03 epilogue.
通信。双方向。
「あ、総監?」
『おい。何やってる。今どこだ。どこにいる』
飛びそうになる意識を。引き戻した。神様が、最期に。好きなひとの声を、届けてくれた。
「うれしいなあ」
『場所をいえ。今どこにいる』
外。円い灯りが、こちらを照らしていた。
「どうしたんですか。おれは今お散歩中ですよ。お散歩。月が綺麗ですね。とっても。満月だ」
『おまえ』
「総監も外に出たほうがいい。綺麗ですよ。月」
『嘘をつくな。どこにいる。もう夜は明けている。曇り空だ。朝陽も見えない』
「あれ。もう、そんなに経ったのかな。時間の流れって不思議」
時間の感覚は、とっくの昔に、なくなっていた。
外の円い灯り。
あれは、狙撃担当のパッケージ03なのか。照射用のライト。
視界がぼやけて、分からないや。
『おい。命令だ。場所はいい。眼以外の負傷箇所と出血箇所を言え。その後に場所だ。何階にいる』
「いやだなあ。総監らしくない。戦闘単位に負傷の有無訊いてどうするんですか」
『早く答えろっ』
「大丈夫ですよ。どこも傷は。ないです」
足下。自分の血で、真っ紅な水たまりができている。ライトの光に照らされて。綺麗。
傷は背中だった。自分で止血はできない。壁に背中を張り付けているが、全身の感覚はなかった。
「綺麗だなあ。月」
パッケージ03で、ライトが照射されているのなら。
次には、
どっちにも、耐えられそうにない。この出血量では逃げられないし、EMPをくらったら動けなくなる。
「もう、仕方が」
そこまで言って、止めた。仕方ないは、もう。必要ない。もうすぐ人生が終わるのに。仕方ないことなんか、ない。
「総監?」
通信。もう、通じているのか、通じてないのかも、分からない。
「へへ。ありがとうございました」
わたしと会ってくれて。あなたに会えて、よかった。たのしかったです。
好きです。大好きでした。
あれ。
言葉になってるかな。
立ってるのか座ってるのか、倒れているのか。分からない。
円い灯り。
月が。
月が綺麗ですよ、総監。
あなたと、見たかったなあ。
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