第3話 主人公に憧れた男3

 沙耶姉の家でご馳走になり、自分の家に帰宅した。


 沙耶姉、また料理の腕上げたなぁと思いつつ、早速勉強に取りかかる。

 テストの結果で柊が僅差まで迫ってきたから、正直焦ってるのだ。あの感じじゃ、次のテストで抜かされてしまう。今日は就寝ギリギリまで勉強だと心に誓った。


 何故俺がそこまで学年一位にこだわるのか。それは俺の夢が関係してくる。バカげてると思うが、俺の夢は主人公になることだ。

 まともな人は、は?となると思う。そもそも主人公ってなれるものなのか?と思うだろう。正直、俺も良く分かっていない。

 でも、幼い頃主人公という存在に憧れて、今もなお心を突き動かしているのは本当だ。


 何故主人公に憧れたのか、何故今もなお主人公を目指しているのか、俺の昔話を交えつつ語ろう。


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 俺は幼い頃から本や漫画といった創作作品が大好きだった。

 小さい頃はよく沙耶姉に絵本を読んで読んでとせがんでたのを今でも覚えている。

 何でそんなに創作作品が好きだったのか……それは作品の主人公が好きだったからだ。


 主人公のかっこよさ

 主人公の何でも出来るところ

 主人公のどんな苦難にも立ち向かうところ


 主人公の全てが幼い俺にはキラキラ輝いて見えた。だから、俺は主人公に憧れた。いや、憧れだけじゃなくなりたいと強く思った。

 勉強に運動、日頃の態度等、少しでも主人公に近づくべく、何でも全力で取り組んだ。


 最初は主人公というものは誰にでもなれるものだと思っていた。というより、自分は特別なんだと勘違いをしていた。


 小学校低学年まではがむしゃらに頑張れは結果が伴うものだ。そりゃ、周りの同学年の子はまだ幼く遊びたい盛りだ。

 そんな中、一人頑張って入ればすぐに周りの子と差がつくだろう。周りも「凄い」「優秀な子だ」「特別だ」と持て囃してきた。俺自身も「俺は特別なんだ」と、そう思っていた。


 だが、そんな時期も長くは続かなかった。小学校高学年になると頑張りだけじゃどうしようもなくなってきた。

 高学年になるとまず身体的に差が出てき始める。子供の成長速度何てバラバラだし、元々の体格の違いもある。体格の違いというものは大きく、普通の体格だった俺はあっという間に体格の大きいやつに抜かされていった。今まで努力してなかった奴らに負けた時の悔しさは今でも忘れられない。

 学力でも高学年になると中学受験のため塾に通うやつが現れる。そいつらは優秀な塾の先生の元、一歩も二歩も先のことを勉強してるため、独学で追い付くには限界がある。うちは塾に通う余裕がないため、独学で勉強する必要があり、一時期は塾に通える家に生まれたかったと思った時もあった。

 そうやって自分の中の特別が徐々に減っていくにつれ、周りも特別じゃない俺は必要ないとでも言わんばかりに、俺から離れていった。

 この頃の俺は「俺は特別ではないんじゃないか」と薄々感じてはいたが、もちろんそんなことは認めることはできず葛藤していた。


 そんなこんなで俺は、中学に上がる頃にはすっかりやさぐれてしまったのだ。

 そして所謂不良と呼ばれる奴らとつるむようになり、「努力しても無駄だ」「世界は不公平だ」等と言い訳を並べ、学校にも行かずに遊び回っていた。

 周りの人はついに俺のことを完全に失望して見向きもしなくなっていった。本当勝手だよな。勝手に俺のこと期待して近づいたくせに、俺が変わったら勝手に失望して。

 しかし、そんな俺を見捨てなかった人がいたのだ。そう、沙耶姉だ。沙耶姉は俺の主人公になりたいという夢をバカにせずに応援してくれた人だ。

 普通の子なら野球選手になりたいやお医者さんになりたいと言うところを当時から俺は主人公になりたいと叫んでいたのだ。我ながらアホだと思う。具体性の欠けらもないぞ。

 でも、そんな俺のことを否定せずに側にいてくれた。

子供の頃、沙耶姉から

「ふふっ、こーくんが主人公なら私はヒロインに立候補しようかな」

と言われたときは気恥ずかしくて否定したが、内心はめちゃくちゃ嬉しかったのを今でも覚えている。


そんな沙耶姉はやさぐれている俺に

「主人公になりたいっていうちょっとおバカなところや、そんなおバカなことに一生懸命頑張ってるところや、ちょっとやさぐれてやんちゃになってるところ含めてこーくんはこーくんだよ」


「こーくんが主人公じゃなくても私はこーくんの側にいるよ」

と言ってくれた。

泣いた。俺はその言葉に救われた。

「主人公じゃなくても俺は俺なんだ」

と思わせてくれた。


 それからというも、俺は自分を受け入れた。俺は凡人だ、特別なんかじゃない、と。

 だからといって主人公を目指すことは諦めた訳ではない。主人公を目指すところを含めて俺だからな。


 こうして俺は主人公を改めて目指すことになる。自分を受け入れてからというのものの徐々に結果が出てくるようになった。恐らく特別じゃない自分を受け入れることで、プレッシャーやプライドが失くなったのが大きいのだと思う。

 体格が大きくて正面からかなわない奴らには瞬発力を活かして勝負したり、学力では独学での勉強を続けつつ、先生に分からないところを聞きまくってどんどん成長していった。

 そうして俺は中学を卒業する頃には学校で学力、運動共にトップの成績を納めることができ、県で一番優秀と言われる草薙学園に入学することが出来た。


 もちろん、草薙学園に入学してからも主人公を目指すことを続け、テストでは学年一位を死守し、部活ではついにレギュラーになれた。


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 こうして今の俺があるわけだ。だから、今後も本物の主人公を目指す為にも学年一位の座は譲れないと言う訳だ。


 打倒柊!と胸に誓いながら俺の長い勉強尽くしの夜が更けていった。


 この時は思いもしなかった……本物の主人公が目の前に現れることを。

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