第二章 「キャメロット」
リンは食堂で、コーチから封書を受け取った。封書の宛名は、自分の名前。そして、差出人は「キャメロット・メンバー オーディション事務局」だ。
それを見てすぐ、夕食をかき込んで、席を立った。
エントリーシートの提出から一週間。ようやく書類審査結果の通知が届いたのだ。
封書を胸に抱えて、食堂を飛び出した。自分の部屋に向かって、小走りに通路を急ぐ。
はやる気持ちを抑えきれず、歩きながら封を開けた。中には二つ折りにされた一通の書類。開くと、そこには「合格のお知らせ」と書いてあった。
「やったぁ!」
足を止め、その場で飛び跳ねる。周りの人などまったく気にならなかった。
ひとしきり、うれしさにひたったあと、書類を読み進める。そこには、「一次審査について」とあった。今から二週間後、一次審査が開催される。審査内容は、面接と討論。世界情勢やアイドルとしての常識が問われるそうだ。
有頂天から急降下するように、のぼせた頭が一気に冷えた。
(やばい。勉強しないと……。部屋にあるレッスンのテキスト、使えるかな)
再び自分の部屋に向けて歩き出す。やがて早歩きになり、ついには走りはじめた。通路を駆け抜け、階段を二段飛ばしで駆け上がり、ようやく、自分の部屋にたどり着いた。
カードキーで扉を開錠し、乱暴にドアノブを回す。からだを押し込むようにして部屋に入る。
明かりをつけ、制服を脱ぎ、ベッドに放り投げた。部屋着をつかみ、ささっと着替える。
部屋の隅でほこりをかぶった机の前にある、レッスンテキストを収めた本棚を確認する。
(世界情勢とアイドルとしての常識なら……)
本棚から取り出したのは、地球の衛星写真を背景に生真面目なフォントで『世界情勢概論』と書かれたA4サイズの資料集。そして、女の子が剣をもって、黒いかたまりと対峙している姿をデフォルメしたイラストが描かれたB5サイズの書籍『アイドルのちから』だ。
いすに座り、二冊の本と向き合う。「よしっ」と気合を入れたあと、まずは『世界情勢概論』に手を伸ばす。本を開いて、ぱらぱらとめくった。
文字だらけで、小難しい文章。数ページおきに、地図や、グラフ、表が載っている。閉じたくなるのをがまんして、ページをめくり続けていく。
目当てのページを見つけた。[ここ重要!]という付箋が付いたままだった。
そのページは見開きの年表が掲載されていた。その年表に書かれているのは、人類と、あの黒い怪物「イドラ」との戦いの歴史だった。
〈イドラと人類の戦い〉
百年以上前からイドラは目撃されていた。かつては「イドラ現象」と呼ばれ、人口が多い国や地域の周辺で、まれに観測される黒色のかたちを持たない物体だった。また、近づいてきた人間を襲う程度で、目立った人的被害のない怪奇現象の類でしかなかった。
しかし、今から約三十年前、イドラの組織的な活動が初めて観測された。
動物型のイドラが群れを作り、ある都市に侵入したのだ。イドラの群れは立ちふさがる人間を倒しながら、分散して都市内のネットワークインフラ関連の施設を襲撃した。治安部隊の抵抗を物ともせず、イドラの群れは、施設内の機器を破壊し続け、すべてを破壊したあと、都市を脱出した。それ以後も、同じような被害が、世界各地で散発的に発生していたが、有効な手立てを講じることができなかった。
数年後、イドラの襲撃頻度、被害規模が急速に拡大した。陸海空の交通網の寸断、ネットワークインフラの破壊により、経済活動や人々の生活が機能不全となる国や地域が出はじめた。
そんな中、イドラの組織的な活動が観測され、活発化していることに、国際的な危機感が高まっていた。最初の組織的な活動が観測されてからすぐに、国連の一機関として、「CIAC(a Committee of Idola phenomenon Analysis and Countermeasure)」が、世界各国の協働により設立され、民間で行われていたイドラやアドミレーションの研究を引き継ぐ形で、本格的に活動を開始した。
研究の結果、イドラとは、精神エネルギーが凝縮し、実体化した存在であることが分かった。
