死にたい少女

tada

死ぬとは

 死にたい。

 私が言うと、彼女は興味なさそうに答える。

「じゃあ死ねば」

 彼女の言う通り。死にたいのなら、死ねばいいのだ。

 だけど私は、死ねない。

 なぜなら──

 怖い。死ぬのが怖い。

 自分の震える体を抱きしめる。

「⋯⋯なにを言っているの、あなた?」

 彼女は、心の底から意味がわからないのか、語気を強め体が震えている私に目をやった。

 なにを言っているのだろう、私自身意味がわからない。けれど本心なのだ。

 首を傾げている彼女に、私は気持ちを言う。

 死にたいけれど、死ぬのは怖い。死ぬのは怖いけれど、死にたくない訳ではない。

「ふーん、私にはわからないよ、その気持ち。だって死にたいのなら一刻でも早く死んだ方がいいに決まってるよ。気持ちの上でも、そうだと思う」

 私もそう思うよ、けど怖いものは怖い。

 さもそれが常識であるかのように言う彼女に、私は気持ちを言う。

 けれど彼女は、私の矛盾を理解することが、できない様子だった。

「なにが怖いの?」

 わからない。

「痛いのが怖いの?」

 痛みなんて、死ぬ時には感じないものだと私は思っている。

「死んだ後の周りの人が怖いの?」

 人なんてどうでもいい、私が死んだところで世界は回るし、そもそも死んだ後のことなんて確認しようがない。

「じゃあ、死んだ後の周りの人ではなく、死んだ後の自分自身が怖いんじゃないの?」

 どういうことだろうか、私は首を傾げて言葉の続きを促した。

「だから、あなたが死んだ後、あなた自身がどうなるのか、死後の世界があるのか、それがあなたは怖いんじゃないの?」

 そんなのは怖くない。どうでもいい。自分が死んだ後の自分なんて、私は死ねればそれでいいのだから。

「あなたは本当に死にたいの?」

 死にたい。

「私の目には、あなたが本当に死にたいようには見えない、そもそもこの世に未練なんてものが全くない人は、死ぬことが怖いなんてことは思わないの。だって死にたいって思うことはそれだけ、今生きているこの世に絶望しているってことでしょ? そんな絶望しているこの世に未練なんてあるわけがない」

 違う、私は未練なんてない。私は死にたいだけ!

「違わない、あなたは痛いのは怖いし、死後の周りの人たちも怖い、死後の世界とかの自分のことも怖い。あなたは全部全部、怖くて怖くて、だから矛盾してるように見えてるだけ、きっとあなたの本当の本心には、死にたくないっていう気持ちがあるはず」

 ない──そんな気持ち私にはない。

 私は今すぐにでも彼女の後を追いたいだけ──ただそれだけなのだ。

 私の親友だった彼女──ここから飛び降りて死んでしまった黒髪を垂らした彼女。

 彼女がいないこの世に生きている意味なんてもの、私にはあるとは思えない。

 だから死にたい。

 だけれど、何かが怖い。

 だから死にたくても、死ねない。

 私はどうすればいいの? 私はどうすれば死ねるの? 私はどうすればあの子と同じ所に行けるの? 私は──。

「もう死ぬのを諦めたら? あなたは今死ぬべき存在じゃないと私は思うの。死なずに生きて生きて生きて、天寿を全うしてそれから、その親友さん? に会いに行けばそれでいいんじゃないの?」

 それじゃ──それじゃあ遅いの! 私は今すぐあの子に会いたい、会って謝りたい。

 関係のない彼女に八つ当たりのように、なってしまう。

 それでも彼女は、表情を変えない。

「親友さんがどういった理由で死んでしまったのか私は知らない──知らないけどもし私が親友さんの立場だったら、あなたに今すぐ死んでほしいなんて思わないの、だってこうやってあなたの行動は観れるのだから」

 私より上にいる彼女は、前に進み私の頭を撫でたように感じた。

「あなたはこの世に生きている意味なんてないっていったけど、生きることに元から意味なんてないよ、生物は生きる物って書いて生物、死んでしまった物を生物とは言わない。だから人は生きる。理由もなくただ生きる、それが生物であり人間なのかなって、死んでしまった私は思うの」

 だからと彼女は言う。

「だから、あなたは生きて、私の分まで生きて」

 黒い髪を垂らした彼女は、私の頭を撫でながら涙を流していた。

 その涙は、地面に着く前にフワッと消えて無くなる。

 いいのかな、春──私まだ生きててもいいのかな。

「うん、いいよ生きて。夏あなたは生きて」

 そう言った彼女は、私の目前から姿を消した。

 今まで撫でられていたような感覚も、綺麗に消え去った。

 まるでここまでの流れが全て嘘だったように、消えた。

 ごめん。

 ちゃんと生きて、それからちゃんと謝るから待ってて──春。

 春ごめん。

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死にたい少女 tada @MOKU0529

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