第7話
亮太がタウゼント王国に向かった2時間後。
まだ戦闘は続いていた。
アドラーは向き直る。
「シュバイス…7の戦士にして最弱な男。今まで戦ってみたかった。これほどまでに今まで心が踊ることがあっただろうか…」
「ラシェンドの1番弟子の魔王、アドラー・ワルト。
かつて魔剣士として勇者軍を1人だけで壊滅させた男の本気を、たっぷりと味わってやるよ!
来い!こっから本気モードだ!」
両者は2時間経ってようやくお互いを敵と認め合う。
「シュバイス。俺はお前の情報をかなり知っている。不利なのはお前の方だな。魂ごと消してやる」
「ははっ。それはどうかな…?魔力の差は歴然だぞ?」
お互い剣を構えず、ノーガードで間合いを詰める。
睨み合う2人。
先に攻撃したのはシュバイスだった。
「
剣で構わず斬りつける。
アドラーは、剣の軌道上に結界を貼っていた。
弾かれて後方へ下がるシュバイス。
「クソっ。魔力奪取能力を剣に付与していたのは流石にバレてたか…」
「当たり前だ。亮太との戦いを見る限りだいたい予想が付いていた。
俺は魔剣士だが、剣を抜かずとも戦える。
さて、次は俺の番だぞ?」
アドラーがパチンと指を鳴らすと、空間を引き裂いて異空間から2つの浮いた水色の弓が現れた。
細く、シャープな末弭。美しくカーブした形は、武器ではなく宝石を思わせる。アドラーの持つ武器の1つ、
弓の先から不死鳥のような矢が放たれる。
「
激しい爆発音。吹き抜ける熱風。目の眩むような閃光。地面の砂は一瞬でガラスへと変化し、森の木々は派手に焼けている。
かなり派手な技だったが、シュバイスが相手なのでこの技はただの目くらましに使われただけであった。
後ろから回り込んだアドラーは、すぐさま次の技を放つ。
「「「月を引き裂きし迅雷」」」
100億ボルトの電撃が、シュバイスに直撃する。
雷が当たった地面もたまったもんじゃない。即座に深さ30メートルのクレーターが出来ていた。
「やった…か……?」
黒煙が徐々に晴れていく。
クレーターの中央に胡座をかいていたシュバイスは立ち上がる。
「なっ…お前、生きてる……」
「いい技だったね。俺に雷耐性ついてなきゃ魂ごと消えて完全に死んでたわ。左手が痺れたのは久しぶりだよ。
さっきの2発はかなりの大技と見た。お前は魔力を結構使ったんじゃねぇのか?」
「どうだろうな。」
睨み合う2人。
アドラーが叫ぶ。同時にシュバイスも技を出していた。
「「「
「「「
熱く燃える炎と闇の光弾が激しくぶつかり合う。
両者1歩も引かず6分が経過した途端、急にシュバイスの光弾が止まった。
「魔力切れか?随分早いな。このまま炎よ、奴を魂ごと焼き尽くせ!」
豪炎がシュバイスのいた空間を焼き尽くす。
手応えがあったから奴に炎が当たったのは間違いない。
直撃しているなら、魂ごと消えて居るはずである。
安心したように一息つくアドラー。その時であった。
何かが炎の中から飛び出してきた。
しかし、それはシュバイスでは無く、20センチ程のサラマンダーだった。
「くっ!」
矢のように飛び出してきたサラマンダーに対して、超高速で抜刀し防御する。
目から伝わった情報を、0.0001秒で一瞬で剣を抜いて防御するという御業。流石は魔王であった。
サラマンダーが剣にぶつかった瞬間。
「!?」
アドラーは、自分の魔力が半分程ごっそりと吸収されたのを感じた。
サラマンダーは剣に弾かれた途端に、後方に飛ばされていた。仰向けにピクピクと痙攣しているフリをしているように見える。
アドラーは確信する。
魔力を奪ったならば、このサラマンダーはシュバイスである、と。
“
「お前、シュバイスだな?」
サラマンダーがポンと消えると、そこにはシュバイスが立っていた。かなり青ざめた驚いた顔をしている。
「お前、あんなデカい技3発も出しといてこんなにも魔力が残ってるだと?なんで魔力切れしないんだよ!なぁ!本当は俺が魔力を奪って逃げ出す筈だったのに!」
グチグチと文句を言うシュバイス。
「教えてやる。俺の能力は《
スキル使用や魔法の消費魔力量を5000分の1にする能力がある。だから、さっきのデカい技も躊躇せずにブッ放せるんだよ」
「な…そんなのチートじゃねぇか!さっき俺に魔力を吸い取られても意味なかったのはこのスキルのお陰ってワケか?