精神エネルギーとは、もちろん、当時ようやく存在が確認された、人間の思いや気持ちの強さが物理的な干渉力を持った「アドミレーション」である。イドラは、思い込みや偏見、妬み、恨みが主成分である黒色の「イドラ・アドミレーション」で構成されていることも判明した。
イドラの生態についても、研究が進んでいた。
実体化の際、周囲の環境に適応するようにかたちを変えていた。動物型、鳥型、虫型、植物型など、現存する生物と同様の姿にして、最適化を行っているようだ。また、幽鬼型、精霊型、亜人型など、自然界には存在しないイドラも目撃されている。それらの個体は、アドミレーション内に残る記憶の残滓を参考にしてかたちを変えていると推測されている。
また、存在を維持するために、アドミレーションを糧としていることも分かった。
主成分であるイドラ・アドミレーションを好むが、人間が生成する無色透明のアドミレーションも好んでいた。体内に取り込み、イドラ・アドミレーションに変換しているらしい。
アドミレーションを過度に抜き取られると、人間は心を失い、最終的に命を落としてしまう。
イドラは人類の天敵となりえる存在であることが解明されたのだ。
やがて、それらの研究における、不断の努力と奇跡的な偶然が重なった結果、イドラ・アドミレーションの対となる存在「アイドル・アドミレーション」が発見された。
アイドル・アドミレーションとは、多様な考え方を受け入れる心や、挑戦的な思考、困難から逃げない気持ちが主成分の精神エネルギーである。「聖杯」と名付けられた特別な心の領域を持つ人間のみが、それを生成でき、その人ごとに異なる色がついていた。色の違いは、その人の価値観の違いに関連している。
さらに、イドラ・アドミレーションとアイドル・アドミレーションを接触させたとき、二つのエネルギーが相克し、互いに消滅することが判明した。これがきっかけとなり、CIACの主導で、イドラ現象に対抗する組織の設立を目指すようになる。
そして、今から二十年前、CIACと同じ国連の一機関として、「ISCI(International System of Counter Idola phenomenon)」が発足する。ISCIは、世界各国の「プロダクション」を統括する。プロダクションには、聖杯を持ち、アイドル・アドミレーションを自由に操ることができる「アイドル」が所属している。
イドラの襲撃に対し、アイドルたちが立ちふさがり、自分のアイドル・アドミレーションを駆使して、イドラを退治する。それをプロダクションや、ISCIが全面的にサポートするという体制がようやく整った。
イドラに、通常兵器による攻撃はまったく通用しないため、各国の防衛機関は、アイドルの育成と確保を国家の最重要戦略として位置付けている。プロダクションの創設がその戦略の最たるものであり、どの国でも軍隊または警察組織に匹敵する組織にしたいと考えているが、聖杯を持つ人間は限られているため、どの国においても小規模な組織にとどまっていた。
プロダクションについては、〈各国のプロダクション概況〉を参照のこと――
〈アヴァロン・プロダクション〉
五十年ほど前から、対イドラ活動を密かに行ってきた老舗プロダクションの一つ。
創設当時の規模は小さかったが、アイドルの育成に関して多くのノウハウを蓄えてきた。
現在は、アイドルの育成人数、活動実績において、世界で五本の指に入るプロダクションとなっている。
ひと通り読んでみたが、あまり頭に入ってこない。
理解しようとすると、眠くなりそうだったので、もう一冊の『アイドルのちから』を開く。
こちらの方が平易な文章で、イラストも多くて読みやすい。それに、自分の興味がある分野だから、読むのが苦にならない。
ページの端がよれよれで黒くなっていた。それから、たくさんのメモ書きがしてある。プロダクションに入所した当時のことを思い出しながら、ページをめくっていく。
〈聖杯の四つの性質〉
イドラに対抗するには、心の中に、聖杯と呼ばれる特別な領域がなければいけません。
聖杯は、「心の器」とも呼ばれ、四つの性質を持っています。
