雷鳴魔道・フェニーチェ


 リングネル大陸は殆どが山で出来ており、平地の方が珍しい大陸だ。その内の一つの山が天上領に繋がっている。


 住んでいる種族も特化しており、山の環境から離れ、空に適した有翼族ゆうよくぞく龍族りゅうぞく半龍族はんりゅうぞく。山の環境に適した巨体の種族、ギガス族、サイクロプス族、ゴリアテ族、ヨトゥン族。天上領に住む天使族。


 そして山にも天上領にも依存しない雲の中に住む種族がいる。それが『天魔族てんまぞく』だ。


 

 ・・・・・



 リングネル大陸 トナティウ山脈地方


 木々が無く、灰色の針山はりやまだらけの地域だが、一ヶ所だけ特殊な山がある。その名は『トナティウ』。この地方の名前にもなっている大山だ。


 その高さは雲をつらぬく程高く、山頂はいつも雲で隠れて見えない。この中にリングネル大陸の大半の政治機能を担う城、『トラロック城』が存在する。



 ・・・・・


 トラロック城 城内


 城内では大陸各地の公務をこなすために、多くの公務員がデスクワークにはげんでいた。


 公務の場だからといって堅苦しい仕事場ではなく、お洒落しゃれな雰囲気の仕事場になっている。デスクは個々で大きい物が用意され、仕事に必要な物、仕事のモチベーションを上げたり維持するための物を自由に置いて良い事になっている。これは仕事をストレス無くスムーズに進めてもらうためだ。堅苦しく狭い場所で仕事が捗るとは限らないので、臨機応変に対応している。そのため仕事中に音楽を聴いていたり、小食を永遠食べながら仕事をしている者もいる。そんな者達のために、隣に迷惑が掛からないよう各デスクに【結界魔術】が貼られている。これで防音、防臭、空調、温度管理などの仕事に最適な環境作りを確立している。ただし、質問や意見交換等は遮断されない。


 仕事は魔道具である『高速書記装置』を使って書類を作成する。この魔道具を使うと、頭でイメージしたレイアウトを自分の魔力を注ぐことで装置が感知し、書類を作成することができる。手慣れている職員は数分で1枚仕上げてしまう。不慣れでも5分かかるくらいだ。


 そんな高速書記装置でもくもくと書類作成の仕事中、2名の総務部の公務員が、


「なあ、フェニーチェ様はどこに行ったんだ?」

「フェニーチェ様ならさっき他部署に行くと言っていたぞ。何かあったのか?」

「いや、何時間も離席しているから何かあったのかなって」

「ああ、多分魔王様だろ」

「あー、納得」



 ・・・・・



 トラロック城上空


 球状の巨大な【防衛結界】が貼られ、中ではフェニーチェと魔王が戦っていた。


 フェニーチェの放つ【雷魔法】が周囲を縦横無尽に駆け回り、魔王へ襲い掛かる。


 雷は本来、見えた時点で直撃する速さを持つ最速の凶器だ。一撃放つだけでも強力だが、魔力の消費が尋常ではない。それを複数放てるフェニーチェは十分強いと言えるだろう。しかし、


「フェニーチェよ、気は済んだか?」


 魔王からしてみれば、【雷魔法】程度では全くダメージにならないのだ。【浮遊魔法】で浮いているだけで、雷を全て直撃しても平然としている。


「……流石にもう届かないか。うむ、魔王はやはり頑丈だな」


 魔王に対して生意気な口を叩く。


 

 フェニーチェ=アパテー


 十二魔将の一柱、天魔族の男で、その中でも群を抜いた天才でもある。

 紫色の肌、ロングウェーブの黄金の髪、大きな三本角、睨む様な赤い瞳、そして腰に大きな翼を生やしている。身長は2m。体格は細いが筋肉質でしっかるしている。年齢は454歳。

 服装はジャケットの様な格好だが、その身体に合わせて、腰が出たデザインになっている。

 二つ名の通り、雷鳴、【雷魔法】を得意とした戦術で相手を圧倒する。その点だけで言えばアギパンを凌駕している。いわゆる特化型だ。



 そもそも天魔族とは、天にも地にも捕らわれない非常に順応性が高い魔族だ。


 独自の魔力回路を持ち、通常では真似できない【固有魔法】を複数持っている。一般的な魔法魔術の防御手段が通じないという特性があり、魔王が大陸進出した時に戦った中で、一番厄介な種族だった。


 平均寿命が1000歳と比較的長命で、繫殖力が低く、その個体数は多くない。龍族とは昔捕食対象にされたため、いまだに仲が悪い。


 【雷魔法】で散々攻撃したが、全くの無傷のため攻撃を止めた。


「ではこれならどうかな?」


 軽く拳を握ったかと思うと、電撃が飛び出し、槍の形になる。そして、大きく振りかぶり、



「改良版【瞬雷槍マッハボルトスピア】!!」


 

 視認出来ない速度で放った。強烈な点滅と共に魔王に直撃する。


「……少しは成長したか」


 直撃はしたが、まるでダメージになっていなかった。


「さっきの魔法よりは数千倍威力が上がっている。そして防御対策に5段階攻撃の術式も施されている。改良版というだけある」

「ふふん、思い知ったか」


 フェニーチェは自慢げに鼻を鳴らす。


「だがまだ届かん。それに、あれだけ大きなモーションで攻撃をすれば何を出すか察しが付かれる。お前らしくない技だ」

「趣向を変えてみたんだ。緩急があった方が不意を突きやすいだろ?」

「(……これを撃っている間に他の攻撃をする算段か、悪くは無いが詰めが甘いな)」


 確かに【瞬雷槍】を撃つモーションをしている間に他の【雷魔法】を撃てば不意を付ける可能性は高い。だが、リソースを【瞬雷槍】に多く使っているので、同時に放とうとする【雷魔法】の威力が落ち、簡単に防げてしまう。最悪、防御しながら突撃されれば敵の攻撃をもろに受ける事になる。フェニーチェがこの事に気付かないはずがない。