じゃ何で最初から俺に魔力を吸い取られるのを避けてたんだよ!クソっ!
待てよ…俺が魔力をゼロまで吸い尽くしたら、お前は能力があっても技が出せない。そうなれば俺の勝ちだよな?」
「勿論だ。魔力を全て奪えればお前の勝ちだ。その前にお前が死ねば俺の勝ちだ。
正々堂々男の闘いをしようぜ!」
言うが早いか、アドラーがシュバイスに攻撃をしようとする。
しかし。
「「「真空真裂斬!!」」」
瞬時に跳躍し、上から斬り掛かるシュバイス。
アドラーはそれを見越して避ける。
空振りとなった1振りは、衝撃波となってノールの街を真っ二つに切り裂いていく。
衝撃波が周りの空間を吸い込んで砂埃をあげる。衝撃波に伴った膨大な大気圧がアドラーを後ろへ引っ張ろうと物凄い勢いで襲い掛かって、アドラーは後方へ吹き飛ばされた。
シュバイスはニヤリと笑う。シュバイスは予めアドラーが避ける事を見越してこの技を放ったのであった。
衝撃波に巻き込まれている間は身動きが取れない。その間にアドラーを討つ作戦であった。
「「「今ここで、てめぇに死を与えよう!
「くっ!」
吹き飛ばされているアドラーの心臓へ魔剣レーヴァティンが突き刺さる。
「ぐはっ!」
物理攻撃無効耐性を持つアドラーだったが、強い魔力がこもった物理技を受ければダメージは入ってしまうのだった。
口から大量の血を吐き出すアドラー。傷口からはどんどん身体の腐食が始まっていた。必死にレーヴァティンを引き抜こうとするが、どんどん魔力を吸われているので引き抜くことも出来ない。
それを見たシュバイスは高笑いする。
「ざまぁねぇな!魔王アドラー!チートスキルがあったが、てめぇも亮太とかいうガキと同じように雑魚じゃねぇか!魔力を奪われて自動回復も出来ねぇようだな!可哀想に!」
「そ、そうだな……俺は間違いなく…この場所で死ぬだろう。だが…最後に…相応しく…今…決めたことなのだが…大林亮太…この世界を…間違いなく変えるであろう…少年の為に…未来を賭して…お前も道連れに死んでやる…!」
アドラーは残り少ない魔力を振り絞ってシュバイスを魔法で拘束する。
2人の周りの空間から、シュバイスを囲むように5つの魔法陣が展開される。
魔法陣の中心が光りだし、中心から1つづつ光の矢が現れる。
「こんなでけぇ魔法、能力があってもこの状態じゃ使える訳ねぇだろ…一体全体、どうやってんだ?」
「俺は全生命力と引き換えにこの技を放っている。全ては亮太に賭けて、貴様の罪をここで洗い流す!
魔の存在である者を倒すための神聖魔法の1つを、アドラーが出したのである。この技を使うアドラーも魔の存在なので、下手に使えば命の危機もある技であった。
魔法陣から5つの矢のような光が放たれる。
それは鎮魂歌の響きように優しく、そして美しい光だった。シュバイスの魂は肉体を離れ、天へと進もうとする。
(や、やめろ!勝手に行くんじゃねぇ!)
