第4話 本物の主人公1

 高校二年生。桜舞い散る季節がやってきた。

 今日は始業式ということもあり、部活の朝練もなく、久しぶりに朝からのんびりとした時間を過ごせた。とはいってもその代わりに勉強をしたので他の人から見たら全然のんびりしてないじゃんと思うかもしれない。

 沙耶姉と一緒に学校に向かう途中、真新しい制服に身を包んだ新入生をちらほら見かけた。

どの新入生もこれから始まる高校生活への期待と不安の入り混じった表情をしている。


「ははっ」


「どうしたの、こーくん?」


「いや、新入生を見て去年の自分を思い出していただけだよ」


 去年の俺は新入生代表を任されていたので、不安しかなく、沙耶姉にめちゃくちゃ心配かけながら学校に向かったのは今でも覚えてる。


「あ~、懐かしいね。あの時は本当に心配したんだからね」


「ごめん、ごめん、沙耶姉には感謝してるよ」


「分かればよろしいっ」


 沙耶姉がちょっと得意げに答える。本当に感謝してもしてもしきれないぐらいだ。沙耶姉は俺が辛いときにいつも寄り添ってくれる。改めてそう感じたのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 学校に着くと校門近くに人混みが出来ていた。

 クラス分けの掲示板が校門近くに配置されており、それを確認する為に人混みが出来ているのだろう。沙耶姉とは学年が違うため、校門で別れてそれぞれ掲示板を確認しに行った。


 掲示板に近づいていくと、一人の少女がぴょんぴょん跳ねているのが見えてきた。

 あの身長の低さと特徴的な桃色の髪は柊だ。ぴょんぴょん跳ねているのは掲示板が見えないからだろう。

 そんな柊に軽口を言いながら声をかける。


「よっ、柊、肩車してやろうか?」


「なっ!佐藤!!!」


 柊が俺の事を顔を真っ赤にして睨みつけながら、言い返してきた。


「余計なお世話よ!これぐらい見えるわ!」


「ははっ、冗談だ。そんなに怒るなよ」


「あんたはいつもそうやってからかって……!」


「お、柊。今年は同じクラスっぽいな。一年間よろしくな」


「え……」


 怒りをそらすためにぱっと目に入ったクラス分けの結果を伝えたら急に大人しくなった。

 顔をより真っ赤にして俯いている。やばい、話のそらし方が露骨だったか、と身構えてると…


「そ、そう。あんたと一年間の同じクラスとか、さ、最悪だわ。でも、これも何かの縁ね。しょうがないからよろしくしてあげる」


「ひでぇなぁ、まあ、仲良くやろうぜ」


「ふ、ふんっ!」


「あっ!おい、待てよ!」


 そう言うと柊は俯きながら駆け足に去っていった。


「柊、クラス伝えてないけど大丈夫かな?」


 まあ、柊はしっかりしてるし大丈夫だろうと思い、改めてクラス分けの結果を見た。


 2-A

  …

神崎 隼人

  …

佐藤 光希

  …

柊 香澄

  …


「あれ?神崎隼人っていう人、転校生かな?」


 クラス分けの結果を見ていると一人知らない名前を見つけた。

 俺は一年生全員の顔と名前を憶えているので、知らない名前ってことは転校生ってことだと思う。

まあ、この時期は転勤とか多いからな、恐らくその影響で転校してきたのだろう。

 ちょっと気になりつつも俺は2-Aの教室に向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 始業式はつつがなく終わり、今は新しいクラスで自己紹介をしているところだ。

 一人ずつ檀上の上に立って趣味や部活について話している。

 あっ、ちなみに柊は始業式開始ギリギリにやってきた。息を切らしながら柊が現れた時、柊には悪いが少し笑ってしまった。

 ちょっと思い出し笑いをしていると、ひときわざわめきが大きくなった。


「神崎隼人。親の都合で今年度から編入してきました。よろしく。」


 恐らく誰が見てもイケメンと答える容姿をした男が壇上に立っていた。身長も高く180センチ以上あるのではないだろうか。

 女子生徒の黄色い歓声が響き渡る。神崎は端的に自己紹介するとすぐさま壇上から降り、自分の席に戻っていった。

 あまりにも短い自己紹介に担任の先生が慌ててフォローに入る。


「か、神崎くんは編入試験で満点を取ったそうよ。凄いですよね。授業とかで分からないところがあったら神崎くんに聞くといいかもですね」


 担任の先生は編入生が早く馴染むよう、クラスの子たちが話しかける切っ掛けになるような情報を教えてくれた。

 その話を聞いたクラスメイトはより一層ざわめいた。次の生徒の自己紹介が始まってもざわめきが収まらず、そして俺の自己紹介の番が来た。


「佐藤光希です。趣味は読書と野球です。部活は野球部に所属しています。一年間よろしくお願いします」


 ざわざわ、がやがや


 誰も聞いていなかった。

 担任の先生がこの状況を変えようと話を広げてくれた。


「さ、佐藤くんは、春の選抜で県大会に出場したんだよね!おめでとう!先生、夏の大会も応援してるよ!」


「先生、ありがとうございます。今年は甲子園に行けるように頑張ります」


 ざわざわ、がやがや

 効果はあまりなかった。


 まあ、自慢したいわけじゃないから良いけど、ちょっと釈然としないなと思いながら俺は席に戻った。この後も終始神崎の話題で持ちきりのまま自己紹介が終わった。

 柊はクラスメイトの反応に興味がないのか、神崎と同じく端的に自己紹介していた。

 先生が最後に明日からの授業説明をして、先生が教室から出た瞬間神崎の席の周りにたくさんの人が集まった。


「神崎くん!編入試験満点って本当!?」

「連絡先教えて!」

「神崎君はどこに住んでたの!?」


 神崎はクラスメイトの質問に少し気だるげに答えていた。

 俺は神崎の事を気になりつつも、同じクラスだしいつでも話せるだろうと思い、部活の練習に向かったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る