一つ目は、心の中で生まれた感情をアドミレーションに変換する性質です。この性質の強弱は、感情をアドミレーションに変換するときの効率で表します。これを「アドミレーション変換効率」と呼びます。
二つ目は、発現したアドミレーションを蓄積する性質です。この性質の強弱は、聖杯の広さや深さで表します。とりわけ重要なのが深さです。これを「聖杯の深さ」と呼びます。
三つ目は、他の聖杯と、アドミレーションを媒介にしてつながろうとする性質です。これを「聖杯連結」と呼びます。この性質の強弱は、アドミレーションの放出および受容のしやすさで表します。これを「聖杯連結力」と呼びます。
四つ目は、蓄積したアドミレーションを圧縮し、励起する性質です。これを「アドミレーションの輝化」と呼びます。この性質の強弱は、アドミレーションの圧縮のしやすさで表します。これを「輝化力」と呼びます。
以上、四つの性質の強さが、それぞれ一定以上の場合、プロダクションのスカウト対象となります。そして、その人が希望すれば、アイドルとしてデビューすることが可能です。
ISCIでは、四つの性質の強弱を総合的に判断する基準を作り、それをもとにしたランクを導入しました。下から順にファースト、セカンド、サード、フォース。そして最高ランクがフィフスです。このランクをもとに、活動制限の解除やサポートの大きさが決まります。
最高ランクのフィフスとなったアイドルは、「トップアイドル」と呼ばれます。ISCIの発足以来、これまでに以下の三人しか認定されていません。
マグメル・プロダクション 所属(当時)/マリア・レイズ
アヴァロン・プロダクション所属(当時)/ジュリア・ヴィジレイト
アヴァロン・プロダクション所属(当時)/キリア・エクスフィリエンス
この『アイドルのちから』を読むと、毎回わくわくする。なんといっても、トップアイドルという夢の到達点が示されているからだ。
リンは、今開いているページの中に、二年前の入所直後に書いたメモ書きを見つけた。
[あの人のようなアイドルになる!]
十二歳のとき、イドラに襲われたところを助けてくれたアイドルのお姉さん。
あの人みたいに、やさしくて、かっこよくて、きらきらして、どんなイドラにも負けないくらい強い、そんなアイドルを目指している。
あのあと、彼女がキャメロットのメンバーであることを知り、キャメロットを追いかけて、アヴァロン・プロダクションに入所した。しかし、これまで一度も見かけていない。
あのお姉さんに会って、お礼が言いたい。そして、「あなたに憧れてアイドルを目指したんだ」と伝えたい。だから、絶対にキャメロットのメンバーになると決意した。
リンが改めて気合を入れなおし、再び『世界情勢概論』を手に取ったとき、
ジリリリリリリリリ――
突然の警報! 急かされ、浮足立つような鐘の騒音。
リンは、反射的に立ち上がり、ベッドに置いてあったフード付きのパーカーをつかんだ。じっと静かに非常時の館内放送を待つ。
「イドラがプロダクション内に侵入しました。研修生は一次避難所に集合してください。キャメロットのナタリー・セレネス、ルーティ・ブルーム、クレア・アトロンはプロダクションの正門前へ。到着次第、『ライブ』を開始してください。繰り返します――」
「キャメロット!」
イドラ侵入の驚き以上に、キャメロットのライブに胸が高鳴った。リンは、パーカーをはおって部屋を飛び出す。
(正門が見える場所……。講義棟の屋上なら見下ろせるかもしれない)
研修生たちが部屋着のまま、この宿舎棟から一次避難所である体育館に向かって早足で駆けていく。リンは流れに逆らって、宿舎棟から講義棟へ通じる渡り廊下へ向かう。途中で「リン! どこに行くの!」と声をかけられたが、それを無視して、全力で駆け抜けた。
講義棟の出入口は施錠前だった。入ってすぐ近くの階段を屋上に向かって駆け昇る。
危険なことはわかっていた。でも、どうしても見ておきたい。確認したい。
夢は、現実にあることを。未来は、目の前にあることを。
屋上への扉を思いきり開ける。日が沈んだ直後の紫色の空が広がった。