魂が飛び出るのを必死で抵抗するシュバイス。
「や、クソぉぉぉぉぉお!」
抵抗は虚しく、シュバイスの肉体と魂は美しい光に呑まれ、そして消え去った。
シュバイスのいた所には妖しく光る紫の宝石が転がっていた。
一方で、全生命力を使い果たしたアドラーは最後の力を振り絞って心臓からレーヴァティンを引き抜くと、そのまま地に倒れこんだ。
既に黄昏の空は、暗い夜の星空へと変わっていた。
シュバイスとアドラーが戦っている同時刻。
俺はシュバイスの事をアドラーに任せると、タウゼント王国にワープして帰国した。
既にエルフの国民は全て避難済み。意識を失ったミューデもアドラーは部下に運ばせていたようである。
ミューデは失神呪文をかけられ、拘留所に運ばれているらしい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
懐かしいブレッターの街並みは、先程の俺とシュバイスの戦いの時と同時に偶然にも地震が起こったという。そのため美しかった地形は醜くなってしまっていた。
タウゼント王国にも度々地震が起こるが、こんなに大きな揺れは初めてのようであった。所々に倒壊した家が見られる。そんな中でも、街の中央にそびえ立つ城は堂々たる覇気を放っている。
崩れた家から家族を探し出そうとする者。
先程現れたエルフを邪魔者呼ばわりをして石を投げる者。
先程の地震とエルフのワープによって治安は最悪になっていた。必死に王国兵が宥めているのがよく見える。
避難所には沢山のボロボロになった人達がいた。
500万ものエルフは国中の至る所に集まっていた。
どうやらエルフの男は急遽、王国兵と共に瓦礫撤去作業を手伝っているという。一方、女は避難所で看護をしたり炊き出しを手伝っていた。
数多くの王国兵が招集され、魔法使いは国内に結界を張っていく。
結界の種類は、【精神安定】である。これで、暴動を抑えようという取り組みのようだ。
力がある者は、倒壊した家の瓦礫を撤去する。撤去する王国兵をエルフが手伝っているのを横目に見ながら、俺はラシェンドの家の扉を勢いよく開けようとした。
「ただいま……ってあれ?」
鍵がかかっていた。どうやら不在のようである。
その時だった。ポンと肩を叩かれるとそこには城の近衛兵が立っていた。
近衛兵は、王国兵の精鋭部隊である。王国兵の中で選ばれた1000名だけが王の元に就けるのである。
そんな精鋭さんが、俺に何の用だろうか。
とりあえず聞くことにした。
「俺に何か用ですか?」
「
どうやら、この状況の情報を王様が聴きたがっているようである。ラジェンドもそこにいるらしいので、ラジェンドにしたかった話もそこで話せるだろう。
「い、急いで向かいます!」
俺は王城に行ったことがないためワープできない。そのため王城までの7キロを風のように走り抜ける必要があった。
スキル【縮地法】は、長距離を走るのに向かないし、残っている魔力はほぼ無い為、スキルを使わずに自分の足で駆け抜けるしかない。
太陽が沈んだ赤紫色の空の下で俺は必死に走っていた。
薄暗い路地を通り、川を飛び越え、柵を飛び越え、パルクールの様に最速で城へと向かった。
途中に沢山の人混みがあったが、そこは転生した時に貰った高い身体能力を使って高くジャンプする事で切り抜ける。
城に着いた頃には、既に心臓が早鐘のように鳴って、今にも倒れそうであった。
体の節々が悲鳴をあげるが、こんなのラシェンドやアドラーとの訓練よりマシであった。
城で別の近衛兵に案内されて会議室へ向かう。息がかなり切れているが、回復魔法を使って必死に誤魔化す事にした。服は王の前で恥ずかしくないような服にしたかったが、着替える暇など無い。
「失礼致します。陛下、リョータ様をお呼びいたしました」
「り、リョータくん!?」
扉を開けると、中に居た者たちが振り向いた。
中に居たのは、タウゼント国王フォアハン・シュパヌン=タウゼントと、近衛兵数人、ラシェンド、そして水色のドレスを着たシャルロットだった。
俺はシャルロットの美しさに目を奪われた。
それに気づいたシャルロットは俺にニコっと微笑む。
ラシェンドは俺に言う。
「よく帰った、亮太よ。お主、シュバイスと戦ったようじゃの?
亮太、お主のことだから7の戦士の儂をシュバイスの仲間だと勘違いしてないかの?
