第10話 元主人公の挫折2
あの後俺は暫く階段に呆然と座り込んだが、一時間目開始のチャイムの音で我に返った。
授業が始まり、周りの視線や声が聞こえなくなったものの、学校は敵だらけと感じた俺は学校を出た。幸いにも授業中ということもあり、誰にも見つからず学校を出ることが出来た。
最初は目的もなくフラフラと街をさまよっていたが、平日のしかも昼間の学生服姿は目立つ。
途中、巡回中の警官に呼び止められそうになったので家に帰宅した。親は共働きなので俺が早い時間に帰ってきても誰も文句は言わない。
部屋に入った瞬間、俺は今までの感情が爆発してしまった。
「う、うう、うわああああああああ、ア〝ア〝ア〝——————!!!」
俺は叫びながら机の上にあった勉強用具をひっくり返した。
ーガシャーン
甲高い音を響かせながら部屋に筆記用具が散らばる。
「なんで!なんでだ!!なんでだよ!!!」
そう叫びながら今度は机の横にある本棚の中身を全部床にばら撒く。本棚の中身は全部ノートだった。そのノートはしわしわにくたびれており、中身にはびっしりと文字や数字が書かれている。
そうーそれは俺の勉強用のノートだ。
ノートの数は100冊を優に超えており、本棚の大半はノートで埋まっている。ノートの中身と数を見れば俺がどれ程勉強してきたか分かるだろう。
俺は自分の自信の為にも使い切ったノートを保管していたのだ。このノートをみると、今までの努力が形で分かるためより一層頑張れた。
「こんなのは!結局!!意味ないのかよ!!!」
ービリビリッ
俺はそんなノートたちを片っ端から破いていった。ノートはいとも簡単にでバラバラになる。そんな光景を見て、「ああ、こんなに積み上げてきても、一瞬で崩れるものなんだなぁ」と思った。ちなみにノート一冊使い切るのに一週間ぐらいかかる。100冊以上ということは少なくとも2年以上は積み上げていることが分かる。
ある程度破くと、今度は野球のグローブやユニフォームに目がいった。
「これも!!!」
そう言ってグローブとユニフォームをつかみとるとゴミ箱に投げ入れた。部屋のゴミ箱は小さく、全部は入りきらないので入りきらなかったものは視界に入らない部屋の隅に投げ捨てた。
「はぁ……はぁ……はぁ……ちくしょう……くそっ」
そうやって暴れまくった俺は疲れてきて、そのお陰で少し落ち着いてきた。そして、視界がいつの間にかぼやけていることに気づいた。目を擦ってみると濡れていた。気づかないうちに泣いていたのだ。
「もう俺には無理だ……」
俺そう呟いて俺はベッドに倒れこんだ。そして徐々に意識が沈んでいった。
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ーコンコン
部屋のノックの音で意識が戻ってきた。
外を診ると日が沈みかけているのが見えた。恐らく沙耶姉が心配して様子をみにきたんだろう。
「こーくん、いる?」
ーガチャ
いつもように部屋に入ってきた沙耶姉は俺の部屋の様子見たとたん、一瞬驚愕な表情を浮かべ俺の元に心配そうに駆け寄ってきた。
「こーくん!どうしたの!?」
「沙耶姉、俺疲れたよ……主人公目指すの」
「こーくん……」
「俺さ……たくさん頑張ったよ……勉強も……部活も……普段の行いも……でもさ、無理って気づいちゃったんだ……」
「神崎が凄い奴……いや本物の主人公だってこともあるけど……学校でのみんなの反応みた?」
「俺が学年一位やエースじゃなくなってみんなホッとしてるんだ……俺みたいな凡人が上にいるのがみんな気に食わないみたいなんだ……」
「俺みたいな凡人だけど努力して上にいるより、神崎のような圧倒的才能で上にいる方がみんな諦めが付くんだって気づいたんだ……」
「そんなのさ、ずるいよ、みんな自分勝手だ……」
神崎に学年一位やエースを奪われたとき、俺自身も心の奥深くで思ってしまったんだ。神崎のような本物の主人公に負けるならしょうがない、と。
みんなもそうなんだろう。神崎に負けるのはしょうがない。才能のあるやつに負けるのはしょうがない。そういう言い訳が欲しいんだ。
だから俺が例え神崎を超えたとしても、みんなから反感を買うだろう。
そんなことなら頑張る意味がない。俺は周りからも認められたくて頑張ってるのにそんな反応されたら何のために頑張ってきたのかわからなくなる。
「こーくんは今まで本当に頑張ったよ、ずっと見てたもん」
「そんな思いするなら無理しなくても良いんだよ」
「だから少し休もう?ね?」
俺の胸の内を聞いた沙耶姉は最初悲しそうな表情を浮かべ聞いていたが、徐々に優しい表情を浮かべて俺を優しく包み込んでくれた。
「う、うう、沙耶姉」
「よしよし、いい子いい子」
沙耶姉からの優しい言葉に涙が出てきてしまい、俺は沙耶姉の胸の中でまた泣いてしまった。
「こーくんは、私が守らなきゃ……」
沙耶姉は何か決意した表情を浮かべていたのが少し印象的だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あれから三日が経った。
俺はあれから学校に行っていない。体調不良ということで休んでいる。両親も沙耶姉からの口添えがあり、特に何も言ってこない。ちなみに沙耶姉は小さい頃からの付き合いなのでうちの両親から全面的に信用されている。
ただ、問題なのは沙耶姉も何故か休んでいることだ。沙耶姉は俺の看病と称して一日中俺の世話をしてくる。
「こーくん、ごはん食べる?」
「こーくん、お風呂はいる?」
「こーくん、何か欲しいものある?」
正直沙耶姉には学校にいってほしかった。俺のわがままに巻き込みたくなかったのだ。しかし、沙耶姉は俺のことが心配と言ってずっと側にいてくれた。
嬉しかった。そこまで俺のことを心配してくれて。俺は少し救われた気がした。でも、いつまでもこんなこと続けるわけにはいかない。そんなことを考えていたときだった。
ーピンポーン
インターホンがなる音が聞こえた。沙耶姉がはいはい~と言いながら向かう様子が部屋から分かったので任せることにした。
「ーーー!」
「ーーー!」
なにやら様子がおかしい。喧騒が聞こえてくる。沙耶姉が声を挙げるなんて珍しい。どうしたんだ?そう思ってると誰かが俺の部屋に向かってくる音が聞こえてきた。
ーバンッ!
「佐藤!!!あんた何してるわけ!?」
そう言って扉を思いっきり開けたのは沙耶姉ではなく柊だった。
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