地上から真昼を思わせる強い光。そちらの方に目をやると、野外ライブ用の巨大照明に照らされた、三人の少女と三体のイドラが、静かに対峙していた。
「間に合ったっ!」
落下防止の柵から身を乗り出し、戦いの始まりを待つ。
キャメロットの三人が胸に手を当て、声を合わせて、「輝化」を宣言した。
「輝け!」
胸に当てた手を横に払う。
三人の胸からあふれた光が、球状にふくらみ、全身を包む。光の色はそれぞれ異なっていた。
ナタリーは、黄。太陽のように強くて優しい、暖かかな色。
ルーティは、青。海のように深く底知れない、冷やかな色。
クレアは、深紅。血のようにおごそかで、近寄りがたい色。
光に包まれた三人はアヴァロン・プロダクションの制服の上から、ゴシックアーマー様式の騎士甲冑を着装していく。それは、金属のように硬そうで、宝石のように輝いていた。
防具の形成が終わると、光は手や腕に集束し、三人それぞれの武具に、かたちを変えていく。
ナタリーの両腕。巨大なプレート付きの武骨な黄色いガントレット。
ルーティの右手。青い宝玉付きのすらりとした長い杖。
クレアの右手。紅くまがまがしい、とても重そうな長槍。
三人の武具が、同じタイミングで形成完了した。武具を構えると、全身にまとっていた球状の光がはじけ、光の粒子となり、三人の周囲に散らばる。
アイドルは、アイドル・アドミレーションを利用して、イドラと戦う。このとき、アイドル・アドミレーションを聖杯の力で圧縮し、励起させる。これが輝化だ。
輝化したアイドル・アドミレーションをからだの外に放出すると、「アスタリウム」と呼ばれる鉱物に変性する。それを防具に成形したものが「輝化防具」、武具に成形したものが「輝化武具」となる。アイドルは、この輝化武具と輝化防具をまとい、変身することで、ようやくイドラと戦うことができるのだ。
今回襲撃してきたイドラは、クマのような見た目の動物型、巨大な蜂に似た虫型、自分の根を器用に動かして移動する植物型の合計三体だった。
キャメロットの三人がイドラとの間合いを詰める。
すると、植物型のイドラが、からだを震わせて、無数の枝やツタを現し、キャメロットに向けて、めったやたらに振り回してきた。
ナタリーが二人の前に出る。両腕を前に着きだし、手を広げた。
ガントレットに付いた巨大なプレートが前面に展開する。ナタリーの周囲に浮かんでいた粒子が、プレートの周囲に集束し、黄色く透き通った障壁となった。
鞭のようにしなって襲い掛かる枝やツタを障壁が受け止める。
輝化によって得られる、もう一つの力があった。それは「コンクエストスキル」だ。
輝化の光がはじけてできた粒子。その正体は微細なアスタリウムの欠片だった。これに秘められたエネルギーを解放して、アイドル固有のスキルを発現することができる。
ナタリーであれば、自分の周囲限定で、任意の場所に障壁を形成できる「プロテクト」だ。
そして、ナタリーの障壁から飛び出して、動物型イドラに向かって突進するクレアは、回避能力を極限まで高める「イベイド」。動物型イドラや虫型イドラの攻撃をアクロバティックに、ことごとく回避し、槍を突き込む。
ナタリーが防御担当、クレアが白兵戦担当だとすると、ルーティは砲撃担当だ。アイドル・アドミレーションを火・水・土・風の性質を持つエネルギーに変換し、まるで魔法のように撃ち出すことができる。
ルーティが杖を高く掲げ、ゆっくりと振り下ろした。三つの青い光球が出現し、水のような質感に変化する。そこから、まるでレーザー光線のように鋭く、水が射出された。三体のイドラに向かって一直線に伸び、からだを貫いた。動物型と虫型のからだが、ぐずぐず、ぼろぼろとあっけなく崩れ、消滅していく。
きっと、五感と脳機能が活性化させる、彼女のコンクエストスキル「コンセントレイト」によって、観察したイドラの動作から弱点を導き、そこを正確に射抜いたからだろう。
最後に残った植物型が苦しむようにからだを震わす。
ナタリーが障壁を解除し、植物型に向かって突撃する。イドラに取りついた彼女は、右手を固くにぎる。そして、こぶしにアドミレーションをまとわせ、突きを繰り出した!