かつて儂ら7の戦士は仲間じゃったが、今はそうじゃ無いのじゃ。
今、7の戦士はお互いの味方はあまりしない。それに7の戦士全員が仲がいい訳じゃない。儂はシュバイスは嫌いじゃ。アドラーもそれは理解しているはずじゃ」
「味方じゃないんだな?信じるよ。
さっきまで俺がシュバイスと戦ってた。だけど今はアドラーが戦ってる。東に見える激しい花火みたいな光はあの二人が闘っている光だよ。かなり派手に戦っているよな」
ここからノールの街までかなりの距離があるが、光は届いている。
かなりド派手な戦いをしているようだ。
………………
…………
……
どうやら、アドラーは全国民をワープさせたいと国王に申し出たそうだ。アイナノア王国とタウゼント王国は隣国同士で友好関係にあるため、国王はワープの許可を出したそうである。
経済的にはかなり余力があるタウゼント王国なら、エルフ全員に労働をして貰うのならば、食わせる事も可能であった。
また、タウゼント王国は2つの新事業を計画していた。
1つは、国の北端と南端を結ぶ1300キロ程の運河を建設する計画。
もう1つは、東の海岸沿いに人工島を建設し、漁場を作る計画である。
両方とも、500万人のエルフを動員すれば間違いなく早く完成するし、エルフにも賃金が入り生活できるだろう。
両者にとってwin-winな計画なのだ。
国王が口を開く。
「なるほど。その…シュバイスとやらと戦った話を余に教えてくれんかのう?」
国王は戦いの話が好きなようだ。ブレッターだけを支配していた小国タウゼント王国を、戦争でフランスくらいの大きさまで大きくしたのは現王フォアハンである。
話そうとしていたら、ラシェンドに止められた。
「フォアハンよ。その話は後にしようぞ。先程までタウゼントの対応について話してたんじゃろ?話が脱線しとるぞ。目的は災害と500万のエルフへの対応の筈じゃ。早く決めなきゃいかんぞ」
「すまないのう、ラシェンド。余が戦いの話に目がないのは本当に申し訳ない」
被害への支援、500万のエルフへの雇用、暴動の鎮圧方法などについて話し合った。
経済大国タウゼントだが、今回はかなりの赤字だった。
ざっと計算しても金貨7300万枚、日本円にして7300億円の赤字だった。
しかし、エルフの雇用による経済活動次第で赤字をなんとかできる可能性が高いという。
………………
…………
……
話し合いを初めて2時間ほど経った。
話し合いを終えて席を立とうとしていたその時。
「!?」
俺とラシェンド、シャルロット、そして1部の近衛兵は瞬時に東から衝撃波が来ることに気づいた。
衝撃波の進行方向はこちらへ向かっている。
これはシュバイスが放った技に違いない、そう確信する。
俺とシャルロットは間違いなく王国兵の張った結界では防げないと判断する。
ゴォォォォ…と地面を破る音が聞こえてくる。
「
「衝撃吸収多重結界!!!」
即座に2人は結界を張る。
王国兵の結界の内側に俺は多重結界を、シャルロットはその内側に大地の精霊を使った結界を張る。
王国兵の結界に衝撃波が襲いかかり、結界が消えた。
そのまま衝撃波は多重結界へ突き進む。
多重結界によって衝撃波が分散され弱体化する。
弱体化した衝撃波はシャルロットの結界に防がれて消えた。
ハイタッチする2人を賞賛の目で見る国王。
「ありがとうの。2人とも。危うく国が消し炭になるとこじゃったな。
しかし…シャルロット嬢のようにリョータ殿も素晴らしい察知能力じゃな。多重結界を張れるとは大したもんじゃ。あの結界は天晴れであった!是非、近衛兵として迎え入れたい!」
俺を賞賛する国王。
俺は王をがっかりさせないように細心の注意を払って口を開いた。
「陛下、ありがとうございます。でも、俺には助けなければならない人がいます。その人を勇者レーゲンヴルムから助けるまでその話を保留にして頂けませんか…?」
「そうか、そうか、解ったぞ。レーゲンヴルムからその人を救いたいんじゃろ?王国も協力しよう」
王国もレーゲンヴルムについて知りたい情報が沢山あるようである。王はミューデを拷問することに賛成だった。
ミューデを拷問するために牢獄を貸してくれる事になった。あくまで、王も拷問を見学するという条件だが。
