第13話 交差する思い1

 バタバタとという音と共に柊が俺の部屋に入ってくる。


「佐藤!!!あんた何してるわけ!?」


「ひ、柊!なんでここに!?」


 俺は驚いて飛び起きた。驚きすぎて声が詰まりながらも俺はなんとか柊に問いかけること出来た。そりゃそうだ、クラスメイトがいきなり自分の部屋に入ってきたら普通驚く。

 柊は俺からの問いかけに、さも当然と言わんばりに答えた。


「あんたが学校来ないからプリントを届けに来たのよ!」


「そ、そうか、わざわざありがとな」


「そんなことより!早く学校来なさいよ!あんたがいないと張り合いが相手がいないから退屈なのよ!今日はそれを言いたかったのよ!」


 そうか、柊は柊なりに俺を励ましたくて来てくれたんだな。そう感じた俺は、嬉しくて柊に心から感謝を伝えた。


「柊、ありがとう」


「な、なによ、改まっちゃって……」


 俺が改めてお礼を伝えると、柊は急にしどろもどろになりながら俯いた。柊はこうして正面からお礼や褒めたりすると照れることが多い。だから、良くそうやってからかったこともあったな~、そんなことを考えているとバタバタという音と共に沙耶姉が部屋に入ってきた。


「こーくん!大丈夫!?」


 沙耶姉は俺の様子を見て、大丈夫そうだと思ったのかほっとした表情を浮かべた。しかし、直ぐに俺のそばにいる柊の事を睨みつけると早足で近づき腕を掴んだ。


「プリントは渡したよね、なら部屋から出てって」


「ちょっと!離しなさいよ!」


 沙耶姉は俺が昨日、クラスメイトの反応に傷ついたことを知っているから柊を俺から遠ざけようとしているのだろう。

 正直俺は戸惑った。沙耶姉があそこまで怒るのは珍しいし、柊も初対面の人にあそこまで反発するのは珍しいからだ。

 沙耶姉の気遣いは嬉しい。でも、俺は柊と話したかった。柊とはテストの度にお互い競い合ってお互いの事をある程度は理解してるし、柊には俺の夢を語ったこともある。

 柊の目には今の俺がどう映ってるのか。失望したかも知れないし、憐れんでるのかも知れない。でも俺はそれを知りたかった。


「沙耶姉お願いだ、柊とちょっと話したいんだ」


「え、大丈夫なの?」


「大丈夫、それに柊は良い奴だ」


「こーくんがそういうなら……下にいるから何かあったら呼んでね」


 沙耶姉は俺のお願いを渋々ながら聞いてくれた。そして、俺の事を一瞬心配そう見つめて部屋から出て行った。

 部屋から出る瞬間、最後まで沙耶姉と柊が睨み合ってたのがちょっと怖かったのは内緒だ。

 取り合えずお互いに落ち着こうと俺は座りながら柊に俺の机の椅子に座るように声を掛けた。


「まあ、取り合えず座わるか?」


「え、じゃ、じゃあ失礼するわね」


 そう言って座ったのが俺のベットの上だった。ちなみに俺もベットの上に座っており、柊は俺の隣に座ったのだ。

 あれ?おかしいな、たしか手で机の椅子に座るように促したのに……


「……いや、なんでとなりに座るんだよ」


「い、良いじゃない!そ、そのほうが話しやすいでしょ!」


「お、おう、そうだな」


 柊の勢いに押されてついOKしてしまった。まあ、確かに正面より横の方がお互いの顔を見ない分話しやすいかもな。俺はそう考えることにした。


ーシーン


 会話が途切れ、俺の部屋は静寂に包まれていった。俺は何から話し始めて良いのか考えこんでいたし、柊は柊で思い詰めたような顔をして口を閉ざしている。でも、不思議と気まずさはなかった。

 そんな静寂が数分続いたが、その静寂を破ったのは柊だった。


「……やっぱり佐藤の方が頑張ってるのね」


 ポツリと柊が言葉をこぼした。柊の視線の先には俺がバラバラにしたノートがあった。沙耶姉がゴミ袋にまとめてくれたけど、部屋の端にドンと積み重なっていたので柊の目に入ったのだろう。続けて柊が言葉を紡ぎだした。


「……それに勉強だけじゃなくて野球も……グローブ凄いボロボロじゃない?それにこんな黒いボール初めて見たわよ、普通は白いんじゃないの?」


 そう言って柊は優しい笑みを浮かべながら、それらを見つめている。確かにグローブはヒモがほつれまくってボロボロだし、ボールは汚れで真っ黒だった。柊のそれらを見つめる瞳はどこか愛おしそうに、そして少し悲しげな雰囲気を感じさせた。


「あたしには絶対に出来ないわ、こんなの……」


「柊……俺は気付いたんだよ、こんなの意味ないってことに……こんなに努力しても結局は神崎に負けるんだよ」


 そうだ、だから俺はそれらを全て捨てた。結局意味ないのだ。こんなの持ってても。神崎という存在がいる限り。


「神崎に負けたからって何よ、天才を倒してこそ本物の主人公になれるんじゃなかったの?」


「最初はそう思ったさ、でもさ、みんなは神崎が勝つことを望んでるんだ、学校でも周りの反応は柊も知ってるだろ?」


 神崎だけなら俺はまだ頑張れたと思う。しかし、周りからあんなに否定されてしまったのだ。頑張る意味を見失うのも分かってほしい。


「みんながみんなそう思ってる訳じゃないわ、少なくともあたしは思ってないわ」


「どうだか、学年一位は神崎に代わったんだ、今度は神崎を追いかけるんじゃないのか?」


「違う!!!」


 柊が大きく否定するが、俺は構わず続けた。俺は自分自身が何を口走っているのか分からなくなっていた。感情のままに思ってもいないようなことを話してしまう。いや、話すってことは内心思ってることなのかも知れない。


「部活だって神崎がエースなら甲子園行けてみんな大万歳だ、他のみんなも凡人の俺が上にいるより、天才の神崎が上にいる方が……」


ーパーン


「……え?」


 一瞬何が起こったのかわからなかった。遅れて頬が熱くなってきて、その熱で我に返った。

 我に返ると俺の目の前で目に涙を溜めながら、手を振りぬいた態勢の柊がいた。恐らく、柊にぶたれたのだろう。

 でも不思議と頬に痛みは感じなかった。しかし、柊の泣いている姿を見たら胸がとてつもなく痛みだした。


「バカバカバカ!あんたは大バカ野郎よ!!!」

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