第十六話 コイン制とか昔あったよね?
「おじゃましまーす!」
学校が終わり、私は薫の家へと来ていた。
「あいよ。ん、回覧板来てるな。タマ、ちょっと回覧板回してくるから先に部屋入ってていいぞ」
「エロ本隠さなくていいの?」
「タマじゃねえんだから大丈夫だ」
「なっ!? なんで私の部屋にエロ本あるって知ってるの!?」
「図星かよ……」
透視だろうか、はたまた千里眼だろうか。即売会で購入したエロ本が私の部屋に存在することを見事に看破した薫は「やれやれ」とため息を吐きながら回覧板を持って家を出た。
「おじゃまします」
静まり返った家の中で一応私はもう一度挨拶をしてから靴を脱ぐ。
友人の家特有のいい香りを嗅ぎながら木製の階段を昇り、私は廊下の突き当たりにある薫の部屋——ではなく、その隣のもう一つの部屋の前で立ち止まった。
「響ちゃーん、いるー? 珠樹だよー」
と、ドアをノックする。
「いますよー。どうぞ入ってください」
すると扉の向こうから小鳥のさえずりのように透き通った綺麗な声が聞こえて来た。
了承も得たので私はドアを開ける。
「響ちゃんお久しぶりー!」
「はい、お久しぶりですねタマさん。座布団をご用意するので少し待っていてください」
部屋の中には、当たり前だけど薫の妹、響ちゃんが行儀よく座っていた。
相変わらずお人形さんのような顔立ちと世界文化遺産に指定してもいいほどの艶やかな髪の毛。何食ったらこんな容姿になれるのだろうか。海藻とか?
「どうぞお座りください」
「あ、わざわざありがとー」
ハートの形をしたピンクの座布団が差し出されたので遠慮なく座る。
「今日はどうされたのですか?」
私が座ると響ちゃんも前に座り、私が訪ねた理由を聞いてきた。都合のいい話の流れなので早速本題に入るとしよう。
「響ちゃん、実は制服を貸して欲しいの!」
「……はい?」
キョトンとされてしまう。ああ、用途の説明も無しにこんなことを言われたらこの反応は当然だろう。
「あ、うんと! 制服、私が着たいの!」
言った後に気付く。これじゃあ変態だ! 絶対説明の仕方間違えた!
「……ええと、使い道はともかくとして、貸すといっても期間はどのようになるのでしょうか」
少し引いた様子の響ちゃん。
「できたら明日一日貸してもらいたいんだけど……」
「一日ですか……明日は私も学校ですし、んー……」
失念していた。当然明日は学校があるわけで、登校しなくちゃいけない響ちゃんの制服をぶん取ろうというのはいささか無理があった。私の計画は最初から破綻していたのだ。
「わかりました、いいですよ」
だけど、予想外の返答が返ってくる。
「え!? いいの!? でも響ちゃん学校は……」
「いいんです。明日休めば今日と合わせて二連休じゃないですか。やはり体の疲れを取るにはまとまった休日が必要です」
本当に君中学三年生? とツッコミを入れたくなるようなそんなセリフに私は少し戸惑ってしまう。
「大丈夫ですよ、実際昨日から少しお腹の調子が良くないので。先生には体調不良ということで通してもらいます」
「あ、ありがとう響ちゃん。ごめんね」
「いえ、今のうちから休む習慣をつけておかないと社会に出た時必要以上の無駄な責任感に駆られて折角ある有給を使わずじまいに、そのまま無意識のうちに疲労が溜まり過労死と最悪な結末になってしまいますので。適度に休む事は重要です」
サラリーマンの皆さん聞いていましたか? 響ちゃんの言う通り、是非明日は休んではいがでしょうか。
「あと学校行くのダルいですし」
そして響ちゃんの口から飛び出したのは声色とは裏腹にドス黒い本音。
「それにタマさんが私の制服を着て鼻いっぱいにスメルを嗅いで夜の慰めに使おうと言うのならば、キモいですけどお貸ししますよ。自慰行為というのは性欲を満たすためだけではなく、ストレスを解消する効果もあるんです。溜まったストレスを外に出すというのは案外難しいものですから学生時代の内から練習しておくのもいい事ですよキモいですけど」
「えーと響ちゃん。そんな可愛らしい声でキモいとか言わないで」
そう、響ちゃんはこの通り口が悪い。立ち振る舞いや佇まいは薫とは正反対に優雅であるが、やはり血の繋がった妹。口調で多少和らいでるとはいえやはりどこか言葉に棘がある。むしろ薫よりも毒舌かもしれない。
「いいじゃないですか。キモいというのはあくまで批評の範囲内。興味のカースト最底辺に位置する無関心よりは遥かにマシだと思いますが」
そんな身も蓋もない酷評を私に告げつつ、響ちゃんはハンガーにかけてあった制服を渡してくる。
「ああ……タマさんの欲望に塗れた液体が普段私を包んでいる衣服に擦り付けられこれでもかと陵辱の限りを尽くされるのですね」
「そんなことしないよ!?」
なんだか大変な誤解を受けているようだけど、とりあえず制服をゲットした私。
「入るぞー、なんだタマ。いないと思ったらこんなとこにいたのか」
「あ、薫」
回覧板を回しに行ってた薫が帰ってきたようだ。
「おかえりなさい、お姉ちゃん」
「ん、ただいま……って、タマは何してんだ」
ドアの前に立つ薫が見下ろす視線の先には響ちゃんの制服を抱きしめた私。
「いや、これは……あー! そうだ響ちゃんゲームしよゲーム!」
私は誤魔化すように素っ頓狂な声を出して立ち上がる。
「いいですけど、タマさん雑魚ですから相手になりませんよ」
「いやいや! 今日こそは勝つよ! ほら薫もやろ!」
ゲーム機を用意してくれる響ちゃん。私は隣の座布団を手で叩きながら薫に座るよう促す。
「へいへい」
薫は私の隣に座るとゲーム機から伸びたコントローラを手にする。
「ステージは終点アイテム無しで!」
「いいんですかタマさん。アイテム有りにしたほうがまだ事故狙いで勝機があると思うのですが」
「ごめんね響ちゃん、私 ガ・チ・勢 だからアイテムなんていらないの。あとストック制ね待ちゲー対策に時間も5分で」
私は腕を捲って前のめり。薫はあぐらをかいてやる気があるんだかないんだか。響ちゃんはコントローラのスティックを弾き感覚を確かめている。
やがて全員がキャラを選び終わりステージを選択。
「ふふふ、刮目せよ。貴様らはこれより伝説の始まりを目の当たりにするのだ クハハハハ!」
「私端っこで練習してるわ」
「じゃあ私はタマさんとタイマンするね」
「いくよ響ちゃん! 私の真の力、とくと見るがいい! うおりゃあああああああああ!!」
このあとめちゃくちゃハメ技された。
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