「では次は……」


「フェニーチェ。


 フェニーチェの動きが急に止まる。


「…………いやいや、流石に終わらせてますよ。何せ私は天才ですから」

「仕事は早々に終わらせ緊急にだけ注力できるようにせよと我は散々言ってきたからな。しかしこの言いつけを守らなかったのは過去に何度もあったな?」


 フェニーチェの二つ名に付いている『魔道』、その意味は『堕落の道を行く者』。


 天才であるためすぐに解決してしまうため、普段の仕事を後回しにして魔法の研究や娯楽に浸り、サボりまくっている。期限ギリギリになって報告書や書類を提出するが、ミスが一つも無いので周囲も強く言えずたちが悪いのだ。


「……13回だ。13回お前は仕事をサボった。そして今回で14回目になる」


 魔王の体から魔力が漏れ出し、周囲の空気が歪み、徐々に黒くなっていく。


「確かにお前は天才だ。それは我も認めている。だが、それに胡坐をかいて規律を破るとあっては言語道断。『新魔法の戦術を確かめたい』と言ったのも理由を付けるためだったわけだ」

「……意地が悪いな魔王。『真偽眼』で最初から分かっていたな?」



 魔王の目は八つある。そしてそれぞれに特異の能力を持つ『魔眼』でもある。



 指定した生物、物質の名称、能力を見る『鑑定眼』


 構造、構成の詳細を読み解く『解析眼』


 全ての魔法魔術を発現させることができる『魔導眼』


 生物の生死を判断、寿命の残量を見る事が出来る『死生眼』


 未来を見通す事ができる『予知眼』


 どれだけ距離があろうと見る事ができる『千里眼』


 呪術、降霊と言った外法を行使することができる『邪怨眼』


 全ての嘘と真実を見抜く『真偽眼』。



 魔王はこれら全てを使いこなすため、『八天眼』の異名が付いている。


 一応フェニーチェを信用しているため『真偽眼』は普段使わないが、流石に何度もサボる為使用した。それもフェニーチェは分かっていた筈だ。分かっているなら察して仕事へ戻ると信じていた。しかしそれは裏切られてしまった。それに対する怒りは生半可な物ではない。


「弁明はあるか?」

「何も。仕事なぞ後で終わらせればいい」

「ならば反省して散るがよい!!」


 魔王の魔力が溢れ出し、【防衛結界】を粉砕する。そしてフェニーチェに手をかざし、



 【水界呪縛牢】



 握った瞬間、どこから出現したのか理解も確認も出来ないまま、フェニーチェは大量の水に閉じ込められた。


 何とか脱出しようともがいてみるが、どれだけ手足翼を動かしても移動する事が出来ない。魔法を発動しようにも魔王の魔力の籠った水が邪魔をして放出することもままならない。


「(これは、いつ喰らってもキツイな……!)」


 【水界呪縛牢】を受けたのは初めてではない。過去に何度も受けており、その度に気絶するまで閉じ込められた。


「(しかし、今回は違う。突破口は用意してある!)」


 ポケットから小さな小瓶を取り出し、片手で開ける。小瓶の中から別の液体が漏れ出し、水を凍らせていく。


「(なるほど、そう来たか)」


 【水界呪縛牢】は水中の特性を生かした行動を無力化する檻だ。それを氷に変えられれば、力を入れれば壊れる固形物へと成り下がる。【身体強化】をして内部から破壊する算段だろう。


「だが、そうはさせん」


 

 【水界呪縛牢・螺旋宮】



 凍り付き始めた水が回転し、水流を起こす。水流は徐々に速さを増していき、氷を粉々にする。そして氷は溶け、水へと戻っていった。中にいるフェニーチェも水流で揉まれて不規則に回転する。


「(ま、まさか回転まで出来るとは……! 流石、魔王……!)」


 そこまで思考して、肺から空気を押し出されて窒息し、気絶した。



 ・・・・・



「…………む?」


 フェニーチェは気が付くと仕事用の机に座っていた。


「(今回も負けてしまったか……)」


 心の中で肩を落とし、天井を見上げる。


「(天才と呼ばれたこの私でも、上手くいかないものだ)」


 その時、違和感に気付いた。何だか勝手に体を動かされている気がする。気になって視線を手元に向けると、手が自分の意思とは無関係に動いていた。


「んな?! 何だこれは!!?」

「あ、おはようございますフェニーチェ様」


 総務部の部長が挨拶しに来る。


「おい! これは何事だ!?」

「それはですね、魔王様がフェニーチェ様のサボり癖を治すために『ブレインハッカー』を付けて気絶したままでも仕事を出来るようにしたそうです」

「ブレインハッカーだとお?!!」


 『ブレインハッカー』は、【召喚魔術】で呼び出す召喚獣の一種で、寄生した対象を意のままに操ることが出来る。見た目はテントウムシの様だが、強度がやたら高いため簡単に倒せない。


「ちょ! 取って!! 取って下さい!!」

「残念ながら魔王様に止められてるので無理です。諦めて下さい」


 部長はそそくさと自分の仕事に戻っていった。


「こ、これはいつ終わるんだ……!? 己魔王、覚えていろぉぉぉぉぉ!!!」


 逆恨みの大声を上げながら、仕事を続けるフェニーチェだった。


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