こしてしまう。そのため、システム達が体調管理を徹底している。


「シヴァ、一度海に入ろうか」

「うん……」


 シヴァはゆっくりと立ち上がり、海へ入っていく。魔王は肩に乗ったまま絵本をしまい、シヴァと共に海へ出た。


「今はゆっくり休むがいい。また後で遊ぼう」

「は~い……」


 少しのぼせた返事で全身をゆっくり海へ沈めた。


「ふにゅ~……。生き返る~……」


 海の浮力で身体を浮かせながら、波に揺られる。魔王は海水に濡れないように器用に位置取りをしていた。


(システムトリムルティ、海域の状況はどうだ?)


 【念話テレパス】でトリムルティと連絡を取る。システムトリムルティには周辺海域の状態を監視させているのだ。


(『迷宮『バミューダ』の状態は正常。海流、海水温、魔素流、全て異常なし』)

(『迷宮『ドラゴハイドレート』から上級魔獣『ツインヘッドシャーク』3体が出現。海流、海水温、魔素流、全て異常なし』)


 魔獣は強さによって等級決められており、下級、中級、上級、超級、災害級が基本だ。上級は実力の伴う者でなければ、命を落とす危険のある強い魔獣に分類される。


(ツインヘッドシャークによる被害は?)

(『今の所ありません。ですが、今後被害が出る可能性は68%です』)


 ツインヘッドシャークは海中魔獣だが、捕食対象を見つけると勢いを付けて海中から飛び出して捕らえる。捕らえられたら最後、海中に引き込まれて餌食になる。一般魔族には十分脅威になる。


(……位置は把握できているか?)

(『ここから西北西に10㎞離れた位置に2体確認。残り1体は南東50㎞先に確認』)

(近くにいる2体を討伐する。残り1体は冒険者ギルドに討伐を依頼だ)


 魔王はシヴァの頭の上に移動する。


「シヴァよ、これから魔獣狩りに行くが、付いてくるか?」


 シヴァは目を輝かせて、


「行く行く! 魔王様のカッコイイ所見たい!!」

「決まりだ。トリムルティ、案内を頼む」

「『了解しました』」


 トリムルティの言葉はシヴァの頭に直接送信することが出来る。


「あっちだね! 行くよー!!」


 犬搔きで泳ぎ始め、凄まじいスピードを出し始めた。


「シヴァよ、あまり島に近付かないようにするのだぞ」

「分かったー!」



 ・・・・・・



 しばらく泳ぐと、トリムルティが指定した位置に到着した。


 魔王が【探索サーチ】でツインヘッドシャークの存在を確認する。


「……見つけた」


 数百m先に姿を確認した。頭が2つ付いた鮫が2体、猛スピードで泳いでいる。


「シヴァはここで待機だ。トリムルティ、シヴァを頼んだぞ」

「分かりましたー!」

「『了解です』」


 魔王はシヴァの頭から飛び降り、水面に着水する。しかし、沈むことは無く、水面に立ったままだった。【水面歩行】という魔術で水面に立つ事を可能にしている。


 魔王は波による揺れを調整し、安定したのを確認して走り出した。その衝撃で巨大な水飛沫みずしぶきが上がる。


「頑張れ魔王様ー!」


 シヴァの声援を微笑みで返事をし、さらにスピードを上げる。数秒で追い付き、無詠唱【石砲ストーンキャノン】を撃って先制する。


 2体のツインヘッドシャークは攻撃に気付いて咄嗟に回避する。だが1体は数発直撃し体内に石がめり込む。相当の激痛だったのか、悶え苦しむようにして暴れだす。


「(浅いか。ならば)」


 『収納空間』から大槍を取り出した。


 十文字の形をした穂先、光沢のある黒塗りの柄、捻じれた棘の様な形をした石突き、大きさは魔王よりも遥かに大きい10m程だ。



 自在大槍・アスカロン


 魔王の持つ武器の中で汎用性が高く、使い勝手が良い武器だ。



 大槍を振り回し、動きの鈍くなった1体を両断する。その斬撃は海ごと切り飛ばし、一瞬だけ海が抉れた。


 その一撃で察したのか、残った1体は魔王から離れるようにして泳ぎ去る。だが魔王は全力で追いかけ、あっという間に真上に着ける。アスカロンを構え、海水ごと薙ぎ払う。ツインヘッドシャークの2つの頭部は同時に切断され、飛沫と共に宙を舞った。


 それを尊敬の眼差しでシヴァが見ていた。


「すごいすごい! 魔王様すごーい!」


 無邪気に喜んで魔王に近付く。


「(生命反応は無し。完全に絶命したか)」


 魔獣には『核』が存在する。上級までは通常の手段で倒す事が出来るが、超級からは核を破壊しないと倒すどころか、再生することもある。上級は超級の一つ手前の存在、迷宮から出たことで等級が上がる事もあるので、用心して『死生眼』で確認した。


 残った死骸は海中に沈んでいく。後は海中にいる魚や生物が食べて勝手に消えていくことだろう。


「終わったぞ、シヴァ」

「やっぱり魔王様はすごいよ! ボクも魔獣やっつけたいなー」

「その時になったら倒し方を教えよう」

「やったー! 約束だよ!」


 魔王はシヴァの肩に乗ってニュート島へと帰るのだった。



 ・・・・・・



 ニュート島に戻った後はシヴァに付きっきりだった。絵本にあやとり、魔族領の昔話、料理を作って上げたりと色々な事をした。そして、夕暮れ時になりシヴァが帰る時間になった。


「『それでは魔王様、本日は失礼します』」

「じゃあね魔王様!」

「ああ、気を付けて帰るんだぞ」


 シヴァは海に入り、住居である神殿『アトランティス』へと帰って行った。


 それを見送って完全に姿が見えなくなったのを確認して、ニュート島へ入っていく。そこには蜥蜴魔族リザードマン達が集まっていた。


「おお、魔王様! シヴァ様はお帰りなったのですね」

「ああ、もう大丈夫だ」


 蜥蜴魔族達は安堵して帰宅したり店を開けたりと、普段の生活を再開した。


 シヴァは無自覚で『覇者の威圧』というスキルを発動している。これは自身より劣る敵を無抵抗で倒す極めて攻撃的なスキルだ。シヴァはこの事に気付いておらず、知らず知らずのうちに相手を死なせてしまう可能性がある。魔王は周辺の住民に害が及ばないように、避難指示を出していた。


「(……やはりシヴァには、本当の事は言えんな)」


 本来なら誰も近寄れない場所に監禁して監視するのがいいのだが、それをシステムトリムルティが許さなかった。その理由はシステム自身も上手く説明できていなかったが、魔王には理解できた。


 そんな事を知らず、シヴァは自由奔放であちこちを回っている。これは各大陸の巡回としての役割を果たしているという説明で納得してもらっている。


 スキルの件は、今回の様にシヴァが来る日は自宅待機命令が出され、全ての外出が禁止される。各所に迷惑を掛けているが、スキルを制御出来るまで待ってもらう事で合意した。休日になるということで前向きに捉えてもらえている面があったのは救いだった。


 様々な問題を抱えていても、十二魔将に在籍しているのは、システムトリムルティがザバファール大陸全土の情報を正確に収集し、的確に仕事をこなして貢献し、魔王すら苦戦させた戦闘力を有しているからだ。


「(一刻も早くスキルを自覚させたいが、……まだ精神年齢が幼い。慎重に進めねば精神崩壊する。威圧系のスキルは難儀な物だ)」



 魔王はシヴァの今後を考えながら魔王城へ帰還するのだった。



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