第2話【牛とプロテイン】
テレビのチャンネルを回していたら、
困った顔でインタビューをうける
これはなかなかの傑作だと思ったので、
大っぴらにしているわけではないけれど、
人型をとってはいるが、身体がやたらとでかくて筋肉質なので、肩幅の狭い男の多い香港人の中ではずいぶん目立つ。
そのせいで目をつけられたのは明らかだった。
大手トレーニングジムや健康食品メーカーがスポンサーで、内容にかこつけてプロテインその他の健康食品や、トレーニング機器の宣伝をする。
道行く人に、トレーニングに関する質問をしていた。
インタビュアー自身も、明らかに鍛えていると思しき大きな体をしていたが、
「素晴らしい体格をしていますね、ずいぶんと鍛えているんでしょう?」
知っての通りたいていの牛は鍛えていない。
特別なことをせずに、こんな体格になる人間はあまりいない。
「鍛えることは特別なことではないということですね。ハードなトレーニングを日常のものにしなければ、このような肉体は得られませんからね。とてもよくわかります」
インタビュアーは勝手に納得して、大げさに同意をする。
「食事も相当気を付けていると思いますが、どのような食生活をしているんですか?」
もちろん、大抵の牛は菜食主義だ。
まさか草からたんぱく質を作り出せる腸内細菌を持っているとは夢にも思わないインタビュアーは、目を剥いてみせる。
「菜食主義で、どうやったらそんな肉体を作り上げることが可能なんですか?」
俺たちのような生き物は、そもそも食事自体あまりしない。
日月と大地の霊気で生きている。
食事はあくまで娯楽としてか、あるいはよほどの怪我でも負って、回復したいときなどにするものだ。
そして娯楽に過ぎないからこそ、好きでもないものをわざわざ食べたりしない。
したがって
おれや
「宗教的な理由ですか?」
「そうです。代々厳格な仏教徒なんです」
「つまり、子どものころから菜食主義なんですね?よくそれほど背が高くなりましたね」
「その、乳製品を…」
「ああ、なるほど!動物性たんぱく質を、乳製品から摂っていたんですね。そうしたら肉体作りに、ホエイプロテインは欠かせませんね。こちらのプロテインはどうですか?使っていますか?」
そのプロテインの宣伝が番組内に挿入されているのを見たから、たぶん番組のスポンサーなんだろう。
インタビュアーは、使ったことがないんですね!それならこちらの商品をプレゼントします!と言って、
真っ白な歯をしたインタビュアーの満面の笑みと、大きすぎる身体に、プロテインの缶をちんまりと抱えさせられた
「それで?もらったプロテインはどうしたんだよ」
「うちに置いてあるよ」
「なんだ、つまらないやつだな。今すぐとってこいよ」
「お前がいらないならおれが貰って、鍛えようかなぁ」
「こんな風に目立つべきじゃないのに」
「誰かほかのやつにこの話をしたか?」
「いや、
「あの連中にバレたら怒られるどころじゃすまないだろう。どうしたらいいんだ」
「くよくよ気にするなよ。どうせこんな番組誰も見ちゃいねえよ。連中ならどうせ、テレビなんて持っていないやつの方が多いんじゃねえのか」
「テレビを持っていたとしてもさ、こんなよくわかんねえ深夜の宣伝番組なんか見っこねえって」
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