植物型イドラは衝撃に耐えきれなかった。全身に亀裂が広がり、砕け散るように消滅する。
一瞬の静寂。
ライブが無事に終了した。三人が笑顔でハイタッチを交わし、互いの健闘をたたえている。
リンは食い入るように三人を見ていた。
憧れのキャメロットの戦いを間近で観戦した興奮。それが与えられたものであることに寂しさを感じる。あの三人とともに、この興奮を生み出したい。自分もあんなふうに活躍したい。
ふと視線がキャメロットの後方に移る。そこには、ワンレングスの前髪を左に流した女性が立っていた。あのアッシュグレイの髪色は、ルナだ。
ルナは、両手にナイフを持ち、迷彩服とプロテクタを身につけていた。それらが一瞬にして消え、アヴァロン・プロダクションの制服姿となる。
もしかして、ルナはキャメロットとともにイドラと戦っていたのだろうか。
彼女は研修生の中で一番の実力者だ。もうすでにイドラとの戦いも経験しているらしい。その可能性は充分にあった。
キャメロットがルナに声をかけ、笑顔で何事かの会話をしている。
(わたしだって……)
ふっとよぎった考えに驚く。ルナを意識しているのだろうか。
彼女がキャメロットとともに並んで、プロダクションの方に戻っていく。自信と充実感に満ちていることが遠目でもわかった。心がもやもやとする。
ばつん!
大きな音を立てて、巨大照明の電源が切れた――
不意の暗転に目が慣れない。夕闇の時間のはずだが、視界が暗闇に満たされる。
柵をしっかりつかみ、目をこすって、じっと待つ。しかし、まったく順応しない。遠くの家の明かりや星さえもわからなかった。
(イドラのような黒い闇……)
そう思った途端、リンの頭の中が、四年前の光景に支配される。
人型イドラに追い詰められたときの光景……。目の前に、そのときのイドラが出現した!
リンは落ち着き、精神を集中させて、輝化を宣言した。しかし、輝化が始まらない。それどころか、からだが四年前と同じように小さくなっていた。
イドラがゆっくりと右腕を振り上げる。のっぺらぼうの顔が、リンを見つめる。口角が吊り上がり、嘲笑するように歪んでいた。
(なんでっ! どうして!)
リンはパニックにおちいる。
イドラが腕を振り下ろした! リンは身を投げ出して、それをかろうじて避ける。倒れたからだをすぐさま起こす。
あのときと同じ無機質で幾何学的な石畳の上。黒い絵の具をべったりと塗った濃淡のない黒い空のもと。リンは駆ける。イドラから逃げるために。あのときと同じように。
(いやだっ! 来ないで!)
呼吸が乱れ、心臓の激しい鼓動が耳に響く。
目の前に、ひとすじの白い光が見えた。光に向かって手を伸ばす。あれは蛍光灯の光。階段に通じるドアから漏れている。ノブをつかみ、乱暴に開けて、屋内に飛び込んだ。
ばん! と勢いよく閉め、ドアを背にしてしゃがみ込む。
「はぁっ、は……っ、はぁっ、はぁ……」
ここは、ちゃんと明るかった。からだは十六歳に戻っていた。イドラの気配はまったくない。
リンは、胸に手を当てる。まだ動悸が収まっていない。しかし、自分のアドミレーションを感じることができた。そのまま手を組んで、必死に祈る。
「絶対に、あの人みたいなアイドルになるんだ! すべてが終わってしまう前に!」
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