その時だった。
先程まで東の方向で戦いあっていたシュバイスとアドラーの魔力が瞬時に消えたように感じたのだ。
ラシェンドとシャルロットもそれに気づいてハッとした表情を浮かべている。
シュバイスとアドラーの魔力が同時に消えたという事は間違いない。
別の場所にワープしたとは考えにくい。
シャルロットが口を開く。
「ねぇ…ここからアイナノアは結構遠いから合ってるかどうか分からないけど…叔父上ともう1人の魔力が消えたと同時に、もう1人の方は魂も消えたみたいな気がする。叔父上は今、生命力をかなり失ってる気がする…」
シャルロットの能力は
ここからノールの街まで500キロ程である。その中はシャルロットの察知の範囲内であった。
「私は叔父上を助けに行こうと思う。リョータくんはどうする?」
「シャルロット、俺行くわ!魔力も結構回復したから大丈夫だと思う。」
「行ってきなさい。儂はもうちっとフォアハンと話がしたいのでな。亮太よ、絶対にシャルロットに傷は付けさせるなよ?」
ラシェンドは
俺はシャルロットの手を取る。
「ちょ、私だってワープ出来るもん!バカにしないで!私は1人でも大丈夫だから!」
シャルロットは先にワープしてしまう。
カッコいい所を見せようと思ったのだが、ツンと返されてしまった。男として情けない。
俺はシュバイスと戦った所を鮮明に思い浮かべるとワープした。
月明かりに照らされたノールの街は2時間の戦闘により荒れ果てていた。
街は真っ二つになっていて、家々は跡形もなく木っ端微塵に消えていた。
それはまさしく災厄であった。
街の中央広場に、倒れたアドラーを抱き抱えるシャルロットが見えた。アドラーの隣にはシュバイスの魔剣レーヴァティンが転がっている。
シャルロットは泣いているように見えた。
(アドラーは戦って…死んだ、のか……?)
俺はアドラーを抱いているシャルロットに近づく。
「なんで…そこまで無茶するんですか…?」
シャルロットが問う。
「いい…だろ…俺だって…
この歳でも…無茶したいんだよ…」
かなり弱々しいが、生きていると確認する。
「アドラー…」
俺はアドラーに近づく。
アドラーが弱々しく口を開く。
「亮太か…すまないな…このザマで…
ギリギリで…あいつを殺す事が出来たよ…
ほぼ…相討ち…だったな…ハハ…
お陰で俺は死にかけてるんだが…」
「待ってください。今私が回復させますっ!」
「無駄だ…シャルロット。俺の傷は…外見だけじゃない…魂を激しく損傷したんだ…もう…長くないな…」
アドラーがシャルロットを制止すると、俺の方に首を動かした。
「シャルロット、亮太…頼みが…ある…」
「は、はい?」
頼みとは何だろうか。
俺とシャルロットだけだった空間に、いつの間にか周りにタウゼント王国近衛兵やフォアハン国王、数人のエルフの戦士がワープしてきていた。
「この国は…タウゼント王国に任せる…事にする…
城の…あった所に…俺の墓を…建ててくれ…
それと…シャルロット…お前に冒険に行くことを…許そう…」
「そ、そんな…ありがとうございます…」
シャルロットは更に涙を零す。
「ハハ…やめてくれ…シャルロット。俺は…濡れたく…ねぇぞ…
お…どうやら…ラシェンド師匠の…お出ましのようだな…
こんなザマ…見られたくなかったよ……」
上空から、鷹のような速さで何かが落ちてきた。
それは、地面ギリギリで落下速度を落とすと、ふわりと地面に着地した。
アドラーの言った通り、ラシェンドであった。
「アドラー…」
ラシェンドは翼を仕舞うのを忘れて弟子に歩みよる。
「ラシェンド師匠…こんなザマで申し訳…ございません…
ハハハ……いつまで経っても…貴方様には到底及びそうには…ありませんね…」
ラシェンドはアドラーの手を握る。
「そうかの…?儂は確信してたぞ、お主は儂を超えると。
アドラーよ、今回は部が悪かっただけじゃ。お主はもう、儂を超えているに違いない。
儂はこんな強い弟子がいて幸せじゃ」
その言葉をアドラーは聞いていたのか、聞いていなかったのかーーー
既にアドラーは死んでいた。
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