ラブレターの真相
授業が全て終わって、放課後。今朝の事が気になって、今日は一日中スグルの事を観察していたけど、どうやら気にしていたのは向こうも同じみたい。授業中も休み時間も、ずっとソワソワしているみたいだった。
まあ気持ちは、分からなくはないけど。
そして今、屋上までやって来た僕らは、そこで一人佇んでいる牧野さんの姿を見つけていた。
寒いのに空を見上げながら、じっと待っている牧野さん。彼女の目は凛としていて、強い覚悟が空気越しに伝わってくる。
僕はそんな牧野さんから隣にいるスグルに視線を移すと、そっと背中を押した。
「ほら、いつまでも待たせてないで、さっさと行きなよ」
「お、おう」
ガチガチになりながらも、一歩ずつ前に進んでいくスグル。まったく、これじゃあどっちが告白するんだか分からないなあ。
そして気配に気づいた牧野さんが、こっちに向かって振り返り、手をふってきた。
「先輩、来てくれたんですね!」
満面の笑みを浮かべながら、駆けてくる牧野さん。そして彼女はスグル……を素通りして、何故か僕の前までやって来た。
「来てくださってありがとうございます。嬉しいです、アキラ先輩!」
ん、アキラ先輩?
いや、ちょっと待て。何を言ってるんだこの子は?
どうして呼び出したスグルを無視して、僕の所に来たの? ほら、スグルもポカンとした顔で、こっちを見てるじゃないか。君の愛しの王子様はあっちだよ。
「あの、君はスグルに話が合って呼び出したんだよね? 言いたいことがあるなら、スグルに言ってあげなよ」
当たり前の事を諭す僕だったけど、牧野さんはキョトンとした様子で、僕とスグルを見比べる。
「スグルって、あの人の事ですか? ええと……誰?」
「誰って、君が呼びだしたんでしょ。ほら、下駄箱に手紙を入れた」
「え、そんな。私が手紙を出したのは、アキラ先輩ですよ」
「「何だって⁉」」
僕らの声が重なり、そして同時に気づいてしまった。
そういえば、僕達の使っている下駄箱には名前が書かれていなくて、みんな位置で自分の場所を把握している。そして僕とスグルの下駄箱は、ちょうど隣同士。という事はまさか。
「入れ間違えてたって事か―⁉」
スグルの絶叫が冬空に響く。たぶん、そうなのだろう。
だけどちょっと待て。それじゃあスグルはあれだけ真剣に悩んでたのに、実は間違いだったってこと。何なのこのオチは⁉
ス、スグル。こんな事になっちゃったけど、大丈夫? ショックじゃない? ちゃんと息してる?
恐る恐る様子を見てみると、スグルはまるで生気の抜けたような顔をして、引きつった笑いを浮かべていた。
「は、ははは。何だ、間違いだったのか。ど、どうりでおかしいと思ったぜ。け、けど良かったよ、アキラを連れて来ていて。牧野さん、この手紙を本当に渡したかったのって、アキラなんだよな。ほ、ほら、今度はちゃんと、渡すんだぞ」
持っていた鞄からラブレターを取り出して、そっと差し出すスグル。牧野さんも事情を察したようで、とても気まずそうな顔をしながら、それを受け取った。
「あ、ありがとうございます。それと先輩、その……すみませんでした!」
これでもかってくらい深々と頭を下げる牧野さん。だけどスグルは真っ白な顔で、乾いた笑いを浮かべながら、首を横に振った。
「いや、いいって事よ。それじゃあアキラ、後は任せた。お邪魔虫はさっさと消えるから、後は二人で仲良くやってくれ。じゃあな」
「ちょっとスグル、待てってば!」
止めようとする僕の言葉を聞かずに、駆け足で屋上を後にしていく。けど任せるって、どうすりゃいいんだよ。
残された僕と牧野さんは何とも言えない空気の中、静かに顔を見合わせるのだった。
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