第16話 決意する主人公2

「お前ら、よく聞けーっ!!!」


 教室の中はガヤガヤと騒がしかったが、クラスメイトたちは俺の叫び声に驚き、次第に静かになっていった。そして、叫び声の発生元である俺に視線を向けてきた。


「な、なんだなんだ」

「佐藤のやつ、いきなりどうしたんだ?」

「てか、佐藤が叫ぶなんて珍しいな」


 クラスメイトがひそひそと囁いているが俺は気にせず歩き、教壇に上がった。そして教卓の前に立つ。クラスメイトたちが訝しげに俺を見上げる。クラス中の視線が俺に集中する。集中した視線がじわじわと俺全身に圧迫感を与えてくる。


 視線とは一種の暴力だ。一つ一つには力はないが集まれば、無言の圧力が視線を受けた者を苛む。

 一部の変態じゃなければこの圧力が好きという人はいないだろう。勿論俺は変態じゃないので正直きつい。


 しかし、俺はクラスメイトたちに、いや学校中に知らしめたかった。俺の中で滾る熱い思いを、感情を、決意を。

 そうすることで俺自身の物語がまた動き出す、そんな気がするのだ。

 正直、松浦にも言ったが作戦なんてものは何もない。ただ、腹だけは決まった。ぐだぐだと考えるのはやめた。思ったままにやればいい、感じたままにやればいい。

 俺はさらなる注目を集める為、大きく手を掲げて、教卓に強く叩きつけた。


ーバンッ


 そして俺はお腹に力を込めて、ありったけの声で宣言する。


「俺はっ!佐藤光希はっ!神崎隼人から学年一位もエースも必ず取り戻す!そして、お前らに俺の事を認めさせてやる!見てろよ、お前ら!俺のこれからの活躍を!俺の物語を!」


 俺からの突然の宣言にクラスメイトたちは唖然としている。困惑の気配を漂わせた長い沈黙が教室を支配する。そして長い沈黙が次第にざわざわとした空気に変わっていく。


「何言ってるんだ、佐藤は」

「神崎君に勝つだって?無理だろ」

「どうせ勝てやしないんだ、宣言したって無駄だろ」


 クラスメイトたちから疑問だったり否定的な言葉が囁かれる中、神崎が立ち上がり俺の事を正面から見つめてきた。俺のことを値踏みするような、見極めるような、そんな視線だった。そして俺に対して疑問を投げ掛けてきた。


「佐藤君、どういうつもりかな?」


「神崎、お前は凄い奴だよ。テストではほぼ満点、野球ではプロ級の剛速球……完敗だよ。お前は俺が憧れて、死ぬ程努力しても辿り着けなかった存在だ。昨日までの俺はそんなお前に嫉妬して逃げ出して……本当にダメな奴だったよ」


「……」


「確かに俺はお前のようになれなかった……でもなっ、そんな俺を肯定してくれた人がいた!俺を信じてくれる人がいた!一緒に勝とうと言ってくれた人がいたんだ!お前は俺のこと意識してないかも知れない……だからな!こうしてわざわざ宣言したんだ!」


「なるほどね、こうやって正面から勝負に挑まれたことないから嬉しいよ」


「そうだろうな、神崎みたいな天才に勝負挑もうとする奴は普通いないよな。だから、俺の事を覚えておけ!俺はお前を倒す男、佐藤光希だ!」


「はははっ、面白ね佐藤君は。分かったよ、覚えとくよ」


 神崎そう言って笑い、席に座った。

 その様子を見て俺は軽く驚いた。神崎が笑うところを初めて見たからだ。一部の女子生徒は黄色い歓声を上げている。


 神崎に認められたのか……?


 それは分からないが神崎は覚えておくと言っていたから取り合えず良しとするか。


 そして俺は、神崎から視線を外して今度はクラスメイトたち全員を見渡す。クラスメイトたちは俺と神崎のやり取りをどこか他人事のように捉えているの感じた。そんなクラスメイトたちに俺は更なる宣言をした。


「そしてお前らは俺が神崎を倒す物語の目撃者になるんだ!お前らは凡人が天才を倒す物語は嫌いなのかもしれない!でもそんなの関係ない!嫌いな奴は好きにさせてやる!俺の物語を創っていく中で虜にしてやるよ!」


 クラスメイトたち、いや学校中の人たちの好き嫌い何て関係ない。俺がまとめて好きにさせてやる。

 凡人でも天才に勝てるんだということを学校中に思い知らせてやる。そして、俺という存在を必ず認めさせる。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 言いたいことを言い切った俺は息も切れ切れで疲れ、緊張も切れたことにより体に力が入らない。

 俺は満身創痍になりながらもどこか達成感を感じていた。なんかすっきりしたし、心地よかった。


 俺は呆然とするクラスメイトたちを横目に柊の様子を伺った。柊には俺の姿がどう映っただろうか。これで良かったのだろうか。そんないろんな思いが浮かんだが、柊を見てそんな不安は吹き飛んだ。


「っ!」


 柊は俺に向けて笑顔で親指を立てて「いいね」のサインを出していた。よく見ると目が少し赤くなっており、手も震えていた。

 良かった……柊に俺の物語の新たな始まりである最高の瞬間を見せることが出来て……。


 やってやったぞ、そんなことを思いながら俺も柊に向けて笑顔で親指を立てて「いいね」のサインを返した。



 こうして俺の物語はまた動き出した。今まで物語はまだまだ序章に過ぎない。

 ここから先、神崎を倒したり、学校中の奴らに俺を認めさせたりとやることは沢山あるが、俺は必ずやり遂げてみせる。そう改めて胸に誓いを立てたのであった。

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